弁理士の日々

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オリンパス問題と海外メディア

2011-11-19 22:36:47 | 歴史・社会
今回のオリンパス騒動のそもそもの発端となったのは、日本の雑誌FACTAの8月号に掲載された記事でした。多分こちらの記事『オリンパス 「無謀M&A」巨額損失の怪 零細企業3社の買収に700億円も投じて減損処理。連結自己資本が吹っ飛びかねない菊川体制の仮面を剥ぐ』(FACTA online 2011年8月号)と思います。

当時のオリンパス社長ウッドフォード氏はこの記事で初めてオリンパスの闇について知り、追求を始めました。ウッドフォード社長が調査会社に調査させたところ、ファクタの記事は根拠がありそうでした。社内での追求のため、当時の菊川会長兼CEOからCEO職を取り上げるまでは成し遂げたのですが、その直後に取締役会で社長を解任され、それだけではなくオリンパスから放逐されてしまいました。

オリンパス取締役会はウッドフォード氏を日本からも放り出したのですが、イギリスに戻ったウッドフォード氏は追求の火の手をあげました。

それに対し、海外メディアは敏感でした。続々と追求記事が続きます。
ところが、日本国内メディアはほとんど報じません。海外メディアとの落差は鮮明でした。
いつの間にか、海外では「やっぱり日本企業のコンプライアンスはデタラメだ」という雰囲気が生まれていったようです。日本経済にとっては不運なことでした。

ファクタ誌によって報じられたのは、国内の小さなベンチャー企業を08年3月期に3社まとめて700億円近くで買って子会社化し、翌年にはほぼその全額をこっそり減損処理した事件、08年2月に買収した英国の医療機器メーカー、ジャイラスを2千億円で買収するとともに助言会社に法外な報酬を支払った事件でした。その金はいったいどこに消えたのか、という点が謎でした。

ニューズウィーク日本版 10月28日(金)17時20分配信「企業スキャンダルの温床はどこにあるのか?」では、
『このオリンパスの問題ですが、前回この欄でお話したような事件性の疑惑、例えば「脅されていた」「癒着していた」「騙された」という理解とは次元の違う解説もあるようです。ネット上の匿名記事(複数)によれば、総額1200億という巨大な損失は、個人的な私利私欲を動機とした事件性としては説明がつかないスケールだという前提で、バブル崩壊以来の20年間延々と「飛ばし」や「先送り」のされた投資損失を、今回は「M&Aの失敗」という口実で表面化させ処理したというストーリーが描けるというのです。』
と報じています。今から考えると、実に先見の明がある報道です。

その謎が急転直下明らかになったのが11月8日です。前日の7日夕方、森副社長が高山社長に、過去の損失隠しについて自白したのです。
森副社長は、なぜ突然自白する気になったのでしょうか。
この点について、同じ7日付けのロイター記事に目が留まりました。
オリンパス買収仲介者は80年代から関係、「損失先送り」に関与=関係筋
2011年 11月 7日 18:04 JST
『[東京 7日 ロイター] オリンパス(7733.T: 株価, ニュース, レポート)による2007年の英社買収で巨額の手数料を受け取っていた投資助言会社の中心人物が、1980年代から同社と関係を持ち、バブル崩壊期に同社の「損失先送り」処理に関与していたとみられることが、関係者への取材で明らかになった。』
ジャイラス社を2千億円で買収した際の助言会社が関係している中川昭夫氏という人物(野村證券OB)が、バブル崩壊で企業が抱えこんだ損失の表面化を避ける「損失先送りスキーム」を企業に持ち込んでおり、主要顧客の1社がオリンパスでした。
『オリンパスと中川氏の関係が事実とすれば、同社の不透明なM&A(買収・合併)資金とバブル期の損失処理との間に何らかの結びつきがある可能性も否定できない。』

森副社長の自白を先取りするような上記記事、これもロイターというアメリカ系の通信社が発したニュースでした。

直近の報道ではまた、ニューヨークタイムズの報道がありました。
「闇経済」に2000億円超=オリンパスから流出か―NYタイムズ
時事通信 11月18日(金)11時59分配信
『【ニューヨーク時事】米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は17日、オリンパスによる巨額の損失隠し問題に関し、2000億円を超える金額が指定暴力団など「闇経済」に流れた可能性があると報じた。日本の捜査当局に近い関係者から得た文書を基に東京発で伝えた。』

また海外系メディア発ですか。

オリンパス問題について、日本メディアが主導して全容解明に至るのは何時の日になるのでしょうか。

なお、最初のFACTA8月号に戻ると、その末尾
『収益源の多角化とも純投資とも呼べないいかがわしいM&Aに、菊川会長がなぜこれほど淫したのかの解明は、東京地検特捜部の仕事かもしれない。一連のM&Aで社外に流出した巨額の資金の流れも闇に閉ざされている。オリンパスの「ココロとカラダ」がこれ以上病んでしまう前に、菊川会長には果たすべき説明責任と経営責任がある。』
と結んでいます。

実に先見性に富む結論であるとびっくりしました。
日本メディアの中では、FACTA誌ただ一つが孤軍奮闘しています。
コメント
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