山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

庄川の鮭

2007-12-06 07:21:47 | くるま旅くらしの話

私の育った茨城県北部の常陸大宮という所には、那珂川と久慈川という二つの鮎の名所を持つ川が流れている。那珂川は家から6kmくらい、久慈川は4kmくらいの距離にあった。子供の頃は、鮎釣りの季節になると、専ら久慈川の方へ遊びに出かけた。鮎釣りといえば、今頃は友釣りが殆どのようだが、往時の我々ガキ共の釣りといえば、テグスなどは使わず、母の裁縫箱から持ち出した木綿糸の先に小鉤針をつけて、川床の石をひっくり返して見つけた川虫を付け、川の中に入って流れに沿って篠竹の先に付けたその糸を前後するだけだった。それだけの作業で2時間も遊べば、20匹ぐらいの鮎を釣ることができたのである。今頃は、さてどうなっているのか良く解らないけど、もはやそのような子供たちは消え去ってしまったのであろう。

ところで今日は鮎ではなく鮭の話である。同じ川での魚なので、つい懐かしく子供の頃のことを思い出してしまった。那珂川や久慈川にも、間違ってなのか惚けてなのか、時々鮭が遡上することがあるようだが、子供の頃にはそのような話は聞いたことがなく、思い出すのは鮎釣りのことばかりだった。

先日、わが国での名車、B.C.バーノンの生みの親の戸川さんのお招きで、TAS(Trail  Adventure  Spirit)というオートキャンプクラブの「鮭狩醍醐味キャンプ『庄川の巻』」というのに参加させて頂いた。TASのメンバーは、勿論こよなく名車B.C.バーノンを愛する方々が多いので、国産キャブコンの我が車は、大きな車に囲まれた中で、少しばかり緊張したのであった。TASは車も大きいけど、スケールの大きな発想のもとにツーリングキャンプを楽しんでいるクラブである。単に国内での活動だけではなく、国際交流を目指し、既に何回かカナダや韓国でのツーリングキャンプの実績をお持ちである。又来年7月下旬から8月上旬にかけては、韓国で開催されるFICCの世界大会に参加し、その後百済文化の後を訪ねるツーリングが計画されているとのことである。私はそのようなことに極めて疎(うと)い人間なので、戸川さんが語られるその熱き夢を伺って、大変感激、感動したのだった。

さてそのTASでは、鮭狩りシリーズというイベントキャンプを行っておられ、今年はその3回目で、場所は河口近き高岡市の庄川河川敷ということだった。偶々そこで「庄川鮭まつり」というのが開かれており、戸川さんが、その祭り会場脇の河川敷でのキャンプ開催を折衝されて、漁協の方からも大変好意的なご了解を頂き、お借りできることとなったというお話だった。戸川さんと会って話をされた方は、どなたでもその魅力にたちまちとりこにされてしまうに違いないと思う。直ぐ脇を庄川が流れるなかなか野生的な場所だった。

ところで、狩りといえば、猪や鹿などの話は良く聞くけれど、鮭というのはあまり聞いたことがない。鮎ならば狩りと呼ぶには無理があるが、確かに鮭となると巨大魚の部類に入れてもいいような気がするので、狩りという方が相応しいのかもしれない。面白いイベントだなと思った。

鮭と庄川がどのように係わるのかについては、殆ど何も知らなかったが、庄川という川については、何となく親近感を覚えていたのだった。富山市付近には神通川、常願寺川それに庄川という3つの大きな川が流れているが、その中で庄川に一番愛着を覚えるのは、この川が太平洋に注ぐ長良川と水源を同じくしていると言われるからである。分水嶺という言葉があるが、まさにその分水嶺の範を示す場所が、岐阜県高鷲村(今は郡上市)の、ひるがの高原という所に在る。何年か前の旅で、R156を走っている時に立ち寄った場所だった。この場所から流れ出る水が、一つは太平洋伊勢湾に注ぐ大きな川となり、もう一方は日本海富山湾に注ぐ大きな川となるというのは、何だか単なる偶然ではないような気がして、不思議な思いに駆られたのだった。庄川には御母衣(みほろ)ダムの建設に係わる庄川桜の話もあり、その辺りを通る度に、ずいぶんと人間が弄(いじ)り回した川なのだなと少し気の毒な感じがしたのだった。

その庄川に鮭が遡上しており、鮭まつりまで開催されているというのは初めて聞く話であり、驚きだった。このように書くと地元の方には大変失礼なことになるのかも知れないが、無知というのは致し方ない。お許しあれ。当日漁協の方から伺ったお話では、日本海側では庄川が鮭遡上の南限なのだそうだ。日本海側では村上市の三面(みおもて)川が有名だが、お話では今はここ庄川の方が水揚げ量が多いのだという。富山の魚としてはなんと言ってもブリがあり、地元の方たちには鮭はあまり人気がなく、関心を引かないらしい。それゆえ、ここから東北などの各地に運ばれる鮭もあるらしい。富山湾エリアの人たちは、魚に関しては恵まれすぎた環境にあるなあと改めて思った。魚好きの私には何とも羨ましい話である。

鮭まつり会場の直ぐ傍には、50m以上もあると思われる川幅全体に掛かる特製の簗が仕掛けられており、捕獲かごの中に続々と鮭が入って来ていた。北海道の千歳市で、千歳川に設けられたインデアン水車という鮭の捕獲装置を見たことがあるが、ここ庄川の簗の装置も凄いものだなと思った。漁協の方のお話では、特許をもつ装置なのだそうで、海外へ輸出もされているとか。鮭たちにとっては、さて、どのような感慨があるものなのであろうか。

鮭という魚には、何だか可哀相な感じを抱いてしまう。食べている時には美味いだけで何とも思わないのだが、4年もかかって北海を泳ぎ回り成長し、やっとの思いで母川に戻って、それこそ命がけで次世代につなぐ仕事を終えた後の、よれよれになって泳ぐ姿や、ついに力尽きて川底に身を横たえている姿を見ると、彼らの生き方の凄まじさを思い、何だか気の毒になってしまうのだ。人間というのは、真に始末におえない、いい加減な生き物である。

そのいい加減さを存分に発揮して、我が相棒は、鮭汁を堪能し(これは自分もだが)、イクラご飯に超満足し(これは自分には禁止されている食べ物)、その後は漁場近くに設けられた特設プールの中で鮭の掴み捕りというのに挑戦していた。そこで捕獲した鮭は切り身の塩漬けとなって我が家の冷蔵庫に収まり、今でも時々それを戻して塩分を取り、我が胃袋に収まっている。

旅は、楽しみの中にいろいろと改めて考えさせられる思い出も作ってくれるものの様である。

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