くひこみ海女 乱れ貝

　「くひこみ海女　乱れ貝」（昭和57/製作・配給：株式会社にっかつ/監督：藤浦敦/脚本：富田康明・藤浦敦/ﾌﾟﾛﾃﾞｭｰｻｰ：結城良煕《N・C・P》/企画：奥村幸士/撮影：水野尾信正/照明：矢部一男/録音：信岡実/選曲：伊藤晴康/編集：井上治/美術：中澤克巳/助監督：瀬川正仁/色彩計測：佐藤徹/現像：東洋現像所/製作担当者：鶴英次/協力：神津島観光協会/出演：渡辺良子《新人》・松川ナミ・藤ひろ子・水月円・松原玲子・嵯峨美京子・萩尾なおみ・鶴岡修・佐竹一男・土橋亭里う馬・中川夕子・島村謙次・野上正義・鈴々舎馬風・風間舞子）。配給に関しては事実上“提供：Xces Film”か。
　風光明媚な小島、大粒の鮑を戦果に海から上がつた海女の渡辺帆奈美（渡辺）が、仲間の和江・（水月）・裕子（松原）・照子（嵯峨美）・伸代（萩尾）・海女（中川）らと焚火に当たる。いきなりオッパイが計十二個並ぶ様が確かに有難くはあれ、正直この時点で早くも、帆奈美以外は誰が誰やらよく判らない。一人座を抜けた帆奈美は、海で死んだ先代網元（遺影も見切れず）を墓参、墓前で未亡人の岩瀬千恵（藤）と息子の源太郎（鶴岡）、先代の弟で源太郎からは叔父に当たる忠吉（野上）と落ち合ふ。帆奈美と源太郎とは、恋仲にあつた。源太郎に夜這ひを仕掛けた、裕子と照子が民宿の従業員・只見茂（土橋亭）のトラップに引つ掛かつた隙に、帆奈美と源太郎は逢瀬を交す。そんな最中、網元を継ぐのにウジウジ二の足を踏む源太郎の気を晴らすために、忠吉は自分が伴ひ暫く東京で遊んで来る旨提案する。若き日の三の線の野上正義は、今見ると久保チンこと盟友の久保新二に結構近い印象を受ける。ところが忠吉がついてゐながら、帰島した源太郎は東京のホステス・藤井由紀（風間）を連れて帰り、島は俄に激震に見舞はれる。
　配役残り今回はSM抜きの松川ナミは、海女らで賑ふ島の居酒屋「磯乙女」の女将・純恵。土橋亭里う馬と噺家タッグを組む格好の鈴々舎馬風は、「磯乙女」の常連客で民宿の大将・松岡克良、島村謙次も「磯乙女」の常連・徳田一平。そして白スーツにパナマ帽、銜へるのは舶来煙草。アイコン通りの出で立ちで鼻息荒く島に乗り込む佐竹一男は、由紀の元ヒモ・長谷部淳一。身を落とす前は、秩父の大地主の若旦那であつた。二名の刑事役は不明、演出部動員か。
　ロマンポルノ全十九作中、1/4強の実に五本が海女ものといふ特殊監督・藤浦敦の昭和57年第一作にして、海女ンポルノ通算第四弾。尤も海女映画的には島の風情はふんだんに織り込みつつ、大掛かりな水中撮影を敢行するほどではない。島が舞台である以上島の娘といへば海女だらう、といふ程度の雰囲気には止（とど）まる。他方物語的には、都会でチョロ負かされた網元の若旦那が、華美な商売女を花嫁候補に連れ帰つたことから、平和な海町に巻き起こる大騒動。とかいふ次第に、形としてなるのではあらうが。兎にも角にも源太郎・由紀と三角関係の一角を成す、本来ならばヒロインの筈の帆奈美に扮する渡辺良子が、タッパから恵まれたダイナミックな肢体は銀幕のサイズに一際映えるものの、映画初出演につき如何せん覚束ない存在感以前に、そもそも尺の占有率から劇的に低い。下手に潤沢な布陣と、帆奈美のお相手を源太郎に限定したのも禍してか、主演女優は不在のまゝに「磯乙女」を中心に様々な組み合はせで繰り広げられる濡れ場濡れ場の大海原の波間に、手短に纏め上げられた始終が所与の結末に何となく着地する。よくいへば手際が悪くないともいふべきなのか、煙に撒かれた感が直截にはより強い。挙句どの層に対するサービスなのか一件落着後、帆奈美と入浴する形で千恵こと藤ひろ子がヌードを御披露なさるに至つては、浜の砂粒と砕けよ、我が腰骨。島を捨てた仲間の死を、一同の笑ひ話と映画の大オチに片付けてみせるドライさに、リアルな人間主義でも見てしまへ。

　藤浦敦は先々代からの縁で落語界に顔が利くらしく、前年真打に昇格し十代目を襲名した土橋亭里う馬、当時既に全国区の五代目鈴々舎馬風の出演と相成つた次第なのであらうが、後に馬風は落語協会の会長に就任（現在は高齢と病気を理由に最高顧問に退く）。一方里う馬はといふと、談志の死去に伴ひ落語立川流の新代表に。後年出世する二人が微笑ましく羽目を外す姿を拝める、結果的に貴重な一作といふ評価が、側面的に成立し得るのかも知れない。