shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

さらばシベリア鉄道 / 坂本冬美

2012-08-19 | J-Rock/Pop
 「さらシベ」特集もいよいよ最終回。高校生の時に初めて裕美ヴァージョンを聴いて以来の超愛聴曲なので気に入ったカヴァーに出会ったら必ず買うようにはしていたが、今回特集をするにあたって見落としがないか調べていたところ、この夏最大の収穫といえる1枚に巡り合うことができた。きっかけを作って下さったみながわさんには足を向けて寝れないが、その1枚というのが何を隠そう坂本冬美の「Love Songs Ⅱ ~ずっとあなたが好きでした~」である。
 坂本冬美といえば世間一般のイメージとしては “バリバリの演歌歌手” だろう。私は昔から演歌が大の苦手で、大好きなちあきなおみ姐さんですら演歌を歌った(歌わされた?)盤は聴く気がしないし、美空ひばりも同様だ。私はロックンロールの “グルーヴ” やジャズの “スイング” のように思わず身体が揺れるようなノリノリ感覚を楽しみたいがために音楽を聴いている人間なので、自分の身体感覚とはまったく異質な演歌の “コブシ” は生理的に受け付けないのだ。だから私の脳内では “演歌歌手 = コブシ = 絶対無理” という短絡的な思考回路が形成されていた。
 そんな私の “演歌歌手に対する偏見” を木端微塵に打ち砕いたのが他ならぬ坂本冬美だった。何年か前に大好きな「デイドリーム・ビリーバー」のカヴァーを色々探していた時にたまたま YouTube で彼女が忌野清志郎や三宅伸治らと共演しているライヴ映像を発見、目からウロコとはまさにこのことで、彼女の歌う「デイドリーム・ビリーバー」を聴いて演歌臭を微塵も感じさせずにポップスも楽々と歌いこなすその懐の深さに “優れた歌手にはジャンル分けなんか無意味” なんだということを再認識させられたのだ。
SMI 忌野清志郎 坂本冬美 デイドリームビリーバー


 これはエライコッチャと色々調べてみると、我が愛聴盤である RCサクセションの「カバーズ」には参加してるわ、清志郎や細野晴臣らと結成した HIS というユニットではビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」を日本語カヴァーしてるわで(←その後、ビートルズ・カヴァー・コンピ盤「ラヴ・ラヴ・ラヴ」にて英語詞でもカヴァー!)、演歌というジャンルにとらわれない幅広~い活動をしてきた人なのだと判明、その時から私は彼女に一目も二目も置くようになった。
And I Love Her / HIS (1991)


 ということで凡百の演歌歌手によるカヴァーなら目もくれずにスルーするところだが、何と言っても坂本冬美である。彼女の歌う「さらシベ」って一体どんなんだろうと興味をかき立てられ早速試聴してみると、この曲は言うに及ばず、他のカヴァー曲も心に沁みる名唱ばかりでめちゃくちゃ良いではないか!!! 私は迷わず買いを決めた。
 このアルバムは全12曲収録、 “冬に聴きたいラヴ・ソング” というコンセプトで1970年代半ばから1980年代初め頃までのヒット曲の中から選曲されたカヴァー集で、そのほとんどはリアルタイムで聴いて知っている曲ばかりだ。そんな名曲ぞろいの中でもダントツに気に入ったのがアップテンポで軽快に歌われる⑤「さらばシベリア鉄道」で、先の「デイドリーム・ビリーバー」の時と同様に過剰なコブシを封印しながら一つ一つの言葉に気持ちを込めて大切に歌っており、スケールの大きなスタンダード・シンガーとしての彼女の巧さを堪能できるカヴァーになっている。その圧倒的な歌唱力で主人公の微細な心のひだひだまで捉えてリアルに描写した坂本冬美の「さらシベ」、 “うた” の原点に立ち返ってじっくりと耳を傾けたい珠玉の逸品だ。
さらばシベリア鉄道 坂本冬美
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