shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

If I Were A Bell / Doris Day

2012-04-23 | Jazz Vocal
 少し間が空いてしまったが、今日からまた “ドリス・デイ祭り” 再開である。まずは前回やった1950年代前半の続編からいこう。まだ本格的なLP時代に入っていなかったこともあって、この時期にリリースされた彼女の50枚近いシングル盤音源の多くがLP未収録の憂き目にあっており、CD時代に入ってようやく色んなベスト盤に少しずつ入るようになったのだが、そんな “オリジナル・アルバム未収録のシングル盤音源” の中で私が特に気に入っているのが以下の5曲。③は10インチ盤「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」に、④⑤は12インチ盤「グレイテスト・ヒッツ」にそれぞれ収録されていたが、①②はあまり知られていないレアな音源だ。

①If I Were A Bell
 ポールもリスペクトする大作曲家、フランク・レッサーの名曲「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」は私の大好きな曲で、この “ドリス・デイ祭り” を通じて初めて彼女が歌うヴァージョンの存在を知った。早速 YouTube で試聴してみると、ビッグバンドを従えてダイナミックにスイングするパワフルな歌唱が圧巻で、アルバム未収録ということで埋もれさせてしまうには惜しい名演だ。
 ただ、YouTube にアップされてるのは間違いなくドリス・デイの歌声なのだが、「Girl Next Door」「Absolutely Essential」「Bewitched」といったベスト盤CD に入っている音源はその声や歌い方から判断してどうしても彼女のものとは思えない。真相を確かめるために eBay でオリジナルのシングル盤を獲ってみたら、やっぱり YouTube のが本物だった。尚、アマゾンの MP3 ダウンロード版では2種類ともアップされているが、2:45ヴァージョンが偽物で 2:58ヴァージョンの方が本物だ。興味のある方は一度聴き比べてみて下さいな。
Doris Day - If I Were A Bell


②From This Moment On
 この「フロム・ジス・モーメント・オン」も我が愛聴曲で、①と同じく “祭り” の最中に YouTube でドリス・デイを集中的にチェックしていてたまたま見つけたのだが、一瞬クリス・コナーかと思わせるくらいハスキーな歌声がすっかり気に入って、この曲が入っているドリス・デイ盤CDを調べ上げてUKアマゾンで即ゲット。廃盤を £1.35(180円!)で買えてラッキーラララである。「センチメンタル・ジャーニー」のノスタルジックな歌声とは別人のようなジャジーなヴォーカルは一聴の価値アリだ。
Doris Day - From This Moment On


③Just One Of Those Things
 10インチ盤「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」収録の全8曲中で他を引き離して圧倒的に素晴らしいトラックがこの「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングズ」だ。前回取り上げた「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」の時にも書いたが、 “アップテンポで軽やかにスイングするドリス・デイ” の魅力は筆舌に尽くし難い。後半部で炸裂するバディ・コールの疾走感溢れるピアノ・ソロもめっちゃスインギーで名演度アップに大きく貢献している。やっぱりジャズはインストもヴォーカルもスイングしなけりゃ意味ないですね(^o^)丿
Doris Day - Just One of Those Things


④Shanghai
 美空ひばり、ペギー・リーと並ぶこの曲の三大名唱と私が信じて疑わないのがドリス・デイのこのヴァージョン。弾むようにスイングする彼女の歌声が耳に心地良い。ただ、ここに貼り付けた YouTube の音源もそうだが、まるで風呂場で歌っているかのように過剰なエコーがかけられた不自然なミックスのものが結構出回っているので要注意だ。
Doris Day ~~ Shanghai


⑤A Guy Is A Guy
 私がこの曲を知ったのは江利チエミのヴァージョンで、ずっとそれが自分の中のベンチマークだったのだが、このドリス・デイ・ヴァージョンはチエミと双璧を成す素晴らしさである。そういえば車の中でこの曲が鳴った時、横に乗ってたウチの母親が “エエ声やな...” と即座に反応したのにはビックリした。さすがはウチのおかん、エエ耳しとるわ(笑)
Doris Day: A Guy is a Guy


Young Man With A Horn / Doris Day

2012-04-12 | Jazz Vocal
 転勤のドタバタや新しい職場の雰囲気が自分に合わないこともあって、気持ちの落ち込みに比例してブログの更新ペースも落ち気味だが、やっとのことで “ドリス・デイ祭り” 第2回である。まず手始めに1949年から1955年までの10インチLPと12インチLPのディスコグラフィーを作ってみた。

☆Doris Day Discography Pt.1: 1949-1955
 【10インチLP 】
  1949 You're My Thrill
  1950 Young Man With A Horn
      Tea For Two
  1951 Lullaby Of Broadway
      On Moonlight Bay
      I'll See You In My Dreams
  1953 By The Light Of The Silvery Moon
      Calamity Jane
  1954 Young At Heart

 【12インチLP】
  1954 Young Man With A Horn (同名10インチ盤に4曲追加したもの)
  1955 Day Dreams (10インチ盤「You're My Thrill」に4曲追加したもの)
      Love Me Or Leave Me

 この時期のドリス・デイはどちらかというと私が苦手とするミュージカル仕立てのアレンジの作品が少なくないので愛聴盤は自ずと限られてくるのだが、そんな中で私が断トツに気に入っているのがハリー・ジェイムズのトランペットをフィーチャーしたスインギーな「ヤング・マン・ウィズ・ア・ホーン」。このアルバムは10インチ盤(黄色いジャケのヤツ)と12インチ盤の2種類あるが、全ドリス・デイ作品中1,2を争うキラー・チューン⑫「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」他4曲が追加収録された12インチ盤の方がオススメだ(←まぁCDでは関係ないですけど...)。
 自分にとって“普通の曲”を“愛聴曲”に変えてしまうような強烈なインパクトを持った歌・演奏こそが真の名唱・名演だと私は思うのだが、それまで全くのノーマークだった「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」という曲の素晴らしさを私に教えてくれたのがドリス・デイの⑫で、ウキウキワクワクするような曲想、絶妙なオブリガートでヴォーカルを引き立てるハリー・ジェイムズの職人技、そして弾むようにスイングするドリス・デイの歌声と、ありとあらゆる要素が私のスイート・スポットを直撃! とにかく “アップテンポで軽やかにスイングするドリス・デイ” を楽しむならこの曲に限るだろう。私はサビの “Milkman’s on his way♪”(牛乳配達の男がもう来てるよ)と “Let's call it a day♪”(これで今日は終わりにしよう)の部分が大好きで、その流れるようなメロディーに作者ハリー・ウォーレンの天才を見る思いがする。
 因みに「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」というそのものズバリのタイトルが付けられた10インチ盤に収められているのはフランク・コムストック・オーケストラとノーマン・ルボフ合唱団をバックにした別ヴァージョンで、そっちの方はアレンジとかコーラス処理とかがミュージカルっぽくてあまり好きではない。やっぱりドリス・デイの「ララバイ・オブ・ブロードウェイ」はハリー・ジェイムズ・ヴァージョンに尽きると思う。
 10インチ盤、12インチ盤共にアルバム「ヤング・マン・ウィズ・ア・ホーン」の1曲目を飾っているのが①「アイ・メイ・ビー・ロング」で、イントロのほんの数小節のトランペットの輝かしい音色を聴いただけでこれから素晴らしい音楽が始まる雰囲気が醸し出される。そして実際、ハリー・ジェイムズのトランペットに先導されたドリス・デイのヴォーカルは水を得た魚のようにスイングし、快調そのもの。特に間奏が終わった直後の “I may be wrong but I think you're wonderful~♪”(1:48~)のヴォーカル・フレージングなんかもうたまりませんわ(≧▽≦)
 この2曲以外では、③「ザ・ヴェリー・ソート・オブ・ユー」、⑦「トゥー・マーベラス・フォー・ワーズ」、⑨「アイ・オンリー・ハヴ・アイズ・フォー・ユー」、⑪「ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート」といったスロー・バラッドがの雰囲気抜群でエエ感じ。尚、②「ザ・マン・アイ・ラヴ」、⑤「メランコリー・ラプソディ」、⑧「ゲット・ハッピー」、⑩「ライムハウス・ブルース」の4曲はドリス・デイのヴォーカルが入っていないハリー・ジェイムズ楽団単独の演奏によるインスト・ナンバーなので要注意だ。

DORIS DAY - LULLABY OF BROADWAY


Doris Day :::: I May Be Wrong. ( But I Think You're Wonderful )
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The Complete Doris Day with Les Brown

2012-04-02 | Jazz Vocal
 “ポールが取り上げたスタンダード・ナンバー” の特集中に当ブログ最高顧問の(←キダ・タローかよ!)みながわさんがドリス・デイに興味を持たれた。私は彼女の大ファンでレコードやCDもかなり持っており、これまでは何も考えずに気の向くままに聴いてきたのだが、せっかくなのでこの機会に時系列に沿って彼女の作品を整理してみようと思う。
 彼女のキャリアのスタートはレス・ブラウン楽団のバンド・シンガーであり、1940年から1946年の間にコロムビアの傍系レーベルであるオーケー(Okeh)に42曲吹き込んでいる。今日はその中から私的お気に入りトップ3をご紹介;

①Sentimental Journey
 ドリス・デイといえば何はさておき「センチメンタル・ジャーニー」である。1944年にリリースされたこのオリジナル・ヴァージョンは、たまたま第二次大戦の終戦と時期的に重なったこともあって、恋しい故郷を目指すというその歌詞の内容が遠い戦地へ赴任している兵士たちの望郷の念と見事にリンクして大ヒット、今では押しも押されぬポップ・スタンダード・ナンバーだ。
 レス・ブラウン楽団の古式ゆかしい演奏の向こうから“ゴォ~ナ テイクァ♪” と彼女のハスキーな歌声がスーッと立ち昇ってくる瞬間の言葉に出来ない心地良さ(^o^)丿 これはもう女性ヴォーカル・ファンにとっては悦楽の世界である。seven と heaven で韻を踏むサビの部分なんかもうたまらんたまらん! 列車の揺れを表現したかのようなバックのゆったりしたリズムがこれまた耳に心地良いし、管楽器を甘く泳がせるレス・ブラウン楽団のサウンドもノスタルジックな雰囲気を高め、彼女の持ち味を極限まで引き出している。
Doris Day - Sentimental Journey [1944]


 因みに彼女は1964年にこの曲をセルフ・カヴァー(→65年リリースのアルバム「センチメンタル・ジャーニー」に収録)している。ノスタルジー度ではオリジナルに軍配が上がるが、私的にはジャジーで粋なアレンジと彼女の円熟した歌声がたまらないこちらの再録ヴァージョンの方を愛聴している。皆さんはどっちがお好みですか?
Sentimental Journey 訳詞付- Doris Day [1964]


②I Got The Sun In The Morning
 アーヴィング・バーリンが「アニーよ銃を取れ」のために書いたこの曲は、日本では「朝に太陽、夜は月」という竹を割ったような潔い直訳邦題を付けられているが、思わず口ずさんでしまいそうなキャッチーなメロディーに心が躍るナンバーだ。レス・ブラウン楽団も弾むような演奏に乗ってのびのびと歌うドリス・デイのヴォーカルが実に自然で気持ち良い。
I Got The Sun In The Morning [1946]


 彼女はこの曲も1960年にアルバム「ショウタイム」用に再録音しているが、私はシンプルなアレンジでストレートに歌うオリジナル・ヴァージョンの瑞々しい歌声には遠く及ばないと思っている。先の「センチメンタル・ジャーニー」と同様に、オリジナルとセルフ・カヴァーの聴き比べで音楽的嗜好が分かれるところも一興だ。
Doris Day - I Got The Sun In The Morning [1960]


③Aren't You Glad You're You
 ハスキーでありながら高音部が伸びていた40年代ドリス・デイの歌声は、花に例えると “開きかけの蕾” といった感じで、愛くるしさの中にほのかな色香が薫っているところがたまらなくキュート。そんな彼女のヴォーカルがほのぼのとした曲想とバッチリ合った隠れ名唱がこの曲で、ザクザクと刻むリズムといい、転がるようなピアノの間奏といい、レス・ブラウン楽団の演奏も聴き応え十分だ。ドリス・デイに限らず、この時代の音楽には何か聴き手をホッとさせるサムシングがあるように思う。
Doris Day - Aren't You Glad You're You
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DELICIOUS / JUJU

2011-12-22 | Jazz Vocal
 先日いつものようにパソコンを立ち上げてヤフーのトップページを見ると、ニュース下にある “今知っておきたいエンターテインメント情報” 欄に “ジャズ初心者にもオススメ。JUJUが初のジャズカヴァーアルバム「DELICIOUS」を語る。” という記事があった。ジャズがエンタメのニュースになること自体珍しいが、それよりも私の関心を引いたのは JUJU というシンガーだった。
 私が彼女の存在を知ったのは去年のことで、マイラバの「Hello Again ~昔からある場所~」をカヴァーしたPVを YouTube で見てエエなぁと思ったのが最初だった。彼女はカヴァーだけでなくオリジナル曲でもコンスタントにヒットを飛ばしている人気歌手らしいのだが、今時の J-Pop に何の興味も関心もない私と彼女の接点はマイラバのカヴァー1曲のみで、それ以降彼女のことはすっかり忘れていた。
 ところが先月だったか、CS放送でF1 を見終わった後、テレビをそのままつけっ放しにしていたところ、 “JUJU苑” と題した彼女のライヴ番組が始まったのだ。 “あぁ、マイラバをカヴァーしてたあの歌手か... 一体どんな曲を歌うんやろ?” と思って見ていると、中森明菜の「セカンド・ラヴ」や小林明子の「恋におちて」といった邦楽に混じって何とエルトン・ジョンの「ユア・ソング」やキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」といった洋楽の名曲をカヴァーしているのだ。特に「ユア・ソング」は名唱と言っていい素晴らしさで、“JUJU って有象無象の J-Pop 歌手とは違うんやな...” と感心したものだった。そういうわけで JUJU がジャズを歌っているという記事に興味を引かれた私は早速ネットでそのジャズ・カヴァー・アルバム「DELICIOUS」について調べてみることにした。
 私は未知のジャズ・ヴォーカル盤に出会うとまずその選曲を見る。過去の経験から言って、自分の好きなスタンダード・ソングを多く取り上げている歌手は十中八九気に入るものだ。そういう意味で、この「DELICIOUS」の選曲は私の趣味にピッタリで、②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」に⑦「ララバイ・オブ・バードランド」という “コレが入ってたら絶対に買います” レベルのスーパー・ウルトラ愛聴曲を始め、③「ナイト・アンド・デイ」、④「キャンディー」、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」、⑥「ガール・トーク」、⑨「キサス・キサス・キサス」と、まるでこちらの嗜好を見透かしたかのような名曲のアメアラレ攻撃である。アマゾンで試聴してみた感じもかなり良かったので、Blue Note Tokyo でのライヴを収録したDVD付きの初回生産限定盤を注文することにした。再販制度という摩訶不思議なシステム(笑)のおかげでDVD付きの方が安いのだ。(私は2,980円で買ったけど、さっきアマゾン見たら6,280円になっとった... おぉこわ!)
 このアルバムで聴ける彼女のヴォーカルはリラクセイション感覚に溢れる癒し系。YouTube の関連動画にあった彼女の J-Pop 曲では、いかにも今の若者にウケそうな “声を作って歌う” 歌唱法が少々鼻につくが、このアルバムではスタンダード・ソングへの愛情とリスペクト故か、肩の力を抜いて自然体で歌っているところが◎。JUJU には J-Pop よりも Jazz が良く似合う。
 桑田佳祐師匠の「夷撫悶太レイト・ショー」や「歌謡サスペンス劇場」を手掛けた島健氏がアレンジを担当、ピアニストとしても歌心・遊び心に溢れるプレイを披露しており、このアルバムの成功の多くは彼に負う所が大きいと思う。特に②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」ではヘレン・メリルの、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」ではジュリー・ロンドンの、⑦「ララバイ・オブ・バードランド」ではサラ・ヴォーンの決定的名演に敬意を払いながら JUJU の魅力を巧く引き出しているところが素晴らしい。
 インタビューを読んで知ったのだが、彼女は芸名の JUJU をウエイン・ショーターのブルーノート盤から取った(←アーチー・シェップじゃなくてよかったわ... 笑)というぐらい年季の入ったジャズ・ファンらしい。このアルバムではそんな彼女が長年聴き込んできたスタンダード・ソングの数々をストレートに歌い上げており、実に聴きやすくて心地良いヴォーカルが楽しめる。そのへんの軽薄 J-Pop 歌手が話題作りのためにジャズ・アルバムを作ってみました、というのとはワケが違うのだ。特に、シングル・カットされた⑦「ララバイ・オブ・バードランド」で聴かせる彼女のDNAの一部と化したジャズ成分を巧く散りばめた歌唱はまさに絶品で、その微妙なくずし具合に彼女のジャズ愛を見る思いがする。
 それともう一つ彼女が凄いのはそれぞれのスタンダード・ソングの歌詞の内容をしっかりと理解しているということ。以前「ジャズ詩大全」の筆者である村尾陸男氏が、日本の“自称”ジャズ・シンガーの中には歌詞の意味をよくわからずに歌っている人が少なくないと嘆いておられたが、下に貼り付けた彼女のライヴ MC を聞けばわかるように、英語に堪能な彼女は歌詞の意味をしっかりと理解し、噛みしめながら歌っている。⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」では自分をふった男に対して “何よ今更...” 、⑨「キサス・キサス・キサス」では曖昧な態度を取る男に対して “多分、とかじゃなくてハッキリ言ってよ!” というオンナの気持ちを巧く表現しているし、“あなたと離れるたびに私の心が少し死んでいく” と歌う⑪「エヴリタイム・ウィー・セイ・グッドバイ」では恋する女性の切ない想いを見事に歌い上げている。
 アマゾンや YouTube の書き込みを見ると “めっちゃエエ雰囲気!” という肯定的な意見と “こんなのジャズじゃない!” という否定的な意見の賛否両論真っ二つに分かれて喧々諤々で中々面白い。昔スイング・ジャーナルというジャズの雑誌で “フランク・シナトラはジャズ・ヴォーカルか否か” という不毛な論争を読んで “アホくさ...” と思うと同時に不快感を覚えたことを今思い出したが、感性で音楽を楽しむのではなく理屈で音楽を “語りたがる” 連中は、クラシックやジャズを崇め奉り、逆にロックやポップスを軽視する傾向があるような気がする。同じ音楽なのに何と心の狭いことか。ジャズ界の巨匠デューク・エリントンの有名な言葉に「音楽を型にはめ、分類するのはおかしい。そんなことは無意味だ。世の中には2種類の音楽しかない。良い音楽とつまらない音楽だよ。」というのがあったが、まったくもって同感だ。音楽に高尚もクソもないのだ。
 偉大なる先人達による名演への敬意を払いながら、愛するスタンダード・ソングの数々を自分のスタイルでストレートに歌い上げる JUJU の Jazz は素晴らしい。大好きなスヌーピーをフィーチャーし、ご自慢の(?)美脚を惜しげもなく披露したジャケットも含め、ジャジーな雰囲気横溢の素敵なヴォーカル・アルバムだ。

Lullaby Of Birdland


A Woman Needs Jazz / You'd Be So Nice To Come Home To


Night And Day / Candy


Cry Me A River / Girl Talk
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Hello, Satchmo! / Louis Armstrong

2010-07-01 | Jazz Vocal
 空耳貢献アーティスト・シリーズ(?)もマイコー、プリンスに続いて3回目、今日はジャズ界随一の空耳アーティストで、サッチモの愛称でも親しまれているルイ・アームストロングでいってみよう。
 彼は1920年代から活躍していたジャズ・トランペッターの巨匠なのだが、一般の音楽ファンにとっては独特のしわがれ声のヴォーカリストとしての方が有名だろう。特に日本では彼のヒット曲「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド(この素晴らしき世界)」が1980年代にホンダ・シビックのCMソングとして頻繁にテレビで流れていたので彼の歌声を耳にしたことのある人も多いはずだ。又、1964年の2月1日から5月2日までの14週に亘って全米№1を独占したビートルズ(「抱きしめたい」~「シー・ラヴズ・ユー」~「キャント・バイ・ミー・ラヴ」)の連続記録にストップをかけた「ハロー・ドーリー」を歌っていたオッサンが他でもないこのルイ・アームストロングというのもビートルズ・ファンの間ではよく知られた話だ。
 彼の魅力は何と言ってもその温か味溢れる歌声にある。美声とは程遠いしわがれ声だし、それほど歌唱力があるようにも思えないのだが、彼が歌うとどんな歌でもハートフルな響きでもって聴く者の心にスーッと沁み入ってくるのだ。若い頃は彼の良さがあまり分からなかったが、最近になってやっとこのワン・アンド・オンリーな魅力に開眼した。ロック一辺倒だったのが様々な音楽を聴いて耳が肥えてきたのか、ただ単に人間が丸くなったのかは分からない。
 まぁどういう理由であれ今ではサッチモを楽しめるようになってメデタシメデタシなのだが、そのきっかけになったのが例によって空耳アワーというのだから人生何がどう転ぶか分からない(^.^) で、私をサッチモ・ファンにしたケッサク空耳が下に貼り付けた3曲で、それぞれ「オチ・チョ・ニ・ヤ」は1分23秒に “鼻から母乳~♪” 、「チーク・トゥ・チーク」は2分25秒に “できれば スパゲティ~♪” 、「エイプリル・イン・ポーチュガル(ポルトガルの四月)」は0分44秒に “あんさん、日本人~♪” と聞こえるのだ。モノは試し、空耳未体験の方は一度聴いてみて下さいな。
 何だかとんでもない紹介の仕方になってしまったが、そんなサッチモの決定版CDとなると活動時期が長い分迷ってしまうが、藤子不二雄が描いたジャケットの魅力でこの「ハロー・サッチモ」にしよう。①「ハロー・ドーリー」、②「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」はもちろんのこと、空耳3曲中⑯「オチ・チョ・ニ・ヤ」と⑬「エイプリル・イン・ポーチュガル」の2曲もちゃーんと入っている。「チーク・トゥ・チーク」はヴァーヴの名盤「エラ・アンド・ルイ」を買って、歌伴のお手本のようなオスカー・ピーターソン・トリオの粋な演奏も一緒に楽しむのがいいと思う(^.^)
 上記の曲以外で特に気に入っているのは、オールド・ジャズの楽しさ溢れる③「ホエン・ザ・セインツ・ゴー・マーチング・イン(聖者の行進)」、⑥「ジーパーズ・クリーパーズ」、⑦「キャバレー」、⑧「ラ・ヴィ・アン・ローズ(バラ色の人生)」、⑰「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」あたりで、どれもこれも彼の持ち味が良く出た名唱だ。一度サッチモの渋い歌声の魅力にハマると中々抜け出せない。
 音楽のスタイルだけで言えば確かに古臭さは否めないが、彼の滋味溢れる歌声には時代を超えて心に響くサムシングがある。そんなサッチモの魅力を凝縮したようなこの CD 、楽しいジャケットと相まって気に入っている1枚だ。

Louis Armstrong - Otchi-Tchor-Ni-Ya


Louis Armstrong & Ella Fitzgerald - Cheek to Cheek (Heaven)


April in Portugal

Old Boyfriends / Claire Martin

2010-05-13 | Jazz Vocal
 ジャズの女性ヴォーカルというのはインストを受け持つバック・バンドのフォーマットによってかなり雰囲気が違ってくる。私はいくら好きなシンガーであっても、ストリングス・オーケストラをバックに切々と歌い上げるパターン(ジューン・クリスティーのキャピトル盤やクリス・コナーのアトランティック盤の内の何枚か)は苦手なので滅多に聴かない。大好きなアップテンポのものでも、どちらかというとビッグ・バンドを従えてバックの大音量に負けないようにダイナミックな歌唱を聴かせるタイプよりも、スモール・コンボをバックにジャジーにスイングするタイプの盤の方が好きで、そんな “クールに、軽やかに、粋にスイング” するジャズ・ヴォーカル愛聴盤の1枚がイギリスの美人ヴォーカリスト、クレア・マーティンの「オールド・ボーイフレンズ」だ。
 彼女は1992年にイギリスのリン・レーベルから「ザ・ウエイティング・ゲーム」でデビュー、いきなりザ・タイムズ誌から “レコード・オブ・ザ・イヤー” の1枚に選ばれ、翌93年リリースの 2nd アルバム「デヴィル・メイ・ケアー」で早くも “ファースト・レディ・オブ・UKジャズ” の地位を確立、その勢いに乗って94年にリリースしたのがこの「オールド・ボーイフレンズ」なのだ。
 このアルバムの一番の魅力はその圧倒的なスイング感にある。トロンボーンをフィーチャーしたカルテットが弾むようにスイングし、ハスキーな彼女のヴォーカルが冴えわたるという理想的な展開に涙ちょちょぎれる。美人女性ヴォーカル盤の鑑のようなジャケットも雰囲気抜群だ。しかもレーベルはイギリスの超高級オーディオ・メーカーのリンである。そうそう、リンと言えば忘れもしない280万円(!)のCDプレイヤー CD-12を聴かせてもらったことがあるのだが、全く不純物ゼロというか、それはもうどこまでも透明感溢れる美しい音だった。演奏の隅々まで透けて見えそうなそのサウンドはオーディオ的には究極と言えそうな感じ(←私的には同時に聴かせてもらったスチューダーのガッツ溢れる音の方が数段好きだが...)で、リンの音の魅力にハマった人は中々抜け出せないとのことで、オーディオ・マニアの間では “リン病” と呼ばれているらしい(笑) アカン、話がオゲレツな方へと逸れてしまった(>_<) 私はこのアルバムが大好きなので LP と CD の両方持っており、CD のカッティング・レベルがちょっと低いように思うけど、どちらもリンらしい整然としたサウンドだ。
 私がこのアルバムで断トツに好きなのが⑤「ムーン・レイ」だ。スイング時代にベニー・グッドマンと張り合うほどの人気を誇ったクラリネット奏者アーティー・ショウが作曲した心の琴線を揺さぶるマイナー調のメロディーを持った名曲だが、名花ヘレン・フォレストが歌ったこのスローなナンバーを大胆不敵なアレンジでオキテ破りの高速化、実にカッコ良いモダン・ジャズに仕上げているのだ。ワインディングを軽快に飛ばしていく小粋なフランス車(ルノー・アルピーヌとか...)を想わせるその疾走感溢れる演奏は圧巻で、フィリー・ジョーのような瀟洒なブラッシュが炸裂し、ポール・チェンバースみたいによく歌うベースがブンブン唸り、ウイントン・ケリーみたいなピアノが弾けまくり、モダンなジャズ・ヴォーカルの王道と言えるハスキー・ヴォイスが縦横無尽にスイングするという、まさに言うことナシのキラー・チューン。これ以上の名演があったら教えを乞いたいくらいだ。
 ⑤以外ではギターが加わったクインテットでゆったりとスイングする③「パートナーズ・イン・クライム」や歌心溢れるボントロ(←初心者の頃、すしネタのことやと思ってた...笑)とミディアムでスイングするピアノに心を奪われる④「チェイスド・アウト」、モダンなジャズ・ヴォーカルの醍醐味が楽しめる急速調ナンバー⑦「アウト・オブ・コンチネンタル・マインド」、彼女のハスキーな声質が曲想とベストなマッチングを見せる⑨「ザ・ホイーラーズ・アンド・ディーラーズ」,ガーシュウィンの「我が恋はここに」を裏返しにしたような旋律をイギリス流に料理した⑪「ジェントルマン・フレンド」など、聴き所も満載だ。
 クレア・マーティンの数多いアルバムの中でも最もスインギーでジャジーなこのアルバムはバックのインストと彼女のヴォーカルが実に高い次元でバランスされており、彼女の一番の魅力であるリズムへの抜群なノリやドライヴ感溢れるモダンな歌い方が堪能できる、90年代ジャズ・ヴォーカルを代表する1枚だ。

ムーン・レイ

Hummin' To Myself / Linda Ronstadt

2010-02-24 | Jazz Vocal
 リンロン・ウイークの最終回は、この祭りを始めるきっかけになったジャズ・アルバム「ハミン・トゥ・マイセルフ」だ。90年代以降の彼女は自分のルーツ・ミュージックであるメキシコ音楽集をはじめ、フル・ラテン・アルバムや70's回帰カントリー・ロック盤、挙句の果てに子守唄アルバム(何とクイーンの「ウィー・ウィル・ロック・ユー」までもが換骨堕胎されてエンヤみたいなサウンドになってます...)まで作ってしまうという無軌道ぶり(笑)。もうやりたい放題という感じの姐さんだったが、2000年に出したクリスマス・アルバムを最後に30年近く在籍してきたエレクトラ/アサイラム・レーベルを離れ、移籍した先が何とヴァーヴ、ジャズの専門レーベルである。早速 “リンダ・ロンシュタット・ジャズ・プロジェクト” がスタートし、腕利きのジャズメンがバックを固めて制作されたのが、2004年にリリースされたこの「ハミン・トゥ・マイセルフ」なのだ。
 リンロンとジャスと言うとすぐに思い浮かぶのが例のネルソン・リドル3部作だが、あの3枚が甘美なアレンジを施されたウィズ・ストリングス物だったのに対し、このアルバムは小編成のジャズ・コンボを従えた本格的なジャズ・アルバムだ。私もあの3枚は大好きだが、ウィズ・ストリングス物というのはたま~に聴くからエエのであって、四六時中あんなのばっかり聴いてたら頭がボケてしまう(笑) やっぱりジャズはスイングしなけりゃ意味がない。そして今回、そのスイングの根底を支えているのがクリスチャン・マクブライド(b)、ルイス・ナッシュ(ds)、そしてアレンジも担当しているアラン・ブロードベント(p)という、当代きってのリズム・セクションである。フリューゲルホーンは何とあのロイ・ハーグローヴだ。これはもうバリバリのジャズではないか!私ははやる心を抑えてトレイにディスクをセットした。
 私はCDを聴く時、大抵は1曲目からではなく知っている曲、それも好きな曲から聴く。この盤もまず⑦「ブルー・プレリュード」の選曲ボタンを押した。哀愁のスタンダード・ナンバーとしては五指に入る名曲だ。イントロからいきなりクリスチャン・マクブライドのベースがブンブン唸る。太い指がまるで阿修羅のようにベースに絡みついていく様が目に見えるようだ。やがて “Let me cry, let me sigh...” とリンロンのヴォーカルが入り、ワン・コーラス歌った後、スルスルとブラッシュが滑り込んできてピアノが寄り添う...この一瞬のゾクゾク感がたまらない(≧▽≦)  リンロンのリズムへの乗り方も完全にジャズ・ヴォーカルのそれだ。とても58歳とは思えない張りのある艶やかな歌声も相変わらず健在で、大好きな曲にまた一つ大好きなヴァージョンが加わったのが何よりも嬉しい(^o^)丿
 ジュリー・ロンドンの決定的名唱で有名な③「クライ・ミー・ア・リヴァー」では抑制されたヴォーカルの中に細やかな感情を込めてじっくりと歌い切っており、聴き応え十分だ。えも言われぬ哀感を醸し出すセロがエエ仕事しとります。ルイス・ナッシュのブラッシュも相変わらず巧いなぁ...(^.^) コール・ポーターの⑤「ミス・オーティス・リグレッツ」ではセロに加えてヴィオラまでフィーチャーされているが、こっちはドラムレスでやや甘口の演奏に終始しているのが残念(>_<) 甘いスロー・バラッドだからこそナッシュの瀟洒なブラッシュで演奏をキリッと引き締めてほしかった。
 ⑥「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー」はリンロンにピッタリのバラッドで、情感豊かに迫るリンロン節が全開だ。ロイ・ハーグローヴのよく歌うフリューゲルホーン・ソロも絶品で、叙情味溢れるトラックになっている。古式ゆかしいスイング・リズムとリンロンの歌声が絶妙にマッチした④「ハミン・トゥ・マイセルフ」なんかまるでスイング時代のジャズ・シンガーの歌を聴いているようだ。クラリネット・ソロも彼女の名唱に彩りを添えており、さすがはアルバム・タイトルにもってくるだけのことはある素晴らしいトラックだと思う。スローから入って転調し、スインギーに歌い切る⑩「ゲット・アウト・オブ・タウン」も貫録十分だ。
 ピンクを基調としたジャケット(レーベルもピンク色!)に写るリンロンは年齢を感じさせない美しさ。その容姿といい、声量といい、まったく衰える気配がないのが凄い。これは還暦を間近に控えますます元気な歌姫リンロンが作り上げた本格的なジャズ・ヴォーカル・アルバムだ。そういう意味で、ジャズ好きのリンロン・マニアとしてはこたえられない1枚なのだ。

ハミン・トゥ・マイセルフ


アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー

What's New / Linda Ronstadt

2010-02-23 | Jazz Vocal
 リンロン・スペシャル・ウイークもいよいよ終盤に突入、今日は “ムード満点でジャジーなリンロン” だ。とまぁ今でこそこうしていけしゃあしゃあとこの「ホワッツ・ニュー」を “愛聴盤です!” と紹介しているが、この盤が出た1984年当時 “マイケル、マドンナ、ヴァン・ヘイレン” 状態だった私にとって、全曲スタンダード・ナンバーで固めたこのアルバムはまさに青天の霹靂と言ってよく、一体何がどーなってるのかサッパリ分からなかった。
 そもそも「シンプル・ドリームス」→「リヴィング・イン・ザ・USA」→「マッド・ラヴ」→「ゲット・クローサー」と徐々にロック色を強めつつあったリンロンが何でまた急にオーケストラをバックに艶めかしい声で “ホワッツ・ニュ~♪” って歌わなアカンねん?それにこのネルソン・リドルってオッサン、一体何者?ネルソン・ピケの親戚か?といった塩梅で、スタンダード・ナンバーの何たるかも全く知らなかった私にはこの珠玉の名曲集が軟弱なムード・ミュージックにしか聞こえず、大いに失望したものだった。繰り返すが何と言っても “マイケル、マドンナ、ヴァン・ヘイレン” である。そんなポップ・ロック一筋人間にスタンダードもへったくれもない(笑) 例えるなら毎日カレーやハンバーグ、ピザばかり食ってる人間にいきなり精進料理を食わせるようなものだ。それに同じスロー・バラッドでも「ブルー・バイユー」と「ホワッツ・ニュー」では明らかに曲の佇まいというか、醸し出す雰囲気が違うということだけは、鈍感な私ですら肌で感じることが出来た。結局私はこの「ホワッツ・ニュー」('84年)とその続編「ラッシュ・ライフ」('85年)、さらに続々編「フォー・センチメンタル・リーズンズ」('86年)のいわゆる “ネルソン・リドル三部作” を完全に無視、その後何事もなかったかのようにこの3枚のことはサッパリ忘れ、「サムホェア・アウト・ゼア」でポップス・シーンに復帰したリンロンに大喜びしていた。
 そうこうするうち90年代に入り、急につまらなくなった洋楽ポップスと絶縁した私は自分が熱中できる対象の音楽としてジャズを聴き始めた。ジャズにはインスト物とヴォーカル物があり、私はモードやフリーといった変な要素が入りにくいヴォーカル物に魅かれていき、初めてスタンダード・ナンバーの素晴らしさを知った。そこで改めてこの「ホワッツ・ニュー」がドーン!と私の前に屹立したのである。どーだ参ったかと降臨ましましたのである。これはもう “ハハァ~” と平伏すしかないm(__)m 思えばこのアルバムのリリースから既に10年以上が経ち、私も音楽を聴く幅が広がったのか、人間が丸くなったのか、とにかくあれほど嫌だったストリングスのサウンドが耳に心地良い。この時私はジャジーなリンロンの魅力に開眼したのだ。
 このアルバムには全9曲が収められており、そのどれもが心に沁みいるバラッドだ。第1声 “ホワッツ・ニュ~♪” の凄まじい吸引力によってこの曲のニュー・スタンダードになった感のある①「ホワッツ・ニュー」、ヴァースからテーマに入る瞬間がゾクゾクするほど素晴らしい②「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー」、渋いトーチ・ソングを切々と歌う③「ティアーズ・アウト・トゥ・ドライ」、ムード満点のテナー、ピアノ、ヴァイブの伴奏に乗った伸びやかなリンロンのヴォーカルがたまらない④「クレイジー・ヒー・コールズ・ミー」、ネルソン・リドルのユニークなアレンジが光る⑤「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー」、リンロンの歌声が曲想とピッタリ合ったコワイぐらいの名唱⑥「ゴースト・オブ・ア・チャンス」、アーヴィング・バーリンの美曲を更に美しく歌い上げた⑦「ホワット・ウィル・アイ・ドゥ」、リンロンのエモーショナルなヴォーカルと歌心溢れるトロンボーンの絡みに耳が吸いつく⑧「ラヴァー・マン」、まるでベテランのジャズ・シンガーのように難曲を歌いこなす⑨「グッドバイ」と、スタンダード集初挑戦でよくもまぁこれだけ聴きごたえのあるアルバム作ったよなぁ... と感心してしまうような見事な内容だ。
 “ミス・アメリカ” と呼ばれるくらいポップ・フィールドで人気絶頂だったウエスト・コーストの歌姫がシナトラとの共演でも知られるネルソン・リドル・オーケストラの豊潤なサウンドをバックに渋~いスタンダードを歌ったこのアルバム、10年後にその真価が分かったニクイ1枚だ。

What's New Linda Ronstadt


Linda Ronstadt & the Nelson Riddle Orchestra I've Got A Crush On You
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P-Rhythm / 森川七月

2009-08-24 | Jazz Vocal
 昨日に続いて今日も森川七月、なっちゃんでいこう。彼女のデビュー・アルバム「& ジャズ」はスイング・ジャーナルみたいな音楽雑誌がプッシュする多くのエセ・ジャズ・ヴォーカル・アルバムを一瞬にして闇に葬り去るほどの衝撃性を持っていた。彼女はいかにも “日本人が歌っています” 的な不自然さがつきまとう凡百の日本人シンガーとは生まれ持った声質、リズムへの乗り方、ダイナミックなスイング感と、すべてにおいて次元が違う本格派ヴォーカリストで、私の知る限り、日本のジャズ・ヴォーカル界にとって10年に1人の逸材だと思う。しかし実力だけでは成功しないのがこの世界、サバイバル・レースの勝利者となるためにはその素晴らしい個性をいかに多くの人々に知ってもらうかが大きなポイントになってくる。そういう意味ではデビュー・アルバムで高い評価を得た彼女は新人としての第1ハードルを見事にクリアし、勝負を誰もが期待する2作目へと持ち込んだのだ。
 ジャンルを問わず音楽シーンのジンクスとして、新人にとって2作目のアルバムというのは鬼門である。デビュー・アルバムで自分のやりたいことをやり尽くしたというケースも多く、選曲面での新鮮味をも含めた楽曲の充実を継続するのも難しいのだ。ましてや1作目が好評であれば当然まわりの期待も高まるし、それに比例してプレッシャーも大きくなる。そんな中、彼女の 2nd アルバム「P-リズム」はまったくタイプの違う3人のアレンジャーを起用し、スインギーでストレートアヘッドなフォービート・ジャズ中心だった 1st に比べ、どちらかというとスロー・バラッド色の強い落ち着いた内容になっている。
 彼女の言葉によるとアルバム・タイトルの「P-リズム」は「プリズム」、つまりプリズムのレンズのようにジャズやポップスの名曲を通して7色の楽しみ(何ちゅーても “七月” やからね...)を聴く人に与えたいとのこと、しかもP は Pops の P をも意味し、 “ポップなリズム” という気持ちも込めたという。中々粋な発想だ。アルバムはビル・エヴァンスで有名な①「マイ・フーリッシュ・ハート」で始まるが、ギターとのデュオという超シンプルなフォーマットによって彼女の甘くて切ない歌声が際立っている。ムードたっぷりな歌い方が曲想とバッチリ合ってて中々エエ感じだ。②「ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル(いそしぎ)」ではアコギのリズム・カッティングとパーカッションが生み出すレイドバックした雰囲気の中、しっとりとした歌声を聴かせる彼女には風格すら感じられる。「レッツ・ダンス」のヒットで知られるクリス・モンテスの1966年のカムバック・ヒット③「コール・ミー」ではギター、パーカッションとのトリオというシンプルな編成で、ミディアム・テンポで気持ち良さそうにスイングしており、バックの女性コーラスも清涼感アップに一役買っている。
 ④「愛のコリーダ」ではクインシー・ジョーンズの名刺代わりのダンス・ナンバーを大胆不敵に超スローの低空飛行。実に不思議なグルーヴ感だ。続く⑤「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」では1930年に作られたこの古い歌にパーカッションのチャカポコ・リズムやレゲエ独特のベース・ライン、そしてラスタなキーボードが付けるアクセントによって強調されたバック・ビートというユニークなレゲエ・アレンジを施しているが、何だか痛車のペイントをされたクラシック・カーみたいな感じは否めない。ドライバー(= 歌い手)が超一流なので救われてはいるが、前作でも見られたアレンジのやり過ぎが本作にも散見される。特に彼女のような素晴らしい歌手の場合は味付けに凝り過ぎて素材本来の美味さを殺してしまう下手くそな料理みたいにあれこれ小賢しいアレンジに走らず、もっとストレートに歌わせた方が絶対にエエと思うけどなぁ...(>_<) 所属レーベルの GIZA studio というのがビーイング傘下のレコード会社ということで、その点だけが心配だ。
 ⑥「マシュ・ケ・ナダ」はノリノリで弾けるようなボッサ・チューンで、慣れないポルトガル語に挑戦しながらも見事なグルーヴ感を生み出す彼女はただ者ではない。やっぱりアップ・テンポの曲が入るとアルバムが引き締まってエエもんだ。次作ではこの流れで「リカード・ボサノヴァ」あたりを歌ってくれたらめっちゃ嬉しいねんけど。マライア・・キャリーのカヴァー⑦「アイ・スティル・ビリーヴ」は小学生の時にこの曲ばかりを聴いていたという思い入れの深い曲ということで、なっちゃん気合い入りまくり...(^.^) 自らの持ち味を存分に活かしたメローでしっとりした歌声は言葉を失う素晴らしさだ。
 ⑧「クロース・トゥ・ユー」はアレンジがマヌーシュ・ギタリストの井上知樹氏(カフェ・マヌーシュの山本佳史氏とも共演していた人)だけあって、意表を突いてアップ・テンポのスインギーなジプシー・ジャズが展開される。ほぼ100%バラッドだろうとタカをくくっていたのでこれにはビックリするやら嬉しいやら...(^o^)丿 こんな楽しい「クロース・トゥ・ユー」は他ではちょっと聴けません。しかも彼女のヴォーカルはそれまでの自分のスタイルを少し変え、まるでカレン・カーペンターが乗り移ったかのような、しなやかさの中にも芯の強さを感じさせるような歌声なのだ。いやはや、まったく凄いヴォーカリストが現れたものだ(≧▽≦) ラストを締めくくる⑨「ミスティ」ではシンプル&ストレートにこのスタンダード・バラッドの定番曲を歌う。このシックな雰囲気がたまりません...(^.^)
 すっかり彼女の大ファンになった私はネットで彼女のオフィシャル・サイトを見つけ、そこから彼女のブログ(ブックマークにも入れときました)に辿り着いたのだが、読んでみるとこれがもうめちゃくちゃ面白い。素顔の彼女はこの7月に24才になったばかりのごくごくフツーの女の子で、それもコッテコテの大阪娘(笑)なのだ。それが一旦歌い出すとまったく別人のように風格さえ感じさせる圧倒的な歌声で聴く者を虜にしていく。そのギャップがこれまた面白い。 “声だけで聴きたくなる” シンガー、森川七月。次のアルバムが今からもう待ちきれない。

↓3分43秒からがなっちゃんの出番。前後の歌手とはヴォーカルの吸引力が月とスッポンほど違う。
6/21 hillsパン工場 saturday live

& Jazz / 森川七月

2009-08-23 | Jazz Vocal
 音楽ファンの楽しみの一つは未知のアーティストとの出会いである。特にリアルタイムで活動しているマイナーなアーティストの中からダイヤモンドの原石を掘り当てた時の喜びは格別なモノがある。私は古い音楽ばっかり聴いていてコンテンポラリーな音楽シーンに非常に疎いため、中々そういった幸運には恵まれないのだが、つい最近めちゃくちゃ素晴らしい女性ヴォーカリストに巡り合った。それが今日ご紹介する森川七月(なつき)、愛称 “なっちゃん” である。
 彼女のことを知ったのはいつものようにアマゾンでジャズ・ヴォーカル関連のアルバムを見ていて、例のおせっかいな(笑) “この商品を買った人はこんな商品も買っています” 欄にたまたま彼女のアルバムが入っていたのが事の始まり。何の気なしにクリックしてみるとアルバムの選曲がめっちゃツボだったのでとりあえず聴いてみたくなり、アマゾンには試聴システムがなかったので iTunes ストアで検索すると一発ヒット、試聴クリックしてみるとパソコンのショボいスピーカーからそんなハンデをものともしない、実に感じの良い歌声が聞こえてきたのだ。どの曲をクリックしてもハズレ無しの素晴らしさ。これは凄い!!!と大コーフンしてしまい、真夜中だというのに時間も忘れて彼女の他のアルバムを全てチェック、その声にすっかり惚れ込んだ私が彼女の全アルバムをオーダーし終えた頃には東の空が白み始めていた。
 2日後に届いたのは実姉の森田葉月とのデュオ・ライブ盤「ジャズ・カヴァー」、ソロになっての 1st 「& ジャズ」、 2nd 「P-リズム」、そして 3rd 「プリマヴェーラ」の計4枚である。それぞれ特徴があって素晴らしいのだが、中でも彼女にハマるきっかけとなったソロ・デビュー作「& ジャズ」が一番気に入った。
 私の場合、ヴォーカルでもインストでも初めて見るCDはまずその収録曲目をチェックする。過去の経験から言って、曲の趣味が似ているアーティストはたいてい歌や演奏も当たりの可能性が高い。上に書いたようにこのアルバムの収録曲はコワイほど私の愛聴曲ばかりで、特に①から④へと続くスインギーな流れは圧巻だ。その①「ララバイ・オブ・バードランド」、関西ジャズ界の重鎮である魚谷のぶまさ氏(高槻ジャズ・ストリートでの歌心溢れるベース・プレイは凄かった...)の力強いベース・ソロに続いて彼女の歌声がスルスルと滑り込んでくる瞬間がもうゾクゾクするほど素晴らしい!その水も滴るしっとりヴォーカルは絶品で、これがホンマに22才の歌声なのか??? と疑いたくなる。英語の発音も他の日本人シンガーに比べると遙かに上手く、magic が “マズィック” に聞こえる以外は違和感はまったくない。続く②「オール・オブ・ミー」では一転してジャンゴ・スタイルで軽やかにスイングする。その表現力はお見事、という他ない卓越したもので、私はポリー・ポードウェルの名唱を思い出してしまった。③「イッツ・ア・シン・トゥ・テル・ア・ライ」ではイントロから 1st ヴァースの部分に昔のラジオから聞こえてくるようなエフェクトをかけて古き良き時代の雰囲気を醸し出しておいて 2nd ヴァースからいきなり21世紀へと瞬間移動したかのような粋な演出で楽しませてくれる。これは彼女のアイデアなのかな?もしそうだとしたら空恐ろしい22才だ。それもこれも含めて、私が今まで聴いてきた中でこの曲のダントツ№1ヴァージョンだと思う。
 快調に飛ばすブラッシュに乗って絶妙なスイング感を披露する④「ラヴァー・カム・バック・トゥ・ミー」と、バラッドでも安定感抜群なところをみせる⑤「スターダスト」というこの2曲の流れはひょっとして美空ひばりを意識してのものだろうか?いやはや、まったく凄い新人が現れたものだ。意表を突くラテンでコモエスタな⑥「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー」でも、とても新人とは思えない堂々たる歌いっぷりを披露する。ややアレンジが凝り過ぎの感があるがそれを補って余りあるような深~い歌声がたまらない⑦「アントニオズ・ソング」、ブルージーなスライド・ギターをバックにアンニュイなヴォーカルを聴かせる⑧「ホワイ・ドンチュー・ドゥ・ライト」、タンゴ・アレンジが斬新な⑨「ア・テイスト・オブ・ハニー」と実にヴァラエティーに富んだナツキ・ワールドは一度ハマると抜け出せない。
 キャロル・キングの⑩「イッツ・トゥー・レイト」とエルトン・ジョンの⑪「ユア・ソング」というポップス・カヴァーは多分彼女自身が好きで歌いたかったのだろう。どちらも気持ちの込もったヴォーカルを聴かせてくれる。それにしてもホントに惚れ惚れするような深みのある声の持ち主だ。この1週間、スーパー・ヘヴィー・ローテーションで聴きまくっているが、飽きるどころかずーっと聴いていたいと思わせる素晴らしさ。綾戸智絵系のソウルフルなヴォーカルとは対極をなす、深みのあるしっとり系の本格派ジャズ・ヴォーカルが好きな人に絶対的にオススメの、超大型新人の登場だ!!!

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Chet Baker Sings

2009-08-19 | Jazz Vocal
 ここのところ毎日のようにヤフー・ニュースのトピックス欄を騒がせているのが芸能人の麻薬禍である。ラリピーの逃走→逮捕劇のおかげで世間はこの話題で持ちきりのようだが、シャブ中女が一人捕まったぐらいで何をそんなに大騒ぎしてるのかとアホらしくなってくる。CMのキャッチ・コピーにもあったように “覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか?”というではないか? しかし麻薬先進国(?)である欧米の音楽界に目を転じれば、この “人間をやめることを選んだ元アイドル歌手” が小物に見えてくるほど深刻な状況だ。昔から “Sex, Drug, Rock'n Roll” という言葉の示す通りロック界と薬物とは切っても切れない関係で、ジミヘンやジャニスはそれで命を落としているし、クラプトンも廃人寸前までいったという。もっとえげつないのがジャズ界で、インプロヴィゼイションに必要なインスピレーションを得ようとして麻薬に手を出すというケースも多かったらしい。チャーリー・パーカー御大を始め、アート・ペッパー、ハンプトン・ホーズ、ソニー・クラークと、挙げていけばキリがないが、今日取り上げるチェット・ベイカーもそんな筋金入りのジャンキーだった。
 チェットはウエスト・コースト・ジャズを語る上で欠かせない名トランペッターで、1950年代にはその甘いルックスとマイルスさえ凌ぐと言われた見事なプレイで人気絶頂だったのだが、ドラッグに溺れて身を滅ぼしていく。ブルース・ウェバーというカメラマンが晩年の彼を撮影したドキュメンタリー映画「レッツ・ゲット・ロスト」で、若かりし頃の面影など微塵も感じられないほど頬がこけて落ち窪んだ眼をした、まるでシワシワの猿面冠者みたいなチェットが淡々と自分の薬物中毒について語る姿はインパクト絶大だった。あの映画を見れば余程のバカでもない限り薬物なんぞに手は出さんやろなぁ...(>_<) 晩年の柔らかいトランペットの音色と悲しげな歌声もそれなりに味があって悪くはないが、やはりベイカーといえば彼が全盛期に吹き込んだ初のヴォーカル・アルバム「チェット・ベイカー・シングス」に尽きるだろう。
 彼のヴォーカルの魅力を言葉で説明するのは難しい。一聴クールで淡々としていながら何故か心に染みてくる、けだるそうでありながら決して退屈じゃない、中性的ではあっても決してオカマっぽくはない... これらの一見矛盾するような要素こそが聴き手を彼の世界に引き込んでしまう魔性の魅力の秘密なのかもしれない。このアルバムを聴いていつも感心するのは、そんな彼の “力の抜き加減が絶妙な” ヴォーカルが彼のトランペットと見事なコンビネーションをみせていること。これこそまさに生粋のトランペッターだったベイカーがヴォーカルに求めたものであり、このアルバムの一番の成果だったといえるのではないだろうか?
 今、久しぶりにこのアルバムを聴き直しているのだが、やっぱりエエもんはエエなぁとつくづく実感させられる。全曲スタンダード・ナンバーで、それも彼の資質にピッタリ合ったものばかりが選ばれており、1曲1曲も素晴らしさもさることながら、曲と曲の流れが実にスムーズで、アルバム1枚で1つの大きな組曲のようにも聞こえる。だからスピーカーに面と向かって聴くのもいいが、BGM として小音量で流していると仕事が実によくはかどるのだ。又、間奏などで聴けるトランペット・ソロも短いながらキラリと光るもので、力を消去したかのようなヴォーカルのトーンとの連係も聴き所。特に⑫「ザ・スリル・イズ・ゴーン」の多重ヴォーカルと、それに絡むトランペットのオブリガートは絶品だ。
 全体的にスロー・バラッドが多く、どちらかというとアップテンポでスイングするジャズが好きな私は曲単位で拾い聴きする時はいつもCD選曲ボタンの①⑦⑪を押してしまう。私がこのアルバムを買ったのはジャズを聴き始めて間もない頃であり、まだ右も左も分からないような状態で聴いた1曲目の①「ザット・オールド・フィーリング」での、まるで鼻唄でも歌っているかのように気持ち良さそうにスイングするベイカーにすっかりハマッてしまったのだが、それと同時にこの曲そのものも大好きになった。今でも私にとって「ザット・オールド・フィーリング」といえばチェット・ベイカーなのだ。ガーシュウィンの名曲⑦「バット・ノット・フォー・ミー」や⑪「ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー」も、①同様にその曲の決定的愛聴ヴァージョンであり、気だるいムードで切々と歌いながら妖しげにスイングするチェットがたまらない(≧▽≦)
 スローな曲では③「ライク・サムワン・イン・ラヴ」が大好きで、流れるようなメロディーを持ったこの名曲を、ペットを演奏せずに歌のみで、訥々と歌うその歌声が逆に胸を打つ。続く④「マイ・アイディアル」も心に染み入るスウィートなバラッドで、ベイカーが一通り歌い終わった1分54秒のあたり、彼のペットがスルスルと滑り込んでくるその瞬間の快感は筆舌に尽くし難いものだ。ミディアム・テンポでスイングする⑥「マイ・バディ」や彼の得意曲⑭「ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング」でも変幻自在のペットとヴォーカルを聴かせるベイカーはまるで水を得た魚のようだ。
 デリケートな感性とセンシティヴな歌心でスタンダード・ナンバーの魅力を見事に引き出したこのアルバムは、チェット・ベイカーの求めた表現手段の究極の姿を捉えた1枚だと思う。

Chet Baker - But Not For Me

The Best Of Manhattan Transfer

2009-08-02 | Jazz Vocal
 熱狂的にハマって四六時中聴いているというわけではないけれど、たまに取り出して聴いてみると “やっぱりエエなぁ...(^.^)” と思わせるアーティストがいる。マンハッタン・トランスファーは私にとってちょうどそんな存在である。つい最近も彼らの83年の「マン・トラ~ライブ・イン・トキョー~」をBGMに仕事をしていていつの間にかその歌声に耳が吸い付き、まったく仕事にならなかった(>_<) 
 彼らは1975年にレコード・デビューし、1920年代から現代に至るまでのアメリカの音楽をコンテンポラリーな感性で捉え、ノスタルジーを巧くブレンドしながら自分たちのスタイルを確立してきたコーラス・グループだ。私が彼らを初めて知ったのは81年のことで、アド・リブスをカヴァーした「ボーイ・フロム・ニューヨーク・シティ」がポインター・シスターズやエア・サプライ、リック・スプリングフィールドらのヒット曲に混じって全米シングル・チャートで7位にまで上昇するという、ジャズ・コーラス・グループとしては画期的な大成功を収めていた頃である。ちょうど来日していた彼らが小林克也さんの「ベスト・ヒット USA」に出演したのを見たのだが、その時にスタジオで披露した「バークレー・スクエアのナイチンゲール」での美しいコーラス・ハーモニーがインパクト絶大で、私はそれ以降彼らに注目するようになった。
 その翌年、今度はボビー・トゥループ作の名スタンダード「ルート66」を斬新なアレンジでリバイバル・ヒットさせ、又々その卓越したコーラス・ワークに魅せられた私はオリジナル・アルバムに未収録(バート・レイノルズ主演のアクション映画「シャーキーズ・マシーン」のサントラ用に特別にレコーディングされたらしい...)だったこの曲のシングル盤を買いにレコード屋へと直行、そこでシングル盤と一緒にアルバムのコーナーも覗いて見つけたのがこの「ザ・ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー」で、前述の「ボーイ・フロム・NYC」や「バークレー・スクエア...」も入っていて良さそうだったので一緒に購入した。いわゆる衝動買いである。
 私はこのアルバムを一聴してその抜群のハーモニーと歌唱力の素晴らしさに圧倒された。いきなりライブの歓声で始まる①「タキシード・ジャンクション」はグレン・ミラー・オーケストラの演奏で有名なナンバーで、彼らはハイ・センスな華やかさ溢れる実に粋なヴァージョンに仕上げている。わずか3分のトラックだがつかみはOKだ(^o^)丿
 ジャニス・シーゲルの伸びやかで弾むような歌声がたまらない②「ボーイ・フロム・NYC」ではジャズとポップスの境界線をいとも簡単に超えてみせる。彼らにジャンルの壁は通用しない。ドゥー・ワップ・スタイルで軽快なノリが何とも言えず楽しいこの曲、全米大ヒットも頷けるキャッチーなナンバーで、この曲を聴いて心がウキウキしてこないようなら私はその人の感性を疑ってしまう。
 ③「トワイライト・ゾーン」、多分彼らの名前を聞いたことのない人でも近未来を予想させるようなこの曲のイントロはどこかで耳にしたことがあるのではないか?ゾクゾクするほどカッコ良いメロディーに高度なハーモニー、そして弾むようなバックの演奏と、3拍子揃ったキラー・チューンだ。
 ④「ボディ・アンド・ソウル」は有名スタンダードなのだが曲自体が地味であんまり好きじゃないのでサッと流し、リー・モーガンの代名詞とでもいうべき⑤「キャンディ」へ。ややスロー・テンポで実にノスタルジックな味わいのリラクセイション溢れる懐古調アレンジだ。このように彼らのアルバムはヴァラエティー豊かなので飽きがこない。⑥「フォー・ブラザーズ」はウディー・ハーマン楽団のヒット曲でアニタ・オデイやキング・シスターズのカヴァーでもお馴染みだが、4人のメンバー達がそれぞれ個性を発揮してノリノリの快唱を聴かせてくれる。
 ⑦「バードランド」はウェザー・リポートの曲で、フュージョン・バリバリの原曲は趣味ではないが、一旦マントラの手にかかるとその見事なテクニックとアレンジで曲の良さが活きてくる。まるで音の魔術師のようだ。これをマントラのオリジナルだと思っている人も多いと思うのだが、カヴァーがオリジナルを喰ってしまった典型的な例かもしれない。⑧「グロリア」は50'sドゥー・ワップそのものの歌とコーラスで、いかにもアメリカン・グラフィティな作りになっている。これは⑩「オペレイター」にも言えることで、共に1st アルバムに入っていたことを考えるとデビュー当初はこういう路線を考えていたのかもしれない。
 ⑨「トリックル・トリックル」は私がこのアルバム中最も好きなナンバーで、ロックンロールの気分でジャジーにコーラスしてみましたといった感じがたまらない(≧▽≦)  その疾走感溢れる痛快なコーラス・ハーモニーは圧巻だ。一転してスローで迫るインク・スポッツのカヴァー⑪「ジャヴァ・ジャイヴ」、何とまぁ粋な歌声だろう!その都会的なセンス溢れる洗練されたコーラス・ワークは唯一無比で、私はこの落ち着いた「ジャヴァ・ジャイヴ」を聴く静かな時間を大事にしたいと思う。ラストの⑫「バークレー・スクエアのナイチンゲール」は彼らの本領発揮といえるアカペラで、この世のものとは思えないような美しいコーラス・ハーモニーが絶品だ。現在もなおトップ・コーラス・グループとして第一線で活躍中の彼ら、流行とは関係なしにこれからも末長く愛聴していきたいグループだ。

Manhattan Transfer Boy From New York City
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Night In Manhattan / Lee Wiley

2009-07-29 | Jazz Vocal
 ウチのオーディオ装置は1960年代に作られた、いわゆるヴィンテージものである。私が聴く音楽の大半が1950~60年代に録音されたものなので、モノラル録音が主流だった当時のレコードを聴くには、デジタル音源の再生を念頭に置いて開発された最新鋭のオーディオ・システムは必要ない。特にエネルギーが中音域に密集している古~い女性ヴォーカルなんかはCDではなくレコードで、それも出来れば真空管アンプと小型フルレンジ・スピーカーの組み合わせで聴きたい。微かなスクラッチ・ノイズの向こうから聞こえてくる歌声は、古き良き時代を思い起こさせてくれるものだ。更に灯りを落として小音量で聴けばもう言うことなし。女性ヴォーカルは雰囲気なんである。
 リー・ワイリーは1930年代から1950年代、つまりSP全盛の時代からLP時代の黎明期にかけて活躍した白人女性シンガーで、そのせいか、彼女の歌には蓄音器の向こうから聞こえてくるような趣がある。とにかく粋で気品があり、懐古的な歌声なのだ。ソフィスティケイテッド・レディとは彼女のような人の事を言うのだろう。知的で洗練されており、それでいて人間的な温かさを感じさせてくれる不思議な歌声だ。そのヴィブラートを効かせたお涙頂戴的トーチ・ソング唱法は彼女のキャリアの初期において確立されたもので今の耳で聴けば古めかしく聞こえるかもしれないが、それが逆に幽玄の美というか、夢と現実の境目あたりから聞こえてくるような不思議な雰囲気を醸し出している。こんな歌手は後にも先にも彼女を置いて他にはいない。
 彼女の代表的な作品のほとんどはSPがオリジナルで、LP時代に突入すると発売元のコロムビア・レコードはそれらの音源を10インチLPにまとめ、更に10インチ盤に数曲追加することによって12インチ盤に仕立て上げた。彼女の作品には「ガーシュウィン集」や「コール・ポーター集」(共にリバティ・ミュージック・ショップス)、「ロジャース&ハート集」(ストーリービル)、「ヴィンセント・ユーマンス集」や「アーヴィング・バーリン集」(共にコロムビア)といった作曲家シリーズが多いが、彼女の代表作と言えばやはり「ナイト・イン・マンハッタン」に尽きるだろう。
 この粋なアルバム・ジャケットは12インチ盤のもので、50年録音のセッションによる8曲から成る10インチ盤に51年のセッション4曲⑤⑥⑪⑫を追加収録したもの。この時代のジャケット・デザイナーのセンスの良さは有名だが、それにしてもどちらもまるで音が聞こえてきそうな名ジャケットだ。女性ヴォーカルはジャケットを聴け、というのは至言である。
 そんな「ナイト・イン・マンハッタン」、アルバム全編を通して彼女の魅力であるハスキー・ヴォイスと都会的な感覚の気品に満ちた唱法が満喫できる。彼女の代名詞と言える①「マンハッタン」はロジャース&ハートが1920年代に作った都会的な曲で、古き良き時代のニューヨークを想わせるその小粋な歌声、洗練された気品がたまらない名唱だ。そんな優雅な彼女の歌声にピッタリの、もうこれ以外は考えられないというくらいの絶妙なオブリガートを付けているのがイニシエのトランペッター、ボビー・ハケット。彼のトランペットは甘く、懐かしく、温かいムードを見事に演出している。又、まるで歌伴ピアノのお手本のようなジョー・ブシュキンのセンス溢れるいぶし銀プレイもこの名演に欠かせないもので、歌・演奏共に私の持っているすべての女性ジャズ・ヴォーカル盤の中でベスト!と言っていい素晴らしさだ。
 ②「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー」は元々ブロードウェイではアップテンポで歌われていたものを彼女がセンチメンタルなミディアム・スローのバラッドにしてレコーディングし、以後そのアレンジが完全に定着したというからさすがである。聴く者の心を包み込む温かい情感がたまらない。③「ゴースト・オブ・ア・チャンス」は片思いの切々たる女心の微妙な綾をしっとりとした歌声で巧く表現している。哀しいけれど美しい... もうお見事と言う他ない。ブシュキン作の④「オー・ルック・アット・ミー・ナウ」は①の続編的な曲想を持ったナンバーで、「マンハッタン」大好き人間としてはそれだけでもう嬉しくなってしまう。ここでもハケットとブシュキンの軽妙洒脱なプレイが彼女の歌を十二分に引き立てている。
 ⑦「ストリート・オブ・ドリームス」はヴィクター・ヤング作の名曲で、情感豊かに歌い上げるリー・ワイリーのスタイルにピッタリの曲想を持ったナンバー。ハケットとブシュキンも相変わらず絶好調だ。同じくヴィクター・ヤング作の⑧「ア・ウーマンズ・インテュイション」ではほのかな気品を漂わせながら見事な歌詞の解釈を聴かせてくれるし、⑨「シュガー」は彼女お得意の懐古調ナンバーで、「ピート・ケリーズ・ブルース」でペギー・リーが歌うヴァージョンと双璧と言っていいと思う。ペギー・リーとリー・ワイリー、私はこの二人のリーが大好きだ。④同様①っぽい雰囲気を持った⑩「エニー・タイム・エニー・デイ・エニーホエア」は何とリー・ワイリーの自作曲。ミディアム・スローで気持ち良くスウィングするリー・ワイリーと歌心溢れるブシュキンのピアノが絶品で、このアルバムの中では①に次ぐ愛聴曲だ。
 別セッションから追加収録されたA面ラスト2曲⑤「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」、⑥「タイム・オン・マイ・ハンド」、そしてB面ラスト2曲⑪「ソフト・ライツ・アンド・スウィート・ミュージック」、⑫「モア・ザン・ユー・ノウ」の4曲は、ハッキリ言ってガクンと落ちる。トランペットやストリングスがいないという編成上の違いよりもピアニストが変わったことによるパワー・ダウンが大きい。華がないというか、改めてジョー・ブシュキンの偉大さを思い知らされる。これらの取って付けたような4曲はアルバム全体の流れから言うと不要だったように思う。
 艶やかな歌、ツボを心得た伴奏、センス溢れるジャケットと、三拍子揃ったこのレコード、“粋なヴォーカル盤” といえば何を差し置いてもこのアルバムだと思う。

Lee Wiley - Manhattan - 1951

I Feel A Song Coming On / Joni James

2009-07-21 | Jazz Vocal
 私の “女性ヴォーカル好き” はジャズ仲間内では有名で、インスト・オンリーよりもむしろヴォーカル入りを好む傾向が強い。人間の声こそ最高の楽器だと思うからだ。それと、ポップスやロックを聴いて育った私は1曲3~4分というリズムが身体に染みついており、一部の例外を除いてどうもインスト長尺曲にはなじめない(というか聴いてるこっちの集中力がもたない...)ので、濃い内容を短くビシッとキメてくれる古いの歌モノが大好きなのだ。
 私の好きな女性ヴォーカリストには2つのタイプがある。小さなクラブでスモール・コンボをバックに歌っているような、ハスキー・ヴォイスで “クールに軽やかに粋にスイング” するジャジー系ヴォーカリストと、古き良きアメリカを想わせるノスタルジックな歌声が心の中にス~ッと染み入ってくるような癒し系ヴォーカリストである。前者はクリス・コナーやアニタ・オデイ、ヘレン・メリルといったジャズ・ヴォーカル・レジェンドからジェニー・エヴァンス、クレア・マーティンといった現役シンガーまで、バックの演奏も含めてとにかくスイングしまくる “ジャズ・ヴォーカルの鏡” のようなディーヴァたちだ。後者はペギー・リー、ドリス・デイ、マーサ・ティルトンといった大御所から最近ではジャネット・サイデルに至るまで、そのナチュラルで素直な唱法に癒されるのだが、このジョニ・ジェイムスもそんな正統派ヴォーカリストの一人といえるだろう。
 彼女は1950年代前半には “アメリカの恋人” といわれ、MGMレコードのドル箱スターだったポピュラー・シンガーである。彼女のアルバムには企画モノが多く、ハワイアン、フレンチ、イタリアン、アイルランド民謡といった世界各国のご当地ソング集、ヴィクター・ヤング、フランク・ロサー、ジェローム・カーン、ハリー・ウォーレン、ガーシュウィンといったコンポーザー・シリーズ、カントリー、ジャズ、ボサノヴァ、ストリングス物といった音楽スタイル別コンセプト・アルバムと、実に幅広いジャンルの歌を歌っている。つまりそれだけの人気と実力を兼ね備えたシンガーだったということだ。又、彼女のアルバム・ジャケットには彼女のイラストが描かれたものと彼女の写真を使ったものがあり、どちらも大変魅力的なのだが、特にイラスト・ジャケの方は50年代という時代の薫りを見事に表現した芸術品レベルのものばかりなので、私は彼女を聴く時は必ずLPジャケットを眺めながらノスタルジーに浸るようにしている。
 今日取り上げた「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は「アフター・アワーズ」、「ジョニ・スウィングス・スウィート」、「ザ・ムード・イズ・スウィンギン」といった “ジョニ、ジャズ・スタンダード・ナンバーを歌う” シリーズの中で最もスイング感に溢れており、選曲から伴奏に至るまで、全部で40枚近く出ている彼女の全アルバム中でも一番気に入っている1枚なのだ。
 歯切れよくスイングするイントロからいきなり全開で飛ばしまくるといった感じの①「ディード・アイ・ドゥ」にまずは圧倒される。ジャズはスイング、それを体現するかのようにジョニも軽快なテンポで歌う。この盤はスタジオ・ライブ形式でA、B面それぞれ6曲ずつを続けてワン・テイクで録っているので、ドラム・ソロから切れ目なく②「ユー・ケイム・ア・ロング・ウェイ・フロム・セントルイス」へと続く。ペギー・リーのブルージーな歌唱で有名なこの曲をミディアム・テンポでサラッと歌っており、2分25秒あたりの捨てゼリフ・パートが面白い。③「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」はボサノヴァ化される前のスロー・バラッド的解釈でしっとりと歌う。彼女のしなやかで優しい唱法にピッタリの曲だ。アルバム・タイトル曲の④「アイ・フィール・ア・ソング・カミング・オン」は一転してアップテンポで疾走するように歌う。⑤「ララバイ・オブ・バードランド」は華麗なピアノのイントロに続いてドラムが加わり、そしてブラスが順に入ってくるあたりに強烈にジャズを感じる。大好きなこのアルバムの中でも特に気に入っているナンバーだ。
 クラリネットをフィーチャーしたスイング・スタイルの⑥「ユー・ドゥ」に続く⑦「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」はトロンボーンを加えたディキシーランド・スタイルで、ジョニは気持ち良さそうに軽やかに歌っている。⑤と並んで私が気に入っているトラックだ。失速寸前といった超スローテンポで歌い込んだ⑧「マイ・メランコリー・ベイビー」は彼女の愛くるしい歌声がたまらない。控えめなリズム・ギターのサポートも絶妙だ。再びディキシーランド・スタイルに戻って⑨「ベイズン・ストリート・ブルース」、甘いソプラノの彼女がちょっと声をひねって歌うブルースもオツなものだ。
 ジョニが淡々と歌い綴る⑩「アイ・ガット・イット・バッド」ではマイルス降臨といった感じのミュート・トランペットのプレイが聴き所。愛らしい歌声で温か味溢れる⑪「バイ・ザ・ウェイ」はベース主導のイントロとピアノのオブリガートが渋いなぁ。⑩⑪のようにメロディーが薄味の曲でも歌声と演奏で楽しめるのがこの盤の良い所だと思う。ラストの⑫「九月の雨」はこのジャジーで楽しいセッションを締めくくるに相応しいノリノリの歌と演奏で、特にドラムス(クレジットはないが、多分シェリー・マン)が大活躍、 “明るく、楽しく、スインギー!” と三拍子揃った名演だ。
 その優しい人柄がにじみ出たようなジョニ・ジェイムスの歌声は、温か味に溢れ、聴く者の心を癒してくれる。そんな彼女の甘~いヴォーカルとバックを務めるバリバリのジャズメンのピリッと辛いプレイが絶妙に溶け合って生まれた旨口ヴォーカル盤がこのアルバムなのだ。

ジョニ・ジェイムス バードランドの子守唄
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Sing Sing Sing / Clark Sisters

2009-06-12 | Jazz Vocal
 コーラス・グループと一口に言っても様々なジャンル、叉、人数・性別の組み合わせがある。私が一番好きなスタイルは女性3~4人組で古いアメリカのスタンダード・ソングを歌う、いわゆるシスターズものである。アンドリュース・シスターズを始めとして、ディニング・シスターズ、キング・シスターズ、ベヴァリー・シスターズ、バリー・シスターズetc... 最近のものではスター・シスターズなんかも大好きだ。ある時は甘酸っぱくノスタルジックに、叉ある時は明るくキュートに、叉ある時はモダンな感覚でスインギーなコーラス・ワークを楽しめるのである。こんな美味しいジャンルを聞き逃しては男がすたるというものだ。私が大好きな “フレンチ・ポップスのイエイエ”、 “オールディーズのガール・グループ”、そして “ジャズ・コーラスのシスターズ”... やっぱり音楽は楽しいのが一番だ(^o^)丿
 そんな “シスターズもの” の中で私が特に愛聴しているのがクラーク・シスターズ。さっきYouTubeで検索してみたらゴスペルでも歌いそうな黒人女性4人組がズラ~ッと出てきてビックリした。もちろん同名ながら全く別のグループで、多分あっちの方がポピュラーなんだろうが、私のクラーク・シスターズは1950年代に活躍した白人女性4人組の方である。
 彼女らの前身はトミー・ドーシー楽団のフィーチャリング・カルテットである “ザ・センチメンタリスツ” で、独立後は私の知っているだけでも数枚のアルバムを吹き込んでおり、中でも先輩コーラス・グループの代表曲に挑戦した「ア・サルート・トゥ・ザ・グレイト・シンギング・グループス」(コーラル)、スウィング・バンドで有名になった曲を取り上げた「シング・シング・シング」と「スウィング・アゲイン」(共にドット)の3枚が出色の出来だ。どれにするか迷ったが、アルバム・タイトル曲の抗しがたい魅力で「シング・シング・シング」に決定。
 彼女らはトミー・ドーシー楽団のアレンジャーだったサイ・オリヴァーから “楽器の演奏者のように考え、クリエイトして歌うように” というジャズ・コーラスの基本を徹底的に叩き込まれたということだが、このアルバムでもそのスタイルを貫き、斬新な解釈でモダンなコーラスを聴かせてくれる。
 私がこのアルバムで最も好きなのが⑦「シング・シング・シング」と⑩「チェロキー」である。数年前に映画「スウィング・ガールズ」でも大きくフィーチャーされていた⑦は言わずと知れたベニー・グッドマン楽団のヒット曲で、スイング・エラを代表する1曲だ。イントロのドラム(というかこれはもう “太鼓” という言葉がピッタリ!)に彼女らの洗練されたスキャットが絡んでいく様が実にカッコ良く、縦横無尽に飛び交う4人の歌声は万華鏡のような華やかさだ。⑩でも洗練の極みというべき歌声は絶品で、その変幻自在のコーラス・ワークに引き込まれてしまう。風の中を駆け抜けていくような爽快感がたまらない(≧▽≦)
 グレン・ミラー楽団の④「リトル・ブラン・ジャグ」や⑨「真珠の首飾り」も素晴らしい。2曲とも元歌のイメージを大切にしながらも彼女ら独自の味付けによってウキウキ・ワクワク度が格段にアップしている。
 アルバム冒頭を飾る元親分トミー・ドーシー楽団の大ヒット①「明るい表通りで」は彼女ら最大のヒット曲の再演でもあるのだが、そのせいもあってかヒューマンな味わいを感じさせる落ち着いたナンバーに仕上がっている。同じくトミー・ドーシーの②「オパス・ワン」は、4人の歌声の微妙なブレンド具合が耳に心地良く、私が最高と信じるアニタ・オデイのジーン・クルーパ楽団での名唱に迫る素晴らしい出来になっている。
 4人のイラストが描かれたジャケットから彼女らの歌声が聞こえてきそうなこのアルバム、 “ジャズ・コーラス” というジャンル分けのせいであまり人の口に上ることはないが、私にとっては絶妙なハーモニーでイニシエの名曲をスインギーに楽しめる、こたえられない1枚だ。

The Little Brown Jug 1958 the Clark Sisters