古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

1ドル50円時代(1)

2011-05-03 | 読書
『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』(浜矩子著、朝日新聞出版、11年1月刊)という本を衝動買いしました。
 歴史的にみると、ドルは世界の基軸通貨の地位を去りつつあり、次にくる時代は機軸通貨なき時代だ、というのが筆者の世界経済観のようです。以下、さわりを紹介します。
 第2章で、ユーロとEUの議論が面白い。『ユーロはドル代替通貨ではなく、その足元と行く先の心もとなさで、むしろドル類似通貨だ』
 経済の成熟度や体力が異なる国々の間で通貨を一つにしてしまうとどうなるか。そのことを、リーマン・ショック後のユーロ圏が実に生々しく、われわれに示してくれた。
リーマン・ショクのような世界レベルの経済事件が発生すると、衝撃は国境を容易に越え相対的弱小国を直撃する。逆にヒト・モノ・カネは安全を求めて相対的強大国に逃げ込んでいく。そこで弱者救済負担が強き者にのしかかる。下手をすれば、強き者たちも救済疲れで共倒れ。これは単なる一過性の問題でなく内部構造上の問題で、こうした弱点を抱えるユーロは機軸通貨たり得ない。
 通貨が一つであれば、金融政策もまた一本化せざるを得ない。少なくともそれが従来の常識だった。だが、ユーロ圏で発生する諸問題を見ていると、どうもこの常識は考え直す必要があるかもしれない。ユーロ圏に好況国もあれば不況国もあるのに、それらが等しく一つの金融政策によって決定される一つの政策金利を受け入れなければならない。それぞれの国が、自国にとって最適の金融政策を採って景気をコントロールすることができないのである。金融政策の自由度を封印されたとなれば、国々の経済運営は財政政策に頼るしかない。このように、経済状態が異なる国々の間で通貨統合を実施することの問題性は実に奥が深い。
 ユーロの問題点をもう一つ。
 アイスランドは、ユーロ圏にもEUにも入っていない。しかし、EUとの間で市場の相互開放が進むと、実態的にはEU加盟同然の体制で、それを利用して、アイスランドは高金利政策をテコにEU諸国から資金を集め、金融立国型の高度成長を実現した。その結果、一人当たり国民所得のランキングで世界上位に名を連ねた。ところがリーマン・ショックで国内の大手金融機関が軒並み経営破たん。アイスランドは事実上の国家破産状態だ。
 アイスランドもさりながら、当面の問題はアイルランド(EUに加盟している)だ。アイルランドは、欧州単一市場化の伸展と外資導入の恩恵を受けて急成長を遂げた。法人税を12.5%ととびきり低くしてアメリカから大量の投資を呼び込んだ。90年代後半には、毎年10%前後の高度成長を記録した。かつての貧しい農業国が、2000年代半ば世界でもっとも豊かな国になったといわれた。それがリーマン・ショックで主要金融機関が軒並み経営破綻。いまや大手行はいずれも国家管理におかれ、それら金融機関の不良債権が想定以上に深刻で、政府が全額負担して処理するとなると10年度の財政赤字はGDPの30%を越え、銀行救済どころか政府そのものが倒れかねない。(続く)