shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

After Midnight / Nat King Cole

2009-03-26 | Jazz Vocal
 よく「インスト以前にヴォイスあり」といわれる。「声」こそが最高の楽器であり、「歌」とは突き詰めれば人間の声の魅力に尽きる、ということだろう。特にヴォーカルものに関しては当然声の鑑賞がメインになるので、声によって好きになったり嫌いになったりするケースが圧倒的に多い。いくらバックの演奏が良くっても「この声、イヤやなぁ...(>_<)」という歌手のレコードを聴きたいとは思わない。それともう一つ、その音楽ジャンルに対する向き不向きというのも重要なポイントだ。ジャズの男性ヴォーカルにおいて、その軽快なスイング感を表現するのに暑苦しいくどい歌い方はあまり向いていない。あっさり系の声の持ち主で洒脱な表現力を持ったシンガーこそがスタンダード・ソングを歌うに相応しい。そういったことを踏まえて考えれば、最高の男性ジャズ・ヴォーカリストはナット・キング・コールだと思う。
 彼は元々ピアノ・トリオのリーダー兼ピアニストとして40年代から活躍していたが、ある晩クラブに出演中に酔っ払った客からぜひ歌も唄ってくれとしつこくせがまれ、ピアノを弾きながら歌ってみたら大好評だったのでその後自分のトリオでも弾き語りスタイルを取り入れ、徐々にジャズ・ピアニストからポピュラー・シンガーへと変身していったという。やがて50年代に入り本格的にソロ・シンガーに転向して数多くのヒットを飛ばすのだが、やはりジャズへの思いは断ちがたかったのか、56年にウィリー・スミスやハリー・エディソン、スタッフ・スミスといったジャズ界の名うての名手たちを集めて録音されたのがこの「アフター・ミッドナイト」なのだ。彼は様々なフォーマットの録音を残しているが、やはりスモール・コンボで小気味よくスイングするスタイルが一番だ。だから往年のトリオ時代をも凌ぐ圧倒的なスイング感を誇るこのレコードこそが彼のベストなのだ。①「ジャスト・ユー・ジャスト・ミー」ではウキウキするようなリズムに乗ってピアノが、ギターが、アルトが、そしてヴォーカルが縦横無尽にスイングする。コールの歯切れの良いリズミカルなフレージングがめちゃくちゃカッコいい...(≧▽≦) ③「サムタイムズ・アイム・ハッピー」はコールの温か味のある歌声が心に染みる印象的なバラッドで、スタッフ・スミスのヴァイオリンが実にエエ味を出している。⑤「イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン」はまさにナット・キング・コール・トリオの魅力が凝縮されたような歌と演奏で、コンボが一体となって展開するスイング感溢れる粋なプレイはジャズ・ヴォーカルの理想形。これ以上の名演があったら教えてほしいものだ。⑥「ユーアー・ルッキング・アット・ミー」はウィリー・スミスのアルトが醸し出す退廃的な雰囲気の中、一言一言を噛み締めるように歌うコールの歌声に聴き入ってしまう。⑧「ドント・レット・イット・ゴートゥ・ユア・ヘッド」はミディアムでスイングするコールとピタッと寄り添うアルトのオブリガート、間奏のさりげないピアノに至るまでそのすべてがめっちゃジャジーでこういうのを肩肘張らない名演というのだろう。⑪「ホエン・アイ・グロウ・トゥー・オールド・トゥ・ドリーム」はスロー・テンポで歌いながらスイングさせてしまうというコールの秘奥義が堪能できる。このように自分の持ち味を最大限に活かせるような選曲のセンスも凄いと言わざるを得ない。⑫「ルート66」はボビー・トゥループのオリジナル曲だが、今では完全に「コールの代表曲」として定着した感がある。この声、この歌い回し、このスイング感...すべてが粋なジャズ・ヴォーカルの名演集だ。

It's Onlly A Paper Moon/Nat King Cole

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