弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

川口淳一著「小惑星探査機はやぶさ」(2)

2011-11-09 21:20:22 | サイエンス・パソコン
第1回に引き続き、川口淳一著「カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた (中公新書)」です。

はやぶさは、長い旅の末にイトカワに到着しました。

《着陸のための誘導制御》
着陸時の誘導制御がどうしてもうまくいかなかったのですが、3回のリハーサルの後、地形航法という新たな方法をNEC航空宇宙システムの白川健一さんたちの提案をもとに見つけることができました。「詳細を書くことはできない」「この技術は我が国がアドバンテージを発揮できる部分であり」とあります。「人間による処理を入れ、これにより処理が爆発的に速くなった」とのことです。

《再着陸か帰還か》
1度目に「不時着」して再離陸した後、「このまま帰ろう」という意見が出されたといいます。不時着時にサンプルが採取できている可能性もあり、再着陸はリスクが高すぎるという理由です。それでも川口リーダーは最終チャレンジを決定しました。

《運用室の変化》
着陸ミッションにおいて次々と降りかかる困難を解決する仮定で、プロジェクトのメンバーは日に日に成長したといいます。メンバーは命じられる前に議論し最適解を見つけていきました。

《弾丸を発射していない?》
『弾丸が発射されていない、サンプルが回収されていないかもしれないと知らされたときの気持ちは、落胆とかショックなどという言葉ではとうてい表現できない。声すら出ない。背筋が凍るとはこういうことか、そんなバカな・・・そんな思いが身体を駆け抜けた。』

《ミッション継続への執念》
イトカワからの離陸後にまず化学エンジンが故障して姿勢制御がうまく行かなくなり、とうとう電波も途絶してはやぶさは行方不明となりました。
このとき一番恐ろしかったのは「年度末だから予算を打ち切る」といわれることでした。川口リーダーは「今後はやぶさが再発見される確率」を算出して示し、これによって予算は継続されました。

《救出運用》
はやぶさは12月8日に燃料漏出によるガス噴射があり、とうとう姿勢制御ができなくなり、太陽電池パネルの方向がずれて電力を失い、バッテリがなくなり、全部の電源が落ちて12月9日に地球との交信を絶ってしまいました。
その46日後、2009年1月23日に、はやぶさとの交信に成功したのです。
行方不明になっているとき、はやぶさのモードは高利得アンテナ(指向性アンテナ)使用、中央コンピュータ電源ダウン、機器を温めるヒーターオフ、などとなっています。はやぶさの姿勢は自然に単純なスピンに収束するはずですが、そのときでも地球と交信できるのは高利得アンテナが地球に向いたときだけです。そのときをとらえ、「指向性アンテナを無指向性アンテナに切り換える」「すべての電源を順次入れていく」など10以上の指令を順に送っていってすべて解読され、かつ実行されなければ復旧はできず、電波すら出ないのです。さらに通信機の温度が最適温度から外れているはずで、通信周波数もまったく予想できません。そのような状況下で、はやぶさが受信できるように指令を工夫し、周波数も予測範囲内でスイープさせ、根気よくはやぶさの方向に電波を出し続けました。
このような悪条件から復帰できるなど、本当に千に一つ程度の可能性だったように思います。

《カプセルの蓋閉め》
2007年1月にはやぶさ着々と帰還準備で報告したように、バッテリの再充電と試料容器のカプセル収納に成功したことをJAXA報告で知りました。
ここで、奇怪な事実によってバッテリ再充電が可能になったようです。意外にも補充電回路が当初の設定と異なり、オンになっていたのです。プログラム上は意図してオンにしたわけではなさそうです。こんなところにも「はやぶさの奇跡」があったのですね。

《イオンエンジンのつなぎ替え》
2009年11月、4基のイオンエンジンがすべて故障し、万事休すと思われたとき、当初設計にはなかったバイパスダイオードが組み込まれていたことによって危機を脱したことは有名です。堀内康男さんらイオンエンジンチームの創造力と機知のたまものでした。
ただし、これだけではそのときの危機を回避できなかったといいます。
イオンエンジン稼働は1基ですが、別の中和器を使うオペレーションでは2基分の電力を消費します。このときはまだ太陽との距離が遠く、太陽電池での発電が十分ではありません。当初設計ではたまたま電力が不足したときにはバッテリでバックアップしている間に機器の電源を遮断することになっていましたが、そのバッテリが故障しています。コンピュータが生きている間に遮断機能が働いて機器をオフにするのが間に合わないとシステム全体が死んでしまいます。しかし、これまでこの機能の試運転は行っていませんでした。実際にこのときロックアップは起きたのですが、無事に救われました。
またこのオペレーションでは、プラズマ発生量は1基分なのにマイクロ波電力は2基分作動するので、まるまる1基分は「空焚き」になります。はやぶさは、この空焚きに耐えるように総合設計がされていたのです。このような冗長設計がされていたからこそ、はやぶさは帰還ができたのでした。

はやぶさのカプセルが帰還した後、はやぶさについての単行本を読むのはこれが初めてかもしれません。リアルタイムで追いかけていたときには知り得なかった事情をいろいろと知ることができました。
コメント
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