弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

4MHz帯電波の伝搬特性

2008-10-14 20:23:45 | 歴史・社会
前報記載のように、サンフランシスコ第12海軍区情報部で特別捜査官を務めていたオグが方位解析を行った電波は、周波数が4MHz帯でした。ここで、4MHz帯の電波がどのように伝搬するのかについて検討します。

参考図書として私の手元にある本は、大塚政量著「上級ハムになる本」、CQ誌別冊「DX HANDBOOK」の2冊で、いずれもCQ出版社刊行の古い本です。

電波は基本的に直進します。地球は球形をしているので、直進する電波を遠隔地で直接とらえることはできません。周波数30MHz以上の超短波、極超短波はこれに該当します(地上波)。
電波の伝搬は、上記地上波以外に、地表波と電離層波があります。

周波数3MHz以下の中波、0.3MHz以下の長波は、地表に沿って伝搬する地表波として伝搬します。ただし距離とともに減衰し、中波については100km程度しか届かないようです。

地球の大気圏上空では、太陽からの紫外線や微粒子などによって大気が電離し、「電離層」を形成しています。電離層の強度は太陽の影響を受けるので、夜よりも昼、冬よりも夏の方が強度が上がります。また、太陽の黒点活動の影響を受け、11年周期で、電離層が強くなったり弱くなったりします。
電離層に到達した電波は、①電離層を突き抜ける、②電離層で反射する、③電離層に吸収される、の3種類の運命をたどります。
周波数毎に電離層での挙動が異なり、周波数が高いほど、電波の打ち上げ角度が高いほど、電離層強度が弱いほど、電離層で反射せずに突き抜けやすくなります。

以上のとおりですから、遠距離間で通信を行うためには、地上波と地表波を使うことはできず、電離層波に頼ることになります。もちろん衛星通信が存在しなかった頃の話です。

電離層は地表からの高度に応じて大きく3種類存在します。地表に近いD層(約70km)、その上のE層(100km)、さらに上のF層(250~400km)です。D層は昼間のみ発生し、夜間は消滅します。各層ごとに、電波の突き抜け・反射・吸収状況が異なります。

遠距離通信をする上で一番安定しているのは、10~30MHz帯程度の短波です。この周波数帯では、D層、E層は突き抜け、F層で反射します。F層と地表との間で反射を繰り返し、地球の裏側まで電波が届きます。私も、以前こちらこちらで紹介したように、アマチュア無線の21MHz帯で全世界と無線通信を行ったことがあります。ただし、いつでも地球の裏側と交信できるわけではなく、太陽黒点活動が活発な時期でかつ、春と秋の季節が良好なタイミングです。電波伝搬経路が昼か夜かによっても違います。

さて問題の4MHz帯です。
この周波数帯、D層で吸収されてしまいます。従って、D層が存在する昼間は、電離層波として遠距離に届けることができません。
夜間はD層が消滅するので吸収されず、E層で反射し、E層と地表との間の反射を繰り返して遠距離に届きます。
従ってこの周波数帯は、夜間に遠距離通信をすることのできる周波数帯です。

電離層反射を利用しない地表波は、せいぜい100km程度しか届かないということですから、ハワイとサンフランシスコの間についても、当然ながら届くとしたら電離層波です。

秦郁彦編「検証・真珠湾の謎と真実―ルーズベルトは知っていたか」で、今野勉氏はオグに直接インタビューした結果について以下のように述べています。
「『ハワイの北西』『日付変更線の東』というオッグの割り出した位置は、船橋とサンフランシスコを結んだ直線上にあるとも言った。
オッグが発信位置をそのように特定したのは、無線会社の方向探知の精度が悪かったためか、電波の電離層への反射、海面への反射をキャッチしたためではないか、と私が推論を述べると、氏は一瞬、顔をこわばらせ、『私はもうこれ以上、何も言いたくありません。反論もしたくありません。』と言って、口を閉ざしてしまった。」

「電波の電離層への反射、海面への反射をキャッチしたためではないか」との問いかけが意味不明です。ハワイからサンフランシスコまでだったら電離層反射を利用しないとでもいうのでしょうか。
サンフランシスコから太平洋上の船舶の位置を無線方位で測定しようとしたら、100kmを超える沖合いであれば、電離層波を用いる以外にありません。ですから、無線方位測定を行う際に「電波の電離層への反射、海面への反射をキャッチ」するのは当たり前です。電離層波では方位測定ができないというのであれば、そもそも100kmを超える距離の無線方位測定はあり得ない、ということになってしまいます。

もう1点、重要なことに気づきました。今野氏は「『ハワイの北西』『日付変更線の東』というオッグの割り出した位置は、船橋とサンフランシスコを結んだ直線上にある」と述べています。
機動部隊は北緯40度よりちょっと北を通過しました。『ハワイの北西』『日付変更線の東』もそのあたりです。
ところが、地球儀の上で船橋とサンフランシスコを最短距離で結ぶと、日付変更線の東では北緯45度程度となるのです。決して機動部隊の進路と重なりません。
今野氏が言う「船橋とサンフランシスコを結んだ直線上にある」というのは、ちょっとずれが大きいように思います。
電波方位測定を行う際には、地図として大圏図の上に作図します。スティネットの著書に引用された地図もそうです。決してメルカトール図などは用いません。
コメント
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