shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「Helen Merrill with Clifford Brown」の OZ盤

2024-06-16 | Jazz Vocal

 ゴールデンウイークに901さんとオフ会で盛り上がった話は以前ここに書いたが、その時にやった「Helen Merrill with Clifford Brown」の1stプレスと2ndプレスの聴き比べをきっかけに私の “ヘレン・メリル熱” が再燃した。あの日以来「You'd Be So...」や「'S Wonderful」を聴いて悦に入る日々が続いたのだが、ある時ふと “このレコードの各国盤ってどんな音がするんやろ???” と私の心の中に潜む悪魔(笑)が囁きかけてきた。
 こうやってドロ沼にハマっていくのがいつものパターンなのだが、今回も例によって好奇心に勝てず、早速 Discogsで1955年~1957年の間にプレスされた「Helen Merrill with Clifford Brown」の各国盤を調べてみた。1958年以降の Mercury レーベルになってからは音質がガタッと落ちるので対象外なのだ。その結果、南アフリカ、オランダ、カナダ、オーストラリアの4ヶ国の盤が存在することがわかった。更に調べてみると、南アフリカ盤とカナダ盤は超の付くレア盤のようで滅多に市場に出てこないがオランダ盤とオーストラリア盤の方は何とかなりそうだったので、とりあえずその2枚にターゲットを絞って探すことにした。
 そもそも最高峰である US盤 1stプレスを持っているのに何でわざわざ... と思われそうだが、ビートルズの各国盤蒐集で体験したように “独自マト盤がひょっとしてとんでもなく凄い音を出すのではないか?”、あるいは “US盤を凌駕することはないにしても、US盤とは又違った独自マトならではの、これまで聴いたことがないような音でクリフォード・ブラウンのトランペットが炸裂するのではないか?(←せぇへんせぇへん...笑)” という好奇心に抗えなかったのだ。ましてやプレス枚数の極端に少ないオランダやオーストラリアとくれば、めちゃくちゃ鮮度の高い音が聴けるのではないかと思ったのだ。
 そこでまず目に留まったのがオーストラリア盤だった。最初に調べたDiscogsには3枚出品されていたが、“コンディション G/G+” “日本からは購入不可” “お値段8万円超え” ということですべて問題外。それならばと eBayで検索してみると(←オーストラリア盤って Australia, Australian, Aussie, OZ, AUS, AU と色んなパターンで検索せなアカンのが面倒くさい...)ラッキーなことにニュージーランドのセラーから Strong VG コンディションの盤が NZ$100で出品されていた。写真で見る限りは盤面に目立ったキズは無さそうだし、それより何よりドルやユーロの異常な円安にウンザリさせられている身としては 1 ニュージーランド・ドル = 95円という為替レートがありがたすぎて(笑)即決。送料込みでも日本円にして12,000円ほどで買えたのがめちゃくちゃ嬉しい。中古盤というのは値段があってないようなモノだとはよく言われるが、これに比べるとDiscogsセラーの8万円という超強気の値付けは一体何なのだと思ってしまう。
 このセラーはとてもフレンドリーな人で、取り引きメールのやり取りの中で Domo Arigato を連発したり日本の話を振ってきたりするので何故なのか訊いてみたところ、昔2000年代に数年間大阪で子供達に英語を教えていたとのこと。しかも日本滞在中は関西のレコ屋巡りをしていたらしく、 The second hand market is so good there !(日本の中古レコ屋は充実してるよね!)と懐かしそうに語ってくれたが、ひょっとするとどこかのお店で隣り合わせでエサ箱を漁っていたかもしれないと思い、何となく親近感を感じてしまった。
 2週間ほどしてレコードが届いた。非常に珍しい OZのメリルさんだ。表ジャケは US盤の青よりもかなり淡い色合いで、左上の EmArcy のロゴには “Esquire MECURY” と入っている。なるほど、オーストラリアは UK系の Esquire なのか。裏ジャケは US 1st/2ndプレスのブルーバックではなく黒色印刷だ。盤はフラット・エッジでズシリと重く、量ってみると192gもあった。盤の重さと音質が比例しないことは重々承知だが、それでもやはりヴィンテージ・レコード・コレクターの心情としては大いなる期待を抱いてしまう。因みに US 1stプレスは166g、2ndプレスは175g、そしてこのレコードの国内盤では最も音が良いとされている91年プレス盤(DMJ型番)は120gだった。
 とまぁこのように大きな期待を抱いてターンテーブルに乗せ、ワクワクしながら針を落としたのだが、スピーカーから出てきた音はハッキリ言ってイマイチ。何か薄いベールを被せたようなこもった音で高域のヌケが悪く、USオリジナル盤はおろか国内盤にすら完全に負けている。本来ならば金粉をまいたかのように爆裂するはずのクリフォード・ブラウンのトランペットが借りてきた猫のように大人しいし、オシー・ジョンソンのブラッシュのキレ味が全く感じられないのが何よりも悲しい。もちろん US盤とは似ても似つかぬ手書きの独自マトなのだが、A①「Don't Explain」の2分20秒のところで一瞬音が撚れるようなところがあるので、ひょっとしたらオーストラリアに送られたマスターテープ自体に問題があったのかもしれない。
 そういうワケでこのレコードの第一印象は非常に悪く、その後数回聴いてもそのマイナス・イメージは払しょくできなかったのだが、ある時何とかして音質を改善してやろうとプリアンプのトレブルつまみを3目盛りほど右に回してみたところ、生まれ変わったかのように活き活きと鳴りだした。私はアンプの音質コントロール機能なんて滅多に触らないのだが、今回の “音に満足できなければこっちから積極的に音作りしてやろう” という思いつきは大成功で、このレコードは隣室のレコ墓場送りをギリで回避。まぁヘレン・メリルのオーストラリア盤なんて滅多に見ないので、珍盤として手元に置いておくのも悪くはないかもしれない。