shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

八代亜紀と素敵な紳士の音楽会 ~LIVE IN QUEST~

2012-08-30 | Jazz Vocal
 坂本冬ミン怒涛の3連発に続くのは、みながわ最高顧問との演歌談義で盛り上がった八代亜紀だ。とは言ってももちろん演歌のレコードではない。冬ミンのは “演歌の歌手がJ-POP の名曲を歌う” という企画だったが、アッキーナ(笑)の方は持ち前のハスキー・ヴォイスを活かしてジャズのスタンダードを歌ったライヴ盤。どことなく同じハスキー系ヴォーカルの青江三奈がジャズを歌った「ザ・シャドウ・オブ・ラヴ」や「パッション・ミナ・イン・NY」に相通じるものを感じさせるアルバムだ。
 八代亜紀というと演歌一筋というイメージが強く、ジャズというと意外に聞こえるかもしれないが、彼女のルーツを知れば意外どころかむしろ必然というか、やっと出たか... という感じすらする。実は彼女は幼い頃自分のハスキー・ヴォイスに若干のコンプレックスを持っていたらしいのだが、ある時父親が買ってきたジュリー・ロンドンのレコードを聴いてその歌声に憧れ、自分も歌手になろうと決意して熊本から上京、レコード・デビューする前はクラブ・シンガーとしてジャズやポップスを歌っていたというのだ。
 又、当時流行っていたボサノヴァも大好きだったらしく、 “10代の頃は歩きながらボッサのリズムを練習していた” と語っているのを聞いたことがある。彼女の歌唱法は演歌独特の “クサさ” が希薄で凡百の演歌歌手とは激しく一線を画すソフィスティケーションを感じさせるのだが、演歌が苦手な私でも彼女の歌は抵抗なく聞けるというのはそのあたりに理由があるのかもしれない。
 そんな彼女にとっての “人生を変えた曲” がジュリー・ロンドンが歌う「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」で、最近はテレビでもステージでも事あるごとにこの曲を歌っているようだ。中でも一番印象に残っているのが「ミューズの晩餐」というテレビ番組に出演した時のもので、ヴァイオリンとのコラボでリズミカルに歌っている姿を見てビックリ(゜o゜)  ジュリー・ロンドンからの影響を随所に感じさせながらもそれを見事に消化し、彼女独自のスタイルで歌いこなしているところが凄い。
八代亜紀 - Fly Me To The Moon


 そんな彼女がデビュー27年目にして初めてリリースしたジャズ・アルバムがこの「八代亜紀と素敵な紳士の音楽会 ~LIVE IN QUEST~」。1997年に原宿のクエストホールで行われたワンナイト・コンサートのライブ盤で、世良譲(p)、水橋孝(b)、ジョージ川口(ds)に北村英治(cl)という豪華なメンツをバックに、クラブ・シンガー出身の彼女がジャズのスタンダード・ナンバーを生き生きと歌っている。
 そもそも演歌とは何の接点のない私がこの盤の存在を知ったのは、アマゾンの曲目検索で大好きなスタンダード・ナンバーの入っている盤を色々調べていたのがきっかけで、⑥「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」と⑫「バイ・ミア・ビスト・ドゥ・シェーン(素敵なあなた)」という超愛聴曲が2曲もこの盤に入っているのを発見して大コーフン(^o^)丿  八代亜紀のハスキーな声ならきっとカッコ良いジャズ・ヴォーカルになってるだろうと確信して即買いしたのだが、期待を裏切らない素晴らしい内容だ。
 まずは⑥だが、 “ニューヨークの青江三奈” の異名を取るヘレン・メリルの名唱で知られるこの曲をハスキーな歌声が売りの八代亜紀が歌うのだからこれ以上の選曲はないだろう。バックの演奏も秀逸で、百戦錬磨のベテランらしいツボを心得たプレイの連発には唸ってしまう。欲を言えば水橋孝のベース・ソロのパートをもっと迫力ある野太い音で録って欲しかった気もするが、コレばっかりはしゃあないか...(>_<)
You'd Be So Nice To Come Home To


 ⑫は薬師丸ひろ子の映画「メインテーマ」の中で桃井かおりが歌っているのを聴いてその哀愁のジューイッシュ・メロディの虜になり、それ以来アンドリュース・シスターズやマーサ・ティルトンを始めとしてこの曲の名演はすべて手に入れると心に決めているのだが、この八代亜紀ヴァージョンも聴き応え十分で、元クラブ・シンガーという経歴に偽りナシのジャジーな歌唱が楽しめる。知らない人が聴いたら絶対に演歌歌手だとは分からないのではないだろうか?
Bei Mir Bist Du Schon


 ⑥⑫と並んで気に入っているのが⑩「荒城の月」だ。ジャズ・ファンにはセロニアス・モンクの名演でお馴染みの曲だが、ここでも瀧廉太郎の名曲が見事にジャズ化されており、1分15秒を過ぎたあたりからのスインギーな展開がめちゃくちゃカッコイイ(≧▽≦) 歌心溢れる北村英治のソロ、変幻自在にヴォーカルにからみつく世良譲のオブリガート、そして貫録十分のアッキーナのヴォーカルと、絵に描いたような名曲名演に仕上がっている。
 又、②「雨の慕情」や⑪「舟歌」といった彼女の持ち歌もジャジーなアレンジで一味違う仕上がりになっており、ジャズ・ヴォーカルを愛する人なら気に入ること間違いなし。久々にジャズを歌うということでテンションが上がっているのか、ちょっとはしゃぎ過ぎな面もあるが、スタンダード・ナンバーを歌うのが楽しくって仕方がないという様子がヒシヒシと伝わってきて好感が持てる。 “演歌歌手のジャズ・ヴォーカル・アルバムなんて...” と聞かず嫌いを決め込むと損をする、八代亜紀の魅力爆発のカッコイイ1枚だ。
荒城の月
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