shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Experience Movie / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-02-04 | J-Rock/Pop
 イエロー・モンキーのメジャー2作目にあたるこの「Experience Movie(邦題:未公開のエクスペリエンス・ムービー)」は、この時期の彼らの特徴である “アクが強くて時代錯誤でマニアック” な路線を更に推し進めながらも、色々と戦略を考えすぎて “ポップなグラム・ロックと両性具有” という側面ばかりが突出してしまった感があった前作の方向性を軌道修正し、ヘヴィーな洋楽ロックとおセンチな歌謡曲、妖しげな似非ヨーロッパ風シャンソンといった様々な要素を巧く組み合わせることによって他の誰にも真似できない “ディープな音世界” を作り上げることに成功した初期イエロー・モンキーの傑作だ。
 そういえばこのアルバムが出た直後のインタビューで “一番やりたいのはホワイトサイド・ブラックサイドという二面性で、1st はホワイトサイドだったから 2nd はブラックサイドにしたんだ...” という趣旨のことを吉井さんが仰っていたが、それって「クイーンⅡ」のA面B面のイメージなんだろうか? 実際、詞の面でもサウンドの面でも “煌びやかな 1st に対して重た~い 2nd ” といった印象が強いが、とにかく吉井さんを語る上で、男と女、明と暗、陰と陽という風に “二面性” という言葉は重要なキーワードと言えるだろう。
 このアルバムは “馬鹿ポップ、ヘヴィー・シャンソン、内気ロック、ミクスチャー・グラム、90年代ムード歌謡、メッセージ色の強いふりしたロック、4LDKフォークを全部消化して、自分だけが「本物だ」と思うアルバムを作り上げた” という言葉通り、ダークで猥雑な①、ヨーロッパの薫り漂う②、ノリノリのアッパー・チューン③⑤⑦⑨⑪、耽美的な④⑥、オカマの失恋歌⑧、吉井さんの自叙伝的な⑩、美輪明宏風シャンソン⑫、自分の母親をモチーフにした⑬と盛り沢山な内容で、ハードなギターを前面にフィーチャーしたストレートなロック・チューンと古いモノクロ映画のサントラを想わせる妖しげなスロー・バラッドがほぼ交互に並べられており、聴けば聴くほど味が出るアルバムになっている。
 この時期の彼らの音楽性は一見とっつきにくいけれど一旦ハマると中々抜け出せない麻薬のような魅力を秘めており、イエロー・モンキーのコアなファンの中にはこのアルバムをベストに挙げる人も多いと聞く。かく言う私もそんな魔力にすっかりやられてしまった一人なのだが、中期のストレートアヘッドなロックンロールしか知らなかった私を初期のドロドロしたイエロー・モンキー・ワールドの魔界に引きずり込んだ張本人と言えるのが、このアルバムの1曲目に収められている①「Morality Slave」だ。
 アルバムの序曲ともいえるこの曲は、タイトルが示すように、未だに “道徳の奴隷” になっているような人達に向けてのメッセージ・ソング。イントロ部分では、奴隷の鎖の音のような SE をバックにベートーベンの「月光」が静かに流れ、“何かめっちゃ雰囲気あるけど、これから一体何が始まるねん...” と思いながら聴いていると徐々に悪魔の囁きのような声が高まっていき、いきなり「オペラ座の怪人」からアダプトしたようなダーク・トーンのギター・リフが切り込んできて曲がスタート、ボウイの「It's No Game」にインスパイアされたと思しき妖しげな女性のナレーションがこれに絡みついてくるところがめっちゃツボ! 更に “とぅるららら~♪” という呪文のようなコーラスを従えた吉井さんのダークな歌声が不気味な感じで煽りまくり、サビのパートでは「ロボトミー ロボトミー~♪」と連呼するという凄まじい展開に言葉を失う。このアングラ感がたまらんたまらん... (≧▽≦)  淫猥な歌詞をさらっと歌ってしまう吉井さんも凄いし、間奏で炸裂するソリッドで切っ先鋭いナイフのようなエマのギター・ソロも絶品だ。とにかくベートーベンから始まって、最後には “改造ペニスのロボトミー” なのだからこれを痛快と言わずして何と言おうか!
 因みにロボトミーとは医学用語で前部前頭葉切截術と呼ばれるもので、こめかみに穴をあけて脳の中で最も人間らしい知的活動を司っていると言われる前頭葉の神経を切断することによって廃人にする手術のこと。ロボットみたいになるからロボトミーなのかと思っていたが(←アホ)全然綴りが違うかった。曲の後半部には例のキュゥィ~ンという歯医者さんのドリルみたいな音の SE まで入っているという凝りようだ。お~こわ(>_<)
 1993年に彼らが日本青年館で行ったライヴで、頭に袋をかぶせられて手を縛られた裸の女性2人を吉井さんが孔雀の羽根でサディスティックにいたぶりながらこの曲を歌うという演出は実に衝撃的だった。「Life Time Screen」という DVD で見れるので興味のある方はどーぞ。1996年に日本武道館で行ったメカラウロコ・7のステージでもこの裸のネーチャンがクネクネする恐ろしいライヴを再現しようとしたものの、 “武道館は神聖な場所だからそういうことやっちゃいかん!” とクレームが付き、スリップ姿の女性を20人(!)登場させてこの曲を歌ったというエピソードがいかにも彼ららしくて面白い。 (つづく)

MORALITY SLAVE - THE YELLOW MONKEY