shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

My Baby Just Cares For Me / Nina Simone

2009-02-19 | Jazz Vocal
 イギリスのミュージック・シーンはとても面白いところで、時々信じられないような珍現象が起きる。広大な土地を持つアメリカとは違い、日本と同様狭い島国のため局所的なブームがあっという間にイギリス全土に広がっていくのだろう。
 80'sポップス全盛時代、私はラジオで全米&全英チャートを毎週チェックするだけでは飽き足らず、テレビでも「ベスト・ヒットUSA」や「MTVジャパン」を見ていた。87年の秋のこと、BSで「全英トップ20」を見ていると突然ニーナ・シモンの「マイ・ベイビー・ジャスト・ケアーズ・フォー・ミー」が5位に入ってきた。バリバリのジャズ・ヴォーカルである。当時の私はジャズのジャの字も知らないロック/ポップス一筋人間だったので、自分がそれまで聴いてきた音楽とは明らかに異質なサウンド... 感情を抑制したかのようなクールなヴォーカル、何かを語りかけてくるような歌心溢れるピアノ、エレベとは明らかに違うアコベのリアルな響き、そして脳の快楽中枢を刺激する瀟洒なブラッシュ... すべてが新鮮で、その“古くて新しい”サウンドに耳が釘付けになった。確かにそれまでにも何の前触れもなくいきなりジャッキー・ウィルソンやエディ・コクランがチャート・インしてきてビックリしたことはあったが、それらはあくまでも同じポップスというジャンルの中でのリバイバル・ヒットだったので、オールディーズ好きのイギリス人の嗜好を考えれば頷ける話だった。しかしこの曲は57年録音の生粋のジャズ・ヴォーカル。バナナラマやジョージ・マイケル、ペット・ショップ・ボーイズといった80'sダンス・ビート・サウンドの中でポツンと、しかし力強く自己主張するニーナ・シモンの歌声は強烈なインパクトがあった。そしてこれが私にとってジャズ・ヴォーカルとの初遭遇となった。
 私の好きなジャズ・ヴォーカルのスタイルは「クールに、軽やかに、粋にスイング!」、これに尽きる。できればハスキーな声でビッグバンドよりもスモール・コンボをバックに、小さなクラブでスタンダード・ソングを歌うような感じがベストだ。だからクリス・コナーやアニタ・オデイ、ヘレン・メリルといったハスキー系白人女性ヴォーカルが大好きなのだが、このニーナ・シモンのヴォーカルには黒人ヴォーカル特有のネチッこさがなく実に洗練されていてカッコイイのだ。それともう一つ、この曲の魅力を高めている要因として、実にユニークなミュージック・ビデオの存在が挙げられる。ネコのクレイアニメを巧く使ったこのビデオがなかったら私もこれほどまでにハマらなかったかもしれない。特に間奏部分でのピアノ、ベース、ブラッシュのモノクロ映像がミディアム・スローでゆったりとスイングする演奏とコワイぐらいにピッタリ合っていて、こんな手法もあったのかと感心させられる。とにかくこれは私の中では5指に入るほどのお気に入りビデオ・クリップなのだ。その後私は90年代半ばになって初めて本格的にジャズを聴き始めることになるのだが、ひょっとするとこの時に私のDNAの中にジャジーなサウンドの刷り込みがなされたのかもしれない。とにかくジャズ・ヴォーカルなんて取っ付きにくそうでちょっと... というポップス・ファンでも目と耳の両方で楽しめる、実に聴きやすくてクリエイティヴな作品だと思う。

Nina Simone - My Baby Just Cares For Me

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