人妻娼婦 もつと恥づかしめて

　「人妻娼婦　もつと恥づかしめて」（2012/制作：セメントマッチ/提供：オーピー映画/監督：池島ゆたか/脚本：小松公典/原題：『贋作・昼顔』/撮影：清水正二/編集：酒井正次/音楽：大場一魅/助監督：中川大資/監督助手：松井理子/撮影助手：海津真也/照明応援：広瀬寛巳/編集助手：鷹野朋子/タイミング：安斎公一/現場応援：田中康文/指輪提供：Flower Sun Rain/出演：中森玲子・結希玲衣・望月梨央・倖田李梨・野村貴浩・竹本泰志・津田篤・なかみつせいじ・牧村耕次・樹かず・田中康文・松井理子）。出演者中、なかみつせいじ以降は本篇クレジットのみ。
　後ろ手に縛り上げられた女の背中、カメラが前に回ると、絞り込まれた威圧的なまでの正しく爆乳。外科医の桶川丈（野村）が、妻・弥生（中森）を責める。のは夫婦の寝室、ナイトクリームを御々足に塗り込む弥生のイマジン。ランジェリースーツの脇から胸に手を差し入れる桶川を、弥生は拒む。明示はされないがどうやら結婚以来、弥生は一度も性交渉を許してゐないやうだつた。セックスは夫婦の大切なコミュニケーションではないのかと不貞腐れる桶川に対し、自分にとつてはそれとは違ふと内心否定する弥生は、あの日、十才の夏。蝉の声が降り注ぐ納屋の中を想起する。木漏れ日どころでは最早済まない、強烈な日差しに続けてタイトル・イン。
　十才の弥生は、家の修繕に出入りする若い大工に犯されるには至らない程度に嬲られ、処女のまゝ絶頂を知る。尤も、最も規制の厳しいオーピーであらうとなからうと、今日日（けふび）そのやうなイメージを下手に具現化した日には何人お縄を頂戴する羽目になるやら判つたものではない以上、この件は弥生のモノローグと、画的には手洗ひで自慰する現在の姿の二点突破で乗り切る。回想明け、桶川の悪友・念田鉄男（竹本）が、桶川家に遊びに来てゐる。ここで不自然に念田がわざわざ人の家でトランペットの手入れに精を出すのは、好意的に捉へると後々シュールに挿み込まれる、竹本泰志がペットを文字通り一吹きするカットへの布石か。念田が口を滑らせた、店の女は何不自由ない筈の有閑夫人ばかり、かつて桶川と念田も出入りした売春宿「Belle de Jour　昼顔」が、意外にも未だ現存するといふことに、弥生は激しく心を囚はれる。新宿区小町坂三丁目六番地、念田が口にした「Belle de Jour」―因みに昼顔は、田中康文第四作「感じる若妻の甘い蜜」に登場する「SINA」と同じ物件―の住所を弥生は訪ねてみる。出て来る結希玲衣と入つて行く望月梨央とにどぎまぎ右往左往しつつも、終に店の表に辿り着いた弥生を、「Belle de Jour」女主人の京子（倖田）が捕獲する。表向きはバーの店内から、京子は弥生を別室に誘（いざな）ふ。そこでは店の女・黒木佳代（望月）が、客の赤松晋也（なかみつ）から豚と罵られながら激しく責められてゐた。忽ち眩惑を覚える弥生を、京子は有無もいはさず赤松に差し出す。
　配役残り改めて結希玲衣は、「Belle de Jour」店の女・白田りく、枕元に並べる亡夫スナップ写真の主は池島ゆたか、いはずもがなでしかあるまいが。牧村耕次はりくを抱く本田直治、店では“組長”が符丁。同時に赤松は、“先生”と呼ばれる職業らしい。カズの誤記ではなく、確かに今回クレジットは平仮名名義の樹かずも「Belle de Jour」の客で弥生を抱く、屍姦マニアの中条勇次。精緻な変態像を、衰へ知らずの二枚目で綺麗に固定する。一通り役者が出揃つたところで、指輪にあしらはれた巨大な髑髏を一舐め不気味に登場する津田篤は、京子の息子・土門中。面倒を見て貰つてゐた祖父母が―京子の知らない内に―死に、金の無心に「Belle de Jour」に現れる。が、出勤した弥生と対面するや顔色を変へ、せしめたばかりの札片を突き返し弥生を買ふ。
　脚本に小松公典を迎へた池島ゆたか2012年第一作は、端的な「昼顔」（1967/仏伊合作/監督・共同脚本：ルイス・ブニュエル/原題：『Belle de jour』/主演：カトリーヌ・ドヌーヴ）の翻案ピンクであるらしいが、予めお断りするまでもなく教養豊かなシネフィルではなく、品性下劣浅知短才なピンクスに過ぎぬ小生が、ブニュエルだなどと高尚な名前を知る訳がない。なのでその点に関しては大胆にといふかより直截には乱暴に、バサッと一切通り過ぎ、単体の今作にぬけぬけと挑むアプローチを試みる。何がアプローチか、無智と怠惰の猛々しい方便ここに極まれり。兎に角、何はともあれ初陣の後藤組と比べると全般的に絞つた印象の中森玲子が、重量級の濡れ場濡れ場を強靭に支へ抜く。脱がずともノートPC程度なら易々と載せられさうな攻撃的な胸の膨らみは、それのみで既に圧巻。磐石な屋台骨の周囲では竹本泰志×なかみつせいじ×牧村耕次×樹かず×倖田李梨が火を噴く熾烈な演技合戦を繰り広げ、重ねて最後に飛び込んで来る津田篤が根こそぎ持つて行く中盤から終盤にかけての展開は、素といふ意味に於ける裸の劇映画として見事に充実。これまで踏んで来た場数の多さゆゑ当然息も合ふ、津田篤と倖田李梨の濡れ場に非ざる絡みはゾクゾクさせる。劇中世界に応じてか、清水正二も平素よりは明らかに硬質の画作りで応へる。反面、結局弥生にとつてセックスとは何であつたのか、ただならぬことだけは窺へる弥生と土門の因縁については、最終的にも何も結構豪快に放置される。土門の最期の呆気ない雑さは考へもので、「昼顔」を通つてゐれば素直に呑み込めるのか、出し抜けなバッドも斜め上に通り越したマッド・エンドは、木にガンダリウム合金を接ぐ強烈な唐突感を爆裂させる。さうかういふもののそれら何やかにやは、概ね大勢には影響しない。所々の瑕疵は、漲る決定力が容易に捻じ伏せてみせよう。個人的に目下時間にだけは余裕のあることもあり、初見でロストした指輪提供を拾ひがてら三本立てをもう一周し丸々二回観た上で、まんじりともさせぬソリッドな裸映画の力作。後述する土門の刹那的な名台詞が、今なほ脳裏に焼きついて離れない、あと中森玲子のオッパイと。

　出演者本当に残り、カメオ気味の田中康文は、弥生との再会に点火された土門の凶刃に沈む強面。松井理子は「バイバイ、現実」。津田篤がかつて観たことがないほどカッコよく弾ける、土門劇中二度目の凶行時、少し離れた場所から悲鳴を上げる女医。その更に奥から駆け寄る坊主頭の男性医師は、ガタイから中川大資ではなく、田中康文の二役。
　最後に、八幡より帰福後後ごしらへをしてゐて映画本体以上に度肝を抜かれたのが、二番手の結希玲衣が、ex.美咲礼ex.三上夕希であるといふ驚愕の事実、大幅にお痩せになつたのではないか。更に調べてみると、公称御歳四十五歳といふところに再驚愕。節穴も通り越し、私の目玉が現に壊れ物―これから直す―ともいへ、幾ら「Belle de Jour」では先輩とはいへりくが弥生にタメ口を叩くのが、奇異に思へたくらゐなのだ。流石に、横に細くなつただけでなく縦にも伸びた気がするのは、中森玲子と望月梨央と倖田李梨と―三上夕希時代と―の、相対的な錯覚か。