shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Pete Kelly's Blues / Peggy Lee

2009-06-03 | Jazz Vocal
 昔、ジャズ仲間が集まって “死ぬ間際に聴くとしたら何を聴く?” というテーマで盛り上がったことがあった。 “無人島に持っていくとしたら何?” という、いわゆる “無人島ディスク” 的な発想で一番好きなアルバムを1枚選ぶというのはよくあるテーマだが、この場合、 “死ぬ間際に” というのが曲者で、これはつまり、選ぶ曲/アーティストを大きく左右する条件になりうるものだ。例えば私の場合、ビートルズ関係はこの世に思いっ切り未練が残りそうなのでパス、ハードロック関係もノリが良すぎるし、何よりもうるさくって落ち着いて死んでいられない。ゼッペリンの「天国への階段」なんかテーマにぴったい合いそうだが、あくまでもジャズの中でという但し書き付きだったので、インストよりもヴォーカルが好きな私は迷わず「ペギー・リー」と答えた。
 彼女は以前紹介したドリス・デイと同様にそのキャリアをバンド・シンガーとしてスタートし、やがて独立、持ち前の繊細で魅惑的なハスキー・ヴォイスとその群を抜いた表現力の豊かさでポピュラーとジャズの両方のフィールドで高い評価を得るようになった。
 彼女はベニーー・グッドマン楽団時代のCBS(40年代前半)を皮切りに、キャピトル(40年代後半)→デッカ(50年代前半)→キャピトル(50年代中盤以降70年代初めまで)とレコード会社を移籍し、数々の名盤を残している。世間一般の評価では “ペギー・リーはデッカ時代の「ブラック・コーヒー」(53年)で決まり!” みたいな雰囲気だが、私はそうは思わない。確かにバリバリのジャズ・コンボをバックにスタンダード・ソングを歌うというのはジャズ・ファンが諸手を挙げて歓迎しそうな設定だが、肝心の彼女のヴォーカルがネチっこ過ぎて、まるでこってりした大トロを何個も食っているような感じで耳にもたれ、その歌唱法がまだまだ発展途上にあったことが窺える。そんな彼女が 誰にも真似のできないソフト&ナチュラルな “ペギー節” を確立したのはこの「ピート・ケリーズ・ブルース」(55年)あたりではないだろうか? これは同名映画(邦題は「皆殺しのトランペット」)のサントラ盤で、全12曲中9曲をペギー・リーが歌っている。
 アルバム冒頭を飾る①「オー・ディドント・ヒー・ランブル」は黒人霊歌風の曲で、ゆったりとした歌唱を聴かせるペギーは風格十分、②「シュガー」や③「サムバディー・ラヴズ・ミー」では歌詞を大切にしながら自然に温かく歌う彼女の魅力が溢れている。④「アイム・ゴナ・ミート・マイ・スイーティー・ナウ」でディキシーランド・ジャズの伴奏をバックに聴かせてくれる軽妙なノリは絶品だし、⑤「アイ・ネヴァー・ニュー」、⑥「バイ・バイ・ブラックバード」、⑩「ヒー・ニーズ・ミー」といったスロー・バラッドでは “間の芸術” を活かしながらしっとりとした歌声を聴かせてくれる。
 そしてこのアルバムの中で一番感動したのが⑪「シング・ア・レインボー」。実に素朴な、何の仕掛けもないストレートな歌い方でありながら、わずか2分43秒の中に何と多くの感情がこもっていることだろう!私はこの歌を聴くたびに心が温かくなるのを感じる。言葉と言葉の間の余韻を十分に活かした無理のない自然な歌い方が、このシンプル極まりない曲と見事なマッチングを見せ、 “シンプル・イズ・ベスト” を地で行く名唱となっている。
 「ウィズ・ザ・ビートルズ」に入っている「ティル・ゼア・ワズ・ユー」はポールがペギー・リーのヴァージョン(60年)にインスパイアされて取り上げたものだという。ペギー・リーの大ファンを自認するポールは、74年に「レッツ・ラヴ」という曲をプレゼント、レコーディングにもピアノで参加し、プロデュースまで買って出たぐらいなのだ。天才ポールをも魅了する “ペギー節”、日頃スタンダード・ソングにあまり縁のないポップス・ファンも一度聴いてみては如何だろう?

Peggy Lee - 'Till there was you

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2 コメント

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私も大ファンです。 (椙田真理)
2011-06-27 08:35:11
はじめまして。
sugita mariと申します。
私は Peggy Leeの大大大ファンです。
時々ですが Jazzを歌っています。
Lalalu...♪ 子守唄のように優しく丁寧に
Peggy Leeのように歌いたいと思っています。
Where can i go without you?も
大好きです。今度'Till There Was Youを
歌いたいなぁ。って思っていましたら
このブログを見つけ 嬉しいです。(^0^)

また このブログに訪問したいです。
お願いします♪
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こちらこそよろしくお願いします♪ (shiotch7)
2011-06-27 21:38:46
mariさん、はじめまして♪
ジャズ・シンガーの方からコメントをいただけるなんて
夢にも思っていませんでした。
しかもペギー・リーの大大大ファンとは...!!!
いつも思うんですが、同じ嗜好の方との音楽談義ほど楽しいモノはないですね。

>子守唄のように優しく丁寧に
そーなんですよ、あの優しく包み込むような歌い方がたまりません。

Till There Was You、いいですね~
mariさんの歌、いつか聴いてみたいです。

アホなことばかり書き散らかしてるブログですが、気軽に覗いてみて下さいね。
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