弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

年金はどうなっている?

2007-06-17 18:09:36 | 歴史・社会
年金記録漏れが5000万件あるのさらに1500万件以上あるの、といった問題が議論されています。何か年金問題はこの記録漏れだけが問題であるような報道のされ方です。

もちろんこれも大問題です。
そもそも、データベースが地方自治体から社保庁に移管するとき、入力を担当したバイトの入力ミスがあったこと、それを考慮せずに地方自治体のベースデータ廃棄を許可したことなど、ずいぶん前に話題になったように思います。最近になってはじめて明らかにされたような報道がおかしいです。

記録漏れ以外の議論すべき年金問題というと、まず、150兆円近くになる年金財源が年金官僚に食いつぶされている、という問題があります。グリーンピアが象徴的ですが、金額的にはこれなど氷山の一角のようです。

もうひとつ、少子高齢化で年金制度が崩壊することはずいぶん前から見え見えだったのに、年金制度崩壊を防止するための制度再構築を先送りし続けた問題があります。

現在の年金制度が将来崩壊するか否かを予測する上で、少子化が今後とも進行するのか否かで結論は大きく変わります。ずっと減少し続けている出生率が、来年から突如増加に転じるとの前提を採用したら、「現行年金制度は崩壊しない」という結論が出ても不思議ではありません。

下の図をご覧ください。出生率の推移実績と、年金制度検討に使われた将来予測とが同じ図の中に描かれています。

図中に、1976年予測から始まって、ほぼ5年ごとに「推計」と書かれたグラフがあります。これが、5年ごとの予測値です。例えば1992年予測では、1992年まで減少し続けた出生率が、突如として上昇に転じ、1920年には1.80まで回復する予測になっています。
そしてこの予測値を用いて、年金制度の健全性が推定されていたのです。

5年ごとの予測が、判で押したように「すぐに上昇に転じる」と予測し、いずれも見事に外れています。
日本の年金制度は、このようないい加減な人口動向予測値によって検証されてきました。とっくに少子高齢化を織り込んで将来の年金財源を確保すべき制度改正を行うべきであったのに、それをせずに問題を先送りし、崩壊の時期を早める結果となっているのです。

このような出生率予測がなぜまかり通っているのでしょうか。
予測は、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によってなされてきました。
2006年8月8日 読売新聞に経緯が記されています。
「社人研は、過去の出生率などを統計的に分析し、その傾向が基本的には今後も続くと見て将来を予測する。女性の高学歴化や経済成長率など将来の社会・経済の変動を、計算式に直接組み込んでいるわけではない。」
「社人研は7日の人口部会で、「公的な人口推計は客観性が重要。人口との関係が明らかでない社会経済要因の仮定は使うべきでない」として、推計方法の基本は変えない考えを強調した。」
「過去の大甘な出生率予測は、公的年金の財政に大きな悪影響を及ぼした。
 公的年金は現役世代の払う保険料が、その時の高齢者に年金として給付される。少子化で将来の現役世代が減れば、給付削減や保険料の引き上げが必要になる。
 だが、少子化傾向が鮮明になった1970年代後半以降も、楽観的な人口推計を前提に年金改革が行われたため、結果的に年金財政の本来の実力より多い給付、低い保険料という大盤振る舞いが続けられてきた。少子高齢化に対応した抜本改革が先送りされ、ツケが将来の世代に回された。
 ただ、これは社人研だけの責任ではない。出生率の正確な予測が技術的に難しい以上、政府・与党が推計を政策立案にどう使うかが、より重要な問題だからだ。
 政府・与党は04年の年金改革で、標準的会社員と専業主婦の「モデル世帯」が受け取る給付水準について、将来も現役世代の平均手取り賃金の50%以上を確保すると国民に公約した。
 だが、仮に05年の出生率1・25が将来も続いた場合、給付水準は48%程度まで下がると試算されている。出生率が下振れする可能性を十分に考慮せず、安易な約束をしたことが、かえって年金不信を招いた面がある。」

年金問題を総合的に論じた報道を渇望しています。
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