弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

田島優子「女検事ほど面白い仕事はない」(2)

2008-10-30 20:55:12 | 趣味・読書
前回に続き、田島優子著「女検事ほど面白い仕事はない (講談社文庫)」についてです。

検事に任官して1年目の東京地検勤務時代、東京地検の全検事が集まる親睦会が開かれました。この親睦会の二次会で、田島氏は堀田力(当時)特捜検事と知り合います。以後、検事任官中及び退官後も、田島氏は常に堀田氏を師と仰ぐことになり、堀田氏も常に田島氏を目にかけることとなります。

田島氏が「仕事上の満足感は、たとえようもなかった」と述懐する東京地検での1年間が終わり、次の任地は福島地検です。
1年目は少年係、2年目は外事・公害係です。いずれも、簡単な事件しか起こらず、「女性検事に担当させるのに無難なもの」ということで、戦力としてカウントされていないことに憤ります。
一方、無免許運転で女児をはねて業務上過失傷害罪で送検された男の取り調べで、自分で張り込み捜査を行って男の嘘を見破って自白に追い込むなど、元気のいいところを見せました。

田島氏は、もともと「仕事一筋に生きる」つもりであり、結婚するつもりもなく、結婚しても子供を作るつもりもありませんでした。しかし福島地検勤務中にいろいろな意見を聞き、考えが変わっていきます。こちら(顔写真も)でもその気持ちを述べています。そして東京法務局への異動の内示があったとき、子供を産むことに決めました。
そして意図せず、2人目の子供も相次いで授かりました。

子育てしながらの女性検事はまだ少数で、それはそれは苦労したようです。
建設省のキャリア官僚である夫は、結婚時には「家事は五分五分の割合でやる」と言い、子作りのときは「産んでくれれるだけでいい、子育ては自分がする」と約束しましたが、いずれも反古にされました。

妊娠・出産・育児を抱えながらの勤務は、東京法務局訟務部、法務省訟務局、東京地検刑事部と公判部、法務大臣官房、外務省出向領事移住部と、転々とします。行く先々で、田島氏は仕事のおもしろさを見いだし、そこでの仕事ぶりが著書に描かれています。「好奇心の塊で、何でも新しいことに首を突っ込みたい私には、充実した13年間でした。」

そして外務省出向の3年間が過ぎる頃、田島氏は検事を辞める決意をします。
田島氏が検事として務めた13年間のうち、10年間は東京勤務でした。これは家族との同居を配慮してもらったお陰ですが、逆に心苦しく思っていました。
もう一つの理由は、外務省で国際政治や国際経済といったマクロな世界に触れたため、元の刑事事件の捜査に戻ることが耐え難くなるのです。

田島氏は真っ先に、当時法務省の官房長であった堀田力氏に相談に行きます。すると堀田氏は堀田氏から、「僕も辞めるよ」「僕は引き留めませんよ。どうせ辞めて弁護士をするなら、僕と一緒にやりませんか」と言われます。将来の検事総長かと噂された堀田氏は、検察庁を辞めて福祉の仕事をするというのです。

田島氏は1992年に検察庁を辞め、堀田氏が始めたさわやか法律事務所のパートナー弁護士に就任したようです。その後すぐ、講談社から執筆の誘いがあり、この著書となりました。

以上の他、この本を読んで印象に残った事項を箇条書きにしておきます。
○はじめて被疑者(日雇い労務者の喧嘩事件)を取り調べたとき:被疑者が検事の正面に座るように促され、田島さんが検事だとわかったとき、被疑者はポカンと口を開け、呆気にとられたような顔をした。そりゃそうよね。どう見たって、女子大生にしか見えないものね。

○女性検事は女性被疑者に厳しいという噂があるが間違っている。正しくは、男性検事が女性被疑者に特別に甘いのだ。いずれにしろ、女性検事は女性被疑者から歓迎されていない。

○福島地検での状況:「殺人事件など、一件もない年のほうが多いから、稀に起こると、捜査のノウハウを知らない警察は、ほとんどを迷宮入りにしてしまう。私が来てからは、不思議と毎年殺人事件が起こったが、警察はいつも悪戦苦闘していた。」

○東京法務局訟務部勤務:訟務部に配属された検事は、国や地方公共団体の代理人として、民事事件や行政事件を処理する。この仕事に携わることは、捜査検事の道からはずれることを意味する。そのため、以前は不人気な職場だった。
しかし、訟務検事は、被告となった行政側の仕事のシステムや事情を詳しくつかむ立場となる。これら知識は、特捜部を目指している検事にとっては大いに役立つ。

○法務省訟務局付き検事として:訟務検事には裁判官からの転官者が多い。彼等は総じておっとりとしていて、品がよいので、忙しいにもかかわらず、わりあい静かな職場が形成される。
検事は、犯罪者や警察官を相手に仕事をするので、どうしてもガサツになりがちだ。
(裁判官は)検事より、同僚や部下の女性判事の妊娠・出産を見慣れていたせいか、そういう環境にある私に対して寛容な空気が感じられ、仕事もやりやすかった。

○訟務局参事官から聞いた、特捜での取り調べについて
担当する被疑者を割り当てられるときは、ただ「この被疑者を調べろ」と言われるだけで、容疑の内容は教えられない。取り調べ前に情報を与えてしまうと、特捜検事は有能だから、被疑者の供述をそっちに引っ張る恐れがあるからだ。
特捜検事にもいろいろなタイプがあって、穏やかに説得して自白をとる人もいるが、そのためには被疑者と心を通わせることが不可欠で、より高度なテクニックを要する。

○法務大臣官房時代
法務大臣は、たいてい当選回数を重ねた参議院議員の中から選ばれ、官僚出身者と地方の県議会議員からのたたき上げ組に分けられる。


田島氏がこの本を刊行してから10年、検事を辞めてからは16年が経過します。この16年、田島氏はどのような活動をしているのでしょうか。この本の執筆以外にはあまりネットに露出していません。

明治安田生命保険相互会社「社外取締役候補予定者について」2006 年3 月31 日には、田島氏が明治安田生命保険相互会社の社外取締役に就任することが報じられています。併せて、以下のような経歴が紹介されています。
昭和50年3月 東京大学法学部卒
職 歴
昭和54年4月 東京地方検察庁検事
平成 4 年4月 弁護士登録
平成 4 年4月 さわやか法律事務所 現在に至る
平成10年7月 金融庁 金融審議会委員
平成13年10月 金融庁 金融審議会臨時委員
平成16年4月 金融庁 公認会計士・監査審査会委員
平成17年6月 厚生労働省 労働政策審議会臨時委員
平成17年10月 経済産業省 産業構造審議会臨時委員

最近は、政府の委員会委員を歴任しているということでしょうか。
コメント
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