shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 3)

2012-02-09 | J-Rock/Pop
 このアルバムで①「Morality Slave」と⑪「Suck Of Life」に次いで好きなのが⑦「審美眼ブギ」だ。冒頭のシャウトからいきなり躁状態のマーク・ボランが吉井さんに憑依、軽快なシャッフル・リズムにウキウキワクワクさせられるこの曲は、「Sleepless Imagination」→「Foxy Blue Love」と続く “アッパーなグラム・ロック・チューン” の正しい発展形。お約束のハンド・クラッピングも効いている。やっぱりイエロー・モンキーはこうでなくっちゃ(^o^)丿
 そんなイケイケ・オラオラ系の曲調とは裏腹に歌詞は辛辣で、デビュー・アルバムが思うように売れず業界にも相手にされなかったことを痛烈に皮肉った内容だ。 “キリンの首をちょん切って馬にする” だとか “ゴーギャンの新聞紙で尻を拭く”だとかいった相変わらずの意味不明フレーズ(←まぁそこが面白いのだが...)に混じって “審美の目玉が割れてるよ” “不純な寄せ書きで 僕は遠くで君の言葉に嘆いてる” “退屈ならお手をどうぞ アンタの批評が大好きさ” といった皮肉たっぷりの言葉が速射砲のように飛び出してくる中、エンディングの “ライター!、リスナー!、DJ! I'm Gonna Suck You!” という絶叫がすべてを物語っているように思う。メカラウロコ10での “業界のバカヤロー!” も忘れ難い。
 2nd シングルになった⑨「アバンギャルドで行こうよ」もめっちゃ好き。この曲はとにかく陽気で明るくてチャーミングな “グラム歌謡” で、“ディンダン ディンダンダン♪” というキャッチーなコーラスを聴いているだけでもう楽しくなってくる(^o^)丿 デビュー・シングルがまったく売れなかったので今度は明るい曲調にして CM のタイアップを狙って作ったとのことで、曲が完成した時には “天下取った!” と思ったらしい(←結果的には惨敗に終わったが...)。 まぁ売り上げはともかく、どんなに凹んでる時でもコレを聴けばウキウキした気分になれそうな曲想で、そのポップなハジケっぷりは後の「悲しきASIAN BOY」、そして「Love Communication」へと受け継がれてゆく。どちらかと言うと重た~い雰囲気の曲が並ぶこのアルバムの中にあって、先の⑦と共にそのノリの良さは際立っている。
 この曲はライヴではコンサート終盤に演奏されることが多いが、それは “アバンギャルドで行こうよ BABY~♪” ってやってるだけでメンバーが楽しくて幸せになれるからフィナーレにピッタリとのことで、その他愛のなさ故にオーディエンスともその幸せ感を共有できるという、吉井さんにとっては “ドリフのババンババンバンバン~♪” みたいな位置付けらしい。なるほどね(^.^) この曲のライヴ・ヴァージョンの異様なまでのテンションの高さには圧倒されることが多いが、吉井さんのインタビューを読んでその理由がわかった気がした。
 それと、この曲にまつわる面白いエピソードとして、吉井さんがスウェードのライヴを見に行った時に、他の客に “アバンチュールで行こうよの奴だぜ” と言われてめっちゃムカついた、というのがあったが、そもそも平均的日本人にとって “アバンギャルド” などという言葉自体ほとんど縁が無い。私だってビートルズの「レヴォリューション№9」が無ければそんな単語は知らなかったかもしれない。ポップ・ソングのタイトルとしては “アバンギャルド” を “アバンチュール” と間違えた彼らに罪はない(笑)
 ②「Drastic Holiday」は曲の途中でマイナーからメジャーに転調する面白い曲。まるでフランスの歌謡曲(←そんなものあるわけがないが...)と言ってもいいような親しみやすいナンバーで、そのポップで楽しいノリが気に入っている。特に “パッパラッ パッパッパラッ” というコーラスがめっちゃ印象的で、聴くたびに思わず一緒に口ずさんでしまう。エマのリズム・カッティングも絶妙で、ポルカみたいな曲調のブリッジ部におけるユニークなギター・ソロ(←スティーヴ・ハウやブライアン・メイが次々と降臨...)も含めて大活躍だ。
 ⑤「Vermilion Hands」は直訳すれば “朱色の手” という意味で、一言で言えば爪切りの歌(笑)... ポップ・ソングとしてはまさに空前にして絶後な題材だ。イントロのドラムは「Fairy Lnad」を想わせるアダム&ジ・アンツ系で、ギターはエディー・ヴァン・ヘイレンが「Bottoms Up」や「I'm The One」といった初期の楽曲で多用していたリフを転用、「Chelsea Girl」っぽいノリで一気に突っ走るストレートアヘッドなロックンロールだ。曲構成そのものは平坦でワンパターンな繰り返しに過ぎないので一気呵成に聴くべし。
 このアルバムには吉井さんの中に存在する “私” “僕” “俺” という3つの自分をそれぞれ歌った超大仰バラッド⑧「4000粒の恋の唄」、⑩「フリージアの少年」、⑬「シルクスカーフに帽子のマダム」の3曲が入っており、アルバム後半はさながら吉井和哉版 “ジョンの魂” といった按配だ。アルバム・タイトルが「エクスペリエンス・ムービー」とはまさに言い得て妙と言えるだろう。これらはどれも6分を超える大作で、吉井さんの「僕を分かって欲しい」という心の叫びが聴く者の胸に突き刺さるヘヴィーなバラッドだ。
 このアルバムは爽やかなロック&ポップスが好きな堅気の音楽ファンには決してオススメできないが(笑)、一癖も二癖もある濃厚でディープな音世界にドップリと浸かりたいというその筋系の真正ロック・ファンにはイチ推しの個人的愛聴盤。コレが気に入ったら、もうイエロー・モンキーは特別なバンドになっているはずだ。彼らの全アルバム中、人間・吉井和哉の本質が最も顕著に表れた1枚。

審美眼ブギ


THE YELLOW MONKEY - アバンギャルドで行こうよ LIVE (640x480)


DRASTIC HOLIDAY


Vermilion Hands
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