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shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Hell Freezes Over / Eagles

2010-11-13 | Rock & Pops (70's)
 私がこの4月に転勤して新しい職場で働き始めてもう半年以上が経った。私は音楽の話が出来る人としか友達にならないので職場環境が変わるといつも虎視眈々とロック/ポップス・ファンを探すのだが、ロックンロール偏重主義の自分とテイストが似通った人に出会える確率は極端に低い。少なくとも今の職場にそういう人はいないように思えたし、無理して音楽以外の話題に付き合いぐらいなら独りでいる方がマシ、とばかりに “男は黙ってサッポロビール” (←懐かしい!)を決め込んでいた。
 しかし世の中どこに縁が転がっているかわからない。私は週一でウチへ派遣されてくるサマンサというオーストラリア人女性とペアで仕事をすることになったのだ。 “英語なんか喋れるかよ...” と不安に思いながら彼女に会ってみると実に気さくで楽しそうな感じの人だ。そこで “オーストラリア” を突破口にしたれと一計を案じた私は、“I love AC/DC. Do you like them?” と訊いてみた。初対面でいきなり “AC/DC 好きか?” と訊いてくる日本人なんて私ぐらいのモンだろうが、敵もさるものひっかくもの。何とこの3月のAC/DC 京セラドーム大阪公演に行ってきたというからオドロキだ(゜o゜)
 “おぉ、こいつ、バリバリのロック・ファンやんけ!” とすっかり嬉しくなった私は仕事そっちのけで音楽談義に突入!もちろんルー大柴みたいに英語と日本語のチャンポンだが...(笑) 彼女は外国人とは思えないぐらいに関西人のノリでツッコミを入れてくるのでめちゃくちゃ面白い。もうコテコテである。それから半年、今では何でも話せる無二の親友... ケンシロウ流に言えば我が朋友だ。
 先週の火曜日のこと、いつものように仕事の打ち合わせのふりをしながらロックの話をしていて話題がイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」になった時、彼女が “例のイントロに入る前にスパニッシュ・ギターっぽいソロがあるライヴ・ヴァージョンが最高!” と言った。私の知っている「ホテル・カリフォルニア」のライヴは確か「ロング・ラン」の後に出た例の2枚組ライヴ「イーグルス・ライヴ」だけだが、 “スパニッシュ・ギターっぽいソロ” なんてあったっけ???
 私がそんなん知らんでぇ~と言うと、彼女は今週、そのテイクの入った CD-R を持ってきた。友人が焼いてくれたというコンピ CD-R だ。早速聴いてみると初めて耳にするアコースティック・アレンジ・ヴァージョンだ。しかもそれが又めちゃくちゃ心に響いてくるのである。コレは何としても出自を突き止めなければならない!こういう時は Amazon と YouTube で検索するに限るが、私はものの5分と経たないうちに同じヴァージョンを見つけ出した。それがこの「ヘル・フリージズ・オーヴァー」収録のニュー・アコースティック・アレンジ・ヴァージョンというわけ。この「ホテ・カリ」1曲だけでも十分価値があると思った私はその日のうちにアマゾンでこの盤を注文した。ということで、今日は “ラモーンズ祭り” (←まだまだ続くよ...たぶん)をお休みして “朋友に捧げる緊急特別企画(?)” のイーグルス、届いたばかりのホヤホヤ盤だ。
 このアルバムは1994年にリリースされたもので、彼らにとっては14年ぶりの再結成ということになる。94年と言えば私はグランジ、オルタナ、ラップまみれの洋楽シーンとは絶縁していたのでこの盤の存在を知らなかったのも無理はない。以前取り上げたフリートウッド・マックといい、このイーグルスといい、70年代に一世を風靡した大物が揃って90年代に再結成して素晴らしいライヴ盤を残しているというのも面白い偶然だ。
 「ヘル・フリージズ・オーヴァー」というのは、80年代初めにバンドが崩壊した時に再結成の可能性について訊かれたドン・ヘンリーが答えた言葉 “When Hell freezes over” (←“地獄が凍てついたらね”... 地獄の炎は永遠に燃え続けるとされるから、要するに“再結成なんて絶対にありえないよ!” という意味)で、それをこの再結成アルバムのタイトルに使うとは中々洒落たことをしてくれる。こういうユーモアのセンス、好っきゃわぁ...(^_^)
 アルバムの構成は前半4曲が新曲で、残りの11曲は「MTV アンプラグド」の模様を収録。私としてはソロ作品とあまり変わり映えのしない新曲群よりも中盤以降の “アンプラグド・ライヴ” 音源に魅かれてしまう。①②③④と聴いてきてライヴの1曲目⑤「テキーラ・サンライズ」が始まると、何か目の前がパァ~っと開けたような感じがするのは私だけだろうか?
 この盤を知るきっかけとなった⑥「ホテル・カリフォルニア」は “オレ達は解散したんじゃなくて、14年間のヴァケーションを取ってただけさ...” というグレン・フライの前ふりに続いてラテンっぽいアレンジの物憂げなガット・ギター・ソロで始まり、やがてそこにパーカッションが合流、一瞬 “何の曲やろ?” と思わせておいて絶妙のタイミングであの必殺のイントロが現れる瞬間が鳥肌モノだ。あの屈指の名曲が20年近い時を経て熟成され、実に渋くてカッコ良いヴァージョンに仕上がっている。この1曲だけでも “買って良かった!” と思えるキラー・チューンだ。
 ドン・ヘンリーのやるせないヴォーカルがクセになる⑦「ウエステッド・タイム」、昔と全然変わらないティモシー・シュミットのハイトーン・ヴォイスとそれに絡む美しいコーラス・ハーモニーに涙ちょちょぎれる⑨「アイ・キャント・テル・ユー・ホワイ」、ドン・ヘンリーの “声” が持つ吸引力の凄さに平伏してしまう⑪「ラスト・リゾート」と、心が洗われるようなバラッドの名演が続く。イーグルスって高い演奏後術もさることながら、やはりヴォーカル/コーラスが最大の武器なんだと再認識させられた。そんな彼らの魅力ここに極まれりと言える⑫「テイク・イット・イージー」は数あるイーグルス曲の中で理屈抜きに一番好きなナンバーだ。
 ラストの⑮「デスペラード」のオーケストラ・アレンジも曲の魅力を引き出す見事なもので、ドン・ヘンリーの艶のあるヴォーカルを更に際立たせている。誰にも真似のできない彼の歌声はまさに人間国宝級で、聴く者の心に沁みわたる。私の知る限りでは、この曲のベスト・ヴァージョンと言っていいだろう。やっぱりイーグルスはエエなぁ...(≧▽≦)
 この素晴らしい盤との出会いのきっかけを作ってくれて私の音楽遍歴のミッシング・リンクを埋めてくれたサムに大感謝、やはり持つべきものは音楽の話ができる朋友だ。Thank you, Sam!!!

EAGLES hell freezes over


Eagles -Hell Freezes Over- Tequila sunrise (live)


Milenium en Concierto - Eagles - I can´t tell you why
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Linda Ronstadt Greatest Hits

2010-02-20 | Rock & Pops (70's)
 私はリンロンと言えば何をおいても「シンプル・ドリームス」、「リヴィング・イン・ザ・USA」、「マッド・ラヴ」という “ロックなリンロン3部作” が一番好きで、ターンテーブルに乗った回数も圧倒的に多いのだが、初期の “土の薫りのするカントリー・ロックを歌うリンロン” も結構好きだ(^.^) もちろんマンドリンやフィドル、ペダル・スティール・ギターといったカントリー・ミュージック独特の楽器の音はさすがにずぅ~っと聴いていたいとは思わないが、単純明快な分、聴いていて不快に感じることは滅多になく、変なジャズやロックなんかよりも遥かに罪がない(笑)
 私のような日本人にはカントリー・ミュージックというのはイマイチ馴染めないところがあるが、アメリカ人にとってはまさに心の音楽であり、ちょうど私の世代以上の日本人が昭和歌謡に対して抱く郷愁感のようなものを、彼らはカントリー・ミュージックに対して抱いているらしい。そう考えればイーグルスの初期ベスト盤がアメリカ国内で「スリラー」に次ぐ売り上げ第2位(2,900万枚!)を誇っていたり、ただのオクラホマの田舎のオッサンにしか見えないガース・ブルックスがアメリカだけでバカ売れするのも頷ける。
 70年代の彼女のキャリアは、カントリー色の強いロックを歌うアリゾナ出身の田舎娘が徐々に成長し、洗練されていく過程であり、その変化がハッキリとレコードの音溝に刻み込まれている。1976年にリリースされたこの「グレイテスト・ヒッツ」はリンロン初のベスト盤で、彼女のキャリア初期のヒット曲が網羅されているのだ。その中で最も古い音源は1968年(!)のストーン・ポニーズ時代の大ヒット⑦「ディファレント・ドラム」で、モンキーズのマイク・ネスミスの作ったこの佳曲を歌う若き日の彼女の初々しい歌声がたまらない(^.^)  次はソロになって初のヒット曲⑥「ロング・ロング・タイム」で、1970年に全米25位まで上がったのだが、ブタ小屋の中で(笑)屈託のない笑顔を見せるリンロンのジャケに萌えてしまう2nd アルバム「シルク・パース」中屈指の美しいバラッドだ。花でいえばちょうどつぼみが開き始めた頃といえるだろう。
 73年の4th アルバム「ドント・クライ・ナウ」からは3曲、彼女が大ブレイクする直前の姿を捉えた好盤だ。アップテンポの②「シルヴァー・スレッズ・アンド・ゴールデン・ニードルズ」はかなりカントリー色の強い演奏だが、曲そのものが良いので私は結構気に入っている。このアルバムからのリード・シングル⑨「ラヴ・ハズ・ノー・プライド」、そしてイーグルスで有名な③「デスペラード」はどちらもしっとり系のバラッドで、つぼみが開いて満開になったようなスケールの大きな歌唱が楽しめる。特に③における細やかな感情表現は絶品で、リンロン・バラッドの中でも屈指の名唱と言えるだろう。
 彼女にとって初の全米№1に輝いた5th アルバム「ハート・ライク・ア・ホイール」からは①「ユア・ノー・グッド」(1位)と⑧「ホェン・ウィル・アイ・ビー・ラヴド」(2位)という大ヒットシングル2枚を収録。①は63年にベティ・エヴェレットが小ヒットさせた曲のカヴァーで、よくぞまぁこんな曲を見つけ出してきたものだと感心するが、彼女はまるで自分のために書かれた曲であるかのように完璧な歌唱を聴かせてくれる。連続大ヒットとなった⑧も60年のエヴァリー・ブラザーズのカヴァーということで、そういう意味でも①はその後の “オールディーズ・カヴァー路線” を確立した重要な1曲だと思う。ポール・アンカ作の⑪「イット・ダズント・マター・エニーモア」はしっとり系のラヴ・バラッドで、憂いを含んだ彼女のヴォーカルとカントリー・フレイヴァー溢れるバックの演奏が実に良い味を出している。
 6th アルバム「プリズナー・イン・ディスガイズ」からはマーサ&ヴァンデラスのカヴァー⑩「ヒート・ウエイヴ」が大ヒット、アップテンポで弾けるような歌声を聴かせるリンロンは貫録十分だ。ニール・ヤングの④「ラヴ・イズ・ア・ローズ」はカントリー色の強い演奏で、絶好調のリンロンはこれまた水を得た魚のように生き生きした歌声を聴かせてくれる。スモーキー・ロビンソン作の⑫「トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」では情感豊かな歌声のリンロン節が堪能できる。7th アルバム「ヘイスン・ダウン・ザ・ウインド」からの大ヒット・シングル⑤「ザットル・ビー・ザ・デイ」は言わずと知れたバディー・ホリーのカヴァーで、「イッツ・ソー・イージー」や「ブルー・バイユー」、「ジャスト・ワン・ルック」なんかと同様、オリジナルよりもこっちを先に聴いて刷り込みが完了してしまったので、今でもこれらの曲はリンロン・ヴァージョンの方が断然しっくりくる。困ったものだ(笑)
 ということでこの “リンロン初期ベスト” は白人保守層を中心に売れまくり、全米だけで700万枚を売りつくす超特大ヒット・アルバムになった。彼女のオリジナル・アルバムが大体100~300万枚ということなので、いかにこの盤がアメリカ人に愛されているかがよくわかる。ある時は情熱的に迫り、又ある時は切なく歌い上げるリンロンの見事なヴォーカル、アメリカ人好みのカントリー・フィーリング溢れるロックンロール、そして彼女にピッタリ合ったオールディーズ・カヴァーという3枚看板を武器に、我らがリンロンは70年代ポップス界を席巻し、ついにはアメリカを代表する女性シンガーにまで昇りつめていくのである。

Linda Ronstadt - Desperado (1976) Offenbach, Germany


Linda Ronstadt - You're No Good - San Diego 1976
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Mad Love / Linda Ronstadt

2010-02-19 | Rock & Pops (70's)
 女性ロック・シンガーとしてのリンダ・ロンシュタットの全盛期は1970年代後半である。特に「シンプル・ドリームス」と「リヴィング・イン・ザ・USA」の2枚は共にオールディーズのカヴァーを前面に打ち出した内容で、ロックンロールとバラッドのバランスも実に見事な傑作アルバムだった。私はこの2枚に続いて1980年にリリースされた「マッド・ラヴ」を合わせて “ロックなリンロン3部作” として愛聴してきたが、この「マッド・ラヴ」は同じロックでも先の2枚とはかなり毛色の違ったサウンドが楽しめる。
 何よりもまず驚いたのは、アルバム全体が装飾と言う名の贅肉を徹底的に削ぎ落とした非常にシンプルなロック・サウンドで構成されていたこと。このアルバムがリリースされた当時、ディスコ一色に塗りつぶされたような感のあったアメリカに対し、イギリスからは新しいバンドが次々と刺激的な音を届けてくれて、実に面白い状況を呈していた。そういった時代の空気を我々は “ニュー・ウエイヴ” として捉えていたのだが、リンダのこのサウンドは “それまでの大ヒットしたアルバムの続編ではない、何か新しいサウンド” を求めた結果の産物だったように思う。そのためか、前作までとバック・バンドのメンバーを変え、ギターにクリトーンズのマーク・ゴールデンバーグを起用、全10曲中マークの作品を3曲、そして「アリスン」に続きエルヴィス・コステロの作品も3曲取り上げるなどしてアルバム・カラーの一新を図っている。例えるなら、プロデューサーという名の料理人ピーター・アッシャーがお客の嗜好の変化を敏感に察知し、それまで大好評だったワディ・ワクテル・バンドというコクのあるソースから、マーク・ゴールデンバーグというシンプルなソースに変えて、リンロンという素材の味を最大限引き出そうとしたようなモノだろう。
 全米10位まで上がったリード・シングル③「ハウ・ドゥー・アイ・メイク・ユー」は怒涛のドラミングで始まる超カッコイイ曲で、それまでの彼女にはなかったシャープでエッジの効いたサウンドに乗ってシャウトするリンロンはとてもあの “ブルー・バイユー” や “ラヴ・ミー・テンダー” で名唱を聴かせた歌姫と同一人物とは思えないバリバリの “ロック姐さん” だ。2nd シングルになったリトル・アンソニー&ジ・インペリアルズのカヴァー⑤「ハート・ソー・バッド」は前2作の薫りを湛えたミディアム・スロー・ナンバーだが、辛口のギター・サウンドが曲をピリッと引き締めており、全米8位まで上がるスマッシュ・ヒットになった。リンロンの “ノォォ~♪” 連発(←2分40秒あたり)に代表される感情表現の見事さも特筆モノだ。超ゴキゲンなノリがたまらない3rd シングル④「アイ・キャント・レット・ゴー」は前作の「ジャスト・ワン・ルック」に続くホリーズのカヴァーで、コレもやはりリンロンを先に聴いたために未だに彼女の方がオリジナルに聞こえてしまう。とにかく歌、演奏共にドライヴ感抜群で、まるで彼女のために書かれたような名曲名演に仕上がっており、特にリンロンの “一人おっかけ二重唱” のパートが最高に気に入っている。
 マーク・ゴールデンバーグの①「マッド・ラヴ」、⑦「コスト・オブ・ラヴ」、⑧「ジャスティン」はどれも新しい時代の息吹きを感じさせるような作風の曲で、アルバム冒頭のシンプル・ロック宣言といえそうな①、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーなメロディーに耳が吸いつく⑦、得意とするミディアム・スロー・テンポでリンロン節が冴えわたる⑧と、全く違和感なく “新しいサウンド” を自家薬籠中のものにしてしまっているところが凄い。エルヴィス・コステロの②「パーティー・ガール」、⑨「ガールズ・トーク」、⑩「トーキング・イン・ザ・ダーク」に関しても同様で、しっとり系の②、ノリノリの⑨、颯爽と闊歩するような⑩と、どんなタイプの曲でも完全にリンロン・ワールドに引き込んで表現している。特に女性同士のヒソヒソお喋りからフェイド・インする⑨が絶品で、爽快感をアップさせるバック・コーラスといい、スペクター印のカスタネット攻撃といい、文句ナシの超愛聴曲だ。ニール・ヤングの⑥「ルック・アウト・フォー・マイ・ラヴ」のしっとり&スベスベ(?)感覚のヴォーカルは聴く者を優しく包み込む心地良さで、何度も聴きたくなってしまう(^.^)
 この「マッド・ラヴ」はアメリカにおいては70年代から80年代へと移り変わる過渡期に生まれたアルバムで、当時としては十分 “新しいサウンド” だったが、今の耳で聞けばごくごく普通のポップ・ロック・ヴォーカルに過ぎない。しかしその何の変哲もないストレートでシンプルなサウンドこそが、30年たった今でもこのアルバムが古めかしくならない秘訣なのではないかと思う。「リヴィング・イン・ザ・USA」がオモテ名盤なら、この「マッド・ラヴ」は間違いなくリンロンのウラ名盤の最右翼と言えるのではないだろうか。

Linda Ronstadt I Can't Let Go.


Linda Ronstadt - Girls Talk


Living In The USA / Linda Ronstadt

2010-02-18 | Rock & Pops (70's)
 今日は大好きなリンロンの最高傑作アルバム「リヴィング・イン・ザ・USA」(1978年)である。彼女に関しては、去年たしか “初リンロン” ということでこの盤の前作に当たる「シンプル・ドリームス」を取り上げたし、「星に願いを」や「ブルー・プレリュード」といった曲単位でも何度か彼女の名唱を紹介してきた。それにしても、カントリー、ウエストコースト・ロック、オールディーズのカヴァー、ラテン物、ウィズ・ストリングス、そしてジャズ・スタンダードと、これだけ広いジャンルの楽曲を様々なフォーマットで歌ってよくもまぁあんなに多くの名唱を残せるモンやなぁと感心してしまう。最初は “ウエストコーストのじゃじゃ馬娘” と思っていたが、彼女は見た目以上に懐の深いシンガーなのだ。しかも彼女には唯一無比の “声” という武器がある。元気ハツラツ・ロックンロールにおいても切々と歌うバラッドにおいても、その強烈な吸引力たるやハンパではない。あの歌声が響きわたればそこには凛とした “リンロン・ワールド” が屹立し、一瞬にして彼女のカラーに染め上げてしまう。確かに80年代以降に出てきたマドンナやシンディー・ローパーも凄いが、リンロンは年季が違うのである。
 このアルバムが出た当時、前作「シンプル・ドリームス」にめちゃくちゃハマッていた私は大いなる期待を持ってこのアルバムを買いに走ったのだが、実際に聴いてみると大好きな前作をも凌ぐ素晴らしい作品だった。まずは何と言っても①「バック・イン・ザ・USA」、A面1曲目に置かれたこのアルバムからのリード・シングルでいきなりガツン!とやられる。音楽の “ノリ” 、 “ドライヴ感” 、 “グルーヴ” とは何かと問われたら、私は “この曲を聴いてみて!” と言うだろう。チャック・ベリーのロックンロール・クラシックスをウエストコーストの腕利きミュージシャンたちが70年代に最高の形で蘇らせた(←特にピアノのノリが圧巻!!!)演奏をバックに元気ハツラツ、ファイト一発ノリ一発!な歌声を聴かせるリンロンの何とカッコイイことよ(≧▽≦) こんな素晴らしいシングルが16位止まりで金太郎飴みたいなワケのわからんディスコ・ナンバーばかりヒットするのが納得できず、アメリカン・チャートは完全に終わっとる、と当時思ったものだった。
 シングルの切り方としては、ノリの良いオールディーズのカヴァー(「イッツ・ソー・イージー」と①「バック・イン・ザ・USA」)、スローなオールディーズのカヴァー(「ブルー・バイユー」と⑦「ウー・ベイビー・ベイビー」)、そしてミディアム・テンポのロック・チューン(「プアー・プアー・ピティフル・ミー」と③「ジャスト・ワン・ルック」)と大ヒットした前作の流れを踏襲しており、プロデューサー、ピーター・アッシャーの戦略が見えてくる。7位まで上がったミラクルズ・カヴァー⑦もいいが、私的には①と並ぶぐらい好きなのが44位止まりだった(←信じられへん!)ホリーズ・カヴァー③である。私がホリーズ・ヴァージョンを聴いたのはずっと後になってからだったので、それまではずぅ~っとリンダのオリジナル曲だと思っていた。①と同じ編成のバンドをバックにミディアムでロックするリンロンはまさに “ロックンロール姐さん” だ。特に “カモン ベイベェ~♪” のラインなんかもうタマランですよ!ワディ・ワクテルの顎が落ちそうなリズム・カッティングも絶品で、言うことナシのナンバーだ。
 シングル曲以外も良い曲が揃っている。②「ホェン・アイ・グロウ・トゥー・オールド・トゥ・ドリーム」はリンロンの名バラッドと信じて生きてきたが、10年くらい前にコレが古いスタンダード・ナンバーだと知ってビックリ。スタンダードを歌ってもオリジナルのように聴かせるあたり、さすがという他ない。コステロの④「アリスン」では⑦でもエエ味を出していたサックスのデヴィッド・サンボーンが大活躍。この④に続いてリンロンの “ひとり二重唱” にシビレる J.D.サウザーの名バラッド⑤「ホワイト・リズム・アンド・ブルース」でA面が終わる頃には完全にピーター・アッシャーの術中にハマッてしまうこと請け合いだ。
 B面では⑧「モハメッズ・レディオ」に注目!初期のイーグルスを彷彿とさせる曲想を更に魅力的にしているのが “ニュー・キッド・イン・タウンな” バック・コーラスだ。ドン・ヘンリーのリード・ヴォーカルにランディ・マイズナーとティモシー・シュミットのバック・コーラスで聴いてみたくなるような、めっちゃイーグリィ(?)なナンバーだ。アコギとオルガンだけをバックに切々と歌う⑩「ラヴ・ミー・テンダー」、もう何度聴いても鳥肌モノの素晴らしさ!!! わずか2分40秒の歌の中に何と豊かな情感がこもっているのだろう。リンロン最高!と声を大にして叫びたくなるキラー・チューーンだ。このアルバムが出た当時、アメリカのDJがエルヴィスの未発表ラジオ・テープとリンロン・ヴァージョンを合成してデュエットさせ、リスナーの大反響を呼んだという。昔一度だけラジオで聴いてめちゃくちゃ感動したのを覚えているが、何と YouTube にアップされていた。ホンマに何でもあるなぁ...(^.^) 音はあまり良くないけれど、サーフェス・ノイズの向こうから伝わってくる歌心が素晴らしい。特に “For my darling...♪” のハモリなんてもうゾクゾクしてしまう。これはもちろん非売品で、プロモーショナル・コピーとして出回っていたものを海外オークションで時々目にしてはいたが、さすがに£40~£50ではハナシにならず安く出るのをずーっと待っていたのだが、ついに昨夜$10でゲットした (^o^)丿 長い間欲しかった盤なので、届くのが今から楽しみだ。

Linda Ronstadt Living In The USA


Elvis Presley with Linda Ronstadt - Love Me Tender (Mix 1)
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In The Court Of The Crimson King / King Crimson

2009-12-15 | Rock & Pops (70's)
 9月から約3ヶ月半、年間の1/3弱を連続してビートルズ関係の盤ばかり取り上げて勝手に盛り上がっていたのだが、ほとんどビートルズ一色だった中で細々と(笑)他の音楽も聴いていた。そんな中で最大の収穫は、あの一度見たら忘れられないエグいジャケットで有名なキング・クリムゾン衝撃のファースト・アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」の UK ファースト・プレス、通称 “ピンク i レーベル” 盤(マト番 A2/B2 )をついにゲットしたことだった。
 このアルバムを買うのはこれで4枚目で、初めて買った日本盤 LP はモコモコしたトホホな音だったし、次に大いなる期待を抱いて買った日本盤紙ジャケ CD はゴールド CD であるにも関わらず(←私はこれまで音の良いゴールド CD を聴いたためしがない...)、普通の CD と大して変わらん音質で、当時リマスタリング技術で一歩先を行っていたジャズの CD 並みの音を期待していた私には物足りないものだった。
 ところが2005年に発売された “オリジナル・マスター・エディション” と呼ばれるリマスター CD は音が全然違うということで、騙されたと思って私も買ってみたのだが、そのクリアーで生々しい音にビックリ(゜o゜) それはそれまで自分が聴いてきた「宮殿」は一体何やってん!と言いたくなるぐらいの鮮烈なサウンドで、音の情報量も段違いだった。色々調べてみると、この世紀を揺るがす大名盤のオリジナル・マスターはあろうことか紛失して行方が分からず、“ピンク・リム・パーム・トゥリー・レーベル” と呼ばれるセカンド・プレス(島の絵のレーベルです)以降はコピー・マスターが使用されていたとのこと。それだけが原因ではないだろうが、どうりで高音の伸びがイマイチなわけだ。要するにリマスタリング技術云々ではなく、元々のマスター・テープの音質の差があまりにも大きかったということなのだが、その “紛失” したオリジナル・マスター・テープがアイランド・レコードではなく何故かヴァージンの倉庫から出てきたというから一体何がどーなっているのかワケがわからない...(>_<)
 とにかくこの圧倒的高音質の “オリジナル・マスター・エディション” CD で「宮殿」に関しては決着がついたと喜んでいたのだが、ある日ふと “ CD でこんだけ素晴らしい音がするっちゅーことは UK ファースト・プレスのオリジ LP はもっと凄いんちゃうか...” などと余計な好奇心がムクムクと湧き上がり、 eBay やヤフオクでチェックする日々が始まった。しかしその相場は安くても1万円台後半、状態の良い物は軽く3万円を超えてビッドが殺到するという修羅場の連続で、ヘタレな私はいつも指をくわえてただ眺めているばかりだった。
 そして先月、ついに eBay で格好の獲物を見つけた。表示は VG+ ながら、写真で見る限りそれほど状態は悪くなさそうだったので、今年1年の自分へのご褒美(笑)の意味も込めて一気に勝負に出て £63.00でゲット、送料込みでも約1万円というのだからもう嬉しくてたまらない(^o^)丿 早朝5時起きでスナイプが成功した日は睡眠不足も何のその、大コーフンして仕事が手につかず、同僚に大笑いされたものだった。
 約2週間して届いたブツは梱包に激しくダメージを負っていた(←海外からLPを買う時はコレが一番のネックやね... >_< )が中身は何とか無事で一安心。「スキッツォイド・マン」のド迫力でありながらどこまでもナチュラルなサウンドは圧巻だし、「風に語りて」のフルートもエエ感じ。「エピタフ」のフォルティッシモなんてゾクゾクしてしまうし、「クリムゾン・キングの宮殿」におけるメロトロンの響きなんかアナログの良さを存分に味わえる素晴らしいものだ。「ムーンチャイルド」の静かなパートではプチプチ・ノイズが入るも十分許容範囲でコスト・パフォーマンスは抜群に高かった。
 ノイズレスでディテールまで楽しめる究極の “オリジナル・マスター・エディション” CD と、家宝ともいえる “ピンク i レーベル” LP 、今度こそ私の「宮殿」は完結と言いたいところだが、果たしてどーなることやら...(笑)

King Crimson - In The Court Of The Crimson King

Bay City Rollers Memorial

2009-07-28 | Rock & Pops (70's)
 昨日ダスティ・スプリングフィールドを取り上げた時に「二人だけのデート」絡みでベイ・シティー・ローラーズのことを思い出し、久々に彼らのCDを聴いてみた。いやぁ~、ホンマに懐かしいなぁ...(^.^) 好き嫌いに関わらず、私のように70年代半ばに中高生だった人間、つまり今の40代(アラフォーっていうんですか?)の音楽好きにとっては忘れられないグループの一つだろう。
 初めて彼らを聴いたのは1975年の夏のこと、当時の彼らは飛ぶ鳥を落とす勢いで、フォー・シーズンズのカヴァー「バイ・バイ・ベイビー」が全英で6週連続№1となり、日本でもラジオの洋楽チャートを席捲していた。NHKの音楽番組「ヤング・ミュージック・ショー」でもライブが放送され(確かレスリーがカラフルな風船を蹴っ飛ばしながら歌っていたような記憶が...)、「サタデイ・ナイト」も念願の全米№1になり、日本にもタータン・チェックを身にまとったローラー・マニアと呼ばれる少女達が出現した。キャーキャー叫びながら彼らを追いかけ、失神する者まで現れるというそのヒステリックなまでの狂乱ぶりは確かに10年前のビートルズ熱を彷彿とさせるものがあったが、マトモな耳を持って聴けば彼らが “第2のビートルズ” なワケがないことは一聴瞭然だった。少なくとも “第2のモンキーズ” とでも言ってあげればよかったのだ。しかしメシのタネになるものは何でも利用したいマスゴミ連中はこぞって彼らを持ち上げるだけ持ち上げた。そして彼らの人気がピークに達すると今度は一転、やれ口パクだの、やれ演奏がヘタだのとこき下ろし始めたのだ。ここでハッキリ言っておきたいが、口パクのどこがそんなに悪いのだろう?彼らはクリームやレッド・ゼッペリンではないのだ。 “第2のビートルズ” というキャッチ・コピーだってマスゴミが勝手にそう呼んでただけで、 彼らが “第2のサージェント・ペパーを作ります!” とか “今やローラーズはキリストよりも人気がある” とか言ったわけではない。ビートルズはその溢れんばかりの才能で世紀を揺るがす大傑作を連発してそういったアホバカ・マスゴミを黙らせてしまったが、悲しいかな、ローラーズにはとてもそれだけの器量はなかった。しかも度重なるメンバー・チェンジやら、音楽性のブレやらで、2年もしないうちに彼らの人気は下火になり、自らが歌ったように「イエスタデイズ・ヒーロー」になってしまったのだ(>_<)
 しかし私はそんなローラーズが結構好きだった。少なくともキャッチーなシングルを連発していた76年ぐらいまでは優れたポップ・グループとして気に入っていた。それから何十年か経ち、中古CDショップで彼らのベスト盤が捨て値同然で売られているのを見て思わず衝動買いしてしまった。それがこの「ベイ・シティ・ローラーズ・メモリアル」である。収録曲目を見れば当時の記憶が蘇ってくるような懐かしいタイトルが一杯だ。①「バイ・バイ・ベイビー」は今聴いても非常に質の高いポップ・ソングだし、彼らの代表曲と言っていい⑦「サタデイ・ナイト」も “優れた3分間ポップス” のお手本のようなキャッチーなナンバーだ。この2曲はモンキーズの「アイム・ア・ビリーバー」と「デイドリーム・ビリーバー」に匹敵するぐらいの名曲名演だと思う。これに先述のダスティ・スプリングフィールド・カヴァー⑩「二人だけのデート」(これはもう、イントロだけで名演の薫りがしてきますね!)を加えた3曲が私的ローラーズ・トップ3で、そのどれもが絵に描いたようなポップ・チューンだ。
 リアルタイムで聴いていた頃はまだ中学生でお金が無かったので、シングル盤をパラパラと買って聴いていたが、⑪「ロックンロール・ラヴレター」は確か買った記憶があるぞ。彼らの楽曲の魅力はとにかく覚え易くて鼻歌で一緒に歌えるところなのだが、これはポップスにとって一番大切なことで、この曲もそういう点では実に良く出来ていた。⑨「ロックンローラー」と⑳「イエスタデイズ・ヒーロー」は確か両A面扱いのカップリング・シングルで出たような記憶があるが、彼らがポップな魅力全開でキラキラ輝いていたのはこの辺りまでだったのではないか。これ以降では全米10位まで上がった⑭「ユー・メイド・ミー・ビリーヴ・イン・マジック」(夢の中の恋)しか知らない。わずか2年弱という短い間だったが、彼らはこのように優れたポップ・シングルを量産し続けたのだった。
 又、このCDには他にも「バイ・バイ・ベイビー」以前のイギリスでのヒット曲が収められており、ローラーズがブレイクするきっかけとなった73年のシングル⑥「リメンバー」、彼らのTVシリーズのテーマ曲で74年に全英2位まで上がった②「シャング・ア・ラング」(←この辺りの売り出し方もモンキーズしてますね)、②に続く74年の全英№3ヒット③「サマー・ラヴ・センセーション」(太陽の中の恋)と、良質ポップスのアメアラレである。シングル曲以外ではビーチ・ボーイズっぽいコーラス・ワークが楽しい④「マイ・ティーンエイジ・ハート」(ひとりぼっちの10代)やフィル・スペクター印のカスタネット波状攻撃が笑える⑤「エンジェル・ベイビー」なんかがエエ感じだ。
 彼らの残してくれた楽曲の数々は今でも我々アラフォー世代の胸をときめかせ、あの頃の甘酸っぱい思い出と共に当時の空気まで運んでくるような気分にさせてくれる。それで十分ではないか!ローラーズは見事にポップ・グループとしての本懐を遂げたのだと思う。

I ONLY WANT TO BE WITH YOU


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Paul Simon Greatest Hits, Etc.

2009-06-25 | Rock & Pops (70's)
 ポール・サイモンというと一般的にはどうしてもサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」や「スカボロー・フェア」、そして「明日に架ける橋」といった、いわゆる “美しいバラッドを歌うフォーク・デュオ” のイメージが強いかもしれないが、それは彼のほんの一面にすぎず、決して本質ではない。特にS&G解散後の彼の諸作を聴くにつれ、その想いを強くする。あくまでも私見だが(ってゆーか、このブログは100%私見のカタマリやん!)、彼はS&G時代は常にアーティの美しい歌声を前提とした音作りをしており(だからバラッドの傑作が多いんよね)、彼が本当に好きなのはアコースティック・ギターで躍動感あふれるリズムをザクザク刻む「ミセス・ロビンソン」、「冬の散歩道」、「セシリア」、そして象徴的ともいえるエヴァリー・ブラザーズのカヴァー「バイ・バイ・ラヴ」あたりのサウンドではないか?これらの作品はアコギを使った力強いリズム・ストロークが凡百のエレキ・サウンドを凌駕するパワーを秘めていることを満天下に知らしめた傑作ぞろいだ。そして更にそこにフォルクローレ「コンドルは飛んでいく」あたりから芽生えたエスニックなサウンドへの尽きぬ関心が重なって花開いたのが解散後のソロとしての第1作「ポール・サイモン」(72年)だと思う。
 このアルバムの1曲目に収められていた⑫「母と子の絆」をリアルタイムで聞いたファンはぶっ飛んだに違いない。あの「サウンド・オブ・サイレンス」の歌い手が「明日に架ける橋」でゴスペルの本質を極めたと思ったらそのわずか2年後に今度はレゲエである。その肩の力を抜いた歌声がレゲエのまったりしたサウンドと絶妙なマッチングを見せており、1972年の時点でレゲエ・サウンドをこれ程見事に取り入れて完全に消化した上で自分の音楽として表現しているのだからもう凄いとしか言いようがない。彼のソロ諸作の中でも屈指の名曲名演だ。この盤には他にも「ボクサー」に「コンドルは飛んでいく」をふりかけてレンジでチンしたかのような「ダンカンの歌」やノリノリでリズムも弾む⑥「僕とフリオと校庭で」といった彼にとって重要な作品が数多く収めれらており、アルバムとしてのクオリティもハンパなく高いと思う。
 第2作「ひとりごと」(73年)からは⑧「僕のコダクローム」が全米2位まで上がる大ヒットを記録、お得意のドライヴ感溢れるノリノリのサウンドがたまらない。ディキシーハミングバーズをバックに従えた⑬「ラヴ・ミー・ライク・ア・ロック(母からの愛のように)」はCMソングなんかに使えばピッタリきそうな楽しい曲で、やはり2位まで上がる健闘を見せた。それにしてもフォーク、ゴスペル、レゲエ、フォルクローレにディキシーランド・ジャズと、様々なジャンルの音楽的要素を上手く消化してユニークなポップ・ソングを作り上げてしまう手腕は本当に大したものだと思う。
 第3作「ライブ・ライミン」(74年)は初のライブ盤で、何と言ってもその選曲が素晴らしい。怖いくらいに私の愛聴曲ばかり(あと、「フィーリン・グルーヴィー」と「ミセス・ロビンソン」が入ってたら完璧やね...)なのだ。LPのA面に当たる前半では弾き語り3曲の後、アンデスの民族音楽グループ “ウルバンバ” をバックに瑞々しいフォルクローレを聴かせ、B面に当たる後半ではゴスペル・グループの “ジェシー・ディクソン・シンガーズ” を従えてソウルフルな歌声を聴かせてくれる。特に⑤「ダンカンの歌」はスタジオ録音ヴァージョンを凌ぐ素晴らしさで、ウルバンバとの息の合った共演が生み出すグルーヴが絶品だし、フォルクローレ版「ボクサー」はこのアルバムでしか聴けない超貴重ヴァージョンだ。彼の弾き語りが心に染み入る⑪「アメリカの歌」は聴けば聴くほど味わい深いスルメ・チューン。セントラル・パーク・コンサートでのアーティ・ヴァージョンも良かったなぁ... (≧▽≦) ゴスペル・セットでは特に「ラヴ・ミー・ライク・ア・ロック」のノリが圧巻で、オーディエンスのハンド・クラッピングはS&G時代の「バイ・バイ・ラヴ」を彷彿とさせる心地良さだ。ライブで映えるナンバーの典型だろう。とにかくこのライブ盤、彼の作品中最も愛聴している1枚なのだ。
 第4作「時の流れに」(75年)はソロになって唯一の全米№1⑩「恋人と別れる50の方法」や③「時の流れに」といったヒット曲が入っていて世評も高いのだが、私は数回聴いてすぐに売り払ってしまった。バックのサウンドが洗練されすぎているというか、大嫌いなエレピの音が乱舞するいわゆるフュージョンぽいサウンドにどうもなじめないのだ。ボブ・ジェームズにリチャード・ティー、スティーヴ・ガッドとくればあの金太郎飴フュージョン・バンド “スタッフ” 一派だ。フュージョン嫌いの私としてはこれ以上はノー・コメント(>_<)
 77年に出たこのベスト・アルバム「グレイテスト・ヒッツ・エトセトラ」はそんな彼のソロ活動の軌跡をラクチン格安パック・ツアーで楽しめるお徳用の1枚だ。

Paul Simon - Mother And Child Reunion

TOTO

2009-06-05 | Rock & Pops (70's)
 TOTOという名前を聞けば、普通の人ならサッカーくじか、あるいはトイレの便器メーカーを思い浮かべるだろう。しかしサッカーにも便器にも興味がなく音楽の事しか考えてない私にとって、TOTOと言えばジャーニー、ボストンと並ぶ、アメリカが誇る三大 “産業ロック” バンドの一つであり、特に初期の4枚のアルバムはそれぞれに思い出の詰まった愛聴盤なのだ。
 これらの “産業ロック” バンドはアメリカン・プログレ・ハード的なサウンドをベースに、高い演奏技術力でもってキャッチーなメロディーの曲をハードに(決してヘヴィーにじゃないところがポイントですね...)プレイしたサウンドが特徴で、英米ではどういう評価なのかは知らないけれど、日本には “大衆に迎合して魂を売った売れ線狙いのロック” としてこれらのバンドを見下すような風潮が一部にあって困ってしまう。私に言えるのはただ一言、ポップで悪いか!ということ。面白いことにこれら3つのバンドはすべて70年代後半に、宇宙をイメージさせるようなスペーシーなイラスト・ジャケットのアルバムでブレイクしたという共通点があるのだが、とにかくどのバンドも “売れ線狙い” なんかじゃなく、彼らの書いた “良い曲” に大衆が飛びついた、というのが真相だろう。
 そんなTOTOのデビュー・アルバム、タイトルはシンプルな「TOTO」で、これでは売りにくいと判断した日本サイドがつけた邦題が「宇宙の騎士」... まぁジャケットのイメージそのまんまの分かり易いネーミングだ。
 アルバムは①「チャイルズ・アンセム」で幕を開ける。何とデビュー・アルバムの1曲目からインスト曲だ。これがまた実にカッコ良いサウンドで、いきなり風雲急を告げるようなドラムとピアノの連打で始まるイントロから一気にたたみかけるようにギターが唸る。少なくとも私の知る限りではそれまでのロック界にこんなサウンドは存在しなかった。TOTOの初期4枚の中でもとりわけ高い緊張感を誇る1曲だ。②「アイル・サプライ・ザ・ラヴ」はサビのメロディーはどこにでも転がっているような凡庸なものだが、間奏のインスト・パートに入ると俄然盛り上がり、一気にラストまで駆け抜ける。バンドが一体となって燃え上がるような後半部分のインプロヴィゼーションは圧巻だ。③「ジョージー・ポージー」はソウルフルでありながら実に洗練された、いかにも都会的なボズ・スキャッグス系サウンドが絶品で、キーボードやシンセサイザーの隠し味的な使い方が実に巧いし、中間部の女性ヴォーカルもグルーヴィーだ。とにかくこの①②③3連発を初めて聴いた時はその完璧なテクニックに圧倒されたのを覚えている。
 軽快なポップ・ロック④「マヌエラ・ラン」や⑧「ロックメイカー」も水準以上の出来だが、中盤ではやはり⑥「ガール・グッバイ」に尽きると思う。炸裂するハイトーン・ヴォーカルといい、グイグイと引っ張っていくようなバンド・アンサンブルといい、ボストンなんかにも共通するようなアメリカン・プログレ・ハードの魅力を凝縮したような1曲だ。
 アルバム後半では⑨「ホールド・ザ・ライン」が出色の出来だ。青白い炎のような凛としたピアノの音と印象的なキラー・チューンで全米5位まで上がったのも頷けるような名曲名演。特にピアノの使い方は当時の耳には物凄く新鮮に響いた。
 こうやって久々に聴いてみても全然古臭さを感じさせないところが凄いと思う。B'z松本さんのプレイにもこの頃のスティーヴ・ルカサーからの影響が色濃く感じられるほどだ。このアルバムが出た時点で彼らは時代の先を行っていたのだろう。その計算された美しさは圧巻だ。

Toto - 01 - Intro (Child's Anthem)

Backtrackin' / Eric Clapton

2009-05-23 | Rock & Pops (70's)
 エリック・クラプトンのキャリアは長い。60年代中頃から数々の浮き沈みを経験しながらもずーっと第一線で活躍しているというのは凄いことだ。私がよく聴いたのは60年代中期のヤードバーズから81年の「アナザー・チケット」あたりまでの約15年間ぐらいで、それ以降の彼のことは91年のジョージの「ライヴ・イン・ジャパン」と、ポールと共演した2002年の「コンサート・フォー・ジョージ」を除けばほとんど知らないに等しい。いつだったかテレビでアンプラグド・ライブを見たような気もするがほとんど記憶に残っていない。 “枯れた味わい” とか言われても全盛期の彼を知る者としてはただ単に老け込んだようにしか思えなかった。
 高校時代から彼のLPは何枚か持っていたが、80年代半ばに世がCD時代に突入した頃、初めて行った東京買い付けツアー(笑)の時に忘れもしない渋谷のタワレコで見つけたのがこの「バックトラッキン」で、2枚組のくせに安かったのと、クラプトンの名演が手っ取り早く聴けるという理由で買ったのを覚えている。このCDはクリーム、ブラインド・フェイス、デレク&ザ・ドミノス、461バンドから80年代初めの武道館ライブまでの音源の中から幅広くチョイスされ、それそれ “シングルス”、“ヒストリー”、“クラシックス”、“ライブ” というテーマ別に4つのパートに分けられており、私のようなええかげんなリスナーにはピッタリの構成だ。
 彼の音楽のベースはあくまでもブルースにあるというのは周知の事実だが、その時代時代において彼の表現フォームは微妙に変化していく。そんな中で私が好きなのは、コテコテのブリティッシュ・ロックの原点とでも言うべきクリーム時代と、その延長線上にあるデレク&ザ・ドミノス時代の “ハードな” スタイルのクラプトンだ。正直言って全米№1になったⅠ-①「アイ・ショット・ザ・シェリフ」を始めとする70年代中期以降のレゲエやカントリーっぽい演奏は、バリバリ弾きまくるクラプトンが好きな私にはイマイチ物足りない。やはりジャック・ブルースやジンジャー・ベイカーとの身を削るようなつばぜり合いを通して異常なまでにテンションの高い演奏を繰り広げていた頃のクラプトンが一番好きだ。ギター・リフがゾクゾクするほどカッコ良いⅠ-⑦「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」、ジョージの “音” に涙ちょちょぎれるⅠ-⑨「バッジ」、めちゃくちゃシビレるブルース・ロックの聖典Ⅱ-③「スプーンフル」、あまりにスリリングな演奏に言葉を失う「クロスロード」と、名曲名演のアメアラレだ。しかし「ホワイト・ルーム」が入ってないのは何で???
 デレク&ザ・ドミノス時代のⅠ-⑪「いとしのレイラ」(これはジャケットも名盤!)からはやはりタイトル曲、コレしかない。これはもう言わずもがなの絵に描いたような大名曲で、有名すぎるほど有名なあのイントロからクラプトンはありとあらゆるテクニックを駆使して親友の妻への激しい恋心を綴っていく。彼のギターはどちらかというと感情の趣くままに流れを組み立て “ギターを通して自分の心の内にあるものを歌にしていく” という、まるでジャズのインプロヴィゼイションのようなスタイルなので、その時々の精神状態によって好不調・出来不出来の波が大きいように思うのだが、この曲ではパティへの情熱的な想いと親友を裏切れない苦しみという強烈な2つの感情の奔流がそのまま見事な演奏に反映されており、聴く者の心を魅きつけてやまない。後半部でピアノ・ソロからギターが加わり、バンド全体の演奏に移るあたりに人間的な優しさというか温かみが感じられるのはクリーム時代には決してなかったこと。もちろんデュアン・オールマンのむせび泣くスライド・ギターも絶品だ。とにかく何百回聴いても飽きないロック史に燦然と輝く名曲名演だと思う。又、同アルバムからチョイスされたジミヘンのⅠ-⑩「リトル・ウイング」も思わずヴォリュームを上げて音の洪水の中に身を委ねたくなるような濃厚なブルースが楽しめる5分40秒だ。
 ライブ・サイドでは80年の武道館ライブ「ジャスト・ワン・ナイト」収録のⅡ-⑩「ブルース・パワー」とⅡ-⑪「ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード」の2曲に尽きる。特に「ファーザー...」はノリノリの大ブルース・ロック大会で、桑田師匠もサザン初期のライブやAAA’99で取り上げておられた隠れ名曲。この選曲、めっちゃエエよ。まぁこれで「ホワイト・ルーム」の件はチャラにしとこ!
 こーやって聴いてみるとやはり自分は“ヒストリー” と “ライブ” ばっかり繰り返し聴いていることに改めて気づく。ブルース・ロック全開で共演者たちと切った貼ったの息詰まるようなインプロヴィゼイションを繰り広げるクラプトンのプレイに彼の最大の成果を見る思いがする。

83年ARMS Concertより3大ギタリスト夢の競演!
ジミー・ペイジのトリッキーな動きはいつ見ても笑えます↓

Layla - eric clapton, jimmy page, jeff beck

Prologue / Renaissance

2009-05-12 | Rock & Pops (70's)
 ルネッサンスというバンドを覚えておられるだろうか?元ヤードバーズのヴォーカリストであるキース・レルフが結成し、メンバーチェンジを繰り返しながら主に70年代前半に活躍したブリティッシュ・プログレ・バンドなのだが、あまりヒットチャートには縁がなかったせいか、一部の熱心な好事家を除けば一般の音楽ファンの記憶からはフェイド・アウトしつつあるようだ。しかし彼らの残したアルバムの何枚かは一部のマニアだけに独占させておくにはあまりにも惜しい素晴らしい内容を誇っている。これを取り上げないわけにはいかない。
 私が初めて彼らの曲を聴いたのは大学に入ってすぐのこと、当時付き合い始めた女の子が大のルネッサンス・ファンで、彼女から貸してもらった第2期ルネッサンスのファースト・アルバム「プロローグ」にすっかりノック・アウトされてしまったのだ。私はさっき “プログレ” という言葉を使ったが、クラシック音楽的な曲想にジャズ的なインプロヴィゼイションを交えながらトラッド・フォーク的なアプローチで表現したドラマティックな曲構成が実に大胆かつ新鮮で、いわゆる “プログレ四天王” とは又違ったユニークなサウンドが私の心を魅きつけた。特にアルバム1曲目のタイトル曲①「プロローグ」、これが実に凄まじい。いきなり “ガァーン!” というピアノの強打から始まる大仰なイントロに度肝を抜かれ、あれよあれよという間にアニー・ハズラムの美しくも緊張感溢れるスキャットが滑り込んでくる。大きくフィーチャーされているオイゲン・キケロばりの速弾きピアノを始め、正確無比なリズム・カッティングが印象的なギターも、2分24秒から凄まじいソロを展開するベースも、終始アグレッシヴなリズムを叩き出しながら煽りまくるドラムスも、すべての楽器が一体となって醸し出すスリリングで疾走感溢れる驚愕のサウンドが圧巻だった。
 ①の余韻に浸っていると②「キエフ」が始まる。最初荘厳なピアノの調べで始まり、フォーキーなヴォーカルがスロー・テンポでキエフに住む一人の平凡な男の死を淡々と歌う。寒々としたウクライナの雪景色が目に浮かぶようなリアリティーだ。そして3分30秒あたりから風雲急を告げ、プログレお得意の大胆な転調から一気にテンポ・アップしてスリリングなピアノが駆け抜ける... このシベリア鉄道を走る暴走列車のような疾走感が持つ吸引力はもう凄いとしか言いようがない。5分2秒から元のスローテンポに戻るが、逆巻くようなバック・コーラスを伴った歌声は力強く響き渡り、やがて大団円を迎える。まるでゼッペリンの「天国への階段」のようなドラマティックな構造美だ。とにかくこの①②の流れが大好きで、何度聴いても圧倒される。アンプのヴォリュームを目いっぱい上げてその刺激的なサウンドの中に浸るようにして聴くと疲れも吹っ飛び、気分も爽快だ。
 のどかな波の音やカモメの鳴き声のSEから始まる③「サウンズ・オブ・ザ・シー」は前2曲がウソのようなメロディアスなバラッドで、牧歌的な雰囲気にホッと一息というところか。水晶のような美しさを湛えるアニーのヴォーカルが絶品だ。④「スペア・サム・ラヴ」はトラッドな薫り横溢のフォーク・ロックでやはり透き通るようなアニーの歌声に心を奪われる。途中、ベース、ドラムスの掛け合いにギターが絡んでひとしきり盛り上がった後、3分50秒あたりでアコギが入ってくる所が好きだ。⑤「バウンド・フォー・インフィニティ」でも清涼感溢れるピアノのイントロに続くアニーの歌声がスゥーッと心に染み込んでくる。彼女は5オクターブの美声の持ち主といわれるが、まるで天使の歌声のようだ。⑥「ラジャ・カーン」は怪しげな民族音楽みたいな感じで、唯一アルバムの中で浮いているような1曲だ。確かにこれはこれで面白い演奏だとは思うが、いかんせん冗長すぎる。11分33秒も延々イスラムのお経みたいなサウンドを聴かされるのは勘弁してほしい。
 クラシカルな音色でジャズっぽいスリルを生み出すジョン・タウトのピアノとアニー・ハズラムの美しいクリスタル・ヴォイスが存分に堪能できるこのデビュー盤は続くセカンド・アルバム「燃ゆる灰」に比肩する傑作であり、後世に残すべき大名盤だと思う。

RENAISSANCE - PROLOGUE



GEM of Carpenters

2009-05-03 | Rock & Pops (70's)
 カーペンターズの「オンリー・イエスタデイ」で味をしめた私は次に「プリーズ・ミスター・ポストマン」のシングル盤も買った。やはりラジオでかかっていたのを聞いて「オンリー・イエスタデイ」とは又違う魅力を感じたからだ。今の耳で聴いてみても、ダイアモンドの原石のようなマーヴェレッツのオリジナル・ヴァージョンやプリミティヴなパワーみなぎるロックンロールでオリジナルを超えたビートルズのカヴァー・ヴァージョンに対し、カーペンターズ版の「ポストマン」は実に洗練された究極のポップスに仕上がっていた。何と気持ちの良いサウンドだろう!躍動感あふれるドラムのイントロから “Stop!” でもう完全に彼らの世界に引き込まれ、比類なき美しさを誇るコーラス・ハーモニーがフェイド・アウトするまでわずか2分50秒。マーヴェレッツやビートルズよりもずっとテンポを上げて一気呵成に駆け抜け、聴き手を連れ去っていくようなエンディングの演出は音楽を知り尽くしたリチャードならではのアレンジだ。もちろん当時はそんな冷静な分析が出来るわけもなく、ただ単に “めちゃくちゃ聴き易くて気持の良い音楽” としてハマッていたのだ。
 2枚のシングル盤を聴いて “とにかくカーペンターズの音楽をもっともっと聴きたい!” と思った私はついにアルバムを買うことにした。それはシングル盤1枚を買うだけであたふたしていた中学生にとっては大きな決断だった(笑) しかし一体何を買えばいいのだ?ネットで何でも瞬時に調べられる今と違い、その当時はディスコグラフィーのような情報は入手しにくかったし、私の音楽知識や経験も皆無に等しかったので、とりあえずレコード屋に行って現物を見て選ぶことにした。貯金をかき集めて行きつけ(ってまだ3回目やけど...)のあこや楽器へ直行した私はこれまでとは違う “アルバム” のコーナーへと足を踏み入れ、カーペンターズの仕切りの前に立った。何か似たようなタイトルのが一杯あるぞ...「ゴールデン・プライズ第○集」ってのが何種類もあって何が何だかサッパリわからん(>_<)  「ゴールデン・ダブル・デラックス」ってのも良さそうやし、困ったなぁ...(*_*) 結局24曲入りの2枚組LP「GEM」を買った。3,700円也。シングル盤が7枚買える金額だ。小遣いが確か月3,000円の頃だったと思うので、私がどれほどカーペンターズにハマッていたかわかろうというものだ。
 全財産をはたいて買ったアルバム「GEM」は文字通り私の宝物になった。来る日も来る日も針がすり減るほど聴きまくり、ライナーノーツや歌詞を熟読した。特に4ページにわたる “アルバム「緑の地平線」完成直前インタビュー” はめちゃくちゃ貴重なもので、今読み返してみるとアメリカ盤とイギリス盤のLPの材質の違いによる音の差であるとか、マスタリング・エンジニアのバーニー・グランドマン(Classic Records から出た「カインド・オブ・ブルー」や「クール・ストラッティン」の超高音質盤を担当したマスタリングの神様!)がカーペンターズをず~っと担当していたとか、マニアックなエピソードが満載だ。
 選曲は彼らの代表曲のオンパレードで文句のつけようのない素晴らしいもので、ビートルズの赤盤がそうだったように、そべての曲がここしかない!という位置に置かれ、2枚組LP通して聴いて1つの大きな “カーペンターズ物語” を聴いているかのようだった。昔の記憶を辿れば、確か「トップ・オブ・ザ・ワールド」のウキウキワクワク感と「ジャンバラヤ」の弾ける様な楽しさが特に気に入ってたように思う。レノン=マッカートニーの「ヘルプ」の大胆なアレンジもインパクト大だった。
 星の数ほどいる洋楽アーティストの中でカーペンターズの日本での人気は王者ビートルズに次ぐほど別格の感があるが、このアルバムを聴けばなぜ彼らが今もなおこのように愛され続けるのかが分かるだろう。その全盛期において、人気者であるが故に支持する力と同程度の反発を受け、「現実離れしたキレイごとを歌っている」とか「単なるイージーリスニングだ」とか言った的外れの批判に晒され続けたカーペンターズだが、多くの人の心をつかみ、末永くその記憶に残る素晴らしい音楽を作り続けた彼らこそ真のアーティストの名に相応しいと思う。

ディズニーランドでミッキーやドナルドと戯れてお仕事になるなんて何て羨ましい(笑)
それにしても曲にあわせて軽快に踊るミッキーが可愛いなぁ...↓

Please Mr Postman- The Carpenters (1975)



Only Yesterday / Carpenters

2009-05-02 | Rock & Pops (70's)
 音楽ファンにとって “初めて買ったレコードの思い出” というのは決して忘れられるものではない。ましてやそれが “幸運な出会い” であり、その後の音楽人生を決定づけるようなものならなおさらだ。
 私の場合、最初にレコードを買ったのは中学に入ったばかりの頃で、ステレオ・セットはおろか、チューナーもカセット・デッキもない。あるのは電蓄と呼ばれるレコード・プレイヤー(LPをかける時は蓋すら閉められない小型プレイヤー)が1台と小さなAMラジオが1台あるきりだった。毎晩ラジオの深夜放送にかじりつき音楽リクエスト番組を聴き漁る日々だったが、ヒットチャートの9割以上を占める邦楽には何も感じるものがなかった。そんなある時、カーペンターズの「オンリー・イエスタデイ」がかかった。その瞬間、私は雷に打たれたようなショックを受けた。それはそれまで聴いたことのないような心ときめく音楽で、音の悪いラジオから聞こえてくるカレンの歌声に耳が吸いつき、形容しがたい衝動が身体中を駆け巡った。これこそ私が求めていた音楽だ、と確信した私は翌日学校の帰りに今は亡きあこや楽器という地元のレコード屋へ「オンリー・イエスタデイ」のシングル盤を買いに行った。今では考えられないことだが、何しろレコード屋に入るのも初めてならエサ箱に並んでいるレコードを選ぶのも初めてということですっかり舞い上がってしまい、中々目的の盤を見つけることができず、アブラ汗をかきながら店内をグルグル徘徊し、やっとのことで買うことができた。まぁ今振り返ってみればそれも良い思い出だ。
 私は急いで家に帰り早速そのシングル盤をプレイヤーにかけた。持っているレコードはこれ1枚きり... 私は何かに憑かれたように何度も何度も聴いた。わずか3分47秒のこの曲を何回聴いたかは分からない。とにかく曲が終わるたびに「もう1回聴きたい!」と思わせる不思議な魔力がこの曲にはあった。まずイントロのドラムのカウントに続いてカレンの低音の魅力全開のヴォーカルがスゥ~っと滑り込んでくるところ、ここでもうゾクゾクッときてしまう。それにしても何と分かりやすい英語だろう!中学に入りたての私ですら歌詞カードを見れば1語1語をハッキリと追うことができたし、知らない単語があっても何となく歌詞の言わんとしていることが伝わってきた。あれから30年以上が経ち、ジャズ、ロック、ポップスと様々な音楽ジャンルの楽曲をそれこそ何十万曲と聴いてきたが、カレン・カーペンターを超える女性ヴォーカリストに出会ったことはない。この歌声、この表現力、このポップ・フィーリング... 私にとってはカレンこそが常に最高峰であり、この先100年かかっても彼女以上の歌手が出現する可能性は皆無に等しい。そんなカレンの歌声を更に輝かせているのがリチャードの鉄壁アレンジだ。この曲でもストリングス、キーボード、ギター、サックスといったバックの楽器群が “これしかない!” と思える絶妙なバッキングでカレンの歌声を引き立てる。低音部を激しく埋めるベースやスペクター印のカスタネットも大活躍だ。更に一糸乱れぬリチャードのコーラス・ハーモニーがサウンドにリッチでゴージャスな厚みを持たせ、サビのクライマックスへと突入する。ラストのリフレインで聞こえるチャイムの音が “Tomorrow may be even brighter than today.” という歌詞にあるように明日という日への期待感を演出してフェイド・アウト... 完璧ではないか!これ以上何を言えるというのだろう?
 音楽バカ一代の人生において素晴らしい歌との出会いに勝るものはない。そういう意味でも私は本当に幸せ者だったと思うし、ラオウではないが「我が人生に一片の悔いなし!」だ。カレンが亡くなってもう25年以上経つが、改めて彼女に最大限の感謝を捧げたい。 RIP KAREN, YOU ARE AND WILL ALWAYS BE THE BEST!!!

Only Yesterday - The Carpenters

The Best Of Emerson Lake & Palmer

2009-04-29 | Rock & Pops (70's)
 久々にプログレでいってみよう。私はジャズでもロックでもジャンルに関係なくとにかくアップテンポの演奏を好む傾向があるので、イエスでは退屈で眠くなってしまうし、ピンク・フロイドはめっちゃ好きな演奏とワケの分からない演奏が半々だ(>_<) キング・クリムゾンは基本的に大好きだが、かといってアレを毎日聴いていては身が持たない。時々取り出して聴いては緩んだ精神にカツを入れるようにしている。そんなワケで、 “プログレ四天王” と呼ばれるピンク・フロイド、キング・キリムゾン、イエス、エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)の中で私が最も愛聴しているのがEL&Pなのだ。
 彼らが精力的に活動していたのは1970~74年で、私が物心ついて音楽を聴き始めた1975年というのはちょうどその前年に集大成的な3枚組ライブを出して活動停止期間に入った頃だったので、音楽雑誌等でそのグループ名はよく目にしたものの、実際に耳にしたのは77年に出された復帰作「ELP四部作」が最初だった。各メンバーのソロをA, B, C面に配し、D面にグループとしての新曲2曲を収めた2枚組アルバムだったが、A面のキースはオーケストラ・フィーチャーの無機的なソロ・ピアノ、B面のグレッグは生気に欠けるムーディーな小品集、C面のカールはアクション映画のサントラみたいな支離滅裂なサウンドと、事前の期待が大きかっただけにソロ・サイドには心底ガッカリさせられた。しかしD面1曲目の「庶民のファンファーレ」はドライヴ感溢れるノリノリの演奏で、キーボード、ベース、ドラムスという最小限のユニットで見事なグルーヴを生み出しており、「さすがはEL&P!」と唸らされたものだ。その後グループは解散してしまったが、彼らの全盛期の音源を聴いてみたくなった私が手始めに買ったのがこの「ザ・ベスト・オブ・エマーソン・レイク&パーマー」だった。
 まず目を引くのが日本の浮世絵を上手く使ったジャケットだ。裏ジャケでは収録曲の出自がアルバム・ジャケットと共に描かれている。ファースト・アルバム「エマーソン・レイク&パーマー」から1曲、「トリロジー」から2曲、「恐怖の頭脳改革」から3曲、ライブ盤から1曲、「四部作」のVol. 1と2からそれぞれ1曲ずつ、「タルカス」と「展覧会の絵」からは選ばれずということで今考えてみると納得のいかない選曲だが、そんな中で私が一番気に入ったのが冒頭の①「ホウダウン」だった。私がプログレに対して抱いていた “難解なロック” というイメージを木っ端微塵に打ち砕いてくれた疾走感溢れる演奏で、ライブでは更にテンポを上げて悪魔的スピードで突っ走るスリリングな演奏が楽しめる。EL&Pの楽曲にはいくつかのパターンがあるが私が愛聴してやまないのはすべてこの手のイケイケ・ハイスピード・チューンばかりで、この盤には入っていないが「展覧会の絵」の「ナットロッカー」や「タルカス」の「アー・ユー・レディ・エディ」なんかまるでジェットコースターにでも乗っているかのようなカタルシスが味わえる痛快なプレイが圧巻だ。
 痛快なプレイと言えば③「悪の教典#9第1印象パート2」も引けを取らない。これこそまさにEL&Pの “プログレッシヴな姿勢” とロックの持つ “プリミティヴな肉体的衝動” が高い次元でバランスされたキラー・チューンで、私をEL&Pの世界に深く引きずり込んだ因果な1曲でもある。マンシーニの⑤「ピーター・ガンのテーマ」はライブ音源で、これまで色々なアーティストによって取り上げられてきたこの名曲をEL&Pらしいアレンジで重心の低いドライヴ感溢れるロックに仕上げている。⑥「庶民のファンファーレ」は10分近い原曲が何と3分弱の長さに編集されていてガッカリ。ケチらずにフル・ヴァージョン収録してほしかった(>_<)
 このアルバムはベスト盤にもかかわらず全米108位という悲惨な結果に終わったということで、長尺曲の多いプログレでベスト盤を編集するのはやはり無理があるということだろう。1枚のアルバムとして聴くとどうしても散漫な印象を受けてしまうが、私のように “最初の1枚” として彼らの多様性を知り、そこから気に入った曲の入ったアルバムを聴いて深みにハマッていくというのもいいかもしれない。

この疾走感、凄いです!キースの衣装、笑えます!↓


Candy-O / The Cars

2009-04-18 | Rock & Pops (70's)
 昨日の晩から急にインターネットに繋がらなくなった。どうやら無線LANのルーターがおかしいらしい。こういう時、私のようなパソコン初心者は辛い、というか無力である。今朝サポセンに電話してとりあえず一時的にルーターを通さずに繋げることに成功、何とかネットは見れるようになったが、めちゃくちゃ疲れてしまった。IPアドレスとか、なんたら接続とか、なんでそんなややこしいシステムになってんねん!こんなメカごときに振り回されるのはホンマに気分が悪い(>_< こんな時は気分をアゲるためにお気に入りのレコードを聴くのが一番だ。ということで今日はカーズの「Candy-O」にしよう。
 まずはこの色っぽいジャケット、めっちゃエエでしょ(笑) 彼らのイメージである “車と女” をこれ以上ないといえるくらい見事に表現しており、このLPを買った当時高校生だった私にはかなり刺激的だった(笑) 中身の方も期待以上の素晴らしさで、外見はシンセを多用した “近未来ポップンロール” といえるクールな音作りながら、そのコアにあるのはまさしく熱いロックンロール・スピリット。チープなピコピコ音もリック・オケイセックのユニークなヴォーカルも、すべてが混然一体となって “カーズのロックンロール” として屹立している。全11曲がまるで1つの大きな組曲のように繋がっており、アルバム1枚が一気呵成に聴けてしまう。
 曲単位で言えばカーズ開眼のきっかけとなった①以外では、疾走感に溢れる⑩「Got A Lot On My Head」がめちゃくちゃカッコ良い。彼らのアルバムには必ずこういったハイスピード・ロックンロール・ナンバーが入っている(→3rdの「Gimme Some Slack」とか4thの「Shake It Up」とか...)のが嬉しい。さすがカーズと名乗るだけあって、高速コーナーを全開で駆け抜けていくような爽快感が心地良い。②「Since I Held You」で聴けるコーラス・ワークの根底にはクイーンあたりのポップ・センスに通じるものがあると思うし、パンク色の強い⑥「Candy-O」のハードな演奏におけるテンションの高さも特筆モノだ。
 高校時代に出会った5人のポップ・マイスター達の奏でるモダン・タイムズ・ロックンロールは30年の時を経ても私の心を熱くさせてくれる。まるでポップスのタイム・カプセルのように今なお新鮮で古さを感じさせない。ビートルズしかり、レッド・ゼッペリンしかりである。音楽って人類が生み出した最高の文化やなぁと改めて実感させられた。
Let's Go

Boston

2009-04-07 | Rock & Pops (70's)
 これまでの音楽体験の中で、“天地が逆になるくらい衝撃を受けた新人バンドのデビュー・アルバム”というのが数枚ある。ビートルズやゼッペリンは残念ながら後追い聴きだしエイジアは新人とは言い難いので除外するとして、リアルタイムで聴いて腰を抜かすほど衝撃的だったのはヴァン・ヘイレン、ダイアー・ストレイツ、ナック、ポリス、そしてこのボストンである。偶然にもすべて70年代後半にリリースされたアルバムだが、多分ミュージック・シーンの流れにおけるオールド・ウェイヴとニュー・ウェイヴの節目にあたるのがこの時期なのだろう。特にアメリカン・ロックの流れの中でボストンの出現というのは後のアメリカン・プログレ・ハードを標榜する幾多のバンドの台頭への道筋をつけたという意味においてエポックメイキングな出来事だったといえる。
 アメリカ随一の名門であるマサチューセッツ工科大在学中にギターを独学でマスターし、卒業後はポラロイド社に勤めていたトム・シュルツが趣味で作った12トラックのホームメイド・テープがボストンの始まりだった。そのテープに興味を持ったエピックとレコーディング契約を結んだトムは地元で名の知れたミュージシャンを集めてボストンを結成し76年にデビュー、シンセサイザーを一切使わずに(セカンド・アルバムの見開き中ジャケにデカデカと “No Synthesizers Used, No Computers Used” って但し書きアリ)ギターとコーラスだけで壮大なサウンドを作り出したこのアルバムは史上最も売れたデビュー・アルバムとなったのである。
 彼らのサウンドは、ELP型プログレッシヴ・ロックとパープル型ハードロックをしっかりかきまぜて、そこにドゥービー・ブラザーズっぽいノリとイーグルスっぽいコーラス・ハーモニーをたっぷりふりかけ、アメリカ人的な明るいポップ・センスでじっくりと煮込んだような、当時としては非常に斬新なものだった。ファースト・シングルになった①「モア・ザン・ア・フィーリング(宇宙の彼方へ)」は宇宙的な広がりを感じさせるメロディアスなハードロックで、幾重にも重ねられた分厚い音のハーモニーが圧巻だ。まるで曲のテンポを設定しているかのようなハンド・クラッピングも実に効果的に使われている。②「ピース・オブ・マインド」はまるでドゥービー・ブラザーズのようなエッジの効いたシャープなリズム・カッティングと爽快感溢れるコーラス・ハーモニーに涙ちょちょぎれる。これぞアメリカン・ロックといえるカッコイイ曲だ。③「フォープレイ / ロング・タイム」は一転ELPの「タルカス」や「恐怖の頭脳改革」を髣髴とさせるプログレ・サウンドが展開され、初めて聴いた時は①②とのギャップに唖然としたものだ。しかしメドレー後半はちゃんと①と②を足して2で割ったようなサウンドへと収斂していく。トム・シュルツ恐るべしだ。④「ロックンロール・バンド」は題名通りかなりストレートなロックンロールだが、楽曲としては今一歩ツメが甘いかも。⑤「スモーキン」はまるでエディー・ヴァン・ヘイレンの「アイム・ザ・ワン」のようなリフから始まるハードでキャッチーなナンバー。間奏でオルガン・ソロに突入するあたりなんかは完全にディープ・パープルが憑依、こーゆーの、ハッキリ言って大好きです!!! クイーンも真っ青のメロディアスで緻密な音世界が素晴らしい⑥「ヒッチ・ア・ライド」、まさにボストン・サウンドの魅力を濃縮還元したようなキャッチーなアメリカン・ロックの⑦「サムシング・アバウト・ユー」、後のスティクス・サウンドに与えた影響の大きさがわかる⑧「レット・ミー・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト」と、まるでアメリカン・プログレ・ハードの原点のような楽曲が並ぶ。かくして幻想飛行に飛び立ったボストン号は後ろを振り返ることなくこの2年後に新惑星着陸を果たし再び大反響を巻き起こすことになるのだが、それはまた別の話。

Boston - More Than A Feeling (Sound Remastered)