第30日 <8月8日(日)>
【行 程】
北西の丘展望台公園駐車場(泊) → 道の駅:ライスランドふかがわ → 美唄市内スーパー → 道の駅:三笠 → 道の駅:マオイの丘公園(泊) <168km>
丘の町美瑛の、その丘の上で一夜を過ごすというのは、随分と続いている北海道行の中で初めての経験だった。丘の上というのは、確かに景観は良いのだが、天候の状態によっては、必ずしも安全とはいえない場所である。人家からは遠い所が多く、風など吹いた場合は、もろにその圧力に抗しなければならない。邦子どのは特に風が苦手で、ヒューという音に弱いのだが、今回は風は吹かないと信じたのか、むしろ積極的に北西の丘に泊って見たいというムードだった。夕方から少し風が吹いていたが、それは音を立てるというほどではなく、むしろ蒸し暑さを払いのける心地良さを覚えるものだった。
昨夜の18時を過ぎ、食事を終えた頃はどうやらここに泊るのは我々の車1台だけとなったようだった。とにかく涼しい内に早く眠ってしまおうという思いもあって、外の様子など碌に見もせず寝床に入ったのだったが、夜半に入って、雨が降り出し、それはやがて相当ひどい大雨となったのだった。起き出した邦子どのの話によれば、昨夜のTVで明日行く予定の南空知エリアの栗山町やその近くの夕張市などには、注意報や警報が出るほどの状況だったとのこと。その余波がここにまで及んだのかも知れないなと思った。天井を叩く雨の音はショパンの音楽のレベルを通り越して、邪悪な安眠妨害をし続けたのだったが、いつの間にか眠ってしまったようで、目覚めた明け方には辺りは静かになっていた。
5時過ぎ外に出てみると、降り止んだ雨空の下の丘のあちらこちらから霧が湧き出て、景色の半分を隠していた。昼間は何台もの観光バスが往来して混み合う駐車場には一台の車も無く、全くの無人だった。記念に何枚かの写真を撮る。
美瑛町北西の丘展望台公園の朝。広い駐車場には我がSUN号1台しか居なかった。眼下の畑などは霧の中だった。左側奥の方の白いのは霧。
観光地の中でも基地の一つとなる場所に、このような形で朝を迎えることが出来るのも、くるま旅ならではのことである。最近は上ったことの無い展望台に上がってみた。生憎と展望は半分ほどしか利かないけど、それでも都会では味わえない大きな景色が眼下に広がっていた。展望台の下の方に記念碑があり、その裏に刻まれた分を読むと、美瑛という町の名は、その昔の美田、北瑛、大村という3つの集落の連携協議の中から生まれてきたらしい。飛翔と大きく刻まれた文字には、この地に生きた先人の思いが逞しく籠められているのを感じた。
展望台とその下にある「飛翔」と刻まれた記念碑。展望台はこの飛翔ということばに相応しいイメージの建築物だなと思った。
ここに泊って、このような散策をしなければ、気づかないに違いない。すぐ傍には社のない「地神宮」と刻まれた石があり、どうやらそれはこの地の守り神として祀られたらしい。観光地として脚光を浴びる前の、先人のご苦労に思いを馳せたのだった。
展望台の下の方の隅に3個の石が置かれていたが、真ん中のやや大きめな石には「地神宮」と刻まれていた。鳥居も幟もないけど、これはこの地にすむ人々の守り神なのだろうと思った。混雑の時間帯では、誰も気づかずに見過ごされているのではないかと思った。
9時ごろになるとボツボツとやって来る車が増え出し、なんだか居心地が悪くなり出したので、出発することにして準備に取り掛かる。今日の予定はただの移動日である。明日札幌近くの栗山町という所にある車の工場で、SUN号のシャーシ下部の塗装をしてもらうよう予約がしてあり、少し早い時刻から取り掛かって貰うために、最寄の長沼町の道の駅に泊ることにしている。SUN号には、これから未だかなりの年数働いて貰わなければならないので、その基幹部分については、しっかりとメンテをして、機嫌をよくして貰っておく必要がある。このようなことは全て旅で知り合えた知人のお力によるものであり、今回の工場もご紹介頂いたのだった。
というわけで、今日は旭川まで出て道央道を利用して岩見沢まで行き、そこからはR234で長沼町に向うことにしようと思っていた。しかし、あまり早く行っても仕方がないので、旭川で少し道草をしようかななどと考えていたのだった。でもその後高速道で行くことにすれば途中の楽しみを皆無にしてしまうことになる。というのも、岩見沢までの間には下のR12を行けば深川の道の駅には美味しいいおにぎりがあり、美唄市には焼きそばもある。それに三笠の道の駅には、昨年知人から聞いた8列の昔トウキビが売っているかも知れない。それらのことを思い浮かべながら邦子どのに考えを訊くと、やっぱり深川のおにぎりが食べたいという。それならば高速は止めようと、走りながらたちまち変更して一般道を行くことにする。
10時半過ぎ深川の道の駅に着く。今日もかなりの混雑ぶりだ。ここが賑わうのは、何といっても米を核とした販売商品の魅力にあるのだと思う。おにぎりもその一つだけど、お弁当も人気があり、更には2階のレストランでのメニューにも人気があって、いつも超満員の状況だ。米は日本人の食生活の核となるものだけど、普段はあまり気にかけられていない。消費者は意外と気まぐれで、一度何かのきっかけで評判となり、人気が出たものに安易に飛びつく傾向がある。深川米も今はその状況なのかもしれない。道の駅が混みすぎて、駐車に困るのは避けたいけど、米が人気を博するのにはエールを送りたい。
米のことだけど、我が守谷市の住まい近くのスーパーにて、最近埼玉県産の米の販売の特別コーナーが設けられた。埼玉県の生産者の人たちが写真を掲げ、作っている米の品種や特徴を述べた表示をして、毎日ハッピを来た農家の若者などがやって来て盛んに米の美味さなどをアピールしていた。その様な姿を見るとつい応援したくなり、玄米を買って精米をお願いしている時に、この深川の道の駅のことを伝えようとおにぎりのことを話しかけたのだったが、話の途中で、自分たちも各地に出向いての宣伝活動の中でおにぎりを作って試食して貰っていると、賢しげに言うのである。深川の場合は、無料ではなく本格的な有料のおにぎりなのだと言うと、その様なことをするのには手間暇が掛って無理なのだという。こりゃあダメだなと思った。塩をまぶし、小さく握ったおにぎりをタダで配って、米の美味さを味わってもらうというやり方しかこの若者の頭には入っていないらしい。おにぎりの本当の美味さ、即ち米の美味さの真骨頂は、大きく握ったのを海苔で巻いた奴にあるのだ。大きく握れば握るほど評判も大きくなり、米の価値が消費者に伝わるのに、この埼玉米の関係者は別の角度から品揃えを行い宣伝活動を行なっている。守谷のスーパーでは未だ一度もそのおにぎりという奴を見たことも無い。開店時は少し寄る客もあったようだが、見ているとその後ずっと閑古鳥が大声で鳴いている状況が続いている。深川の道の駅に寄って、邦子どのが行列に加わっておにぎりを買うのを見るたび、守谷の埼玉米販売のことを思い出す。
深川を出た後は、滝川を経由し日本一長い直線道路を美唄市に向う。この長さは29km超とか。車線を変更しない限り真っ直ぐだ。それを味わうべく、ゆっくりと左車線を走り続けた。美唄では別のスーパーに行ってみたが目当ての焼きそばは置いてなかった。以前の店に行き、3袋をゲット。この素朴な味はやはり捨てがたい。今日の昼食用である。
再び走り続けて、間もなく三笠の道の駅へ。ここしばらくこの道の駅に寄ったことが無かった。かなり変わっていて、整備されていた。直ぐそばに古代の湯という温泉入浴施設が出来ており、これが大きな集客力を発揮しているようだ。この道の駅には、昨年旅の知人が八列の昔トウキビを見つけたと興奮顔で話していた、その店があるのでそれを覗こうと寄った次第。自分も昔トウキビのファンなのである。今のトウキビは甘いばかりで、味の深さが無いのが気にいらないのだ。昨年は壮瞥の道の駅で手に入れることが出来て満足したのだが、今年はできるならばここでも手に入れたい。早速及川商店という野菜売りの店を覗いたのだったが、残念ながら店にあったのは別のものだった。諦めて車に戻る間に、邦子どのが店の人にいろいろ訊ねて知ったところでは、今年は天気の影響で、10日を過ぎないと収穫できないとのこと。偶々生産者の方がおられたようで、あれこれと情報を仕入れてきていて、なんとその方の名前や住所までメモして来たのには驚かされた。これから10日間も待つわけにも行かず、今年は諦めて先に行くことにした。
岩見沢からR234に入りしばらく走ると、栗山町に入った直後の道路脇に、ワンボックスの車が鉄の小電柱をへし折って藪の中に突っ込んでいた。事故らしい。警察も未だ来ていないらしく、野次馬の人たちが何人か集まっていた。救護活動や通報は既に行なわれているのだろうと思い、そのまま通過した。事故を目撃するのは、この旅では初めてのことである。大した怪我でなければ良いがと願うと同時に、改めて安全運転を自戒する。
栗山町に入り、ついでなので明日迷わぬようにとお願いする工場の場所を確認に立ち寄る。道沿いと聞いていたので、そのまま夕張市に向う道道を行くと直に判った。これで明日は大丈夫、道に迷うことはない。ここから道の駅:マオイの丘公園まで、どれくらいの距離と時間かを計りながら向う。約22km、時間は25分弱だった。
マオイの丘公園の道の駅は、日曜日とあってか大変な混雑振りだった。くるま旅などではなく、札幌市内を初め近郊からの野菜目当ての買い物客が殆どのようだ。いつものことながら、この道の駅の人気振りを確認したのだった。静かになったのは、野菜売り場の店が閉店してしばらく後の18時近くなってからだった。
その後、札幌在住のSさんからお電話を頂戴し、これからここまで訪ねて来られるとのこと。びっくりした。今日の日中、邦子どのが三笠の道の駅に寄った時、昨年八列のトウキビの話題を提供してくれた知人たちのことを思い出し、その後の消息を一番よくご存知の方にと電話をしたのが、却ってご迷惑をお掛けしたのかも知れない。でもゆっくりとお話できることはありがたく、嬉しい。1時間も経たないうちに、ご夫妻が到着される。茹でトウキビやメロンそれに冷えたビールまで持参頂いて恐縮する。
いやあ、その後は時の過ぎるのも忘れて、様々な話題に楽しい歓談が続いた。Sさんは今春九州方面への大きな旅をされており、その時の話題が特に印象に残った。我々も旅の経験からある程度の土地鑑があるので、話は実によく通じるのである。旅の知人との話は、何の利害得失もなく、すっとお互いの心の中に喜びとして入ってきてくれるのが醍醐味である。知らない土地の話にも興味があり、又、知っている場所の話にも興味があるのだ。誰が何したなどという世間話をはるかに超えて、旅の話は心に響き合うものなのである。Sさんご夫妻との会話からは、邦子どのもたくさんの元気を頂戴したことだと思う。Sさんご夫妻、本当にありがとうございました。
夜は昨日とは違って少し涼しさが戻ったようだが、外を見ると空に星たちが輝いていて、若しかしたら明日は又大暑の天気となるのではないかと、チョッピリ心配になった。