弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

エルピーダの教訓

2022-02-27 09:16:44 | 歴史・社会
昨日のブログ記事 「日本の半導体産業 2022-02-26」では、半導体を4つに分類して日本での現状を議論しました。
1.DRAMメモリー
2.フラッシュメモリー
3.ロジック
4.撮像素子
日本を生産拠点とする半導体メーカーとしては、DRAMの米マイクロン(旧エルピーダ)、フラッシュメモリーのキオクシア、撮像素子のソニー、ロジックのルネサスの4社に集約された形です。
25日の日経新聞に、エルピーダが経営破綻した状況と、「もし破綻していなかったら・・・」という下記記事が載っていました。

エルピーダ破綻、巨額投資で官民協力に綻び 特需逃す
エルピーダの教訓 破綻から10年(上)
2022年2月25日 日経新聞
『2012年2月27日、電機各社の半導体部門が合流し生まれたエルピーダメモリが会社更生法を申請した。1980~90年代に世界を席巻した半導体メモリー、DRAMの担い手は米大手マイクロン・テクノロジーの傘下に入る。経営破綻から10年がたった現在、日本の官民は半導体産業の立て直しに動き始めた。エルピーダの破綻から半導体再興への教訓を探る。』
21年、マイクロンは、今後10年で研究開発と生産能力の拡大に約17兆円を投じる計画を表明しました。中核の一つは旧エルピーダの拠点や人材です。
『「生き残っていれば、世界と戦えるメモリーメーカーが日本に生まれていただろう」。エルピーダを破綻させた社長の坂本幸雄は嘆息する。』
『エルピーダの破綻は、官民が巨額投資を伴う長期戦に耐えられなくなった構図だ。』
リーマン危機時にエルピーダは、公的資金、日本政策投資銀行、大手銀行による1100億円の協調融資を受けました。その返済期限間近、資本増強を迫られた坂本氏は、マイクロンとの提携を模索しますが、同社のCEOの突然の事故死で頓挫し、会社更生法に追い込まれました。
当時、スマートフォン需要の拡大期にあたり、DRAM受注が膨らみつつあるタイミングでした。(破綻してマイクロンの傘下に入った後の)13年には安定して黒字を確保できるようになっていました。
『「DRAMの技術や最終製品の動向を、当局や金融機関が十分に捉えられていなかった。」東京理科大若林秀樹教授』
エルピーダと対照的なのは韓国のSKハイニックスです。前身のハイニックスは経営難に陥りながら、金融機関の支援を受けて再建を進めました。これを先導したのは韓国政府でした。
--新聞記事以上----------------
エルピーダと社長の坂本幸雄氏については、私もブログ記事で取り上げてきました。

NHKプロフェッショナル・坂本幸雄 2007-05-13
今から15年前の2007年5月8日、NHKのシリーズ「プロフェッショナル」で得た知識は以下の通りです。
社長・坂本幸雄 59歳
・高校球児だったが、高三のときに自らのエラーで敗退
・野球指導者を目指して体育大学に進むが、教員試験に失敗
・つてで外資系半導体メーカー(日本TI?)に就職するが、倉庫係に配属
・仕事を早く終わろうとして、倉庫業務を工夫する
・倉庫での仕事を外人上司に認められ、社の企画中枢に抜擢される
・米国本社に抜擢される
・命じられた仕事は必ずやり遂げようとし、ストレスのため胃潰瘍となって胃の2/3を切除する
・以降、「できることをやる」という方針に切り替える
・いつくもの会社を建て直したあと、経営不振のエルピーダメモリ社長となり、短期間で黒字化を達成し、今も会社を躍進させている。
エルピーダ誕生前、日立とNECの合計シェアは16%程度であったものが、2003年に坂本氏が入ったとき、シェアは2%まで落ちていました。
番組によると、エルピーダは台湾メーカーと合弁で台湾に最新工場を建設しています。70nmルールという(2007年当時の)最先端の微細技術を使うそうです。これからもつまずくことなく、エルピーダが躍進することを祈念します。
--(以上ブログ記事)---------
今回の新聞記事では、「DRAMで一時2割近いシェアを確保したエルピーダ」とあります。坂本氏の時代にそこまでシェアを増大したのですね。

エルピーダが会社更生法適用申請 2012-02-28
2007年から2012年までのこの5年間は、エルピーダメモリにとって茨の道だったようです。
2012年当時はエルピーダの経営不振が言われる中、資本提携先として探っていたマイクロンのCEOが突然墜落死(2012.2.4産経新聞)したことが影響したかも知れません。また経産省の元審議官でエネ庁の次長がエルピーダ株のインサイダー取引容疑で逮捕されたことも、経産省の働きを鈍らせたという評論があります。
会社更生法を申請したことについて、坂本社長は「製品価格の下落や円高などが原因だ」と説明しました。
エルピーダメモリの破綻は(アベノミクス前までの)日銀による円高放置の最たる犠牲者になった、ということになります。
あと半年早く、日銀によるインフレ目標のアナウンスと10兆円の追加緩和を行っていたら、はたしてエルピーダはどのような道を辿ったのでしょうか。
--(以上ブログ記事)---------

上記ブログ記事で「日銀によるインフレ目標のアナウンスと10兆円の追加緩和」と述べたのは、下記記事において私が命名した「白川相場」の話ですね。
“2011年円高”と“白川相場” 2013-02-21
2013年までのドル円5年間の推移を見ると以下のようになります。下の2つの図の横軸は2008年以降の5年間を示し、上は縦軸が円/ドル、下は縦軸が日経平均株価です。

《白川相場》
冒頭の図から明らかなように、2012年2~3月に円安と株高のピークがあります。これを私は“白川相場”と名付けています。このとき私は、この現象を2件のブログ記事としてアップしていました。
日銀の10兆円金融緩和で為替レートは?」2012-02-17
『日銀は14日の金融政策決定会合で、デフレ脱却に向けた中長期的な物価目標について、「当面は消費者物価の前年比上昇率で1%をめどとする」ことを決めた。目標の物価水準を明示し、事実上のインフレ目標を導入。長期国債買い入れのため、基金も10兆円増額し、65兆円に拡大する追加金融緩和を全員一致で決定した。追加緩和は昨年10月末以来、約3カ月半ぶり。』産経新聞 2月15日(水)7時55分配信

民間事故調報告書・日銀と円安の進行」2012-03-14
(2012年)『円安の進行が止まりません。本日3月14日22時にはとうとう83.5円/ドルを突破しました。
すべては2012年2月14日、日銀が金融政策決定会合で、デフレ脱却に向けた中長期的な物価目標について、「当面は消費者物価の前年比上昇率で1%をめど(goal)とする」ことを決めた。目標の物価水準を明示し、事実上のインフレ目標を導入。長期国債買い入れのため、基金も10兆円増額し、65兆円に拡大する追加金融緩和を全員一致で決定した」ことがスタートでした。
10兆円の追加緩和では1~2円/ドルの円安?と予測しましたが、その予測をはるかに超える円安です。印象としては、世界の市場が「日銀は態度を改めた。デフレ脱却に向けて本気で金融緩和してくる」と認識したのではないでしょうか。そのため、当面の10兆円緩和効果を超える円安が誘導されているかのようです。
・・・』
しかし、白川相場での円安と株高は長続きしませんでした。円相場は、3月なかばに83円台後半のピークを記録すると、その後下がり始め、5月には結局70円台に戻ってしまったのです。日経平均株価も、3月に1万円を超えましたが、4月からは下がり始め、5月には8000円台まで落ち込んでしまいました。
なぜ白川相場は長続きしなかったのか。
最近の解説では、白川総裁がこのとき、「量的緩和はデフレ脱却に効かない」とことあるごとに発言していたのだそうです。世界の市場は、2月の段階では「日銀は本気だ」と考えて期待したのに対し、その後、「日銀はやる気がない」と評価が反転し、それが白川相場の終焉に影響したと思われます。
--以上ブログ記事--------------
円安と株高が本格的に進行するのは、2013年初頭のアベノミクスのスタートからでした。

湯之上隆著「日本型モノづくりの敗北」 2013-12-04
2013年の上記ブログ記事では、湯之上さんが把握した、エルピーダの内情について記載しました。

冒頭の新聞記事と同じ本年2月25日、日経朝刊には下記の記事も掲載されていました。
半導体論文、日本が低迷 国際学会で採択数5位 企業発少なく、米中に後れ
2022/2/25付日本経済新聞 朝刊
『半導体関連の国際学会で日本の競争力低下が鮮明になっている。2月20~28日の期間でオンライン開催中の国際固体素子回路会議(ISSCC)では、採択論文に占める日本勢のシェアが3.5%と、前年の6.2%から一段と小さくなった。先端研究の出遅れは産業競争力にも影響を及ぼしかねない。』
『22年は企業からの採択はキャノンとルネサスエレクトロニクスの1件ずつにとどまった。韓国サムスン電子や米インテル、米IBMなどが1社で多数の論文差請託を受けていのとは対照的だ。』
記事に掲載されたグラフは、2015年から22年までのISSCCの国・地域別採択論文数の推移を示します。2015年に日本は30件弱の件数でしたが、22年は10件弱まで減っています。22年でアメリカは70件前後、韓国は40件、中国は30件、台湾は15件程度でした。
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