弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

川口マーン惠美著「不倫!」

2013-12-01 12:19:50 | 趣味・読書
川口マーン惠美さんについては、現代ビジネス『川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」』での評論をずっと読んでいますし、書籍では「ドレスデン逍遥」「国際結婚ナイショ話」「サービスできないドイツ人、主張できない日本人」を読んできました。これら評論や著作に共通するのは、在住するドイツと祖国である日本とを比較した格調高い比較文化論です。一方、川口さんは2冊の小説を出しています。その2冊が「不倫!」「禁断」です。あの川口さんが、どのような不倫小説をものにしているのでしょうか。気になったので、図書館から借りてみました。
不倫!
川口マーン惠美
草思社

小説の主人公は、ドイツ人男性と結婚してドイツに住む日本人女性であり、芸術系の技能を持ち、3人の子どもがいます。その主人公が日本人男性との禁断の恋に落ちる様を描いたのが、「不倫!」です。
何ということでしょう。小説の主人公は、川口さんご自身とぴったり重なるではないですか。相違点は以下の通りです。
項目   主人公  著者
ご夫君 弁護士  技術者
居住地 ベルリン シュトゥットガルト
芸術系 画家   ピアニスト

これだけシチュエーションが共通すると、気になるのは、「この主人公は著者の分身なのだろうか。違うのだろうか。」という点です。

小説は最初から最後まで、主人公が不倫相手に送った手紙の形式です。
『ああ、絵だけ描いていられるならどんなに幸せでしょう。・・・毎日雑用に追われて、私は女中や運転手のようなことばかりしているのですもの。・・・
そのうえやっと時間を見つけて仕事を始めても、集中しかけると子どもに呼ばれるということを繰り返していると、・・・これが母親の勤めなのなら、私は今日かぎりで母親を辞めても悔いがないくらい。』
『今の私は、古くなったテーブルクロスを切り刻むみたいに、毎日無残に自分の時間を切り刻んでいます。ボロ布に変わったテーブルクロスはトイレ掃除と靴磨き用、そして細切れになった私の時間は、私の精神を素通りして、家のあちこちで霧散してしまうのです。』
ここの部分、著者の川口さんご自身が育児の真っ最中に上げていた叫びであるような気がしてなりません。

主人公38歳、不倫相手51歳(日本に住む日本人男性)。二人は昔からの知り合いで、主人公は相手にずっと好意は感じていたようです。その二人が、何かのきっかけで日本で再会しました。
『あなたが突然私の手を握ったとき、私は胸がどきどきして、・・・まさか手を握られるとは思っていなかったし、ひいては後日それ以上に事態が進展するとは、まだ私は予想だにしていなかったのです。』
『結婚して以来、あなたは信じてくださらないかもしれないけれども、私は貞淑な妻だったのです。ところが、私なりの信念や理想が、あの三日間のあいだにすべて崩れていくのが、自分でもはっきりとわかった。あの時点で私はもう完全に降参してしまっていて、今度あなたに会ったなら、決して抵抗はしないだろうと悟っていたのです。』
著者のイマジネーションが、このような主人公を生み出したのだろうと推察しています。川口マーン惠美さんは、このようなイマジネーションを(少なくとも執筆した1998年当時(著者42歳))お持ちだったのか、と感じた次第です。

小説の最後の1ページは、それまでの手紙形式から外れる記述です。小説として、このページの記述が必要だったのか、私にはよくわかりません。
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