弁理士の日々

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八代尚宏著「新自由主義の復権」

2011-11-11 22:19:24 | 歴史・社会
新自由主義の復権 - 日本経済はなぜ停滞しているのか (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社

この本の冒頭にもありますが、現在の日本において、新自由主義というと「市場原理主義」のレッテルを貼られ、「市場競争を煽って格差を拡大し、日本の伝統を破壊した」「世界金融危機を引き起こした元凶」といった批判がされます。「小泉-竹中改革」即ち「市場原理主義」によって日本が悪くなった、という論調が多くなされています。
しかし、これら報道や論調は根拠に裏付けされているとは思われません。なぜこのような主張が根拠レスに喧伝されるのか、とても不思議に思っているところです。

上の本は、『本書では、「小泉改革」や世界金融危機の再検討、さらに日本経済紙を通じて、その誤解をとく。そのうえで、新自由主義の思想に基づき、社会保障改革から震災復興まで、日本経済再生のビジョンを示す』とうたっています。

ということで読んでみました。

私は経済学については素人なものですから、まず専門書を読んでもちんぷんかんぷんです。そして、本書のような入門書を読むと、「なるほどそうか」と納得してしまいます。
しかし、「新自由主義反対派」の人と議論して負けない程度の知識が得られたか、というと全くそうではありません。こればかりはしょうがないですね。
著者の八代氏は、これだけ小泉構造改革路線を擁護しているので、小泉政権と関係があった人なのかと思いましたが、ウィキで見る限りはそのような経歴は見つかりませんでした。

とりあえず、報道等で「市場原理主義に基づく小泉構造改革のせいでこんな悪いことになった」という説明がされたとき、この本を思い出して2つの論を比較対照することにしましょう。

ひとつだけ、本書の中から具体論をピックアップします。

現在のTPP参加可否議論の中で、反対派の中から「TPPに参加したら、医療において『混合診療』が導入され、国民皆保険制度が崩壊する」という議論が出されています。この議論は私にはちんぷんかんぷんで論理が全く理解できません。

ところで本書では、「新自由主義のスタンスでは混合診療を認めるべき」と主張しています。
日本医師会は「(混合診療を認めると)追加的な費用を負担できない患者が、質の高い医療から排除される」と主張しています。しかし実際には、(混合診療を認めない)現行制度こそが、「金持ちだけがよい医療を受けられる」仕組みであり、(混合診療を認める)改革案は、よい医療を受けられる患者の範囲を大幅に広げるものだ、とこの著者は述べています。私もそのとおりと思います。
本の中で、現在でも混合診療的なものが例外的に認められている例として、セラミックスの人造歯が挙げられています。前歯をセラミックスにする場合は保険がききますが、犬歯より後だと保険適用外です。しかし笑ったときに見えるので、私はセラミックスを入れています。このとき、セラミックスの歯そのものの費用は保険適用外ですが、治療は保険が適用されます。もし例外が適用されなかったら、混合診療不可で、保険適用外の歯にセラミックスを入れる場合には治療費まで保険適用外となり、治療費が高くなります。この例だけからも、混合診療の方がわれわれに恩恵が及ぶことが明らかです。
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