山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

ジャンプ、ジャンプサクラマス

2009-09-13 00:20:02 | くるま旅くらしの話

その情報は、旅の途中で、何度か魅力的に耳に入りました。魚の滝登りの話です。滝を登る魚といえば、何と言っても古来より鯉が有名ですが、実際のところ鯉が滝登りをしているのを見たことが無く、本当にそんなことをするのか疑問は消えません。また、滝とは言えなくても、鮎が急流の堰などを果敢にジャンプして遡上を果たすというのは、TVなどで見たことがありますから、鯉君たちも条件が揃えば数メートルの滝でも踊り上がって登ってしまうパワーを秘めているのかも知れません。

今日のその滝登りの主役はサクラマスです。サクラマスは物の本によりますと、ヤマメの親戚であり、元々は同じ魚だったようです。サクラマスのように河川で生まれて海に下って生長し遡上して卵を産むという暮らしぶりをするのを降海型といい、海に下らずそのまま河川の中で一生を過すものを残留型(もしくは陸封型)というのだそうで、もともと同じ種類の魚だったということです。一般に海で暮らす方が大型で、河川のものは小型なのだそうです。サクラマスは最大70cmにもなるとのことですから、ヤマメと同じとはとても思えません。

さてそのサクラマスの滝登りの話を初めて聞いたのは、北海道へ入ってあまり時間も経っていない7月半ば過ぎでした。一足早く渡道されていた神戸在住のMさんからメールを頂いた中に、「今日サクラマスの滝登りを見物し、写真もしっかり撮って感激した」というような内容がありました。斜里町のどこかの川での出来事だったようでした。鮭の遡上は知っていますが、ハテ、サクラマスというのはどんな魚だったっけ?とそのときは魚のイメージが今一ピンと来ませんでした。カラフト鱒なら知っていますが、ま、似たようなものだろうと思いました。メールからはとても感動的な様子が伝わってきて、自分たちもチャンスがあれば見てみたいものだと思ったのでした。

しかしそれからしばらくの間は、もうそのようなことはすっかり忘れてしまっていて、別の世界で毎日を過していたのですが、弟子屈町の道の駅:摩周温泉近くにある水郷公園に泊まった時、沼津からお出でのWさんにお声を掛けて頂き、なんと私のブログを毎日読んで頂き、拙著もお買い上げ頂いていると聞いて、驚き感激したのですが、そのWさんもサクラマスをご覧になったと話されていました。それで、先のMさんの話を思い出し、これはどうしても行って見なければなるまいと思ったのでした。Wさんのお話では、例年だともう遡上は終っている時期なのだけど、今年は遅れているようで、未だ見られるかもしれないということでした。大体の場所を教えて頂き、地図でチエックをしておきました。ナビなし主義なので、手元の地図が頼りなのですが、新しいと思っていた地図も気がつけばもう買ってから7年が経過しており、細かい情報は話を聞いて見当をつけて行くしかありません。ま、何とかなるだろうと、迷いを覚悟の楽観的境地です。見つからなければ、諦めるだけです。

3日ぐらい後、札弦(さっつる)の道の駅に泊まろうかと、川湯温泉(弟子屈町川湯温泉)を出た後、R391から道道に入って少し走った所に「緑の湯」という温泉の案内板があったので、その方向へ行けば桜の滝という、その遡上が見られる場所が判るかも知れないと右折のハンドルを切ったのでした。このカンはぴったり的中し、しばらく行くと滝の案内板がありました。あとはそれに従って行くだけです。途中から舗装がなくなり、砂利道の埃の中を走り終えると、滝の入口に着きました。

その日は久しぶりに日差しが強く夏らしさが戻った感じで、こうなると木陰が欲しくなるのですが、車を停めた後に川を囲む木陰の中を少し歩くと、目当ての滝がありました。滝といっても高さが3メートル足らずで、川幅は20メートルも無いといった程度でしょうか。両岸にはミズナラなどの木立とブッシュが覆っており、滝からのしぶきが清涼感を増してくれます。この川は何という名前なのか、多分札弦川ではないかと思います。地図によれば近くにもう一本斜里川というのが流れており、少し下で合流するようですから、そのどちらかなのだと思います。どうも自信がありません。

さてその滝ですが、川幅20メートルほどの流れが、突然落差3メートルほどの崖になっていて、そこを水が一挙に落下するというものであり、少し高い天然の堰のような感じです。水量が多いので、これをジャンプして上流に跳ね上がって進むというのは、魚君たちにとっては至難の業のように思えました。どんな具合なのかとしばらく目を凝らしてみていましたら、いるいる、滝の白い水しぶきの下にかなり大きい奴が群れて動いていました。しばらく見ていると、断続的にですが、果敢に挑戦しているのが見えました。ヤッあそこにも、ホレここにも!と、やがて見るのに慣れてくると、あちらこちらで、大きな魚がジャンプするのが目に入ってきました。いやあ、大変なものだなと感心しきりです。

     

真ん中の黒い魚影が果敢にジャンプするサクラマス。川の水量が多く、白濁して砕け散る飛沫を乗り越えて上まで届くのは至難の業ではある。

どのようなタイミングでジャンプするのかわかりませんが、1匹だったり、2匹だったり、時には団体でジャンプしたり、どう考えても無理だと思われる高さでも、懸命にジャンプして上流へ向おうとするその意思の強さには、何でも直ぐに諦めてしまうような人間は多いに学ぶべきではないかなどと思いながらの観察でした。何とかその果敢な姿をカメラに収めようとしましたが、買ったばかりのデジカメの使い方が良く解らず、普通の使い方では、ジャンプを見てからシャッターを切ったのでは時既に遅くて、結局自分のカメラでは1枚も魚影を捉まえることは出来ませんでした。家内のカメラの方が遙かに性能が良いので、此処に掲載した画像は全て彼女が撮ったものです。

   

2匹が縦列でジャンプしているところ。左方の黒いのがその魚影。一度に複数のサクラマスのジャンプを捉えるのはこの時期では難しいようである

ジャンプするのを良く見ていると、最初から無理なのを承知の上で気力なく跳んでいる奴や滝の流れの遙か手前でジャンプの練習をしているとしか思えないような跳び方をしている奴など、結構個性があって面白く、見ていて飽きないものでした。30分以上観察しましたが、上流まで上れたのは皆無のように思いました。一体どれほどのサクラマスがジャンプを成功させて上に行くことができているのか疑問です。ジャンプをしている奴の背中でもう一度ジャンプでもしないと上には行けないのではないかと思います。この滝は彼らにとっては地獄の閻魔様のような存在なのかも知れません。いろいろなことを考えさせられました。

その昔上流へ行くのを諦めたのか、或いは下流へ下るのを嫌った奴が残留型となってヤマメになったのか判りませんが、自分の思うところでは、ヤマメの方が賢いのかなと思ったりしました。身体は小さくてもわざわざ海まで下って、メタボになって又戻ってきて、こんな所で不要なジャンプなどしなくても良いのではないかというのがその理由です。これは如何にも功利的な人間流の考えなのかも知れません。広い海での暮らしの楽しさを知ったら、どうしたってそれを優先するしかないよ、というのがサクラマス君たちの述懐なのかもしれません。本当のところは、神のみぞ知るということでありましょう。サクラマス君たちのジャンプが一つでも多く成功することを願って、滝を後にしたのでした。

コメント
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