花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

山奥ニート

2021-02-13 14:57:06 | Book
 小説「赤頭巾ちゃん気をつけて」(庄司薫著・中公文庫)の中に、「逃げて逃げて逃げまくる方法」というのが出てきます。何か問題にぶち当たったら、先ず逃げる、ひたすら逃げる。大した問題でなければ、無事逃げ切れるが・・・。つまり逃げることに要する力と問題の大きさは比例し、どのような問題に捕まるかでその人の力が明らかになる。だから逃げて逃げて逃げまくれ、そんなことを言っています。

 じゃぁ、力のない人間はいろんな問題にすぐ捕まってしまうのかと言えば、必ずしもそうではないようです。和歌山県の山奥(一番近い信号機まで車で1時間)で共同生活、いや住むところをシェアして暮らしているニートたちを描いた『「山奥ニート」やってます。』(石井あらた著・光文社刊)に出てくるのは、働くのが嫌で都会から「逃げて」集まってきた人々です。

 廃校となった小学校にタダで住み、食費や水道光熱費、その他もろもろで月1万8000円。自称「浪人・留年・中退の親不孝三重奏でひきこもり」の著者いわく、「集まったのは、なるべく働かないための生活の知恵。もし、ここより生活費が安い場所が見つかったら、多くの人は出ていくだろう。山奥ニートの仲間意識は紙のように薄い。」その著者自身、気が向いた時だけのバイトで年収が約30万円、それでやっていけるのだそうですから、言ってることもうなずけます。

 ある時、ソーラー発電の事業を手伝わないかと誘われ、「週1でいいなら」と答えて、相手が唖然としてしまったエピソードの紹介のあと、著者の石井さんはこんなことも述べています。「この資本主義じゃ、みんな生活を人質に取られて、手足を縛られてる。でも、ニートは違う。札束で顔をひっぱたかれても、働きたくないと言える。それはある意味、総理大臣より強い。」

「生活を人質に取られて」、毎日、「はたらけど、はたらけど猶」の啄木的生活を送っている身からすると、「生活」という大きな大きな問題を逃げると言うより上手くかわしているニートの姿は、どことなくしたたかさを感じます。「こんな生き方もあるんだ」と思えるだけで、ちょっと痛快でもあります。