shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Brain Salad Surgery / Emerson Lake & Palmer

2011-05-04 | Rock & Pops (70's)
 “勝手にプログレ” シリーズ、牛に続く第2弾はしゃれこうべである。アルバムは大好きな EL&P の「恐怖の頭脳改革」。ジャケットは映画「エイリアン」のデザイナーとして有名なH.R.ギーガーのアートワークで邦題共々おどろおどろしい雰囲気を醸し出しているが、このガイコツ・ジャケット、アナログLPは観音開き仕様になっており、開けるとギリシア神話に出てくる妖女メドゥーサ(目を瞑っているので石にならずにすみます...)が現れるという仕掛けである。
 原題の「Brain Salad Surgery」は直訳すると “脳ミソサラダ外科手術” と意味不明なのだが、いくら何でもコレを邦題にするワケにはいかない。後にキース・エマーソンがインタビューで語ったところによれば、コレは性的な意味を持つスラングなんだそうで、確かに円内の女性の口元から下の部分(特に喉仏)をよくよく見ればなるほどなぁと思えるが、高尚な音楽ブログを目指す私としてはこれ以上は書けない(笑) そんなアブナイ原題をガイコツのイメージと Brain Surgery というコトバを巧く組み合わせて「恐怖の頭脳改革」としたセンスは見事だと思う。
 このアルバムの聴き所は何と言ってもA面ラストからB面すべてを使い、トータル30分近くにわたって繰り広げられる空前絶後のプログレ絵巻「カーン・イーヴル9」(邦題:「悪の経典#9」)である。この曲はA⑤「1st インプレッション・パート1」、B①「1st インプレッション・パート2」、B②「2nd インプレッション」、B③「3rd インプレッション」の3部構成になっており、当時最先端だったモーグ・シンセサイザーを大胆に導入しながら “キーボード主体のハードロック” とすら呼べそうなイケイケのナンバーに仕上げている。
 A⑤とB①の「1st インプレッション」は一番ロック色の濃い演奏で、プログレのお約束とでも言うべき細かい転調はあるものの、緊張感漲る3人のプレイが混然一体となって有無を言わせぬパワーで迫ってくる。その圧倒的なスケール・存在感はもう凄いという他ないし、何よりもこのたたみかけるようなスピード感がたまらない(≧▽≦) 尚、アナログLPでは収録時間の関係からAB面でパート1と2に分かれているが、B面アタマで “Welcome back, my friends, to the show that never ends...” とフェイド・インしてきていきなり全開で突っ走るところがカッコ良くて好きだ。
 B②の「2nd インプレッション」はキースのジャジーなピアノ・プレイからパーカッシヴなパートへと一気になだれ込む怒涛の展開にゾクゾクさせられる。タイトルの Karn Evil とは Carnival を一ヒネリした造語なのだが、特にカーニバル感が強いのがこのパートで、2分22秒あたりで炸裂する「セント・トーマス」の一節にはニヤリとさせられる。この後静と動のコントラストを描くようなピアノ主体のパートが続くのだが、ここはもうキースの独断場。実にスリリングなインプロヴィゼイションが楽しめて言うことナシだ。
 B③の「3rd インプレッション」は宇宙戦艦ヤマトのテーマみたいな勇壮な感じの行進曲調で始まり、そのまま大団円に向けて予定調和的に突き進むのかと思いきや、さすがはプログレ、そうは問屋が卸さないとばかりにキースのシンセが4分25秒あたりから風雲急を告げるようなフレーズを連発、変幻自在なプレイでもう一盛り上がりをブチかまし、今度こそ怒涛のエンディングへ... しかしコレがピコピコ音を前後左右に振り回しながら突然スパッと終わるという何とも尻切れトンボ感が拭えないトホホなエンディング。何コレ? ドラマチックな大作のエンディングに相応しくもっと大仰でカッコエエ終わり方にしてほしかったというのが正直なところだ。(←ゼータク言うな!)
 このA⑤B①②③と続く「カーン・イーヴル9」の組曲的展開はまさに圧巻の一言で、起伏に富んだメロディーや緩急を付けたリズムを駆使した見事な構成によって30分という長さを感じさせずに一気呵成に聴かせてしまうところが凄い。とにかくプログレの持つ重苦しい思想的・観念的・哲学的な側面、そしてすぐにクラシック音楽に色目を使いたがる技術偏重主義的な所が大嫌いなカタギのロック・ファンである私にとって、この痛快無比な「カーン・イーヴル9」はクリムゾンの「21世紀の精神異常者」、フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」と並ぶプログレ3大名曲名演の1つであり、これら3曲は大音量で音の洪水の中に身を投げ出すようにして聴くとその凄さが実感できると思う。
 私がこのアルバムをかける時はいつもA⑤からで、A面アタマの4曲は滅多に聴かない。壮大なオープニング曲と言える①「エルサレム」は讃美歌っぽくてあまり好みではないし、②「トッカータ」なんてシンセに寄りかかっただけの何の面白味もない無機質な演奏であり、ハッキリ言って私がEL&P の中で最も嫌いなタイプのトラックだ。③「スティル・ユー・ターン・ミー・オン」はグレッグ・レイクお得意のアコースティックなバラッドで①②よりは遥かにマシだが、このタイプの曲ならやはり1st アルバムに入っていた「ラッキー・マン」の方がいい。
 ④「ベニー・ザ・バウンサー」はこの4曲の中では1番楽しめるアップテンポなナンバーで、ラグライム・ピアノ主体の軽快なロックンロール。カール・パーマーのパスパスと手数の多いドラミングが良い味を出しているが、所詮は大作⑤に入る前のお遊び的な楽曲に過ぎない。私的にはむしろ “久しぶり そいつはゲイだ なぁ部長~♪” という空耳ソングとして忘れ難い1曲だ。
 1973年に彼らが設立したレーベル「マンティコア」からのリリース第1号となったこの「恐怖の頭脳改革」はA面の一部を除けば(←しつこい)間違いなく EL&P の最高傑作であり、このアルバムで彼らはプログレ・ロック・トリオとしての可能性の限界を極めてしまった感がある。だからこれ以降彼らが失速してしまったのも大いに頷けるのだが、その事実が逆説的にこのアルバムのとてつもない完成度の高さを証明しているように思う。

Emerson, Lake & Palmer - Karn Evil 9: 1st Impression


Emerson Lake & Palmer - Karn Evil 9 2nd Impression


Emerson, Lake & Palmer - Karn Evil 9: 3rd Impression

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