弁理士の日々

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ファーウェイスマホが7nmチップを搭載

2023-09-24 15:24:12 | 歴史・社会
「本当に中国がつくったのか?」…ファーウェイ最新スマホに搭載された中国製「謎のチップ」に日米欧が絶句したワケ
2023.09.24 吉沢 健一 現代ビジネス
『中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が8月末に予告なく発売した最新スマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載されていた、謎の半導体チップ「麒麟(Kirin)9000S」のこと。中国での製造を示す「CN」と刻印されていた。
ファーウェイの最新スマホのチップには、1平方ミリメートルに約8900万個ものトランジスタが集積されていることが分かった。
これは、チップの製造プロセスが7ナノメートル(ナノは10億分の1)という超微細化技術でしか実現できないもの。世界でも半導体受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子、米インテルの3社しか持ち得ていない。』
『米政府は2022年10月、中国の軍事力増強につながる恐れがあるとして中国の先端半導体工場で使う品目全般を対象にした半導体輸出規制を強化した。ここで言う先端半導体には、回路線幅14ナノ・16ナノ以下のロジック半導体が含まれる。
同調を求められた日本や、半導体装置の世界最大手ASMLを抱えるオランダも、今春から回路線幅14ナノ前後よりも微細な先端半導体を製造できる高性能装置の対中輸出を規制した。
日米蘭による対中半導体包囲網によって、先端半導体のサプライチェーンが完全に寸断された中国。もう自前で14ナノ以下のチップを生産することはできなくなり、世界での先端技術分野での主導力を失っていくだろう――このようなシナリオを描いていたはずだった。
だからこそ、ファーウェイが最新スマホに搭載した先端チップの登場は、「全くの想定外」(日系半導体業界関係者)だったのだ。
「中国が7ナノを生産できるはずがない。TSMCなどが規制の網をかいくぐって密かに中国に供給している」
そんな噂が真実味を持って語られるほどの衝撃だった。』

中国には「絶対不可能」のはずが…ファーウェイ最新スマホに搭載された“超微細化”半導体チップを実現した「謎の技術」の正体
2023.09.24 吉沢 健一 現代ビジネス
『カナダの知財調査コンサルティング企業、Teckinsightsの解析によると、7ナノチップの製造には最先端のEUVではなく、前世代装置の深紫外線リソグラフィー装置で多重露光させる独自の技術で実現させたとみている。
これは、歩留まりなどのコストをある程度無視できる中国企業だからこそ可能となる方法で、日米欧企業には決して真似ができない。
現段階では、TSMCの3ナノとはまだまだ大きな開きはあるものの、SMICが向こう数年以内に5ナノや3ナノを実現させ、米半導体大手のNVIDIAと同じようなAIコンピュータ向けの最先端チップを自前生産する可能性もある。
そうなれば日米欧の対中包囲網は崩れていく――。中国は今、日米欧に対して「五分五分の拮抗状況」にまで持ち込んできた。
麒麟9000Sの登場を受けて、米下院外交委員会のマイケル・マッコール委員長を中心とした共和党議員グループは9月中旬、バイデン政権に書簡を送り、ファーウェイとSMICに対する規制を強化するよう求めた。』

上記記事では、「中国のファーウェイ製スマホに7nmチップが搭載されていた!」と大騒ぎしています。しかし、中国の半導体メーカーSMICが、中国への輸入が規制されている露光装置EUVを用いることなく、7nm半導体の製造に成功した、とのニュースは、1年前にすでにわかっていたことです。このブログでも「ファーウェイ製スマホ検証 2023-09-09」で述べたとおりです。

「中国の半導体メーカーSMICが、中国への輸入が規制されている露光装置EUVを用いることなく、7nm半導体の製造に成功した」ことについて述べているのは、今年4月に刊行された以下の書籍です。
半導体有事 (文春新書 1345) 新書 – 2023/4/20 湯之上 隆 (著)

この本の内容については、このブログでも「湯之上隆著「半導体有事」 2023-06-04」で記事にしてきました。
『中国のSMICは、2022年に、EUVを使わずに7nmの開発に成功した。これが、米国の「10・7」規制の直接理由である。』
今回の新聞記事では、「中国のファーウェイはは7ナノ品を用いて5Gスマホを発売した」「米国の対中輸出規制が緩いのではないか」と騒いでいます。
しかし、湯之上氏の著書から明らかなように、中国のSMICが7ナノ品の量産に成功していることは1年前にわかっていました。米国は昨年10月7日に中国に対する極めて厳しい規制を発動しました(10・7規制)。湯之上氏は、米国による対中「10・7」規制は、SMICの7nm成功を契機として発動することになった、と推定しています。

そこでここでは、半導体有事 (文春新書 1345) 新書 – 2023/4/20 湯之上 隆 (著)の内容について、再度詳細に紹介したいと思います。
『中国のファウンドリーのSMICが、最先端露光装置EUVを使わずに、7nmのロジック半導体の開発に成功したことを、ブルームバーグが2022年7月22日に報じたのである。』
『米国としては、中国の微細化の技術の進歩を抑えなくてはならない上に、自国での最先端の半導体製造技術を急速に立ち上げなくてはならない事態に追い込まれた。その意味では、SMICの7nm開発成功が、米国による中国への「10・7規制」に繋がった可能性が高い。』
『2022年10月7日に米国が発表した「10・7」規制
これは、中国半導体産業を完全に封じ込めるための措置であり、半導体の歴史を大きく転換するだろう。
① 中国のスパコンやAIに使われる高性能半導体の輸出を禁止する。
② 先端半導体について、米国製の半導体製造装置の輸出を禁止し、エンジニアとして米国人が関わることを禁止する。
③ 半導体成膜装置のうち、規制に該当する装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない。中国半導体にとっては致命傷となる規制である。
④ 中国の半導体製造装置メーカー向けには米国製の部品や材料等を輸出することを禁止する。
⑤ 中国にある外資系半導体メーカー(TSMCなど)にも規制を適用する。
この「10・7」規制により、中国は工場の新増設が困難になる。またエンジニアが派遣されないので既設半導体工場が停止する。
このような厳しい「10・7」規制に反発して、中国が米国に対して、何らかの報復措置を執る可能性がある。その最悪のケースが、中国が台湾に軍事侵攻してTSMCを占領する、いわゆる「台湾有事」の勃発である。』

ネット検索した結果、以下のプルームバーグ記事が見つかりました。

中国最大の半導体メーカー、7nm製造技術確立か-米制裁対象

Debby Wu、Jenny Leonard 2022年7月22日 bloomberg
『業界ウオッチャーのテックインサイツは19日、SMICが暗号資産(仮想通貨)ビットコインのマイニング(採掘)向けに7ナノメートル(nm)プロセスの製造技術を用いた半導体を出荷しているとブログに投稿。SMICは14nm技術を確立しているが、7nmはそれより2世代先を行く製造テクノロジー。』

冒頭の新聞記事では、
『米政府は2022年10月、中国の軍事力増強につながる恐れがあるとして中国の先端半導体工場で使う品目全般を対象にした半導体輸出規制を強化した。』
と述べており、これは上記の「10・7」規制を意味していると思われます。
新聞記事は、『「10・7」規制がされたにもかかわらず7nm完成に至った』と理解しています。しかし7nm完成は1年以上前なのですから、『7nm完成に至ったことを受け、「10・7」規制がされた』との理解が正しいでしょう。

確かに、上記ブルームバーグ記事を読んだだけでは、湯之上氏が受けたほどのインパクトを有識者や一般読者に与えることはなかったかもしれません。しかし湯之上氏は注目し、そして米国政府による「10・7」規制はこれを契機になされたのであろうと推測するに至りました。
有識者は、実際にファーウェイの新製品スマホ搭載の半導体チップが7nm品であるとの報道を受けて始めて、1年前に知り得た事実を知ることになり、びっくりしているのかも知れません。

いずれにせよ、7nm品を用いたファーウェイスマホの登場で、米国では中国に対するさらなる規制を行うべきとの議論が沸いているようで、半導体開発に関する米中対立はさらに激化することになるのでしょう。
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