真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「緊縛 鞭と縄」(昭和59/製作:ユニット・ファイブ/配給:新東宝映画/脚本・監督:北川徹/撮影:長田勇市/照明:三好和宏/音楽:坂口博樹/編集:菊池純一/美術:種田陽平/撮影助手:小川真司/照明助手:岡尾正行/助監督:冨樫森・岡田周一/制作主任:矢島周平/効果:小針誠一/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:竹村祐佳・麻生うさぎ・下元史朗・伊藤清美)。
 右から左に電車が通過する鉄橋のロング、チューリップを頭に載せ、面積が凄まじいウェリントンの下元史朗がスポーツ紙に目を落とす。膝の上には、大事さうに抱へたボストンバッグ。海町に降りたつた下元史朗は、数キロはありさうな結構な遠目に目視した廃屋に忍び込んで一服。すると出し抜けに轟くスクリームを合図代りに雨が降り始める、その大仰な技法。緊縛した竹村祐佳を載せた車椅子を白衣の麻生うさぎが押すショットに、VHS題「愛液が縄を流れる」でのタイトル・イン。無駄な詩情が微笑ましい、詩情といふほどのものなのか。
 麻生うさぎに嬲られた竹村祐佳が、何か思ひついたかのやうにベッドを離れ原稿用紙に向かひ、かけて筆を置き再び嬲られる。コントみたいな底の抜けたシークエンスを経て、ヒッチハイクに難航する川村か河村良一(下元)を、麻生うさぎが拾ふ。訳アリな川村の風情を看て取つた麻生うさぎは、曰く“怪しい人なら喜んで泊めて呉れるおんぼろホテル”なる、山中にあるのに岬ホテルの表に、川村を放置して消える。軽く途方に暮れる川村を、女主人然とした竹村祐佳が迎へる。尤も、岬は三崎とか美咲かも。
 配役残り岬ホテルに電話を入れる、竹村祐佳が女流推理小説家・江戸川乱子である秘密を知る岬署のフジヤマの、声の主には当然の如く辿り着けず。電話の様子から捜査網の狭まりを察知した、横浜の信用金庫からボストンバッグ一杯分の金を横領し逃亡中の川村は、一晩竹村祐佳の据膳を頂戴した岬をすぐに辞す。ところが踵を返す原因を担ふ、保田駅(当時国鉄内房線/千葉県安房郡鋸南町)の改札に立つ巡査は、八の字眉が特徴的な冨樫森。伊藤清美は、東京から竹村祐佳を訪ねて来る女子大生のミサワジュンコ、卒論のテーマにも江戸川乱子を選んだ大ファン。
 右往左往する軸足が覚束ない、北川徹(a.k.a.磯村一路)昭和59年第三作。実は劇中縄は別に登場しない、竹村祐佳と麻生うさぎが司るサドマゾはそれなりに見応へもなくはないものの、川村が最初に岬で過ごす一夜ではちつとも怖くない恐怖映画風演出で茶すら濁し損なひ、竹村祐佳と麻生うさぎが川村と、飛んで火に入つたついででジュンコを翻弄するサイコホラーと紙一重のサスペンスは、致命的な含みを残す。そもそもビリング頭二人が狂ひ咲かせる百合の攻め受けが随時逆転する上に、麻生うさぎを責める竹村祐佳の劇中最大の謎台詞が「貴女の才能が憎い」、「いつそ殺してしまへばアタシ一人が・・・・」。ついでに終盤では今度は麻生うさぎが竹村祐佳に対し「いはれた通りにちやんとお書き」、「誰が江戸川乱子だと思つてんの」、だから誰なんだよ。竹村祐佳が江戸川乱子で麻生うさぎは秘書なのか、麻生うさぎが乱子先生で画期的に手間のかゝる口述筆記。それとも二人の共同ペンネーム、江戸川乱子の正体は終ぞ判然としない。但し、熱狂的に読み込んだジュンコが予想した作家像に、とりあへず竹村祐佳は合致するらしい。肝心要がマクガフィンじみて痒いところに手が届かないのに加へ、徹底してドジで臆病な小心者の造形を宛がはれた、下元史朗も割を食ふ。竹村祐佳に夜這ひを仕掛けるのに、ランニングとトランクスとか情けない姿で抜き足差し足。挙句物音をたてては、すたこら逃走。二度目の岬離脱に際しては、制服警官かと見紛つた立て看を「コンニャロコンニャロ」―実際に“コンニャロ”と発声してゐる―とポコンポコン殴打、そんな気の抜けた下元史朗なんて見たくない。止めの三度目に至つてはジュンコを置いて一人だけ逃げた挙句、麻生うさぎにまんまと再捕獲される始末。斯くも何処までもカッコ悪い下元史朗、ある意味レアともいへるのか。当時的には尚更穴のない、主演級を揃へたといつて過言でない女優部も、オッパイに引かれる後ろ髪は二三本否み難い。後年の一般映画も当たり外れが大きい世評の伝へ聞こえる、どうも磯村一路といふ御仁、とかく捉へ処がない印象が強く覚えるところである。


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