shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Larks' Tongues In Aspic / King Crimson

2011-05-08 | Rock & Pops (70's)
 すっかりプログレ・ウイークと化してしまった今年の GW も今日でお終い、フロイド、EL&P と来ればシリーズ最終回は当然キング・クリムゾンである。絵的には牛、ガイコツに続いて “赤ら顔がうわぁぁぁ!” な「宮殿」でシメれば申し分無いのだが、コレは以前に2回も取り上げたのでパス。クリムゾンはリーダーのロバート・フリップを核にしてメンバー・チェンジを繰り返しながらその時々で異なる音楽性を提示してきた非常にユニークなグループなので、私的にはその時期ごと、アルバムごとに好き嫌いがハッキリ分かれてしまう。
 具体的に言うと、69年の「宮殿」~70年の「リザード」までを第1期、71年の「アイランズ」~72年の「アースバウンド」までを第2期、73年の「太陽と戦慄」~74年の「レッド」までを第3期と分類し、そして80年代の3枚は「ディシプリン・クリムゾン」と呼ぶのが一般的だと思うのだが(←90年代以降の盤は聴いてないのでよく分からない)、デビュー作にして最高傑作となった「宮殿」を別にすれば管弦楽器を多用した叙情的なサウンドを主体とする第1期~第2期のクリムゾンは私の嗜好とはかけ離れていてあまり楽しめない。
 私が好きなのはインプロヴィゼイション主体のエキセントリックなプレイがたまらない第3期とドライなギター・サウンドによるジャングル・ビートが快感を呼ぶ80’sディシプリン・クリムゾン。メロトロンがブワァ~な曲も決して嫌いではないのだが、やはりクリムゾンは緊張感漲るスリリングな演奏がベストと思ってしまう。今回はそんな中でも一番の愛聴盤でジャケットもタイトルも意味深な「太陽と戦慄」でいくとしよう。
 まずはアルバム・タイトルの原題 Larks' Tongues In Aspic、直訳すると “ヒバリの舌のゼリー寄せ” となり全く意味不明である。Elephant Talk の FAQ8 によると、スタジオで “このアルバムのタイトル何にする?” みたいな話になった時にパーカッションのジェイミー・ミューアが “そんなモン、Larks' Tongues In Aspic で決まりやん!” と言ったのを聞いたフリップがそのコトバの持つ響きを気に入ってそのまま採用されたとのことで、当初はタイトルそのものに特に深い意味はなかったらしい。一説によるとこのタイトルは男女のまぐわいを暗示しているらしいのだが、いずれにせよこーやって色々と言葉の裏に隠されたメッセージを探そうとしてしまうところがプログレのプログレたる所以なのかもしれない。
 太陽と月をあしらったジャケットも暗示的だ。後にフリップがインタビューで語ったところによるとこのアルバムの基本コンセプトは荒々しさを表す男性的特質と繊細さを表す女性的特質の融合らしいが、そうするとこのジャケットも “太陽=男” で “月=女” という隠喩なのだろうか。さすがはプログレ界でも孤高の存在と言われるクリムゾン、音を聴く前から既にプログレ特有の難解なオーラに頭がクラクラしてしまうが、いずれにせよ邦題を「太陽と月」にせず(←それじゃあドリス・デイになってしまう...)、そのスリリングな演奏を “旋律” と引っ掛けて「太陽と戦慄」とした担当者のセンスはさすがだと思う。
 このアルバムにはインスト3曲とヴォーカル入り3曲の全6曲が収められているが、聴き物は何と言ってもインストのA①B②③の3曲だ。初めてこれらのトラックを聴いた時は全くワケが分からず、ただ何となく怖いものを聴いてしまったような、そんな感じだったが、怖いもの見たさ、じゃなかった聴きたさに何度も繰り返し聴いているうちに、クリムゾンの演奏と自分の身体感覚が共鳴現象を起こしたかのような不思議な感覚を覚え、気が付けばアンプのヴォリュームを上げていた。
 まずアルバム冒頭を飾るA①「ラークス・タングズ・イン・アスピック・パート1」、最初はガムラン音楽みたいなイントロが延々と続いて少々ウンザリさせられるのだが、2分53秒を過ぎたあたりから緊張感を煽るようなヴァイオリンの細かい刻みに導かれるようにディストーションを効かせたギターがフェイドイン、思いっ切り不安感をかき立てておいて3分40秒でアンサンブルが大爆発し、それ以降はブラッフォードの叩き出す複雑でタイトなリズムにウェットンの強靭なベースが絡み、その中をフリップのアグレッシヴなギター・リフと狂気に満ちたミューアのパーカッションが乱舞しながら疾走していくという、実に緊張感とエネルギーに満ち溢れた破壊的な音世界を構築している。7分40秒以降は静謐なヴァイオリン・ソロが続くのだが私には退屈以外の何物でもない。邪道ではあるが、私は序章の冗長なガムランと後半の退屈なヴァイオリンのパートをカットして「自家製・太陽と戦慄パート1」を編集して楽しんでいる。
 A②「ブック・オブ・サタデー」とA③「エグザイルズ」、そしてB①「イージー・マネー」ではジョン・ウェットンのヴォーカルが楽しめる。A②③は落ち着いた雰囲気の叙情的なバラッドなのだが、A①のインパクトが強すぎるせいか、あまり印象に残らない。B①は変拍子炸裂のナンバーで、ブラッフォードの変幻自在のプレイに耳が吸い付く。パーカッションの “ポヨ~ン” やエンディングの笑い袋(?)には思わず脱力してしまうが、何はともあれ面白い曲だと思う。
 B②「トーキング・ドラム」は風が吹きわたるような音の中をパーカッションがフェードイン、ドライヴ感溢れるドラムのビートに乗って延々と反復されるベースのリフ(←このベースラインがこの曲のキモやと思います...)に怪しげなメロディーを奏でるヴァイオリンとギターが重なり合いながら絡みつき、壮絶なインプロヴィゼイションが繰り広げられるという、キング・クリムゾンにしか作り得ない名演だ。
 そして徐々に音圧が増していき、悲鳴のような金属音から切れ目なしにB③「ラークス・タングズ・イン・アスピック・パート2」へとなだれ込む瞬間こそがこのアルバム最大の聴き所。ヘビメタよりもヘヴィーでメタリック、凄まじいくらい攻撃的なギター・リフが変拍子満載で堪能できるのだからたまらない(≧▽≦) このあたりはメタリカのルーツと言っても過言ではないくらいスリリングだし、不協和音を奏でるヴァイオリンも狂気を感じさせる。反復運動を繰り返しながら徐々に絶頂へと向かい最後の最後でエクスタシーの大爆発を迎える様を見事に音で表現したパートは聴いていて実に心地良いもので、このカタルシスは一度味わうとクセになる麻薬的な魅力を内包している。コレはまさに男女のセックスを連想させるものであり、タイトルからジャケット、そして演奏に至るまで全てがフリップの言う “男女の融合” というコンセプトで見事に貫かれていることが分かる。とにかくこの曲はクリムゾンの私的トップ3に入る超名曲名演だ。
 第3期のクリムゾンは、同じプログレ・バンドでも感性に訴えかけてくるようなフロイドとは対照的に何かこうネチネチと攻めてくる理詰めのサウンドというイメージがあるが、このアルバムは綿密に計算・構築されたサウンドとスリリングな即興演奏の融合というアンビバレントな手法を両立させた類稀なる傑作で、決して万人にオススメできるような盤ではないが、個人的には「宮殿」に比肩するくらい愛聴している1枚だ。

King Crimson - Lark's Tongues In Aspic, Part I


King Crimson "Easy Money"


King Crimson - The Talking Drum


King Crimson - Lark's Tongues In Aspic, Part II

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プログレの至福 (mossforester3)
2011-05-09 22:39:05
こんばんは。ポールマッカートニー以来、ずうっと愛読愛聴させていただいております。数々のすばらしい発掘(?)音源ありがとうございます。
いろいろありますが、特に珠玉の昭和歌謡シリーズ、イマジン、スーちゃんには泣かせていただきました。
昨日ひさしぶりに思い立ってキングクリムゾンを編集しておりまして、どう頑張ってもLarksとRedが最高であると、結論していたところでした。
もう、おっしゃる通りTalking drum~LarksⅡこそがプログレの至福かと。
Redイントロいきなりの、後戻りできない奈落への滑り落ちてゆくかのような箇所なども好むところです。
またこの時期のライブ「USA」ジョンウェットンの21世紀の精神異常者は、グレッグレイクをしのぐと個人的には思います。
なお、別エントリーですが、Karn EvilがELPの最高傑作であるという点も深くうなずくところです。
感想でした。ありがとうございました。
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変拍子がたまらんなぁ...笑 (shiotch7)
2011-05-10 21:52:12
mossforester3さん。こんばんは。
こんな偏向趣味のブログを愛読していただきどうもありがとうございます。

>どう頑張ってもLarksとRedが最高である
↑全く同感です。あのテンションの高さは尋常ならざるものがありますね。

>Redイントロいきなりの、後戻りできない奈落への滑り落ちてゆくかのような箇所
↑上手いこと表現されますねぇ~(^.^) あの歪んだ音がタマランです。
それと「ワン・モア・レッド・ナイトメア」の
変拍子ハンドクラッピング(?)はツボでした。

「21世紀の精神異常者」のレイクvsウェットン、
コレは甲乙付け難いなぁ...
でも「スターレス」はウェットン以外の歌声は絶対に考えられません。

「Karn Evil=ELPの最高傑作」説にご賛同ありがとうございます。
音の好みが似ている方とのやり取りはホンマに楽しいですわ。
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