弁理士の日々

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中国の軍事力脅威と在日米軍の再編

2011-11-16 22:35:16 | 歴史・社会
普天間問題に関連して、沖縄駐留の米海兵隊のうち、司令部の8000人がオーストラリアに移転するという計画が知られていました。それに対し、以下のような報道がなされました。
<在日米軍再編>米海兵隊、「司令」と「戦闘」分散 一極集中の危険を回避
毎日新聞 11月14日(月)8時54分配信
『米国が在沖縄海兵隊司令部の大部分をグアムに移転するとの方針を改め、司令部機能と戦闘能力を沖縄とグアムに分散する方向に転じた。アジア太平洋の幅広い範囲に米軍を配備しようとの再編戦略がうかがえる。
アジア太平洋における海兵隊拠点の沖縄、移転先のグアムに加え、オバマ米大統領は今月中旬のオーストラリア訪問で、海兵隊を豪州に駐留させる方針を表明する予定だ。海兵隊はハワイにも6000人程度駐留しており、太平洋に海兵隊が分散配置される傾向が顕著になっている。
欧州などに比べ、アジア太平洋には政治的に不安定な地域が多い。クリントン米国務長官は外交誌「フォーリン・ポリシー」(11月号)で、アジア太平洋の米軍が今後、(1)地理的に配置を分散する(2)作戦面での弾力性を高める(3)駐留国などの「政治的な持続可能性」に配慮する--の3原則に基づいて再編されるとの見通しを示している。背景には、中国軍が弾道ミサイルの精度を高め、海軍力、空軍力を増強している事情がある。グアムに海兵隊の一大拠点を設けて「一極集中」すれば、弾道ミサイルの格好の標的となる。海兵隊の司令部や拠点を分散すれば、攻撃される危険性を減じ、万が一、攻撃された場合にも反撃能力を温存できる。
ただ、海兵隊のグアム移転は、米軍普天間飛行場をキャンプ・シュワブ沿岸部に移設するとした日米合意の進展が前提だ。しかし、現行移設計画への沖縄の反対は根強く、「現行計画が政治的に持続可能か」という原則が揺らいでいる側面もある。【ワシントン古本陽荘】』

いよいよ、中国のミサイルの脅威が、日本に駐留する米軍の配備にも影響を及ぼしてきているのですね。
この話には伏線がありました。
今年1月、このブログで『中国の「空母キラー」ミサイル』という記事を書きました。中国が、敵空母部隊に対しての強力な攻撃兵器である「対艦弾道ミサイル(ASBM)」を開発しており、ほぼ完成してすでに部隊配置も始まっているようです。
ASBMとは中距離弾道ミサイル(DF21)を改造して、はるかかなたの洋上を航行する空母を攻撃できるようにした新兵器で、防御が難しいことから「空母キラー」とも呼ばれています。人工衛星から誘導するようです。
射程は1500キロを超えるということで、日本列島は沖縄を含めてすべてその範囲内に入り、グアムのアンダーセン基地のみがかろうじて射程から外れています。弾道ミサイルは目標への突入速度が速すぎるからでしょうか、迎撃が難しいと言われているようで、ということは、もはや米国空母は中国近海に進出することがきわめて危険であるということになります。
昨年11月に発表された米中経済・安全保障検討委員会の米議会への報告書は、中国軍が弾道・巡航ミサイルで、三沢、横田、嘉手納各米空軍基地を攻撃する能力を持っていると指摘。有事の際には使用不能となる可能性に触れています。
『米側では、「多くの専門家が琉球諸島の米国の『(軍事)聖域』はすでに失われたと思い始めている。だから海空戦闘構想が広まっている。米国は(有事には)日本とともに戦い、そうした基地を取り返さなければならない(ヨシハラ米海軍戦争大准教授)という指摘が聞かれる。』

そして今年7月、JBプレスに『危ない横須賀を去って豪州へ行くべし?』という記事が載りました。
2011.07.21(木) 谷口 智彦
『米国海軍大学(US Naval War College)でアジア太平洋科を率いる日系研究者トシ・ヨシハラが、豪州を代表するシンクタンクから注目、というより、いささか瞠目すべき論文を発表した。』
『日本から豪州へ基地を移管せよ
 横須賀、佐世保、嘉手納を、今後重要となる戦域から遠過ぎるうえ中国ミサイルの射程内にありはなはだ危険だと断じ、米海軍力の少なくとも一部を豪州に移管する必要を強く説いている。』
『ヨシハラに言わせると、在日基地はすべて中国短中距離ミサイルの射程内に入り、嘉手納など「数時間で無力化されかねない」。
・・・・
横須賀、佐世保は冷戦の遺物。この先重要なのは豪州に持つ米海軍基地だと示唆した格好だ。パース沖合ガーデン島に豪州海軍が有する最大基地「HMAS Stirling」の名を挙げ、米海軍が同基地内にプレゼンスを持つ重要さをしきりに説いている。』

中国の軍事力の強化、なかんずく中距離弾道弾の脅威は、日本を中心とする米軍の配置に大きな影響を及ぼしているようです。
今までは、主に沖縄に空軍や海兵隊を集中し、横須賀に第7艦隊の司令部を置き、日本の主要基地に弾薬や燃料を大量に備蓄することによって、西太平洋からインド洋までの安全保障の要としてきました。ところがこれらの配備が中国の中距離弾道弾の脅威にさらされることとなり、グアムやオーストラリアに分散配置せざるを得なくなっているようです。

1996年3月、中国はミサイル演習と称して台湾近海に向けて3発のミサイルを発射しました。この2週間後、台湾は総統選挙を控えており、台湾では中国からの独立の気運が高まっていたのに対し、台湾近海に向けてのミサイル演習はこの独立気運を牽制する目的でした。
米国のペリー国防長官はクリントン大統領に進言し、横須賀を母港とする空母インディペンデンスを中核とする戦闘グループを台湾周辺海域に向かわせるとともに、インド洋で待機していた原子力空母ニミッツを中核とする機動部隊も台湾近海へ向かわせました。
このとき中国は、米軍の脅威に対してすっかりおとなしくなりました。
しかし中国はそれ以来、海軍力の増強にまい進するようになっていきました(上掲記事)。
中国が空母キラーミサイルのような兵器開発に着手する契機となったのが、まさに上の1996年台湾総統選挙時の中国ミサイル演習とそのとき米国が2つの空母部隊を台湾近海に派遣して力で押し返したことにあるようです。

私はつい最近『小川和久著「日本の戦争力」』において、日本に展開する米軍がはたす安全保障戦略上の重要性について記事にしたばかりです。しかしその在日米軍が、中国の軍事脅威によって再編を余儀なくされているということです。
普天間問題も、このような観点も考慮して見直すべきなのでしょう。
コメント
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