shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~ / 坂本冬美

2012-08-23 | J-Rock/Pop
 坂本冬美のアルバム「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」は元々「さらばシベリア鉄道」目当てで買ったのだが、他の曲も聴き所が満載でアルバムを一気通聴してみて彼女の歌声の魅力にすっかりハマってしまった。収録曲は、①「安奈」(甲斐バンド)、②「哀愁のカサブランカ」(郷ひろみ)、③「ずっとあなたが好きでした」(坂本冬美・新曲)、④「白い冬」(ふきのとう)、⑤「さらばシベリア鉄道」(太田裕美)、⑥「オリビアを聴きながら」(杏里)、⑦「ひとり上手」(中島みゆき)、⑧「想い出まくら」(小坂恭子)、⑨「神田川」(かぐや姫)、⑩「ワインレッドの心」(安全地帯)、⑪「さよなら」(オフコース)、⑫「クリスマス・イブ」(山下達郎)と、新曲③以外は超有名曲ばかりだ。
 オリジナル・シンガーの印象が強いこれらの曲を選んで1枚のカヴァー・アルバムを作るなんて普通なら無謀な企画だと思うのだが、彼女はシンガーとしての抜群のセンスと表現力で1曲1曲を丁寧に歌い込み、原曲を知らない人が聴けば彼女のオリジナル曲と思ってしまうかもしれないぐらい見事なカヴァー・アルバムに仕上げている。とにかく全ての曲が “坂本冬美の歌” として屹立しているところが凄い!!! 
 彼女が一番得意とするのはやはり女性シンガー・オリジナルの “じっくり歌い込み系” バラッドだろう。このアルバムでも杏里の⑥や小坂恭子の⑧という J-POP のスタンダード・ナンバーに新たに魂を吹き込むかのように力強い歌声を聴かせてくれるのだが(←かすかにコブシが入ってるところはご愛嬌…)、それらは彼女のキャリアを考えればあくまでも想定の範囲内。このアルバムで最も感銘を受けたのは彼女が歌う “ミディアム~アップテンポなポップス系” のナンバーで、その代表格と言えるのが前回取り上げた⑤「さらシベ」、そして⑦の「ひとり上手」である。
 この曲は数ある中島みゆき作品の中でも三指に入る愛聴曲で、日本人の心の琴線をビンビン震わせるその旋律はまさにみゆき・ナンバーの王道というべきものなのだが、そんな哀愁舞い散る名曲を坂本冬美がその艶のある伸びやかな歌声で聴かせてくれるのだ。そのしっとりとした質感はまさに絶品と言ってよく、女心を切なく坂本冬美流に表現して歌うくだりなんてもう鳥肌モノの素晴らしさ(≧▽≦)  この曲の、そして坂本冬美の素晴らしさが分かる日本人に生まれて良かったなぁ...と思わせてくれるキラー・チューンだ。
「ひとり上手」坂本冬美


 収録曲の半数以上が男性シンガーの曲というのもこのアルバムの興味深いところで、女性の歌声で女性の視点から歌われるこれらのナンバーは実に新鮮に響くのだが、そんな中で特に気に入ったのが甲斐バンドの名曲①「安奈」だ。演歌の世界で鍛え上げられたそのきめ細やかな表現力は特筆モノで、歌詞をしっかりと歌いながらそのコトバの端々に情感を滲ませていく歌唱法はさながら “日本のペギー・リー” だ。この曲でも主人公の孤独感、そして愛する人への想いがビンビン伝わってくるし、その歌声の向こうに立ち上る冬景色も実にリアル。 B'z「いつメリ」の “恋するハニカミ!ヴァージョン” を想わせる鈴の音もそんな冬景色に彩りを添えている。
「安奈」坂本冬美


 郷ひろみをカヴァーした②もめっちゃ好き(^o^)丿 彼女が他のシンガーと決定的に違うのはその歌声の中に漂うそこはかとない色気だと思うのだが、この曲でも彼女独特の儚いビブラート唱法が絶妙な味わいを醸し出しており、もう官能的と言ってもいいぐらいの抗し難い魅力で聴く者を坂本冬美ワールドへと誘う。それはバーティー・ヒギンズとも郷ひろみとも明らかに違う彼女独自の歌世界であり、彼女のスタンダード・シンガーとしての奥深さを感じさせる名唱だ。
 忌野清志郎が惚れ込んだその資質を見事に開花させ、新境地を切り開いた坂本冬美。演歌とはまた違った彼女の魅力が堪能できるこの CD は、どうせ演歌の歌手だからといって聴かずにいると絶対に損をする、邦楽スタンダード・カヴァー・アルバムの金字塔だ。
「哀愁のカサブランカ」坂本冬美
コメント (4)