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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Atom Heart Mother / Pink Floyd

2011-05-01 | Rock & Pops (70's)
 今年に入って震災は起こるわ、仕事は忙しゅーなるわ、スーちゃんは亡くなるわで自分的には暗い気分の日が続いている。こんな時こそ音楽を聴いてスカッとしたいものだが、ヒネクレ者の私は凹んだ時に明るい音楽を聴いても全然楽しめず、むしろ暗くてヘヴィーな音楽を本能的に求めてしまう傾向がある。ということで最近はカラッとしたアメリカン・ロックよりも翳りのあるブリティッシュ・ロック、それもハッピーで分かりやすい80's よりもちょっと難解な70'sのロックをよく聴いている。
 難解なロックといえば真っ先に頭に浮かぶのがプログレである。私は基本的にはビートルズやラモーンズのような分かりやすいストレートなロックンロールが好きなのでプログレに関しては専門外なのだが、そんな私でもピンク・フロイド、EL&P、キング・クリムゾンの三大バンドだけはそれなりに聴いてきた。EL&Pはギター抜きとはいえ基本的には自分が聴いてきたロックのノリとほとんど変わらなかったし、クリムゾンも当たり外れはあるにせよ「宮殿」を含め何枚かは自分の嗜好に合っていたのだが、フロイドだけはどうにもつかみどころがないという感じで、「吹けよ風、呼べよ嵐」や「マネー」、「シープ」といったイケイケなナンバーを除けば私には敷居が高い演奏が多く、 “やっぱりプログレは難しいわ” という思いを植え付けられたものだった。
 私が基本的にプログレ・ド素人なせいかもしれないが、ピンク・フロイドほどその時々でアルバムの好き嫌いが乱高下するバンドは珍しい。「ザ・ウォール」なんて発売された当時は結構好きでよく聴いていたが、最近久々に引っ張り出して聴いてみるとそのあまりの暗さに辟易して途中で聴くのをやめてしまった(>_<) 逆に「炎」は昔はそんなに好きじゃなかったのに、彼らの音楽の根底に潜むブルース・バンドとしての魅力に目覚めてからは愛聴盤になったのだから、やはりフロイドは一筋縄ではいかないというか、奥が深いバンドである。
 今日取り上げる「原子心母」は私が初めて買ったフロイドのアルバムで、別に「神秘」でも「おせっかい」でも「狂気」でも良かったのだが、ジャケットのインパクト一発でこのアルバムを選んだのだ。今ではヒプノシス(←フロイドの主要作品や後期ゼッペリン、ウイングスにT.レックス、ユーミンまで手掛けた名デザイン・グループ)の作品ということで大いに納得だが、当時中学生だった私にとっては “牛のジャケット” というのがメチャクチャ衝撃的だった。牛でっせ、牛。しかもこの牛、こっちを振り向いてガンを飛ばしてるように見えるではないか。ここで引いたら負けである。(←何のこっちゃ!) 因みに裏ジャケでは3頭の牛が正面からメンチを切っている。コレはさすがにコワイですわ...(>_<)
 このアルバムはジャケットのみならず、邦題タイトルのインパクトも絶大だった。原題の Atom Heart Mother を、竹を割ったような潔さで直訳して「原子心母」ときたモンだ。「げんししんぼ」って私にはまるで既成の四字熟語みたいに聞こえるのだが、このコトバの響きには何か人を引き付けてやまないサムシングがあるように思えてならない。原題は原子力電池で動くペースメーカーを付けた妊婦さんの新聞記事から取られたらしいが、ここはやはり重厚な響きを持つ「原子心母」(←何か原子力空母の名前みたい...)の方が「アトム・ハート・マザー」よりも数倍カッコイイ(^o^)丿
 邦題と言えば、アルバム・タイトルだけではなく各曲の和訳も面白い。「ミルクたっぷりの乳房」(←濃厚な牛乳が飲めそう...)に「むかつくばかりのこやし」(←くっさ~)、「喉に気をつけて」(←製薬会社のCMかよ!)、「デブでよろよろの太陽」(←どんな太陽やねん!)など、まるでリスナーを笑わそうとしてるんか、と思いたくなるような迷訳珍訳のオンパレードなのだが、コレがまた音楽を聴く前からこちらの好奇心・想像力をビンビン刺激してくる。とにかくシュールなジャケット、重厚な邦題、笑える曲名と、これでつかみは完璧にOKだ。
 このアルバムは何と言ってもA面すべてを使ったタイトル曲①「アトム・ハート・マザー」が圧倒的に、超越的に、芸術的にすんばらしい!巷では “オーケストラとの共演によりクラシック音楽の要素を導入” という点ばかりが強調されているような感があるが、クラシックがナンボのもんじゃいと思っている私にとってはロック・シンフォニーがスベッただの、合唱隊のコーラスがコロンだだのといった能書きはどうでもいい。心して聴くべきはデイヴ・ギルモアのブルージーなギター・ソロが炸裂するパート(3:50~5:21と10:10~13:25あたり)と「レヴォリューション№9」みたいなサウンド・コラージュ・パートを経て曲のテーマのフラグメンツが現れては消え、消えては現れを繰り返しながら徐々に形を整えて大団円に向かって収斂していくかの如きエンディング・パート(18:40~23:45)、コレに尽きると思う。A面を聴き終えた頃にはもう「アンクル・アルバート~アドミラル・ハルセイ」を裏返しにしたようなテーマ・メロディの脳内リフレインは確実だ。
 B面の大半はA面とは対極に位置するようなアコースティック・ナンバーで、そのあまりの落差に唖然とさせられるが、①「イフ」は曲調は思いっ切り地味だがその歌詞はアルバム「狂気」へと繋がる重要なナンバーだし、牧歌的な雰囲気で始まるリック・ライトの②「サマー’68」なんかブラスが炸裂する1分12秒あたりからのポップな展開は「マジカル・ミステリー・ツアー」の頃のビートルズっぽい味わいがあって結構気に入っている。③「ファット・オールド・サン」は沈む間際の大きく見える太陽のことで、その名の通り何となくよろよろした歌声に脱力感を禁じ得ない(笑)が、ギルモアの歌い方といい、ニック・メイソンのドラミングといい、どことなく「マザー・ネイチャーズ・サン」っぽい雰囲気を持ったナンバーだと思う。
 ④「アランズ・サイケデリック・ブレックファスト」はバンドのロード・マネージャーだったアラン・スタイルズの朝食風景を音で表現したもの。蛇口から雫ががポタポタ落ちる音やジュージューと目玉焼きを焼く音、ガツガツ食ってゴクゴク飲む音etcをフィーチャーしたミュージック・コンクレート風のナンバーだが、随所に挿入されるピアノやギターが奏でるメロディーの断片が素晴らしく(←特に「上を向いて歩こう」みたいなピアノと「ディア・プルーデンス」みたいなアコギが好き!)、いかにも前衛やってます的ないやらしさは微塵も感じられない。スピーカーに対峙して聴くような音楽ではないが、何かをしながらBGMとして聴けば中々面白いトラックだと思う。
 この「原子心母」は初めて聴いた時はどこがエエのか全く分からずすぐに売っ払ってしまったが、 “ひょっとして自分の感性が乏しいんとちゃうやろか...” とその後も心の片隅でずっと気になっていた因縁浅からぬアルバムで、それから30年ぐらい経ってCDレンタルで聴き直して、初めてその真価が分かったというニクイ1枚なのだ。やはりプログレの道は1日にしてならず、ということだろうか。

Pink Floyd - Atom Heart Mother Suite


Pink Floyd - Summer '68


Pink Floyd-Alan's Psychedelic Breakfast

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