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消費者契約法に基づき無効となった原状回復に関する合意

2008年05月20日 | 最高裁と判例集
東京簡裁判決 平成17年11月29日
(ホームページ下級裁主要判決情報)

《要旨》
 貸室明け渡しの際、自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担する旨の合意は、消費者契約法10条に該当し無効とした事例


(1) 事案の概要
 Xは、平成8年3月、A株式会社との間で、マンション一室(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約を締結、平成14年3月に最終の更新となる賃貸借契約を締結し、期間満了後の平成16年3月に法定更新した。その後、Yが、平成16年7月に本件建物の所有権を取得し、貸主の地位をA株式会社から承継した。Xは、平成16年9月23日に賃貸借を終了したため、Yに対して預け入れた敷金13万円余の支払を求めた。
 上記請求に対しYは、XとA株式会社間の平成14年3月の更新契約において、Xが本件建物内の汚損や破損による損害を賠償する義務を負うことが約され、また、XY間には、平成16年9月22日に原状回復に関する費用負担の合意があることから、これら合意に基づいてXが負担することになった原状回復費用18万円余を敷金から控除すると、Xに返還すべき敷金はなく、更に、XのYに対する敷金を控除した原状回復費用残額が4万円余あるとしてその支払を求める反訴を請求した。

(2) 判決の要旨
 ①貸主において使用の対価である賃料を受領しながら、賃貸期間中の自然損耗等の原状回復費用を借主に負担させることは、借主に二重の負担を強いることになり、貸主に不当な利得を生じさせる一方、借主には不利益であり、信義則に反する。借主に必要な情報が与えられず、自己に不利益であることが認識できないままされた合意は、借主に一方的に不利益であり、この意味でも信義則に反するといえる。そうすると、自然損耗等についての原状回復義務を借主が負担するとの合意は、民法の任意規定の適用による場合に比べ、借主の義務を加重し、信義則に反して借主の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である。
 ②Yの供述及び合意書から、XがYとの間で費用負担の合意をしたと認めることはできず、他に合意をしたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、Xの負担すべき原状回復費用を認めることができないから、Yの抗弁事実及び反訴請求原因事実は認めることはできず、Xの本訴請求は理由がある。


(3)まとめ
 本判決は、賃貸借契約書に自然損耗等に係る原状回復義務を借主が負担すると定められていても、借主に必要な情報が与えられず、自己に不利益であることが認識できないままされた合意は、消費者契約法第10条に該当し無効であると判断したものである。実務上も参考にすべき事例である。(不動産適正取引機構)

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