shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

I Feel A Song Coming On / Joni James

2009-07-21 | Jazz Vocal
 私の “女性ヴォーカル好き” はジャズ仲間内では有名で、インスト・オンリーよりもむしろヴォーカル入りを好む傾向が強い。人間の声こそ最高の楽器だと思うからだ。それと、ポップスやロックを聴いて育った私は1曲3~4分というリズムが身体に染みついており、一部の例外を除いてどうもインスト長尺曲にはなじめない(というか聴いてるこっちの集中力がもたない...)ので、濃い内容を短くビシッとキメてくれる古いの歌モノが大好きなのだ。
 私の好きな女性ヴォーカリストには2つのタイプがある。小さなクラブでスモール・コンボをバックに歌っているような、ハスキー・ヴォイスで “クールに軽やかに粋にスイング” するジャジー系ヴォーカリストと、古き良きアメリカを想わせるノスタルジックな歌声が心の中にス~ッと染み入ってくるような癒し系ヴォーカリストである。前者はクリス・コナーやアニタ・オデイ、ヘレン・メリルといったジャズ・ヴォーカル・レジェンドからジェニー・エヴァンス、クレア・マーティンといった現役シンガーまで、バックの演奏も含めてとにかくスイングしまくる “ジャズ・ヴォーカルの鏡” のようなディーヴァたちだ。後者はペギー・リー、ドリス・デイ、マーサ・ティルトンといった大御所から最近ではジャネット・サイデルに至るまで、そのナチュラルで素直な唱法に癒されるのだが、このジョニ・ジェイムスもそんな正統派ヴォーカリストの一人といえるだろう。
 彼女は1950年代前半には “アメリカの恋人” といわれ、MGMレコードのドル箱スターだったポピュラー・シンガーである。彼女のアルバムには企画モノが多く、ハワイアン、フレンチ、イタリアン、アイルランド民謡といった世界各国のご当地ソング集、ヴィクター・ヤング、フランク・ロサー、ジェローム・カーン、ハリー・ウォーレン、ガーシュウィンといったコンポーザー・シリーズ、カントリー、ジャズ、ボサノヴァ、ストリングス物といった音楽スタイル別コンセプト・アルバムと、実に幅広いジャンルの歌を歌っている。つまりそれだけの人気と実力を兼ね備えたシンガーだったということだ。又、彼女のアルバム・ジャケットには彼女のイラストが描かれたものと彼女の写真を使ったものがあり、どちらも大変魅力的なのだが、特にイラスト・ジャケの方は50年代という時代の薫りを見事に表現した芸術品レベルのものばかりなので、私は彼女を聴く時は必ずLPジャケットを眺めながらノスタルジーに浸るようにしている。
 今日取り上げた「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は「アフター・アワーズ」、「ジョニ・スウィングス・スウィート」、「ザ・ムード・イズ・スウィンギン」といった “ジョニ、ジャズ・スタンダード・ナンバーを歌う” シリーズの中で最もスイング感に溢れており、選曲から伴奏に至るまで、全部で40枚近く出ている彼女の全アルバム中でも一番気に入っている1枚なのだ。
 歯切れよくスイングするイントロからいきなり全開で飛ばしまくるといった感じの①「ディード・アイ・ドゥ」にまずは圧倒される。ジャズはスイング、それを体現するかのようにジョニも軽快なテンポで歌う。この盤はスタジオ・ライブ形式でA、B面それぞれ6曲ずつを続けてワン・テイクで録っているので、ドラム・ソロから切れ目なく②「ユー・ケイム・ア・ロング・ウェイ・フロム・セントルイス」へと続く。ペギー・リーのブルージーな歌唱で有名なこの曲をミディアム・テンポでサラッと歌っており、2分25秒あたりの捨てゼリフ・パートが面白い。③「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」はボサノヴァ化される前のスロー・バラッド的解釈でしっとりと歌う。彼女のしなやかで優しい唱法にピッタリの曲だ。アルバム・タイトル曲の④「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は一転してアップテンポで疾走するように歌う。⑤「ララバイ・オブ・バードランド」は華麗なピアノのイントロに続いてドラムが加わり、そしてブラスが順に入ってくるあたりに強烈にジャズを感じる。大好きなこのアルバムの中でも特に気に入っているナンバーだ。
 クラリネットをフィーチャーしたスイング・スタイルの⑥「ユー・ドゥ」に続く⑦「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」はトロンボーンを加えたディキシーランド・スタイルで、ジョニは気持ち良さそうに軽やかに歌っている。⑤と並んで私が気に入っているトラックだ。失速寸前といった超スローテンポで歌い込んだ⑧「マイ・メランコリー・ベイビー」は彼女の愛くるしい歌声がたまらない。控えめなリズム・ギターのサポートも絶妙だ。再びディキシーランド・スタイルに戻って⑨「ベイズン・ストリート・ブルース」、甘いソプラノの彼女がちょっと声をひねって歌うブルースもオツなものだ。
 ジョニが淡々と歌い綴る⑩「アイ・ガット・イット・バッド」ではマイルス降臨といった感じのミュート・トランペットのプレイが聴き所。愛らしい歌声で温か味溢れる⑪「バイ・ザ・ウェイ」はベース主導のイントロとピアノのオブリガートが渋いなぁ。⑩⑪のようにメロディーが薄味の曲でも歌声と演奏で楽しめるのがこの盤の良い所だと思う。ラストの⑫「九月の雨」はこのジャジーで楽しいセッションを締めくくるに相応しいノリノリの歌と演奏で、特にドラムス(クレジットはないが、多分シェリー・マン)が大活躍、 “明るく、楽しく、スインギー!” と三拍子揃った名演だ。
 その優しい人柄がにじみ出たようなジョニ・ジェイムスの歌声は、温か味に溢れ、聴く者の心を癒してくれる。そんな彼女の甘~いヴォーカルとバックを務めるバリバリのジャズメンのピリッと辛いプレイが絶妙に溶け合って生まれた旨口ヴォーカル盤がこのアルバムなのだ。

ジョニ・ジェイムス バードランドの子守唄
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Sing Sing Sing / Clark Sisters

2009-06-12 | Jazz Vocal
 コーラス・グループと一口に言っても様々なジャンル、叉、人数・性別の組み合わせがある。私が一番好きなスタイルは女性3~4人組で古いアメリカのスタンダード・ソングを歌う、いわゆるシスターズものである。アンドリュース・シスターズを始めとして、ディニング・シスターズ、キング・シスターズ、ベヴァリー・シスターズ、バリー・シスターズetc... 最近のものではスター・シスターズなんかも大好きだ。ある時は甘酸っぱくノスタルジックに、叉ある時は明るくキュートに、叉ある時はモダンな感覚でスインギーなコーラス・ワークを楽しめるのである。こんな美味しいジャンルを聞き逃しては男がすたるというものだ。私が大好きな “フレンチ・ポップスのイエイエ”、 “オールディーズのガール・グループ”、そして “ジャズ・コーラスのシスターズ”... やっぱり音楽は楽しいのが一番だ(^o^)丿
 そんな “シスターズもの” の中で私が特に愛聴しているのがクラーク・シスターズ。さっきYouTubeで検索してみたらゴスペルでも歌いそうな黒人女性4人組がズラ~ッと出てきてビックリした。もちろん同名ながら全く別のグループで、多分あっちの方がポピュラーなんだろうが、私のクラーク・シスターズは1950年代に活躍した白人女性4人組の方である。
 彼女らの前身はトミー・ドーシー楽団のフィーチャリング・カルテットである “ザ・センチメンタリスツ” で、独立後は私の知っているだけでも数枚のアルバムを吹き込んでおり、中でも先輩コーラス・グループの代表曲に挑戦した「ア・サルート・トゥ・ザ・グレイト・シンギング・グループス」(コーラル)、スウィング・バンドで有名になった曲を取り上げた「シング・シング・シング」と「スウィング・アゲイン」(共にドット)の3枚が出色の出来だ。どれにするか迷ったが、アルバム・タイトル曲の抗しがたい魅力で「シング・シング・シング」に決定。
 彼女らはトミー・ドーシー楽団のアレンジャーだったサイ・オリヴァーから “楽器の演奏者のように考え、クリエイトして歌うように” というジャズ・コーラスの基本を徹底的に叩き込まれたということだが、このアルバムでもそのスタイルを貫き、斬新な解釈でモダンなコーラスを聴かせてくれる。
 私がこのアルバムで最も好きなのが⑦「シング・シング・シング」と⑩「チェロキー」である。数年前に映画「スウィング・ガールズ」でも大きくフィーチャーされていた⑦は言わずと知れたベニー・グッドマン楽団のヒット曲で、スイング・エラを代表する1曲だ。イントロのドラム(というかこれはもう “太鼓” という言葉がピッタリ!)に彼女らの洗練されたスキャットが絡んでいく様が実にカッコ良く、縦横無尽に飛び交う4人の歌声は万華鏡のような華やかさだ。⑩でも洗練の極みというべき歌声は絶品で、その変幻自在のコーラス・ワークに引き込まれてしまう。風の中を駆け抜けていくような爽快感がたまらない(≧▽≦)
 グレン・ミラー楽団の④「リトル・ブラン・ジャグ」や⑨「真珠の首飾り」も素晴らしい。2曲とも元歌のイメージを大切にしながらも彼女ら独自の味付けによってウキウキ・ワクワク度が格段にアップしている。
 アルバム冒頭を飾る元親分トミー・ドーシー楽団の大ヒット①「明るい表通りで」は彼女ら最大のヒット曲の再演でもあるのだが、そのせいもあってかヒューマンな味わいを感じさせる落ち着いたナンバーに仕上がっている。同じくトミー・ドーシーの②「オパス・ワン」は、4人の歌声の微妙なブレンド具合が耳に心地良く、私が最高と信じるアニタ・オデイのジーン・クルーパ楽団での名唱に迫る素晴らしい出来になっている。
 4人のイラストが描かれたジャケットから彼女らの歌声が聞こえてきそうなこのアルバム、 “ジャズ・コーラス” というジャンル分けのせいであまり人の口に上ることはないが、私にとっては絶妙なハーモニーでイニシエの名曲をスインギーに楽しめる、こたえられない1枚だ。

The Little Brown Jug 1958 the Clark Sisters



Pete Kelly's Blues / Peggy Lee

2009-06-03 | Jazz Vocal
 昔、ジャズ仲間が集まって “死ぬ間際に聴くとしたら何を聴く?” というテーマで盛り上がったことがあった。 “無人島に持っていくとしたら何?” という、いわゆる “無人島ディスク” 的な発想で一番好きなアルバムを1枚選ぶというのはよくあるテーマだが、この場合、 “死ぬ間際に” というのが曲者で、これはつまり、選ぶ曲/アーティストを大きく左右する条件になりうるものだ。例えば私の場合、ビートルズ関係はこの世に思いっ切り未練が残りそうなのでパス、ハードロック関係もノリが良すぎるし、何よりもうるさくって落ち着いて死んでいられない。ゼッペリンの「天国への階段」なんかテーマにぴったい合いそうだが、あくまでもジャズの中でという但し書き付きだったので、インストよりもヴォーカルが好きな私は迷わず「ペギー・リー」と答えた。
 彼女は以前紹介したドリス・デイと同様にそのキャリアをバンド・シンガーとしてスタートし、やがて独立、持ち前の繊細で魅惑的なハスキー・ヴォイスとその群を抜いた表現力の豊かさでポピュラーとジャズの両方のフィールドで高い評価を得るようになった。
 彼女はベニーー・グッドマン楽団時代のCBS(40年代前半)を皮切りに、キャピトル(40年代後半)→デッカ(50年代前半)→キャピトル(50年代中盤以降70年代初めまで)とレコード会社を移籍し、数々の名盤を残している。世間一般の評価では “ペギー・リーはデッカ時代の「ブラック・コーヒー」(53年)で決まり!” みたいな雰囲気だが、私はそうは思わない。確かにバリバリのジャズ・コンボをバックにスタンダード・ソングを歌うというのはジャズ・ファンが諸手を挙げて歓迎しそうな設定だが、肝心の彼女のヴォーカルがネチっこ過ぎて、まるでこってりした大トロを何個も食っているような感じで耳にもたれ、その歌唱法がまだまだ発展途上にあったことが窺える。そんな彼女が 誰にも真似のできないソフト&ナチュラルな “ペギー節” を確立したのはこの「ピート・ケリーズ・ブルース」(55年)あたりではないだろうか? これは同名映画(邦題は「皆殺しのトランペット」)のサントラ盤で、全12曲中9曲をペギー・リーが歌っている。
 アルバム冒頭を飾る①「オー・ディドント・ヒー・ランブル」は黒人霊歌風の曲で、ゆったりとした歌唱を聴かせるペギーは風格十分、②「シュガー」や③「サムバディー・ラヴズ・ミー」では歌詞を大切にしながら自然に温かく歌う彼女の魅力が溢れている。④「アイム・ゴナ・ミート・マイ・スイーティー・ナウ」でディキシーランド・ジャズの伴奏をバックに聴かせてくれる軽妙なノリは絶品だし、⑤「アイ・ネヴァー・ニュー」、⑥「バイ・バイ・ブラックバード」、⑩「ヒー・ニーズ・ミー」といったスロー・バラッドでは “間の芸術” を活かしながらしっとりとした歌声を聴かせてくれる。
 そしてこのアルバムの中で一番感動したのが⑪「シング・ア・レインボー」。実に素朴な、何の仕掛けもないストレートな歌い方でありながら、わずか2分43秒の中に何と多くの感情がこもっていることだろう!私はこの歌を聴くたびに心が温かくなるのを感じる。言葉と言葉の間の余韻を十分に活かした無理のない自然な歌い方が、このシンプル極まりない曲と見事なマッチングを見せ、 “シンプル・イズ・ベスト” を地で行く名唱となっている。
 「ウィズ・ザ・ビートルズ」に入っている「ティル・ゼア・ワズ・ユー」はポールがペギー・リーのヴァージョン(60年)にインスパイアされて取り上げたものだという。ペギー・リーの大ファンを自認するポールは、74年に「レッツ・ラヴ」という曲をプレゼント、レコーディングにもピアノで参加し、プロデュースまで買って出たぐらいなのだ。天才ポールをも魅了する “ペギー節”、日頃スタンダード・ソングにあまり縁のないポップス・ファンも一度聴いてみては如何だろう?

Peggy Lee - 'Till there was you
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This Is Chris / Chris Connor

2009-05-13 | Jazz Vocal
 1950年代に活躍した女性ヴォーカリストにはスイング・ビッグ・バンド所属のバンド・シンガー出身というパターンが多いことはドリス・デイの時に書いた通りだが、女性のモダン・ジャズ・ヴォーカリストといわれる人達も、モダン・ビッグ・バンドの専属シンガーだった人が多い。ジーン・クルーパ楽団のアニタ・オデイ、スタン・ケントン楽団のジューン・クリスティ、クロード・ソーンヒル楽団のクリス・コナーなどがそうである。
 このアニタ、ジューン、クリスの3人はいずれもスタン・ケントン楽団に在籍していたことがあり、“ケントン・ガールズ”と呼ばれたりもした。彼女達にはハスキーな声質、知性を感じさせるモダンでスマートなフレージングという共通項もあったが、アニタには天性のリズム感の良さが、ジューンにはフレンドリーで気さくなキャラが、そしてクリスにはある種ドライで現代的な新しい感覚があって、そのユニークな個性で聴き手を魅了していた。
 この3人の中で私が最初にハマッたのがクリス・コナーである。彼女の一番の特徴はそのクールな歌い方にあり、その卓越したジャジーなセンスはまさに絶品だった。更に彼女が凄いのはクール&ドライな唱法の中にも非常に情感細やかに歌心を表現しているところである。50 年代半ばから60年代初頭にかけて彼女はベツレヘム、アトランティック、FMといったレーベルに多くの傑作を吹き込んでいるが、中でも三指に入る大名盤がこの「ジス・イズ・クリス」なのだ。
 この盤でまず注目すべきは都会的で洗練された知的なクールネスが売り物のコール・ポーターの曲を4曲も取り上げていることで、それが彼女の資質にぴったりマッチして実にスマートで粋な世界が展開されている。②「イッツ・オールライト・ウィズ・ミー」、⑦「アイ・コンセントレイト・オン・ユー」、⑨「フロム・ジス・モーメント・オン」、⑩「ライディン・ハイ」がそれで、ミディアムから少し速いテンポでスイングするクリスといい、名人芸と言える見事なブラッシュ・ワークを聴かせるオシー・ジョンソンといい、絶妙なバッキングを披露するJ&Kのトロンボーンといい、これ以上の名演があったら教えてほしいくらいの素晴らしい出来だ。又、あまり取り上げられることのない隠れ名曲⑧「オール・ドレスド・アップ・ウィズ・ア・ブロークン・ハート」でのゆったりしたスイング感の表出も見事という他ない。ラルフ・シャロンの“歌伴のお手本のような”ツボを心得たピアノがヒラヒラと宙を舞い、オシー・ジョンソンがここぞという所でスネアの一発をキメる。ベースのミルト・ヒントンも加えたその老練なプレイは歌伴最強トリオの名に恥じない素晴らしいものだ。
 スロー・バラッドではガーシュウィンの③「サムワン・トゥ・ワッチ・オーヴァー・ミー」が出色の出来で、歌詞に込められた切ない想いがビンビン伝わってくる名唱だ。“クリス節”と表現するしかない独特のフェイク唱法が聴ける⑥「ザ・スリル・イズ・ゴーン」ではファースト・ヴァースからセカンド・ヴァースに移る1分15秒あたりのピアノとブラッシュの絡みに背筋がゾクゾクしてしまう。まさに“歌良し・演奏良し・選曲良し”と三拍子そろった、クールで粋でスインギーなジャズ・ヴォーカル・アルバムの金字塔と言っていい1枚だ。

All about Ronny - Chris Connor

She's Something / MAYA

2009-05-06 | Jazz Vocal
 レコ屋でエサ箱を漁っていて店内に流れる音楽に心を奪われ、それがきっかけで未知の盤やアーティストを発見した話はこれまで何度か書いてきたと思うが、このMAYAとの出会いもそんな感じだった。もう7年も前のことになるが、今は亡きミナミの名店ワルツ堂でCDを見ているといきなり「私はピアノ」の軽快なボッサ・カヴァーが店内に鳴り響いた。しかもそれは日本語ではなく、どうやらポルトガル語で歌われているようだ。もちろん個々の単語とか意味とかは全然分からないけれど、アイルトン・セナのインタビューを通してポルトガル語の雰囲気やリズムだけは何となく掴めるようになっていた私は「サザンの曲をブラジリアン・シンガーがカヴァーしてんのか?えらいこっちゃ(>_<) これは買わねば!!!」と大コーフンして早速レジに確認に行くと、それはMAYAというシンガーの「シーズ・サムシング」という盤で、ジャケットには肘をついて気だるそうにこっちを見ている小悪魔系(?)の女性が写っていた。日本人ぽい感じの娘やなぁ... あの発音はハーフかもしれんな... などと考えつつ、「私はピアノ」のポルトガル語ヴァージョンをここで逃がしてたまるかとその場で即購入した。
 家に飛んで帰った私は買ってきたばかりの盤をCDプレーヤーに入れ、トラック・ボタンの5を押した。もちろん⑤「私はピアノ (Eu sou um piano)」である。60年代ロマン歌謡の魅力を凝縮したような原曲が持つ郷愁を増幅させるようにコモエスタなピアノがひらひらと舞い、サウダージなギターがボッサ・リズムを刻む中、MAYAの巻き舌全開のポルトガル語が耳に飛び込んでくる。おぉ、コレめちゃくちゃカッコエエやん!英語と違って何言うてるのか全然わからへんのもミステリアスでエエわ(^o^)丿 ファースト・ヴァースが終わり、哀愁舞い散るギター、歌心溢れるヴィブラフォンと立て続けに素晴らしいソロが展開され、そっちに心を奪われているとセカンド・ヴァースはいきなり “人も羨むよな仲がぁ~♪” と日本語で入ってくる。意表を突かれて “えっ?” と思った途端に “ペロ デレペンテ ノエストラモォ~♪” とポルトガル語にスイッチする、この瞬間がゾクゾクするほどかっこいい(≧▽≦) こんなんカフェで流したらバカウケするやろなぁ... 耳に馴染んだハラボーの “昭和歌謡ヴァージョン” も捨てがたいが、どこまでもクールにキメるMAYAの “ボッサ・スウィング・ヴァージョン” もたまらなく魅力的だ。後で知ったことだが、彼女はれっきとした日本人で、英語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語を独学で勉強しネイティヴ並みのリズムで歌うことを体得したというから驚きだ。とにかくこの1曲で私はすっかりMAYAに魅せられてしまった。
 ②「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」では冒頭の1分10秒間をブラッシュとの掛け合いでひたすら疾走し、ジャズ・フィーリングに溢れる素晴らしいヴォーカルを聞かせてくれる。まるで現代に蘇ったアニタ・オデイのようだ。ゲイリー・バートンみたいなスインギーなヴァイブも、クロード・ウイリアムソンのようなドライヴ感溢れるピアノもすべてが最高だ!
 ギター、ベース、ドラムスのトリオの素晴らしい演奏ををバックにミディアムでスイングする⑥「イズント・シー・ラヴリー」は言わずと知れたスティーヴィー・ワンダーの大ヒット曲だが、彼女はこの名曲を臆することなく見事に自分の世界に引き込んでスインギーなジャズに仕上げている。他にもブラジリアン・フレイヴァー全開の①「フィール・ライク・メイキング・ラヴ」、重厚なベースとのデュオがカッコイイ③「ベサメ・ムーチョ」、ポルトガル語でしっとりと歌う⑩「星に願いを (Se uma estrela aparecer)」と、自分の好きな曲を好きなスタイルで歌う姿勢が素晴らしい。
 彼女はこの後、コロムビア・レーベルに移籍して3枚のCDを出しており、そこでもサザンの「夏をあきらめて」や「恋の女のストーリー」、ミーナの「砂に消えた涙」、コースターズの「ラヴ・ポーション№9」と、ジャンルの枠にとらわれない選曲で楽しませてくれる。特に「キス・オブ・ファイアー」に入ってる「マイアミ・ビーチ・ルンバ」はオシャレな女性ヴォーカル好きにオススメの逸品なので、興味のある方は是非一度聴いてみて下さい。

MAYA 『She's Something』&『Best Of Early Years』より  私はピアノ

Swing Easy! / Frank Sinatra

2009-04-22 | Jazz Vocal
 先週末以来私を苦しめていた無線LANルーター問題がやっと解決した。結局根本的な原因が分からず、原因の特定のための“切り分け”を考えててアタマの中がショートしてしまった私は “初期化リカバリ” という荒ワザで何とか危機を乗り切った。やっぱり困った時はチカラで押し切るに限るわ。もう一度最初からややこしい設定を色々するのはイヤやけど、“ネット繋がらない地獄” よりは遥かにいい。
 私は元々パソコンなんか見るのもイヤなほど毛嫌いしていたし、何よりもIT用語がチンプンカンプンだった。職場で「コンピューター立ち上げといて」と言われて何のことか分からず、座ってたのを立ち上がって大笑いされたぐらいだ。ましてや自分でパソコンを買うなんて論外、いつも「パソコンだけは堪忍して!」と逃げ回っていた。そんなある日、職場研修の一環として「初めてのパソコン」講座というのを受けさせられることになった。「鬱陶しいなぁ...」とムクレている私を尻目に講座が始まった。講師のオネーサンが「堅苦しく考えないで、インターネットに親しみましょう。どのサイトでもいいから自由にクリックしてどんどん見てみて下さいネ(^.^)」と仰ったので私は“ヤフーオークション”→“音楽”→“レコード”→“ジャズヴォーカル”と進んでみた。するといきなり「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」オリジナル盤 58,000円が出てきた。これに大コーフンした私はパソコンへの積年の恐怖心も忘れ、講師のオネーサンの指示を一切無視してレコードやCDを見まくった。結局、講習が終わっても居残りで熱心に(笑)ヤフオクを見まくり、その日以来パソコンは私にとって「探しているレコードやCDが簡単に見つかる魔法の箱」となった。
 その2ヶ月後、夏のボーナスが出た日に私は電機屋に直行しパソコンを購入、数日してネットが開通するとすぐに海外のオークション eBay に参入し、欲しかったレコードを片っ端から検索し始めた。すると日本中のどこのレコ屋を探しても見つからなかった盤が出るわ出るわの宝の山状態(@_@;) しかもビックリするほど安いのだ!!! 特に衝撃的だったのが、数ヶ月前に横浜の廃盤専門店 “ディービーズ” で見つけたものの 18,000円という “ボッタクリ価格” のため泣く泣く諦めたフランク・シナトラの10インチ盤「スイング・イージー」で、それが何と3ドル、つまり360円だったのだ。結局他に誰もビッドせずスタート価格で落札!当時のレートで計算しても送料込みで2,000円以下という信じられない安さである。もうアホらしくて日本のレコ屋でなんて買えやしない。それ以降、LPもCDもほぼすべての盤をネットで買うようになった私にとってこのレコードは “海外オークション第1号” として忘れられない思い出盤となった。
 そして約3週後にブツが届いた。梱包を開けると中から出てきたのはピカピカの10インチ盤。横浜で見たのと全く同じものが超格安で入手できたのだ。早速ドキドキしながらターンテーブルに乗せる。これらの10インチ盤が作られていた50年代前半というのはステレオ技術なんてものはなく、モノラル特有の濃厚な音が塊りになってスピーカーから飛び出してくる。特にシナトラのリッチでゴージャスなヴォーカルは中域に強いモノ録音にピッタリだ。両面併せても8曲、20分にも満たないが、内容はめちゃくちゃ濃い。①「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」、②「アイム・ゴナ・シット・ライト・ダウン・アンド・ライト・マイセルフ・ア・レター」、③「サンデイ」、④「ラップ・ユア・トラブルズ・イン・ドリームズ」、⑤「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」、⑥「ジーパーズ・クリーパーズ」、⑦「ゲット・ハッピー」、⑧「オール・オブ・ミー」と、私の大好きな曲ばかり選ばれているのも嬉しいし、それらの名スタンダードをシナトラがこれ以上ないと言えるぐらいスインギーに歌っているのがたまらない。ジャズ特有の“スイング”という概念は知らない人に説明するのが難しいものだが、私ならこのレコードを聴かせて「これがスイングっちゅーモンや!」と断言するだろう。とにかく男性ジャズ・ヴォーカル盤ではナット・キング・コールの「アフター・ミッドナイト」と双璧をなす最良の1枚だと思う。

Frank Sinatra - Wrap Your Troubles In Dreams
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Here's To Ben / Jacintha

2009-04-17 | Jazz Vocal
 ジャシンタとの出会いは約10年前のことだった。ちょうどスピーカーの買い替えを考えており、オーディオにハマッていた時期である。JBLのバカでかいスピーカーで音楽を全身で浴びるように聴けたら最高やなぁ... なんて考えながら毎日を過ごしていた。そんなある日、たまたま雑誌でオーディオ・フェアの記事を見つけ興味を抱いた私は行ってみることにした。
 会場に着き、アキュフェーズやマッキントッシュといった高級ブランドのブースを廻り終えてブラブラしていると、「JBLスピーカーでのアンプ聴き比べ」をやるというイベント・ルームを見つけたので、早速中に入ってスピーカーの真ん前に座った。正直、アンプによる違いはほとんど分からなかったが、解説のオーディオ評論家が持ってきた試聴用ディスクが凄かった。北斗剛掌波の如き凄まじい音圧に圧倒されたカウント・ベイシー・オーケストラ、ギリギリ軋むベース弦の音が生々しい鈴木勲のスリー・ブラインド・マイス盤復刻xrcd、そしてジャシンタという未知の女性ヴォーカル盤の3枚である。女性ヴォーカルはかなり聴き込んでいたつもりだったが、そんな名前は聞いたこともない。解説氏が言うにはシンガポールを中心に活動しているアジア系ハーフとのこと。タイトルは「ヒアズ・トゥ・ベン」で選曲は「ダニー・ボーイ」だ。なるほど、ベン・ウェブスターへのトリビュートか、などと考えているといきなり無伴奏で「オゥダニボォ~イ」ときた。その後約3分弱アカペラで歌い通すのだが、口中の唾液の動きが聞き取れるほどリアルで鳥肌が立つほどゾクゾクしたのを今でもハッキリと覚えている。そして途中からベースと、ほんの少し遅れてブラッシュが満を持したという感じで入り込んでくる、そのピンと張りつめた緊張感が一瞬フッと宙に消えいくような瞬間がたまらない。歌唱力も抜群で、例えるならホイットニー・ヒューストンの「オールウェイズ・ラヴ・ユー」(映画ボディーガードのテーマ)のジャズ・ヴォーカル版といった感じだった。
 イベント会場を出たその足でミナミとキタのレコード屋を探しまくり、梅田の今はなきLPコーナーでようやく入手。ここは中学の時からビートルズ関係の海賊盤(←懐かしい響き!)でお世話になった大阪の老舗レコード店で、値段が高いのが玉にキズだったが結構掘り出し物にも出会えた貴重なお店だった。毎週レコ屋巡りをしていた頃が懐かしい。ネット時代になってすっかり足が遠のいているうちに気がつけば関西のレコ屋は半減、これも時代の流れなんだろうか?いけない、話が横道にそれてしまった(>_<) このように苦労して手に入れたジャシンタ盤、帰って聴いてみて改めてその素晴らしさを実感した。全9曲中7曲がバラッドなのだが、まったくダレない。①「ジョージア・オン・マイ・マインド」や④「サムホエア・オーヴァー・ザ・レインボウ」で、ローレンス・マラブルがひっそりと擦るブラッシュとテディ・エドワーズの枯れたテナーをバックに水も滴るようなしっとりヴォイスでじっくりと歌い上げるジャシンタがたまらない。そのソフトでシルキー・タッチの歌声はアップ・テンポの②「アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」と⑧「ペニーズ・フロム・ヘヴン」の2曲でも心地よく、めっちゃハッピーな気分にさせてくれる。もしあのイベントに行かなければ彼女のことを知らずにいたかもしれないと思うと、愛聴盤との出会いというのは何とも不思議な巡り合わせやなぁと改めて考えさせられた。

別のアルバムからの音源で、「ワン・レイニー・ナイト・イン・東京」の元ネタとなった「ブールヴァード・オブ・ブロークン・ドリームズ」をどうぞ↓

Jacintha - THE BOULEVARD OF BROKEN DREAMS

It's Time For Tina / Tina Louise

2009-04-11 | Jazz Vocal
 今から約10年ほど前に私が白人女性ヴォーカルに本格的にハマッてブイブイいわしていたある日のこと、いつものように京阪神CDハンティングを終えて難波にあるジャズ専門店“しゃきぺしゅ”に流れ着いてコーヒーをごちそうになっていた時、たまたま壁に掛ってあった1枚のレコードに目が止まった。それはその筋では超有名なティナ・ルイスの「イッツ・タイム・フォー・ティナ」の日本盤LPで、私はジャケットのティナと思わず目が合ってしまった。その目が「買ってぇ~」と訴えかけているように思えた私は次の瞬間、店のご主人に「ちょっと見てもいいですか?」と言いながら壁に掛けてあるジャケットを手にとっていた。うーん素晴らしい... もちろんCDで持ってはいたけれど、やはりLPのジャケットには勝てない。ご覧いただければ一目瞭然、顔やスタイルが美しいのは言うまでもないセクシー系ジャケット(専門用語でcheesecakeって言います)の最右翼と呼べる逸品であり、右手を豊かな金髪にあてている腕の線が綺麗な、いわゆる“腕美人”ジャケットでもある。ここで買わねば男がすたる(なんでやねん!)と思った私はその時はまだLPレコードを聴けるアナログ・プレイヤーを持っていなかったにもかかわらず、その日が給料日で気が大きくなっていたこともあって衝動買いしてしまったのだ(←アホや)。その時はインテリアとして部屋に飾るのに3,400円なら安い買い物だ、ぐらいの気持ちだった。それ以前からアナログLPへの誘惑には必死で抵抗していたのだが、ティナの視殺線にコロッと参ってしまい、とうとうLPの世界に足を踏み入れてしまったという次第。しかし一旦ハマると後はとことんまでイッてしまうコレクターの哀しい性ゆえか、家に帰ってティナのLPジャケットを眺めながらCDを聴いてシアワセな気分に浸っているうちに(←これって最高の贅沢かも...)無性に他のLPも欲しくなってきて、美人女性ヴォーカルをLPで集めようと心に決めた。その後は女性ヴォーカル→インスト・ジャズ→オールディーズ→ビートルズ→その他のロック/ポップスと、好きな盤はすべてオリジナル・アナログLPで集めたのだが、そういった諸々すべてはこのティナ・ルイス盤との出会い(←不純な動機やけど...笑)から始まっており、私の猟盤人生の上で非常に重要な1枚なのだ。
 何だかセクシーなジャケットの話ばかりになってしまったが、中身の歌の方もコールマン・ホーキンスをはじめとする超一流ミュージシャンたちのツボを心得た伴奏をバックにまるで耳元で囁くようにしっとりと歌うティナの艶っぽい歌声がムード満点で、まさにジャケットのイメージ通りの音がスピーカーから聞こえてくる。全12曲、曲想の似通ったナンバーばかりをすべてバラッド・テンポで歌い切っており、普通なら途中で飽きてくるところだが、しっかりとした歌唱力に裏打ちされたその歌声にグイグイ魅き込まれ、43分がアッという間に過ぎていく。特に⑦「イッツ・ビーン・ア・ロング・ロング・タイム」で聴かせる蕩けるような歌声は、ペギー・リー、ドリス・デイ、イヴ・ボスウェル、キティ・カレンらの名唱に比肩する素晴らしさだし、⑤「アイム・イン・ザ・ムード・フォー・ラヴ」でホーキンスの絶妙なオブリガートをバックに聴かせる“ため息”ヴォーカルにはフニャフニャと腰砕け状態になってしまう。とにかく冒頭の“トゥナァ~イ♪”からラストの“グッナァ~イト♪”に至るまで、どの曲もメロディーの一音一音を大切にした素直なヴォーカルで、歌詞に込められた想いがダイレクトに伝わってくる歌い方がめっちゃエエ感じ。ただの“悩ましさ”をウリにしたお色気ヴォーカルとはワケが違う。
 “コンサート・ホール”という通販専門のマイナー・レーベルから発売されたオリジナルLPは軽く数万円はするという超希少盤。こーなってくるともう骨董的価値のある絵画を買うようなレベルだが、その値段がこの盤にそれだけの価値があることを逆説的に証明している。ジャケ良し歌良し演奏良しのこのアルバム... 女性ヴォーカル・ファンなら必聴の1枚だ。

Tina Louise - It's Been A Long Time (1957)
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Blame It On The Bossa Nova / Eydie Gorme

2009-04-05 | Jazz Vocal
 日本人はマイナー調のメロディーが好きだとよく言われる。昔ながらの歌謡曲はもちろんのこと、かつて一世を風靡した「ランバダ」や“泣きのジャズ“の定番「レフト・アローン」を例に挙げるまでもなく、哀愁を帯びた旋律は日本人の心の琴線を震わせやすい。
 80年代中頃にたばこのCMソングとしてイーディー・ゴーメの③「ザ・ギフト」という曲がお茶の間に流れていたことがある。原題を「リカード・ボサ・ノヴァ」といって、ジャズ・ファンの間ではハンク・モブレイの名演で有名なこの曲、哀愁のメロディーとラテンのリズムが見事にハマッた“いかにも日本人好みのする”洒落たボサ・ノヴァで、イーディ・ゴーメという名前を知らなくてもこの曲を聴けば「あぁ、何かどっかで聴いたことあるなぁ...」と思い出す人が多いかもしれない。私もそんな1人で、そのCMが流れていた当時はマドンナやマイケル・ジャクソンといったいわゆる80'sポップス一筋の生活を送っていたため、ボサ・ノヴァもクソもなかった(笑)のだが、それから約10年経ち、女性ヴォーカルに開眼して色々聴き漁っていた頃たまたまこの「ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノヴァ」というアルバムをレコード屋で聴かせてもらい、この曲との再会を果たした。マイナー調のメロディーが大好きな私は「うわぁ~、めっちゃ懐かしい感じのするこのメロディー... たまらんなぁ(≧▽≦)」ということで即購入。厚化粧のオバQみたいなジャケットが玉にキズだが、中身の方は文句の付けようがないくらい素晴らしい。
 ゴーメはデビュー直後の1950年代後半のABCパラマウント時代が声に張りと艶があり彼女の旬だと言われる。確かにその通りだけれど、親しみやすいメロディーを持った名曲の数々を軽快なラテンのリズムに乗って伸びのある歌声でハツラツと歌うこのコロムビア盤の方が遥かに聞きやすいと思う。つまりゴーメとしてはベストではないかもしれないが、聴く方にとってはベストのゴーメだということだ。ましてやこのアルバムが録音されたのはボサ・ノヴァが文字通り“新しい波”として世界的にブームになりつつあった1963年だから、あらゆる条件がプラスに作用し大ヒット(全米アルバム・チャートで22位まで上がった!)したのも頷ける。
 個々の曲に関して言うと、スイートで可愛らしい②「メロディー・ダモール」やエキゾチックな雰囲気横溢の⑤「ダンセロ」、リラクセイション感覚溢れる本格的ボッサ⑦「ディサフィナード」なんか癒し効果抜群だし、エルジー・ビアンキの名唱で有名な④「ザ・スウィーテスト・サウンズ」は哀愁舞い散るメロディーと乾いたボサ・ノヴァがベストのマッチングを聴かせてくれるキラー・チューンだ。アルバム・タイトル曲⑥「ブレイム・イット・オン・ザ・ボサ・ノヴァ(恋はボサ・ノヴァ)」は何とあのバリー・マン&シンシア・ウェルという超強力コンビの作品で、そのせいかポピュラー歌手であるゴーメが全米シングル・チャート7位にまで上がるという快挙を達成、ポップス・ファンにまでその名を知られるようになった記念すべき大ヒット曲だ。私の愛聴曲⑨「オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ」や超有名曲⑩「ムーン・リヴァー」、どちらも他に類を見ないアップ・テンポのボッサ・アレンジで賛否両論あるだろうが、私はめっちゃ気に入っている。マンデル・ロウの軽快なギターが絶品だ。とにかく全12曲、実に聞きやすい歌と演奏のオンパレードで「ザ・ギフト」以外にも聴き所が満載の、“アルバム1枚通して捨て曲なし”といえる名盤だと思う。

Eydie Gorme The Gift!(Recado Bossa Nova)

Doris Day's Greatest Hits

2009-04-02 | Jazz Vocal
 女性ヴォーカルの歴史において1930年代後半から1940年代にかけて “バンド・シンガー” というスタイルが隆盛を極めていた。女性シンガーはまずそのキャリアをビッグ・バンドの専属歌手という形でスタートするというのが一般的だったのだ。ベニー・グッドマン楽団のヘレン・ウォード、マーサ・ティルトン、ペギー・リー、アーティー・ショー楽団のヘレン・フォレスト、ジミー・ドーシー楽団のヘレン・オコネルと、挙げていけばきりがない。紅一点とはよくいったもので、彼女達は持ち前の美貌と小気味よくスイングする見事な歌いっぷりでバンドそのものの人気をも左右するほどの重要な存在となり、やがてバンド・リーダーよりも人気が出てソロとして独立、というパターンも多かった。
 ドリス・デイもそんなバンド・シンガーの1人で、ちょっとハスキーな声とクセのない素直な歌い方が大衆にウケていた。特に1945年にレス・ブラウン楽団をバックに歌った「センチメンタル・ジャーニー」はちょうど第2次大戦終戦と共に帰還する兵士たちの賛歌として爆発的にヒット(9週連続全米№1!)、ポピュラー音楽史に残る屈指の名曲として人々の記憶に深く刻み込まれた。今でもドリス・デイといえば「センチメンタル・ジャーニー」であり、「センチメンタル・ジャーニー」といえば松本伊代、じゃなかったドリス・デイなのだ。
 ソロとして独立後は映画にも出演しながらミリオン・ヒットを連発し、“アメリカ最高の女性ポピュラー・シンガー” と言われるまでになった。あのジョン・レノンが「ディグ・イット」の中で「ドリス・デイ!」と叫んだり、桑田佳祐師匠が「いなせなロコモーション」の中で「あ~なたとドリス・デイ♪」と歌詞に盛り込んだりと、ロックの世界においてもそのポピュラリティは微動だにしない。そんな彼女のソロ独立後のヒット曲を集めたのがこの「ドリス・デイ・グレイテスト・ヒッツ」である。
 全14曲、歯切れの良い1人二重唱がかっこいい①「エヴリバディ・ラヴス・ア・ラヴァー」、歌詞の1語1語の微妙なニュアンスを見事に表現しながら軽快に歌う③「ガイ・イズ・ア・ガイ」、ほのぼのとした雰囲気が彼女にピッタリな⑤「ティーチャーズ・ペット(先生のお気に入り)」、ロジャース&ハートの名バラッドを情感豊かに歌いこなす⑥「ビウィッチド(魅惑されて)」、アップテンポのリズムに乗って溌剌とした歌声を聴かせる⑦「ピロー・トーク(夜を楽しく)」、ヒッチコックの「知りすぎた男」でアカデミー主題歌賞を受賞した名唱⑧「ケ・セラ・セラ」、アップテンポで気持ち良さそうにスイングする⑩「上海」、ナット・キング・コールの名唱に迫る素晴らしさの⑪「ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ(恋に落ちた時)」、ハリー・ジェイムズをフィーチャーしたヴァージョンじゃないのが玉にキズながら彼女のヴォーカルは文句なしに素晴らしいわが愛聴曲⑫「ララバイ・オブ・ブロードウェイ(ブロードウェイの子守唄)」、アップテンポな解釈が多い中スローでしっとりと歌い上げる⑬「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー(情欲の悪魔... って何ちゅう邦題つけるねん!)」、レス・ブラウン時代のリメイクながらそのオリジナル・ヴァージョンを超えた究極の名唱⑭「センチメンタル・ジャーニー」と、どこを切っても“女性ヴォーカルかくあるべし”といえる歌声が楽しめる。
 ③を江利チエミが、⑩を美空ひばりが、⑫をザ・ピーナッツがそれぞれカヴァーしたことでもわかるように、彼女が昭和歌謡の大歌手たちに与えた影響は計り知れない。又、ジャネット・サイデルを始めとする多くのコンテンポラリー・シンガーたちも彼女をリスペクトしてやまない。ドリス・デイ、その歌声は単なるノスタルジーではなく、どんなに時代が変わろうともエヴァーグリーンな輝きを放ち続けるだろう。

Doris Day - Sentimental Journey (remastered)
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After Midnight / Nat King Cole

2009-03-26 | Jazz Vocal
 よく「インスト以前にヴォイスあり」といわれる。「声」こそが最高の楽器であり、「歌」とは突き詰めれば人間の声の魅力に尽きる、ということだろう。特にヴォーカルものに関しては当然声の鑑賞がメインになるので、声によって好きになったり嫌いになったりするケースが圧倒的に多い。いくらバックの演奏が良くっても「この声、イヤやなぁ...(>_<)」という歌手のレコードを聴きたいとは思わない。それともう一つ、その音楽ジャンルに対する向き不向きというのも重要なポイントだ。ジャズの男性ヴォーカルにおいて、その軽快なスイング感を表現するのに暑苦しいくどい歌い方はあまり向いていない。あっさり系の声の持ち主で洒脱な表現力を持ったシンガーこそがスタンダード・ソングを歌うに相応しい。そういったことを踏まえて考えれば、最高の男性ジャズ・ヴォーカリストはナット・キング・コールだと思う。
 彼は元々ピアノ・トリオのリーダー兼ピアニストとして40年代から活躍していたが、ある晩クラブに出演中に酔っ払った客からぜひ歌も唄ってくれとしつこくせがまれ、ピアノを弾きながら歌ってみたら大好評だったのでその後自分のトリオでも弾き語りスタイルを取り入れ、徐々にジャズ・ピアニストからポピュラー・シンガーへと変身していったという。やがて50年代に入り本格的にソロ・シンガーに転向して数多くのヒットを飛ばすのだが、やはりジャズへの思いは断ちがたかったのか、56年にウィリー・スミスやハリー・エディソン、スタッフ・スミスといったジャズ界の名うての名手たちを集めて録音されたのがこの「アフター・ミッドナイト」なのだ。彼は様々なフォーマットの録音を残しているが、やはりスモール・コンボで小気味よくスイングするスタイルが一番だ。だから往年のトリオ時代をも凌ぐ圧倒的なスイング感を誇るこのレコードこそが彼のベストなのだ。①「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」ではウキウキするようなリズムに乗ってピアノが、ギターが、アルトが、そしてヴォーカルが縦横無尽にスイングする。コールの歯切れの良いリズミカルなフレージングがめちゃくちゃカッコいい...(≧▽≦) ③「サムタイムズ・アイム・ハッピー」はコールの温か味のある歌声が心に染みる印象的なバラッドで、スタッフ・スミスのヴァイオリンが実にエエ味を出している。⑤「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」はまさにナット・キング・コール・トリオの魅力が凝縮されたような歌と演奏で、コンボが一体となって展開するスイング感溢れる粋なプレイはジャズ・ヴォーカルの理想形。これ以上の名演があったら教えてほしいものだ。⑥「ユーアー・ルッキング・アット・ミー」はウィリー・スミスのアルトが醸し出す退廃的な雰囲気の中、一言一言を噛み締めるように歌うコールの歌声に聴き入ってしまう。⑧「ドント・レット・イット・ゴートゥ・ユア・ヘッド」はミディアムでスイングするコールとピタッと寄り添うアルトのオブリガート、間奏のさりげないピアノに至るまでそのすべてがめっちゃジャジーでこういうのを肩肘張らない名演というのだろう。⑪「ホエン・アイ・グロウ・トゥー・オールド・トゥ・ドリーム」はスロー・テンポで歌いながらスイングさせてしまうというコールの秘奥義が堪能できる。このように自分の持ち味を最大限に活かせるような選曲のセンスも凄いと言わざるを得ない。⑫「ルート66」はボビー・トゥループのオリジナル曲だが、今では完全に「コールの代表曲」として定着した感がある。この声、この歌い回し、このスイング感...すべてが粋なジャズ・ヴォーカルの名演集だ。

It's Onlly A Paper Moon/Nat King Cole

Anita Sings The Most / Anita O'Day

2009-03-11 | Jazz Vocal
 「真夏の夜のジャズ」という映画がある。58年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルの模様を記録したコンサート・ドキュメンタリー・フィルムで、様々なミュージシャンの貴重な映像が満載なのだが、中でも私が一番好きなのはアニタ・オデイが登場するシーンである。黒のノースリーブにつばの広い黒い帽子という全身黒ずくめのスタイルで、いかにも女ざかりという風情のアニタ姐御がクールにスイングする「スウィート・ジョージア・ブラウン」と「二人でお茶を」のカッコ良さ(≧▽≦) その声、その仕草、そのムード... そのすべてが粋なアニタのパフォーマンスは私に強烈なインパクトを残した。今でも街でつばの広い帽子をかぶったエレガントな女性(滅多にいないが...笑)を見かけると思わずハッとしてしまう。
 アニタ・オデイのキャリアは古く、40年代にはジーン・クルーパ楽団やスタン・ケントン楽団のバンド・シンガーとして脚光を浴び、50年代にはソロとしてヴァーヴ・レーベルに多数の傑作アルバムを吹き込んでいる。そんな彼女のレコードの中でもとりわけ私が好きなのがこの「アニタ・シングズ・ザ・モスト」なのだ。アニタのレコード数あれど、これほど歌心溢れる盤が他にあるだろうか?彼女をいつも以上にのせているのはジャズ・ピアノの巨匠、オスカー・ピーターソンその人である。縦横無尽にアドリブをかましながらスタンダード・ソングを歌いこなすアニタをガッチリと受け止め、得意の速弾きではなく歌伴のお手本のような絶妙なオブリガートでアニタをリードしていくあたりに彼の真価を見る思いがする。①「ス・ワンダフル~誰も奪えぬこの想い」のガーシュウィン・メドレーではアップ・テンポからスローへと見事なチェンジ・オブ・ペースをみせるアニタといい、スインギーな伴奏で彼女をしっかりと支えるピーターソン・カルテットといい、まさに“ス・ワンダフル”だ。③「オールド・デヴィル・ムーン」では一見投げやりに聞こえる彼女の歌い方が、逆にジャジーな雰囲気を醸し出しているのが凄い。ハーブ・エリスの軽快なギター・ソロも文句なし。“喉に快適ハーブ・エキス、耳に快適ハーブ・エリス”のキャッチ・コピー(?)はダテじゃない。前半のハイライトといえる④「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」ではアニタの専売特許といえる変幻自在のフェイク唱法が炸裂し、全員が一体となって駆け抜けるスピード感がたまらない。
 ミディアムでスイングする⑤「また会う日まで」に続く⑥「ステラ・バイ・スターライト」ではスローな歌い出しからミディアムへとテンポ・アップし再びスローでシメるという①とは逆パターンの構成で、アニタの堂々たる歌いっぷりにはトップ・ジャズ・ヴォーカリストとしての風格が漂う。私がこのアルバムの中で一番好きなのが⑦「テイキング・ア・チャンス・オン・ラヴ」で、ピーターソンの絶妙なバッキングに乗って軽やかにスイングするアニタの何と粋なことよ(^o^)丿 この粋がわからなければジャズ・ヴォーカルは愉しめない。素晴らしいリズム・セクションを得て自由自在に歌いまくるアニタの悦びがダイレクトに伝わってくるキラー・チューンだ。⑧「ゼム・ゼア・アイズ」でのスキャットを多用しながら疾走するアニタとスリリングなブラッシュのソロ・チェンジ、あまりにカッコ良くて息を呑む素晴らしさだ。⑩「ユー・ターンド・ザ・テーブルズ・オン・ミー」ではレイ・ブラウンの重量級ウォーキング・ベースがアニタにピッタリ寄り添い、うねるようなグルーヴを生み出している。
 このアルバムはアニタにピーターソン・カルテットという、スイングすることにかけては右に出るものがいない最強コンビが作り上げたジャズ・ヴォーカルの金字塔なのだ。

アニタ・オデイ - 二人でお茶を

Helen Merrill

2009-03-05 | Jazz Vocal
 これは“ニューヨークのため息”と呼ばれたヘレン・メリルのデビュー・アルバムであり、私が初めて買ったジャズ・ヴォーカル盤でもある。それからもう15年以上が経ち、何百回と聴いているはずなのにまったく飽きない。いや、飽きるどころか聴くたびに魅了されてしまう。原題はシンプルに「Helen Merrill」、邦題はもちろん「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」... 泣く子も黙るジャズ・ヴォーカル・アルバムの金字塔である。
 世間ではこのアルバムは「クリフォード・ブラウンのトランペットを聴くべき1枚」ということになっており、右を見ても左を見てもブラウニー絶賛の嵐で、ヘレン・メリルのヴォーカルに関してはアホの一つ覚えみたいに「ハスキー」の一点張りである。挙句の果てには“ブラウニーさえいればヴォーカルは別に彼女でなくてもいい”などという極論まで出てくる始末(>_<) 確かに私だってブラウニーのトランペットが聴きたくてこの盤をターンテーブルに乗せることが多いが、だからといってもしヴォーカルが他のシンガーだったとしたらこのアルバムがこれほどまでに人々の心を捉えることはなかっただろう。ヘレンの大人の色香を発散するくすみ色したハスキー・ヴォイスがブラウニーの煌びやかなトランペットの音色と絶妙なコントラストを生み出し、眩いばかりの艶々したサウンドを引き立てている点を過小評価してはいけない。
 それと忘れてならないのがオシー・ジョンソンの見事なブラッシュ・ワークである。フェザー・タッチで巧みにメリハリをつけながら音楽をスイングさせていく匠の技とでもいおうか、そのツボを心得た至高の名人芸といえる鉄壁のリズムがあったからこそ、ブラウニーはあれほどまでに気持ちよく吹けたのではないだろうか?リズム・セクションが良ければ名演が生まれるという最高の一例だ。
 このアルバムのハイライトは何といってもコール・ポーターの名曲②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」である。オシー・ジョンソンの瀟洒なブラッシュ、ジミー・ジョーンズの歌心溢れるピアノ、ミルト・ヒントンの律儀なベース、ヘレンのこれ以上ないと思えるくらい曲想にピッタリ合った粋な歌い方、そしてそれらが渾然一体となってスイングしているところへ勢い良く切れ込んでくるブラウニーのトランペットという按配で、「ジャズ・ヴォーカルとは何ぞや?」と問われれば黙ってこの曲を差し出したいくらい素晴らしい、まさに絵に描いたような名曲名演だ。クインシー・ジョーンズの絶妙な器楽アレンジの貢献度も大と見た。以前アップした青江三奈のヴァージョンと聴き比べるのも一興だろう。
 ヘレンがミディアムでスイングする④「フォーリング・イン・ラヴ・ウィズ・ラヴ」では、1分12秒からの“オスカー・ペティフォードの弾むようなセロ → キラキラと輝く流麗なピアノ → 変幻自在のトランペット”と絶品のソロが続くあたりが一番の聴き所。特によく唄うペティフォードのプレイにはセロという楽器に対する見方を瞠目させる深い味わいがある。アップテンポで軽快にスイングする⑦「ス・ワンダフル」では又々ブラッシュが大活躍、タル・ファーロウを思わせるバリー・ガルブレイスのギター・ソロも悪くはないが、ここでもやはりブラウニーが美味しい所を持っていく... 1分49秒からの息もつかせぬ展開が圧巻だ。
 とにかくこの奇跡のようなアルバムは“歌良し、演奏良し、ジャケット良し!”とすべての点において最高位にランクされる、ジャズ・ヴォーカルの入門盤であり、永久盤だと思う。

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Around Midnight / Julie London

2009-02-27 | Jazz Vocal
 ジュリー・ロンドンは本物の美人である。ルックスを問題にするのはけしからん!と言われるかもしれないが、やはり女性ヴォーカルは雰囲気なんである。前にも書いたが私は「女性ヴォーカル盤はジャケットで買え!」を座右の銘としていて、ジャケットが良くて好きな曲が入っていれば必ず買ってしまう。ジャケットを眺め、歌ってる姿を想像しながら聴いてどこが悪いねん!と開き直って(笑)悦楽の境地を楽しんでいる。私がジャズに興味を持ち、特に女性ヴォーカルを中心に聴き始めた頃、まず最初にハマッたのが彼女だった。当然、CDの小さなジャケでは満足できない。かといって大きけりゃ何でもエエのかというと、再発LPはカラーコピー並みの粗雑なジャケット写真が気に入らない。で、どうせ金を払って買うのなら趣味の世界ぐらい贅沢したれということでピカピカのコーティングが施された美麗オリジナル盤を探すことにした。彼女の場合、メジャーな歌手ということで希少性が低く、オリジ盤を血眼になって探している熱狂的マニアの対象外だったことも幸いし、一部の人気盤を除けば5,000円前後で入手できたのがラッキーだった。この「アラウンド・ミッドナイト」もそんな1枚で、大阪難波の EAST で5,800円、このお店の値付けはホンマに良心的でリーズナブルだ。ジュリーの全作品中一、二を争う人気盤が盤・ジャケット共に極上コンディションでこのお値段!エサ箱の中に見つけた時は嬉しくてたまらなかった(^o^)丿 ジュリーは何と言ってもあの低い、ハスキーを通り越してセクシーな声がたまらない魅力で、一度その虜になったら離れられない。何度聴いてもゾクゾクしてしまう。このアルバムは彼女の全盛期である1960年に録音された1枚で、ビッグ・バンドをバックにゴージャスな歌声を聴かせてくれる。①「ラウンド・ミッドナイト」では物憂げなストリングス・オーケストラの伴奏と彼女のやるせない超スロー・ヴォーカルがバッチリ合っていて、見事に真夜中のムードを表現している。地を這うようなベースのイントロで始まる②「ロンリー・ナイト・イン・パリス」は夫のボビー・トゥループ書き下ろしのスインギーなナンバーで、彼女の抑制の効いた歌い方がめちゃくちゃジャジーでカッコイイ。再びスローで迫る③「ミスティ」は秀逸なオーケストラ・アレンジ(特に木管)が彼女のあっさりした歌声と相まって実に爽やかな雰囲気を醸し出しており、とてもリラックスできる仕上がりだ。④「ブラック・コーヒー」はペギー・リーの名唱とタイマンを張れるくらいの出来映えで、彼女の気だるい歌い方がブルージーなムードを高めている。⑤⑥⑦とスロー・バラッドの三連投下で「もうそろそろ...」というこちらの気持ちを見透かしたかのようにミディアムでスイングする⑧「あなたと夜と音楽と」は彼女のハスキー・ヴォイスの魅力全開で迫ってくる。ガーシュウィンの⑪「バット・ノット・フォー・ミー」は⑧と並ぶこのアルバム最大の聴き所で、軽やかにスイングするジュリーが最高だ。特に1分42秒からの「ア~ィ ワァ~ザァ~ フ~♪」と語尾を伸ばすところなんかもうたまらない(≧▽≦) この曲のマイ・フェイヴァリット・ヴァージョンだ。ジャケットはジュリーの全身時計(?)が7時を指すデザインで、裏ジャケでは文字盤に曲名がダブッて印刷されている。よくよく見ると「ラウンド・ミッドナイト」が0時、「イン・ザ・ウィ・スモール・アワーズ...」が1時、「ドント・スモーク・イン・ベッド」が2時、「ブラック・コーヒー」が3時、「ザ・パーティーズ・オーバー」が4時というように曲名と時刻を上手く引っ掛けてあり、そのあたりの洒落たセンスにも脱帽だ。これは粋なスタンダード・ソングを夜のムードで見事に表現した、都会的センス溢れる名作だと思う。

Julie London - You And The Night And The Music

My Baby Just Cares For Me / Nina Simone

2009-02-19 | Jazz Vocal
 イギリスのミュージック・シーンはとても面白いところで、時々信じられないような珍現象が起きる。広大な土地を持つアメリカとは違い、日本と同様狭い島国のため局所的なブームがあっという間にイギリス全土に広がっていくのだろう。
 80'sポップス全盛時代、私はラジオで全米&全英チャートを毎週チェックするだけでは飽き足らず、テレビでも「ベスト・ヒットUSA」や「MTVジャパン」を見ていた。87年の秋のこと、BSで「全英トップ20」を見ていると突然ニーナ・シモンの「マイ・ベイビー・ジャスト・ケアーズ・フォー・ミー」が5位に入ってきた。バリバリのジャズ・ヴォーカルである。当時の私はジャズのジャの字も知らないロック/ポップス一筋人間だったので、自分がそれまで聴いてきた音楽とは明らかに異質なサウンド... 感情を抑制したかのようなクールなヴォーカル、何かを語りかけてくるような歌心溢れるピアノ、エレベとは明らかに違うアコベのリアルな響き、そして脳の快楽中枢を刺激する瀟洒なブラッシュ... すべてが新鮮で、その“古くて新しい”サウンドに耳が釘付けになった。確かにそれまでにも何の前触れもなくいきなりジャッキー・ウィルソンやエディ・コクランがチャート・インしてきてビックリしたことはあったが、それらはあくまでも同じポップスというジャンルの中でのリバイバル・ヒットだったので、オールディーズ好きのイギリス人の嗜好を考えれば頷ける話だった。しかしこの曲は57年録音の生粋のジャズ・ヴォーカル。バナナラマやジョージ・マイケル、ペット・ショップ・ボーイズといった80'sダンス・ビート・サウンドの中でポツンと、しかし力強く自己主張するニーナ・シモンの歌声は強烈なインパクトがあった。そしてこれが私にとってジャズ・ヴォーカルとの初遭遇となった。
 私の好きなジャズ・ヴォーカルのスタイルは「クールに、軽やかに、粋にスイング!」、これに尽きる。できればハスキーな声でビッグバンドよりもスモール・コンボをバックに、小さなクラブでスタンダード・ソングを歌うような感じがベストだ。だからクリス・コナーやアニタ・オデイ、ヘレン・メリルといったハスキー系白人女性ヴォーカルが大好きなのだが、このニーナ・シモンのヴォーカルには黒人ヴォーカル特有のネチッこさがなく実に洗練されていてカッコイイのだ。それともう一つ、この曲の魅力を高めている要因として、実にユニークなミュージック・ビデオの存在が挙げられる。ネコのクレイアニメを巧く使ったこのビデオがなかったら私もこれほどまでにハマらなかったかもしれない。特に間奏部分でのピアノ、ベース、ブラッシュのモノクロ映像がミディアム・スローでゆったりとスイングする演奏とコワイぐらいにピッタリ合っていて、こんな手法もあったのかと感心させられる。とにかくこれは私の中では5指に入るほどのお気に入りビデオ・クリップなのだ。その後私は90年代半ばになって初めて本格的にジャズを聴き始めることになるのだが、ひょっとするとこの時に私のDNAの中にジャジーなサウンドの刷り込みがなされたのかもしれない。とにかくジャズ・ヴォーカルなんて取っ付きにくそうでちょっと... というポップス・ファンでも目と耳の両方で楽しめる、実に聴きやすくてクリエイティヴな作品だと思う。

Nina Simone - My Baby Just Cares For Me