新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

辻 邦生 『 西行花伝 』

2012年05月27日 | 本・新聞小説

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 『 願はくば 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃 (西行) 』と詠んだ西行は、まさに旧暦2月の満月の白く光る夜、花盛りの桜のもとで73年の生涯を終えました。その西行を偲んだ歌が藤原俊成の『 願ひおしきし 花のしたにて をはりけり 蓮(はちす)の上も たがはざるらん 』、そして末尾の一句が桜を愛した西行の『 仏には 桜の花を たてまつれ わが後の世を 人とぶらはば 』で閉められています。

 700ページにわたる『西行花伝』の最終章の終わり方が見事でした。送迎バスを待ちながら霊園の休憩所で読み終えた時、余韻に浸りながらガラス窓に目をやると燃え立つ若葉が生命を謳歌していました。泉水の静かな流れと音が演出でもしたかのような最終章にふさわしい終わり方でした。

 NHK「平清盛」では、容姿端麗だったという西行役を藤木直人が演じています。先に「顔写真」が決定してしまい、本を読む際にも最初から強引に「藤木西行」が出てきてきたことは、幸なのか不幸なのかはわかりませんが。

 朝廷、公家の紛らわしい姓名、摂関家、台頭してきた武家、位階など複雑この上ないので、人物相関図をメモし、ページをシールでマークしながら読み進みました。

本著は、西行(佐藤義清)の幼いころから73歳の晩年までを、弟子の藤原秋実が聞き語りの形式でまとめ、西行の人間像を浮かび上がらせて行くという手法を取っています。西行に関係のあった人たちとの交流から生まれているものだけに、見る角度がたくさんあってストーリーの運び方が丁寧でした。

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 義清(西行)は紀ノ国田仲荘で領主の子として裕福に育ちます。しかし律令制の国衙と相容れない荘園制度に、私領は矛盾を抱えてトラブルが多くなっていくのを目にしながら成長します。

 8歳で父を失いますが、田仲荘を徳大寺家の本所(名目上の領土保持者)にしたことから京に出て出仕。亡くなった母が義清が宮廷内できちんとした職を得るための支度として絹2000匹を用意していました。そのおかげで18歳で兵衛尉につき、弓馬や蹴鞠の鮮やかな技量で認められ、北面詰所で鳥羽院の近臣になるという輝かしい昇進をし、公家の歌の集いにも顔を出しそこで歌の道を磨いていきます。

 ある日余興の流鏑馬の鮮やかさから待賢門院(鳥羽院中宮)から特別の褒賞を受けたことが、その後の西行と待賢門院との相愛と苦悩、歌の精進へとつながっていきます。

 西行は待賢門院を才女というよりは「凡庸で薄紅色の靄のようなものが立ち込めた、たまらなくいとおしくかわいい人」とみています。一夜限りの愛を交わした西行は月にも花にも女院の姿を感じ、女院へのもどかしい思いを幾つもの歌にし秘められた恋に苦しみます。

 西行と友人の清盛が論争する場面があります。ここに清盛ばかりでなく父の忠盛もどうしても手に入れたい「公家ブランド」の獲得への強い執念が見られます。「この世で事を成すには二つの力」が必要で「武力と権能」。権能は見えない働きで、畏怖させる力、例えば摂関家のような家柄、門閥、身分、位階・・・。武力をもっている平家が、もう一つの権能を手に入れてここそ世の中を変えていけるという考えです。

 そのころ最大の理解者で従弟の佐藤憲康の死に合い、世のはかなさに打ちのめされますが、浮世のすべての定かならぬものを超えて、それをしっかり支えるのは歌であることに気づきます。そしてこの世の森羅万象を愛するために、この世を美しく生きるために現世を捨て浮世から離れてこそ、その良さがみえてくる事に思い至り出家のことを考えるようになりました。現世にとどまると現世のしがらみにとらわれ、現世の良さが見えてこないというものでしょうか。然し出家しても心の迷いや弱さに苦しみました。『 身を捨つる 人はまことに 捨つるかは 捨てぬ人こそ 捨つるなりけれ(西行) 』

 保元の乱に関しては、かなり詳しく書いてあります。西行は待賢門院の子である崇徳上皇とは歌を通じて親しく交わっていました。策略により近衛帝に位を譲らされた崇徳上皇が歌の道で生きようとしていたところに、突然の近衛帝の死。それは崇徳上皇に、天皇家の正統なる継承者である子の重任親王に天皇の位を継がせたいという欲望をわかせました。が、思いもかけない後白河天皇が誕生したことが、朝廷と摂関家と武士を巻き込み、天皇派と上皇派に分かれて争う大きな渦となっていきます。西行は、崇徳院が左大臣・頼長らの策謀に巻き込まれないで歌で生きていって欲しいと奔走しますが、それもむなしく結局はあっという間に後白河帝方の勝利に終わりました。上皇方の頼長は流れ矢に当たり命を落とします。この時の処罰で采配をふるったのが、後白河帝を押して頭角を現してきた信西(藤原通憲)です。崇徳上皇を四国讃岐に配流し、近臣側近には拷問ののち死罪を言い渡して、冷酷な信西の存在と名を世に知らしめました。

 また信西(藤原通憲)が下した残忍な処罰で、義朝に父・為義と弟たちを斬らせ、清盛に叔父・忠正と従弟たちを斬らせ世の中をふるいあがらせました。それは台頭してくる武士の力を武士自身の手で減殺するという考えがあったようです。信西の妻が後白河帝の乳母でもあることから宮廷内で急速に力を延ばしていきますが、後になるとその目に余るやり方に後白河帝も反発を覚えるようになっていきます。

 一方、保元の乱を未然に防ぐために崇徳上皇を説得しようと奔走した西行でしたが、無残な結果に終わり深い哀しみの中に沈みます。そのことで心神喪失の状態になったところを高野山に連れて行かれ、日月をかけた荒行で回復していきます。真の意味の出家とは、「我という家を出、我執という家居を脱却」して森羅万象の良さに住みなし、心を同調させることだと思い至り、さらに強い意志を持ち京に戻ってきます。

 西行は50歳の時に崇徳院の配流された讃岐に旅します。京に出没する怨霊に心を痛め、崇徳院は不運を他人の所為にせず、一切の苦難をかき抱いて森羅万象の中に同調していってほしいと鎮魂の歌を捧げます。

 世の中は大きく変わり、源平の乱が始まり平家の都落ちがあります。諸国は武士の合戦で人馬が殺傷され、その荒廃に激しい憤りを感じて『 死出の山 越ゆる絶え間は あらじかし なくなる人の 数つづきつつ(西行) 』と詠んでいます。

 出家した西行は人知れず庵を結んで歌い続けたのではなく、現実の世の中にもしっかりと目を向けていました。重源に頼まれて東大寺大仏殿再建のための砂金調達に、再び老骨に鞭打って陸奥の藤原秀郷のもとに向かい役割を成し遂げます。それは自分の利や昇進を抜きにした世の中のためにというものでした。

 この旅の途中で偶然に源頼朝に出会います。頼朝の鋭いまなざしは勝利、成功しか見ない心なき心だが、心が生命である限り必ず森羅万象の持つ愛しさ、哀れの思いに戻ってくると、頼朝の人格の中に確信をします。

 西行は、この現世に「頼朝ほどの器量の人は他には見いだせない・・・頼朝は私が生涯に見ることができたもっともすぐれた人物の一人であった」と深く感じました。『 心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮(西行) 』の歌を、この場面に持ってきた辻氏の構成のうまさが表れています。

 この本は西行を中心に政治、朝廷、歌の世界、仏教思想、恋が書かれていますが、哲学的なところがよく把握、理解できないままでいます。しかし歴史小説とみると、その密度の濃さに引きづりこまれてしまいました。

 700ページの中から、西行の心の奥の葛藤というよりはエピソード的なものを抜き出しました。NHK「平清盛」と連動する部分です。今日5月27日の放映は『保元の乱』。先週の最後の場面に高野山から降りてきた西行の後ろ姿が見えました。今日は如何に・・・。

 分厚い本からはとても辻氏の思いを書ききることはできませんが、この本に巡り合えたことはラッキーでした。ブログ仲間の記事に見つけた『西行花伝』、きっかけを作ってくださったtocoさんに感謝しています。

解説の中に、辻氏の双璧をなすのがこの『西行花伝』と『背教者ユリアヌス』だとあります。さっそく注文して文庫本3冊が届きました。やっぱり長~い・・・。

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ひとりご飯

2012年05月25日 | 食・レシピ

夫が同期入社の集いがあるということで張り切って出かけました。だから今日と明日は自由なひとりご飯の日です。

夕方のウォーキングの後汗を流して、ゆっくり夕ご飯です。おやつ用の「食べるいりこ」でいりこ飯。後は冷蔵庫から残り物を取り出して並べただけ。ビールがあるので侘しくならずに済みます。ピクルスが肴。漬け汁にプリザーブドレモン液とすし酢とタカの爪を使い、大根、キュウリ、パプリカ、セロリを漬けています。生芋コンニャクは茅之舎の濃いダシにしています。

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冷蔵庫の中で「一線」を超えた牛乳と卵で作ったデザートです。このところ忙しくて外食が増えたり、惣菜を買ったりするとどうしても残るのです。「賞味期限」にこだわる子供たちがいた時は「危うい」食べ物であるかのように絶対に口にしませんでした。食糧難になり生き残るのは私だけかも・・・。

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プリンの上方に見えるのは、スパークリングワインの栓のキャップで作ったイスとテーブル。イタリアンレストランの棚に飾ってあったのを思い出して、確かこんな風だったと手すさびに作ってみました。平ペンチ1本あればできます。こんな遊びの発想が素敵ですね。

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いちご「スウィートマラソン」

2012年05月17日 | ガーデニング

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4月に植えた2株のいちごが色づきました。完熟を待って摘み取ろうと思いますが、花と違ってなかなか踏ん切りがつきません。

毎年、出来が悪いなりにもあの赤い実の形が魅力的で懲りずに植えてはみるものの、一斉に実が付かないのであまり実用的ではありません。そこで今回は奮発して、ベルギー産“スウィートマラソン”を植えてみました。この苗はウィルスフリーで病気に強く、四季成り性で、長期間収穫可能という素人にはとても有難い苗です。

植物はひとたびウィルス病に侵されると病気を取り除けないのだそうです。しかし生長点を培養するとウィルスに侵されていないウィルスフリー株ができるのだそうです。

Cimg8861_225~30センチポットに一株、5~11月が露地栽培の収穫期。装飾性はないけど、100円ショップのフラワースタンドを使用すればナメクジを寄せ付けません。我が家の鉢物は大体こんな風に「空中庭園」の体をなしています。

これがいいかどうかはわかりませんが、実が土に着くと腐り易いと思い土の表面に鉢底石を敷き詰めました。小学校の社会の教科書で習った静岡の「石垣イチゴ」をイメージしてこんな具合かな、と思って調べてみると・・・。

100年に亘る静岡のイチゴは、温室の無い明治時代に暖めるために石垣の間に植えたことに始まるのだそうです。私はてっきり乾きやすい石の方が実が腐らないからと勝手に思っていました。でも実を清潔に保つことはできると思います。


  ∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞  赤い花  ∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-

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パンジーの季節が終わると、なぜか赤い花ばかりが残っている感じです。

上段 左: ポピー、 右: うすべに(スファエラルケア )                           下段  左: チェリーセージ、 右: ホットリップス  

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タジン鍋レシピ

2012年05月15日 | 食・レシピ

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息子が休暇で帰ってきたときに、ちょうど人気沸騰中の磁器のタジン鍋で料理を出しました。その時に「ちょっと鍋が浅いね~。」と気にしてくれて、まだ日本では未発売のル・クルーゼのタジン鍋を送ってくれました。それまでに持っていたル・クルーゼ は赤かオレンジだったので、このコバルトブルーのグラデーションがとてもおしゃれに見えました。さすがフランス・・・とは偏見でしょうか。

たまたま日経日曜版に人気の鍋ランキングが出ていて、ル・クルーゼは2位でした。そのコメントに「シニアにはちょっと重すぎること」が欠点になっていました。このタジンは直径27センチ、高さ27センチ、重量3.4キロ。この重さにいつまで耐えられるか・・・?

  ∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞  チキンのタジン  ∞-*-∞-*-∞-*-∞∞-*-∞-*-∞-*-∞

NHK「きょうの料理」のHPを探したら、ル・クルーゼ鍋の料理かたくさん出ていて助かりました。NHKも今では商品名をそのまま出す様になっているのでびっくりしました。

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まずプリザーブドレモン」を作っておきます。ワックスのかかっていないレモン2個を1/4に切り、天然塩大さじ2をまぶします。熱湯250mlに塩大匙1/2を溶かし、冷ましてからレモンを完全に浸し冷蔵庫で保存。2週間後から使用可能。3か月保存可能です。モロッコではほとんどの料理にこれを使うようです。例えば、きゅうりとカニカマをマヨネーズで和える時に、小さじ1くらいの液を入れるだけでとても味が深まります。

①タジン鍋にオリーブオイル大さじ1を入れ中火で熱し、玉ねぎ1個の薄切りとニンニク2片みじん切りを焦げないように炒めます。

②8個に切り分けた鶏モモ500gをタジンに入れ、焼き目が付かないように中火より少し弱めで、表裏を均等に炒めます。

③ターメリック小さじ1、コリアンダー大匙1、チキンブイヨン190mlをタジンに入れ塩コショウで味を整え弱火で少し煮込みます。

④プリザードレモン1個分を軽く水洗いし、果肉を取り除いて皮の部分を細めの千切りにして鍋に入れます。

⑤蓋をしてごく弱火で2時間~2時間半ほど煮込むと水分がほとんどなくなります。

⑥食べる直前に大匙1のコリアンダーをかけて、鍋ごとテーブルに出します。

出来上がりは何の変哲もないチキン料理のようですが、レモンの香りがさわやかでやわらかで鶏肉の味が凝縮しています。煮込む時間は長いけど弱火だし、その料理の簡単さからしても、節電が叫ばれている昨今からしても真夏にいいメニューです。

  ∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞ 玉ねぎの丸ごとスープ ∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞

下ごしらえのいらないこれも節電料理です。

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①タジン鍋にオリーブオイル小さじ2を入れて中火で熱し、ベーコン100gとつぶしたニンニク1片を炒めます。

②そこに玉ねぎ6個 水500ml、コンソメ顆粒小さじ2、ローリエ1枚を加えて蓋をして中火で20分、玉ねぎをひっくり返してさらに20分煮ます。

③塩コショウで味を整えチリパウダー少々を適量ふりかけパセリを散らして、鍋ごとテーブルに出します。

新玉ねぎをスープでコトコト煮るのとはまた違って、形崩れがなくて軟らかくてうま味が凝縮しています。ニンニク、ベーコンで味の相乗効果が出て、それにチリパウダーが加わることでちょっと「よそ行き」の味に変身します。

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ラズベリーの収穫

2012年05月10日 | 食・レシピ

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 勝手口のそばに植えているラズベリー。この季節、新緑と赤が目に飛び込んでくると朝から嬉しくなってしまいます。

 子供の頃に読む本には、森の中で女の子がイチゴを摘む場面がよく出てきて、平野の真ん中で育った私には全く想像ができない遠い憧れの場面でした。

 が、このラズベリーは結構トゲがきつくて手や腕を傷つけます。それに摘んでみると、見た目ほど「見目麗しく」なくて、加工しないとちょっと・・・という具合です。だからヨーグルトのソースにしたり、今日はパンに入れてみました。

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 20年ほど前に買ったパン焼き器は食パンが丸型で音も大きく、子供たちの成長とともにパン焼き器も処分しました。しかし最近ブログ友の方のおいしそうなパンを見て、やっぱり又買ってしまいました。一番驚いたのは価格の安さ。それだけ家庭でのパン作りが普及したということでしょうか。焼けるときのいい匂いは部屋中に充満して、さらなる食欲増進材になるのが怖いくらいです。ただ、ジャムもバターも塗る必要がないくらいにおいしいのがいいところです。

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BSプレミアム『陽だまりの樹』 と 適塾

2012年05月08日 | 本・新聞小説

 NHK BSプレミアム,土曜(18:45~19:30)で放映中の「陽だまりの樹 」は、激動の幕末を背景にした医師と武士の二人の若者が主人公です。二人の若者の生き方を縦軸に、両者を絡ませながら当時の漢医と蘭医の対立、蘭学、幕末の思想、米国使節団、二人の恋を横軸にして軽快なタッチでストーリーを展開させていくドラマです。

 ドラマはあと7回も続きます。良庵 ― 成宮寛貴、万二郎 ― 市原隼人、良庵の父 ―笹野高史、藤田東湖 ― 津川雅彦 などのキャストが十分にその役割を果たして、テンポよくわかり易く退屈しないドラマです。

 この『陽だまりの樹』は手塚治虫原作で、主人公の一人手塚良庵は手塚治虫の曽祖父に当たる実在した人で、蘭学の立場から種痘所の設立に奔走し維新後も新政府で活躍します。

 もう一人の主人公・伊武谷万二郎は藤田東湖の教えに感銘を受けひたむきに幕府を守ろうと忠誠を尽くします。そんな二人をつなぐ友情と恋。軽妙な会話とストーリーで肩の凝らない痛快歴史ドラマというところです。幕府の要人、緒方洪庵、福沢諭吉、ヒュースケン・・・など実在の人物が絡んでいるところも手ごたえ見ごたえのあるところです。

 歴史の最前線に立ちはだかり歴史を動かしていく人物の壮絶なドラマでなく、その襞の部分でそれでも重要な役割にひたむきに生きていく人たちにスポットを当てたドラマです。

 良庵は若き日に大阪、緒方洪庵の適塾に2年間入塾します。先の放映でその適塾と塾生の生活の場面が出てきました。数か月前に読んだ福沢諭吉に関する本をダブらせながらドラマを観たので興味もひとしおでした。

 『福翁自伝』によると、適塾は『 毎日毎日進歩するという主義の塾 』で、『学生はみな活発で有能な人物であるが、一方から見れば血気盛んな年ごろ、乱暴学生ばかりで、なかなか一筋縄でも二筋縄でも始末におえない人物の巣窟 』だったほど、塾はエネルギーではちきれそうでした。

 自伝にもドラマの良庵のことが出てきます。『 そのとき江戸から来ている手塚という学生があって、この男はある徳川家の藩医の子であって、いかにも見栄えがよくて立派な男であるが、どうも身持ちがよくない 』とあり、手塚が本気で勉強するところや、塾生が共謀し遊女から手塚への手紙を偽造して大騒ぎをさせたり、手を変え品を変え手塚に食事をおごらせたりと、ここにもおおらかな青春がありました。

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 その本が 斉藤孝『現代語訳 福翁自伝』(ちくま新書) 北康利『福澤諭吉 国を支えて国に頼らず』(講談社) です。教科書に載った福澤諭吉の肖像画から想像すると、全くといっていいほど面白味がなく親しみを覚えるものではありませんが、実際はまさに痛快に破天荒に生きた人物像が本人の筆で書かれているので、目からうろこの意外性とホッとするような親近感が出てきました。斉藤氏の現代語訳も読みやすさの一つです。

 近代の啓蒙思想家という固い肩書が何となく福澤諭吉を遠くへ押しやってしまうのかもしれません。40年間も1万円札の肖像画の地位を保っているほどの人物とは・・・、と興味が出て読んだのがこの本でした。その自伝を読んでみるとそれまでのイメージに目からうろこ。人間福澤諭吉のこんな豪放な生き方に、女性としてもちょっと羨ましくもありました。

∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-∞-*-  ついでに ( 福翁自伝より ) *-∞-*-∞-*-∞∞-*-∞-*-∞

★ 外に出ても内にいても塾生は乱暴もすれば議論もするが、学問勉強の一点に於いて   は当時では緒方塾生の右に出るものはなかったと自負しています。

★ 『ヅーフ』という蘭学社会唯一の字引の写本が1部あるのみの適塾で、5人も6人も群れをなして無言で字引を引きつつ原書を読み、『大概の塾生は原書をよく読むことができた』そうです。

★ 黒田藩の出入りの医者であった緒方洪庵が、藩主から『ワンダーベルト』という原書を借りてきたので、塾生で「二夜三日」で百五、六十ページの写本を成し遂げました。計り知れない知識欲に、当時の蘭学への希求が伝わります。学生は当時悪く言われるばかりだったが、『知力思想の活発で高尚なことは王侯貴族も見下すという気位』で学問に励んでいたそうです。

★ 塾生は『ヅーフ』という辞書の写本をしてアルバイトをし、『なかなか大きな金額になって、自然と学生の生活を助けていました。』

★ 漢医の大家・華岡の塾を敵視し『漢方医流の無学無術を罵倒して、蘭学生の気炎を吐くばかり』と意気盛んなところを見せています。

 これを読みながら文学書で読む旧制高等学校の破帽疲弊の風習は、この適塾以来ずっと続いているような気がしてしまいました。

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石橋美術館(福岡県久留米市)

2012年05月05日 | 美術館&博物館

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福岡天神から西鉄電車特急で30分のところにあるのが久留米。ブリジストンの創業者石橋正二郎氏が会社を興した地です。今、久留米市の石橋美術館 で面白いテーマの美術展が開催されています。「くらべる。つながる石橋コレクション ブリジストン美術館開館60周年を祝う」というものです。石橋美術館は東京のブリジストン美術館とともに石橋財団が管理運営を行っています。入館料の安さに創設者の文化向上に寄与したいという初期の強い志がうかがえます。

展覧会は、1つのキーワードに作品2点を並べて、時代、場所、作者などの比較をしながら自分なりの鑑賞を楽しむのです。このようにして、70のキーワードで140点の作品が展示されています。

例えば、キーワードが「二人」には、アンドレ・ロート『海浜』1922年頃と、古賀春江『海女』1923年が並べられています。

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下記のキーワード「牛」には、グレゴリオ・ラッザリーニ『黄金の子牛の礼拝』、ミレー『乳しぼりの女』が並んでいます。

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ブリジストンのコレクションだけでこの企画ができるほどの作品収集の厚さがあります。2時間半はかかるので途中の休息所でひと休み。全面ガラス張りの窓からは、目に染み入る5月の緑にほっとひと息つきました。窓枠に切り取られた景色は、普通の景色とはまた違った特別の主張をもって輝くのが不思議です。

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石橋美術館は広大な敷地を持つ石橋文化センターの一角にあります。石橋正二郎氏が文化センターを設立し久留米市に寄贈したものです。地域の文化向上と福祉に役立てたいと願う心に創業者の熱い息吹が伝わってきます。阪本繁二郎のアトリエも移築されています。

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やっと少しだけスナップエンドウを収穫しました。「皮算用」ではもっとたくさんあったのですが、白い花が咲いた段階で抜き取らざるを得なくなりました。実がつく前のちょっとむごい仕打ちですが、次に植えるゴーヤに場所を譲るためです。

野菜作りの最初の頃は「畝」を作ることすら知識がなかったし、植え付けの時期がいまだに学習できずにいます。そんな素人にも植物は優しい・・・。小さな収穫を楽ませてくれます。夕食時にはこれを茹でて、コマーシャルの宣伝みたいに「ゴクリ!」といきます。

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いりこご飯

2012年05月01日 | 食・レシピ

瀬戸内海産のカタクチイワシの「かえり煮干し」はそのまま口に入れると芳醇なうまみが口いっぱいに広がります。ダシだけではもったいない・・・。そういえば以前NHKの地方番組で「いりこご飯」を作っているのを思い出しました。九州では煮干しのことを「いりこ」と呼びます。

Cimg8988とがった頭が口の中を傷つけそう・・・と思い、頭だけは取り除きました。(番組ではいりこ全体を使っていました。) 米2合に20グラムのいりこ、しょうゆ、酒、塩、白ダシ少々を入れて普通に炊きます。いりこが軟らかくなりコクがあり、おいしくて何度か作りました。私はじゃこ飯よりも好みです。

★鶏もも肉を買うべきところ、間違って鶏むね肉を買ってしまいましたが、これでも十分にいけました。

フライパンには油をひく必要はありません。鶏肉自身の油で焼ける、ヘルシーなまさに「自己完結型」の優等生です。皮を下にして弱火で蓋をせずに35分くらい焼いたら、裏返しにして5~8分焼きます。ソテーの「技」がなくても、簡単にきれいにヘルシーに、しかも皮がパリッと焼きあがります。

★フライパンに多めのサラダ油を入れナスを焼きます。玉ねぎ中1個と ニンニク2かけをすりおろした中に、お酢、醤油、塩、こしょう、ゴマ油を入れて味付けしたものを作っておき、その中に熱々のナスを入れて冷蔵庫で冷やします。これは真夏に合う料理で、弱りかけた体が生き返るような感じがする我が家の定番料理です。ちょっと早いけど、急に食べたくなって今の季節に作りました。季節柄でしょうか、玉ねぎに若干の苦みがありました。

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Cimg8962カボチャのキッシュ。

卵は一日に原則1個と決めています。外出が続くと卵が冷蔵庫に残り始めました。そこで思いついたのがキッシュ。

①カボチャ大1/4個は、半分を棒状に残りをくし形に切ります。ベーコン4枚は1センチ角切り、玉ねぎ1/2個は薄切りにします。

②フライパンにバター大さじ2を溶かし玉ねぎをとろっとするまで炒めます。その中にカボチャ、ベーコンを入れて軽く炒めます。耐熱容器に入れ、上にはかぼちゃをきれいに並べます。この時に市販のパイシートや春巻きの皮を下に敷いても面白いです。

③ボールに卵3個を割入れてほぐし、牛乳(または生クリーム)3/4カップ、塩小さじ1(有塩バターを使ったときは少し減らす)を加えて混ぜ上記の②に流し入れます。トッピングにレーズンを散らしました。

④190度のオーブンで25分焼きます。これは4人分。

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春を謳歌した花たちも花茎が伸びすぎてだらしない格好になってしまいました。せめて花たちのプライドをとどめ置くべく写真をアップしました。

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