新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

カフェオレで『指先から旅をする』を読む

2024年07月19日 | 本・新聞小説
あの宝石のような音を紡ぐ藤田真央さんの筆になる本が出版されたことは知っていましたが、文庫本になり買いやすくなってから購入するつもりでした。

が、録画したモーツァルトのソナタを聴く度に、やっぱり買おうとアマゾンでポチッ。すぐ届きました。

頭のなかはいつも音楽で占められている藤田さんの文章は実に美しく、エッセイなので一語一語かみしめながらゆっくり読めます。

こんな時には、なぜか紅茶でなくカフェオレが欲しくなります。

温めた牛乳を泡立てて、コーヒーに静かに注ぎココアを振りかけます。くっきり二層になって、目でも楽しめるコーヒーです。

少し手間を掛けてコーヒーを淹れ、好きな本を読む、この上質の時間が大好きです。




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塩野七生『わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡』

2024年05月05日 | 本・新聞小説
チドリソウ。環境に強い種で、こぼれ種が門灯を覆い隠すほど成長したので切り花にしました。

小さい鳥が飛ぶ形に似ていることからついた名前だとか。我が家の春の庭に欠かせない花になっています。ヒエンソウ(飛燕草)とも呼ばれます。
拡大するとチドリでなく、真ん中の花弁がムンクの「叫び」を彷彿させますが、表情から「歓喜」の方がしっくりきそう。

📖📖塩野七生『マキアヴェッリ』📖📖
この文庫本は断捨離から外してはいたものの長い間捨て置かれた本でした。数十ページは読んでいたのですが、読み進めなくて・・・。

塩野さんのルネサンスシリーズ4巻の後に続いて読んだ『チェーザレボルジア・・・』と『ルネサンスの女たち』はまさに心を踊らせる内容でした。全部再読ですが、歴史が少しわかってから読むといきいきと新鮮に読めます。
この両方に度々登場するのがマキアヴェッリ。教科書では『君主論』の著者として記憶し、このようにイタリア国内、フランスまで駆け巡って活躍する認識はありませんでした。
この時頭に浮かんだのが、捨て置かれた『わが友マキアヴェッリ』。文庫本で630ページの大作ですが、こうなったら読んでみよう!
マキアヴェッリは思想家と思っていましたが、フィレンツェ共和国の書記官でした。貴族出身でもなく、大学も出てないことから能力はありながらも書記官止まり。その仕事に満足し活躍していましたが、メディチ家転覆の罪を着せられて獄へ。 この後、郊外の山荘に隠遁して執筆活動に入り数々の名著を生み出しました。
その著作により有名になると交友も広がり、メディチ家とも和解、グィッチャルディーニという年下の信頼できる政治家に出会い、共に素晴らしい書簡を交わしながら、単発的に仕事をします。
北からはフランスが、南からはスペイン・ドイツがイタリアを狙います。ローマ教皇庁も加わり国際情勢も混沌としてきます。

1527年スペイン・ドイツがローマを攻めて、半年間も全ローマが破壊される「ローマ掠奪」が行われました。ルネサンス時代の建物の8割が焼かれたり破壊され、更にペストが追い討ちをかけます。法王はほぼ無条件でスペイン王カルロス(カール5世=神聖ローマ皇帝)に屈しました。
この頃メディチ家がフィレンツェから追放されました。マキアヴェッリはメディチの居ないフィレンツェに自分の居場所を確信して、再び書記官に立候補します。しかし惨敗で、もう一度祖国のために働きたいという願いは、祖国からも拒否されてたのです。 
この10日後に病に倒れ、その2日後に亡くなりました。落選が原因のようです。
イタリアはヴェネチアを除いてほぼスペインの支配下に入りました。ルネサンスの開放的な文化と知的交流の世界は終わりました。

この本の副題は「フィレンツェ存亡」。最終章が 「ルネサンスの終焉」。16世紀は歴史の動きを左右するのが都市国家から領土型国家に移る時でもあったのです。

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面白すぎる!

2024年03月30日 | 本・新聞小説
4半世紀も前、イタリア旅行前に読めばと友人に薦められたのが塩野七生さんの本でした。タイトルは字余り的な『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』。
小国乱立のイタリアと複雑な人物相関図、紛らわしい長い名前に辟易しながらどうにか読んだものの、理解できたのは枝も葉もなく幹の部分だけでした。

それが塩野さんの文庫本を70冊以上も読み終えて、再度手に取るとよく理解できて、「こんなに面白かったのだ!!!」と深く感動しました。

春休みを前に孫に送るつもりの塩野さんの8冊でしたが、夫が「ちょっと待って」と言い出しました。
そこで、15世紀のイタリア、最も華やかなルネサンス時代を知りたかったらと、この2冊を薦めました。
『ルネサンスの女たち』は恋愛小説とは程遠い、政治に振り回された、あるいは振り回した女たちを中心にイタリアの領土分取り合戦です。
イタリア北部の小国、ヴェネチア、フランス、スペイン、ローマ法王、果ては東のトルコまで絡んでヨーロッパが動いた・・・、とにかくワクワクする内容です。

塩野さんの本は膨大な資料に裏付けされて、歴史上実在した人物相関図も地図も、さらには増版本にはルネサンス期の名画もストーリーに織り込むという緻密さ、素晴らしい本です。

🍜 🍜 🍜 🍜 🍜 🍜
お昼は私だけ塩分を気にしないうどん!

冷凍していた牛丼用の肉を使って温玉牛うどんです。
夫は1人分しか残っていなかったロールキャベツを満足して食べているので、私も堂々とうどんを堪能しました。満足!!!幸せ!!!

このロールキャベツは、キャベツの葉を大きいまま茹でて冷凍保存していたものを使いました。
解凍した葉で肉を巻き込むと、繊維がさらに柔らかくなって、くるっと抵抗なくきれいに巻けます。





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2025年NHK大河は蔦屋重三郎

2024年03月03日 | 本・新聞小説
来年の大河ドラマは、なんと「蔦重」だって!
朝井まかて『秘密の花壇』で滝沢馬琴、山東京伝が出てきますが、蔦重は脇役程度でした。
歌麿はもてはやされても、彼をプロデュースした蔦重の名前が出ることはめったにありません。やっと陽の目を見たとワクワクしています。
江戸時代と吉原は切り離せません。大河ドラマでは、その花魁に小芝風花さんが抜擢されて、これも期待がもてるところです。

蔦屋重三郎の本を探して、早速取り寄せました。

華やかな歌麿の絵に隠れて出版元が取り上げられることは稀ですが、ここでは主人公。有名、無名の画工の絵心を磨きあげて世に広めるという名プロデューサーの手腕が詳細に書かれています。
そして松平定信の発する禁制に抗う出版元の意地と意気込み。禁制に背いた罰として財産も家も半分没収されるという苦い経験をします。

そんな苦労の中で見いだしたのが写楽。謎の多い写楽。数多い写楽説の中から一番納得させ得るプロットに仕立ててあるのに深く感動しています。
ある一瞬だけ輝いてスッと消えた写楽に「なぜ?」。ここの部分も納得でした。
掲げられた参考文献が50冊ほど。文中にその努力の箇所が見え、江戸の舞台の輪郭をよりはっきりさせています。

とにかく1年間のドラマがどんな風に展開されるか待ち遠しく思います。










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背景を知るとひと味違う「光る君へ」

2024年02月11日 | 本・新聞小説
前宣伝が紫式部の物語と聞いていたのでそれらしい文庫本を買いましたが、始まってみれば道長も主役の物語。柄本佑さんの凛々しい姿に、道長に興味が湧き『道長ものがたり』を購入しました。

2月12日放送に関して『道長ものがたり』からの一口メモです。
右大臣の父・兼家と姉・詮子は道長に左大臣・源雅信家への婿入りを勧めます。
源氏姓は血統が天皇に近く高貴な氏族。対して藤原氏は臣下になるのです。この先、黒木華さん演じる倫子と道長がどんな風に結ばれていくのか楽しみです。

長兄・道隆の家で漢詩の会が行われました。これを勧めたのが妻・貴子です。受領・高階氏の出で、内裏の掌侍を務めた女官で漢文にも長けています。
上級貴族の子女に比べると品の劣る立場でしたが、道隆が欲しかったのは〈高貴さ〉でなく〈知性〉で、これが見事に当たりました。貴子は知性に秀でた長女の定子を生むことになります。

父の兼家も妻の血統に頼らぬ実力主義の人でした。系図には5人の妻があり天皇の内親王もいたようですが、受領階級出身の時姫を正妻(道隆・道兼・道長の母)にしました。
財前直見さん演じる寧子も妻の一人で、『蜻蛉日記』は彼女の手になるものです。

藤原公任役の町田啓太さんは道長兄弟の又従兄弟ですが、何事にも優れていて、道長が「うちの子は公任の影法師も踏めない」と嘆いていたそうです。
毎回、平安の装束が素晴らしく衣ずれの音が聞こえそうです。

Gooブログ《新古今和歌集の部屋》にリンクされた「光る君へ第6回」を見ると、脚本はここまで気を配るのかと大石静さんの力の入れようが分かります。見逃したらもったいない。下記にリンクを貼っておきます。
https://blog.goo.ne.jp/jikan314/e/7f5c0b899bd2205af7f397d45744ac71



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やっぱり塩野七生さん!

2024年02月08日 | 本・新聞小説
正月に来た時に、世界史が好きという高1の孫が「何か面白い小説はない?」
すぐに塩野七生さんが頭に浮かびましたが、塩野さんの「ローマ人の物語」を初めとする文庫本70冊ほどは全て処分していました。
心にひっかかるものがあり辛うじて残していたものが『海の都の物語ヴェネツィァ共和国の一千年』『コンスタンティノープルの陥落』『ローマ亡き後の地中海世界』です。それを喜んで持って帰りました。

順序として『海の都の・・』『コンスタンティノープル・・』の後に、イタリア三部作の『緋色のヴェネツィア』『銀色のフィレンツェ』『黄金のローマ』と続けて欲しいと思い、ネットで探しました。

すると増訂版『小説イタリア・ルネサンス』と名を変えて4巻に生まれ変わっていました。
増版の部分が気になり、このまま孫に配達してもらう前に、自分が読みたいと我が家に届けてもらいました。

20年前に読んだはずなのに、面白くて、面白くて、息継ぐ間もなく読了!
塩野さんの配偶者の祖先はヴェネツィアと聞いたことがあり、4巻目もヴェネツィアの話。塩野さんのヴェネツィア愛に引き込まれて私もヴェネツィアが好き!
文化勲章受章を聞いた時は「やっぱり!」と嬉しくなりました。

『ローマ人の物語』は文庫本で43冊。孫がこの本を読みたいと言ってきたら、即、送るつもりですが。
待っています。



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「英雄たちの選択」……渋川春海

2024年01月18日 | 本・新聞小説
BS「英雄たちの選択」で『天のことわりを見抜け!渋川春海 改暦への挑戦』の録画を正月気分が抜けた頃やっと見ました。
地味~なタイトルですが、年の初めにふさわしい清新な番組でした。
渋川春海は別名・安井算哲を名乗る幕府お抱えの囲碁棋士でもあります。
自分で天体観測をして、あらゆる資料を読み、日本独自の暦作りをめざしますが、失敗と挫折の苦節20年。
この番組の出演者が作家冲方丁(うぶかたとう)さんで、春海への思い入れが深く熱かったのでとても印象に残りました。

中学では「江戸時代に暦を作ったのが渋川春海」とテスト用の無味乾燥な記憶をしていました。だから冲方さんの解説を聞いて大きく心を揺すぶられました。
もっと詳しく知りたい・・・と本を購入。

タイトルも著者名も四角張って引いてしまいそうですが、とにかく一気に読めて、読後が爽やか!

春海のサポートが徳川光國、保科正之、酒井忠清・・・と、この辺りも面白いところです。そんな恵まれた中での一大事業でした。

『武家の手で文化を創出し、もって幕府と朝廷の安泰をなす』という保科正之の願いどおりに、それまでの宣命暦、授時暦、大統暦の誤謬を指摘し、大象限儀で観測した自分の暦「大和暦」の正しさを証明したのです。それを「貞享暦」と呼ぶ勅命を賜り、改暦実現となったのです。

17世紀中頃。関孝和も主要な登場人物で、この頃の算術がかなり発達していたのには驚きでした。
『勾の二乗に、股の二乗を足すと、弦の二乗に等しい』
なんともう、三平方の定理があったのです!びっくり、びっくりです。明治維新で急激に科学が発展したのではなく、この頃からの基礎があったのだと思われます。 

これで春海は幕府初代天文方になりますが、国立天文台の職員の方は今でも「渋川先生」と呼ぶそうです。


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今度こそ松平春嶽が主人公!

2023年11月27日 | 本・新聞小説
幕末の小説には必ず登場する松平春嶽。徳川一門でありながら開明的であった春嶽が、小説やドラマで主人公になることが少ない気がしていました。
なぜ?そして偶然見つけたのがこの本です。
★ 葉室麟『天翔ける』

越前藩主と言いながらも生まれは御三卿の田安家。徳川の血が流れている家門大名です。早くから開国論者でしたが、同時に尊王でもあったので朝廷と敵対したわけではありません。国内外の緊迫した状況の中で幕府を守るために公武合体、雄藩連合とその都度模索していきます。
大きく影響を受けた橋本左内、横井小楠の具体的な思想が分かりやすく書かれており、坂本竜馬の訪問は大政奉還へとはっきり舵を切りました。
この時の小御所会議の場面が秀逸です。(春嶽+山内容堂)対(岩倉具視+薩摩)のやり取りの場面が詳しく書かれて、その歴史的意味がはっきりと納得できました。
将軍慶喜に対する春嶽の覚めた観察眼がなかなか面白く、慶喜像を一番納得させてくれました。
権勢欲がなく奸智を巡らさず、誠実に調和を図りながら政権交代に大きく貢献した春嶽の一生を描いた小説です。


★ 辻原登『発熱』
2000年、日経の連載小説で初めて辻原登さんの小説に出合い印象に残っていましたが、何となくまとめて読んでみたいと思うようになり文庫本を取り寄せました。
というのも、著者の知的視野が広くクラシック、漢詩、絵画、古美術、焼き物、国内外の文学・・・が至るところに散りばめられ、読み進めながら豊かな気持ちになったからです。

ウォール街で名を知られた凄腕のトレーダー天知龍。暴走族上がりで少年院にいた身寄りのない彼に手を差し伸べたのが亡き母の美しき友人。その支えがあって東大からニューヨークへ。

無届で米国債の運用をしている邦銀の行員を、龍は巨額の債権を空売りして合法的に叩きのめします。そんな生活に嫌気がさし、異常な夢から覚めたように日本に帰国します。

そんな辣腕の彼に誘いの手がかかります。戦後日本の既成権力集団に挑む戦いです。
手始めに不良債権にまみれた証券会社を自主廃業させ、政府系銀行を潰しにかかります。
権力集団の反撃は苛烈で、そこに見え隠れする謎の女性が、母の友人であり龍を陰で支えた女性と同一人物でした。20歳も年上の彼女を思慕する龍。
トップクラスの人間相関図に恋愛感情も絡んで、複雑な糸がサスペンス風に解きほぐされていきます。
金融の世界を理解するのは私にはハードルが高く、完全に理解できたという感じがありません(-""-;)
芥川賞受賞作家というだけあり、細部までも繊細な感覚で見つめ、それを美しい日本語で表現するところに大いに心が引かれました。








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葉室麟『星火瞬く』

2023年11月09日 | 本・新聞小説
ロシア人で歴史上の人物という記憶しかない「バクーニン」が、葉室麟さんの手になれば一気に読んでしまう歴史小説になっています。
明治維新前夜の横浜ホテルで遭遇した人物達が絡む話ですが、その登場人物が当世のAクラスばかり!

一度は日本から追放されたシーボルトが、開国した日本に入国を許されて息子を伴ってやって来るところから物語は始まります。ストーリーテラーは息子アレクサンダー・シーボルト。若く繊細で柔かな視点がフレッシュです。

ロシアの思想家バクーニンがシベリア流刑地を脱出、箱舘を経て横浜ホテルに現れたのです。
そのわずか数ヵ月の横浜滞在中に交流するのが小栗忠順、勝海舟、清河八郎、高杉晋作、オールコック、ジョセフ・ヒコ(浜田彦三)。
ロシア軍艦の対馬占領や公使館焼き討ち事件に絡み登場人物はもっと増えて15~6名。まさにキラ星です。その複雑な糸をほぐす様に維新前夜の動きが興味深く味わえます。
登場するジョセフ・ヒコは吉村昭『アメリカ彦三』で感動の一冊になっています。
幕末の動乱期に幕府を支え近代化を目指す小栗忠順の言動が興味深いところで、もっと取り上げて欲しい人物です。



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葉室麟『墨龍賦』『暁天の星』

2023年10月14日 | 本・新聞小説
Dr.Kさんの本の紹介がなかったら、こんな格張ったタイトルの『墨龍賦』を選ぶことはなかったでしょう。主人公は絵師「海北友松」、「かいほうゆうしょう」と読みます。

ずっと前、桃山時代の絵師「海北友松」の評価が海外で高まっているという新聞記事を読んでいました。耳新しい名前がそれ以来心に残っていたので早速飛びつきました。

友松は単に絵師だけではなかったのです。近江浅井家は信長に滅ぼされました。家臣の海北家も同時に滅亡したのです。友松は仏門に身を置きながら、武人の魂で家の再興に煩悶する葛藤の日々でした。
その間に出会う安国寺恵瓊、明智光秀、斎藤利三、狩野探幽・・・などとの交流はさながら群像劇的な趣があり、読みごたえのある歴史小説です。

友松の絵に関してはタイトルの表記のみが多く、その都度スマホで検索すると、狩野派とは違う手法の素晴らしいものでした。狩野派や等伯ほど展覧会でも取り上げられていないのが不思議なほどです。
友松は桃山時代の最後の巨匠として活躍しますが、息子・友雪も時代を代表する絵師になり幸せな晩年だったようです。
頭の片隅から気にかかるものが取れてスッキリ。心が軽くなりました。

⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐⭐
『暁天の星』は陸奥宗光が主人公です。
坂本龍馬は陸奥の才能を早くから見抜き、陸奥も龍馬を尊敬し慕っていました。万国法に詳しかった龍馬が生きていたら、きっと諸外国と渡り合い不平等条約の改正に努めていたに違いないと心の支えにしています。

薩長政権への反対勢力という立場でしたが、留学後はその間違いを悟り、立場を変えて外務省に入ります。井上馨や大隈重信とは違って、陸奥は政略を仕掛けて外交を行おうとしていました。
条約の改正には、清やロシアに勝って外国に認められることが不可欠という思いを深くしていきます。清国との駆け引きをしながら、他方ではイギリスとの交渉を急ぎました。
『不平等条約の改正はまずイギリスと行うこと。イギリスはおのれの利がなければ動かない。日本がイギリスに与えることができる利は、イギリスがもっとも警戒しているロシアの南下を防ぐ盾となること』というカミソリのような考えでした。
隣国との戦いを避けたい明治天皇からの視線は冷ややかなものでした。睦奥にとっては辛いものでしたが、国家というものは誰かが悪人になって支えなければならない、自分は間違っていないと思います。

今まで、陸奥宗光は外務大臣として欧米列強と対峙して不平等条約の改正に尽力したと思っていたのは表面的で、裏側は決して単純で美しいものではなかったのです。
日清戦争後の講和会議が始まる場面で絶筆。著者は病のため66歳の生を終えました。


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『斎王の楯』・・・琵琶湖から空堀に水を引く

2023年09月01日 | 本・新聞小説
近江の石工、穴太衆の力強い生き方が新鮮で魅力的でぐいぐい読み進むうちに、主人公·匡介が琵琶湖から大津城の空堀に水を引く場面に入りました。
匡介の経験と知恵を絞った大がかりな土木工事にワクワクしながら読むうちに、ふと???。
サイフォンの原理からして不可能では・・・。大津城の堀は琵琶湖より10mほど標高が高いのです。
その部分に引っ掛かって先に読み進めません。疑問が払拭できずに中断・・・。文芸小説を自分の変なこだわりの目で見ていいのだろうか・・・。このこだわり方の自分につくづく嫌気がさしました。
サイフォンの仕組みを利用した金沢城の噴水の仕組みを調べると、起点になる池は一番高いところにあります。だから途中の低い所から高い所へも水を動かせるのです。琵琶湖とは条件が違うのです( -_・)?
読み飛ばせばいいのに深みにはまってしまい、しばらく放置・・。

が、登場人物はそれぞれに個性的で魅力的。気を取り直して又読み始めました。

「好い人」達が力を合わせて苦難を乗り越え、話が出来すぎの感があるのに、妙に新鮮に感じられたのは、その道の最高を極めようと全身を研ぎ澄ます職人気質にあったのです。

関ヶ原の時代に、武士でなく石工と鉄砲職人が主役。とても新鮮でした。






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来年のNHK大河ドラマに備えて

2023年08月26日 | 本・新聞小説
今の大河ドラマ、家康のイメージが大きく外されてなかなか馴染めませんでしたが、小牧長久手の戦いからやっと面白くなってきました。
ちょうど今、NHK「100分de名著」で司馬遼太郎『覇王の家』が取り上げられています。安部龍太郎さんが家康を深く読み解いてドラマ以上に面白い番組です。

気が早いけど来年の大河ドラマ「光る君へ」の地固めをしてます。
この本のチョイスに満足しています。日記と和歌から紫式部を生き生きと考察し、貴族社会、藤原氏の世界、女房の世界が細かく語られて、これがとにかく面白い!資料も沢山載っています。

大河ドラマでのキャストも発表されているので、それをイメージしながら読むのも一興です。

このところずいぶん凌ぎやすくなりました。といっても30℃は越えていますが。
それでも温かい緑茶が欲しくなるのは、体は微妙に秋を感じ出しているのかも。
パウンドケーキがしっとりと焼けました。紅茶でなく緑茶で。

孫たちの里帰りで、ファミリーが大きく膨らんだ8月でした。高校生にとってはつかの間の夏休み。帰ったら夏季講習が待ってるとか。それも正規の授業らしい・・。
夏休み中にオープンキャンパスに参加してレポート提出も課題とか。2個の台風の合間を縫ってへとへとになって我が家へ帰ってきました。今時の高校生は大変です。


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今村翔吾『塞王の楯』・・・穴太衆

2023年07月07日 | 本・新聞小説
Dr.Kさんのブログで、今村翔吾『塞王の楯』の紹介を拝見しました。「穴太衆」が出てくるらしい……。これを「あのうしゅう」と読むことを知って以来、なぜか気になっていました。Dr.Kさんの説明もよかったし、直ぐアマゾンでポチりました。

550ページほどのずしりとしたハードカバー。ベッドで読むには重たすぎるのですが、これが文庫本になるには数年待たないと……。待てませんでした。

読了しないうちにアップしたのは、序章からぐいぐい引き込まれたし、登場人物欄に戦国武将がずらり、筑後柳河藩の立花宗茂の名前も出ていたからです。
読みごたえがありそうと嬉しくなり、ワクワク感から遂にアップしてしまいました。

今村翔吾さんの直木賞受賞作というのも初めて知りました。
時間をかけてじっくり楽しみます。






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「青空文庫PDO ポケット版」って?

2023年05月09日 | 本・新聞小説
日経連載小説は陸奥宗光の青春を描いたもので、とても濃密な内容に辻原登さんファンの濃度も濃くなっていきます。

曲折の幼少期から抜け出し、江戸に出るチャンスを得た宗光は安井息軒の門を叩きます。そしてその妻のことが出てきます。
「13歳年下の息軒の妻女は、息軒の郷里では『岡の小町』と呼ばれた美しい女性だったが、形振り構わず働いて、夫の貧乏生活を支えたことで知られ、委細は森鴎外の短編『安井夫人』に詳しい」という下りがありました。

『安井夫人』は鷗外の作品、という受験のための空虚な知識が恥ずかしく、委細を知りたくて俄然読む気が起こりました。そこで、早道はアマゾン!

届いたのは、扉を入れて15枚の薄~いペーパーバッグで、郵便受けにピタッとくっついて見逃すところでした。

「青空文庫POD」は著作権が満了しているコンテンツを基に制作されたもので、持ち運びに便利な「ポケット版」として書籍化されたものだそうで、この存在を初めて知りました。送料込みで440円。
インターネットで無料で読めましたが、私は断然「紙派」。自分の脳内が狭いことがわかっているので、行きつ戻りつしながら読むにはやはり「紙」です。

ちょっとしたきっかけで、読書の世界が横に広がるのが面白く充足感があります。




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髙田郁『あい 永遠にあり』

2023年05月07日 | 本・新聞小説
書店で「髙田郁」に惹かれて手にしました。タイトルを見て心は動かなかったものの、カバーの裏側の説明を見て直ぐ購入しました。何と「あい」は「関寛斎」の妻の名前だったからです。

幕末から明治維新の時代を蘭学という視点から描いた司馬遼太郎『胡蝶の夢』を読んだときに、3人の主人公の中の1人が関寛斎で、強い印象を残していました。その妻「あい」を主人公にした本が髙田郁『あい 永遠に在り』でした。
各章の「あい」をストーリーに沿って漢字に置き換えています。女性作家のきめの細かさを感じます。

第1章「逢」 :上総の「8000石の蕪かじり」と言われるほどの寒村に生まれた「あい」はまっすぐ前を向いて生き、思慮深い周りの大人たちの温かさに包まれて成長し、いとこで蘭方医「寛斎」と結ばれます。

第2章「藍」:親子3人で銚子に移り住みます。ここで生涯の恩人濱口梧陵に出会います。梧陵は醤油醸造業(現ヤマサ醤油)の当主であり、『稲むらの火』のモデルでもある開明的な文化人です。
寛斎に医療器具や医学書まで届けてくれ、長崎留学をサポートします。その感謝の印に、あいは糸から紡いだ美しい藍色の縞木綿を織り着物に仕立てて届けます。梧陵の存在は、寛斎とあいの生き方に死ぬまで大きく影響します。

第3章「哀」:阿波徳島藩主・蜂須賀斉裕の国詰め侍医に抜擢されて士分になり四国に移り住みます。周りから出自をとやかく言われながらもその生き方と技量で名声を得て、暮らし向きも病院を備えた屋敷を構えるほどになります。
寛斎と一緒になって12人の子の母親になったはずが、次々と半分を失い、その哀しみの中でもあいはキッと前を向いて生きます。

第4章「愛」:戊辰戦争で野戦病院で活躍した寛斎は新政府の信頼を得て厚遇されたにも関わらず徳島に戻り町医者となります。
しかし恩人·梧陵の「人たる者の本分は眼前にあらずして永遠にあり」の言葉を思い起こし、安逸な老後を送るのでなく命あるかぎり本分を精一杯に果たす····そういう生き方を選びます。財産をすべて清算して北海道の開拓に望む決心をした夫をあいは誇らしく愛おしく思い従います。
札幌では息子の又一が農学校で学び農地を取得して実践していましたが、更に奥地の「陸別」の開拓地に移る直前に、過酷な環境の中で体調を壊し、あいは亡くなってしまいます。
夫と連れ添い共に夢に向かって生きてきた、そうすることで自分は生かされたのだと、人としての本分を永遠の中に見つけ、最後まで寛斎に愛を捧げた人生でした。

この本はあいの死で終わりますが、気難しい寛斎はその後壮絶な人生を送ることになります。
「あとがき」によれば、あいが病床で夢見た開拓の地は寛斎の手で拓かれ、あいの遺言どおり、開拓地をを見渡せる陸別の丘に夫婦一緒に眠っているそうです。

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