弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

知財コンサルの今後

2007-12-11 21:58:37 | 知的財産権
最近、弁理士による知財コンサルティングが話題になっているような気がします。なぜ今なのか。
どうも、弁理士試験合格者数の増大による弁理士数の急増、実務未経験新規合格者の就職難と一緒に語られることが多いように思います。そうとすると、知財コンサルは以下のような命題(願望)とともにあるということでしょうか。

①ごく平均的な能力を有する弁理士が、しかるべき勉強や研修を行ったら、知財コンサルの仕事を始めることができるか
②まだ特許でメシを食えない新人実務未経験弁理士が、しかるべき勉強や研修を行ったら、知財コンサルの仕事を始めることができるか
③上記①②で始められる知財コンサルの仕事は、ある程度の人数の弁理士のメシの種になるほどの規模を有しているのか

私の直感としては、知財コンサルという事業が存在するとしても、それでメシを食っていけるような人はごく僅かで、コンサルタントに向く資質を有している、豊富な実務経験をもとにコンサルティングを行うことができる、といった人に限られるのではと思っています。
平均的な弁理士というと、いかにも技術屋で、他人を魅了することが得意というわけではありません。それに対してコンサルタントには、人が好き、人に好かれる、人を引き込む話術を持っている、などの資質が必要とされ、一般に弁理士が得意とする資質とは異なります。


11月30日、弁理士会主催でパネルディスカッション「弁理士による知財コンサルティング事業とその展望」が開催されました。そこで、知財コンサルについてどのような議論がされているかを確認すべく、出席しました。

パネリストは、澤井敬史(NTTアドバンステクノロジ取締役)、佐原雅史(知財コンサル会社社長)、渡部温(研修所副所長)、井上純一(野村総研知財部長)、土生哲也(知財コンサル検討委員会副委員長)、遠山勉(知財コンサル検討委員会委員長)の各氏です。井上氏以外が弁理士です。

全体の印象としては、知財コンサルに対する考え方、展望などは各人各様であり、まだ統一した考え方は確立されていないようです。
そして、「ごく平均的な弁理士、あるいは新人実務未経験の弁理士が、ちょっと勉強や研修を行ったからといって、メシの種になるほどの知財コンサルの仕事があるようには思えない」という私の当初の印象は、やはりパネリストの皆さんの印象と合致しているように思います。

唯一弁理士ではない井上氏の発言がおもしろかったですね。弁理士による知財コンサルに対して否定的な考え方です。
○コンサルをうたう弁理士はいるが、そのうちの半分は何も準備していない。
○一般に弁理士は、人の顔を見るより案件を見る。
○弁理士におけるコア事業のマインドとコンサルのマインドとはまったく違う。
○著作権が語れる弁理士がどれだけいるか。著作権はビジネスと直結している。
○日本の弁理士と話をしても楽しくない。
○弁理士は製造業に偏重している。今や製造業はGDPの3割に過ぎない。
○野村総研の知財部員の半分が今や弁理士である。外部弁理士は、これら自社弁理士と何が違うか(何が売りになるか)。

澤井弁理士は、大企業知財事業本部長の立場で観察しています。
○顧客が発注しようとする気持ちにさせることが必要。人の2歩先を行ったらダメ、0.7歩ぐらい先がいい。
○弁理士は一人で解決しようとする。みんなで議論することが必要。
○本当のいい弁理士にはコンサル能力がある。

佐原弁理士と土生弁理士は、ご自分で知財コンサルを仕事としてやられています。
○企業の社長は何をやっていいかわからない。社長の方針がない。まず課題を再整理し、方針を決定するところからスタートする。
○次いで、活動計画を策定する。予算、人事、実行項目など。
○経営者と実行部隊では視点が違う。トップダウンがよい。
○知財コンサルは、社長の懐刀となるべき。(何が要求されているか)感じ取る能力が必要。
○大企業相手のコンサルでは、出願業務は受けない方向で切り離した方が良いだろう。
○中小企業相手のコンサルでは、コンサルから出願まで一貫で引き受ける方がよい。
○(コンサルタントとして語る話が)本当の知識かどうか、見たらすぐわかる。日経新聞を読んで弁理士以外と議論することが必要。
○一般に経営コンサルタントは、1件で500万円~1千万円の顧問料を要求する。弁理士知財コンサルではなかなかそのような要求ができない。

パネルディスカッションでの議論の内容は、「まあそんなものだろう」という私の印象とそれほど乖離していませんでした。


そうこうするうちに、弁理士会から来た書類の中に「知財ビジネスアカデミー」のチラシが入っていました。こちらにも案内があります。
「知財コンサルタント基盤育成コース」が準備されているのですね。
「知財評価研究会」「産学連携と技術移転研究会」「特許事務所のマーケティング戦略実線」「授業法」の4つのコースです。
なるほど、そのような切り口で知財コンサルが捉えられているということですね。
(12月12日一部修正)
コメント (2)
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