新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

葉室麟『霖雨』

2021年10月04日 | 本・新聞小説
以前から気にかかっていた広瀬淡窓ですが、イメージするだけで堅そうな漢文の世界です。(-_-;)。
そんなところに『霖雨』を見つけました。葉室燐作品なら読み易そう。


《カバーは川合玉堂の「松竹梅」の一部。タイトルと絵がぴったりです》

舞台は大分県の天領日田。廣瀬淡窓が主宰する咸宜園は年齢・学歴・身分を問わない(三奪)で個人の能力を生かすという画期的なもので全国から入門者が集まりました。

元塾生が関係した大塩平八郎の乱を描き、平八郎の動と淡窓の静の考え方を対比させていることで、私の理解が深まりました。
学んだことを暴力に訴えてでも実行する平八郎。性急に人を傷つけるのはどんな大義名分でも許されない、人を生かそうとする道でしか世の中は変えられぬとする淡窓。淡窓は「人の心を動かすのは、つまるところ人をいかしたいとの想い」で人材育成を明確にしていきます。

咸宜園に容赦なく介入してくる大官の軋轢に苦しみますが、弟・九兵衞の惜しみない援助に助けられます。
九兵衛は大名貸しや地元の公共事業を手掛け、我欲を捨てた思慮深い商人です。二人はそれぞれの業を生かしながら支え合います。
淡窓と九兵衞の二人主人公と言ってもいいほど、それぞれの道をぶれなく生きていく様には清涼感があり心を洗われます。ここが葉室さんの手腕でしょうか。
史実を元にした話ですが、入門者にいわくつきの義理の姉弟が登場してやきもきしますが、それにも誠実に誠意を持って対応する淡窓と九兵衞の姿勢に心落ち着きます。

「霖雨」とはしとしと降り続く雨のこと。しかし「止まない雨はない」。
目次の設定も、ストーリーに合わせて「底霧」「雨、蕭々」「銀の雨」「小夜時雨」「春驟雨」「降りしきる」「朝霧」「恵み雨」「雨、上がる」「天が泣く」と実に見事でした。

地図で見れば日田はすぐ近く。しかし咸宜園にはまだ行っていません。淡窓の名前が出る度に、同じ九州人として誇らしく思っていましたが、詳しいことは知りませんでした。葉室さんの本のお陰でやっと少し知ることができました。






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