だんだん暑くなって来た。
昨日今日と雨が降ったので、少し早いが「そうか、また梅雨が来るな」
と思ってしまった。
梅雨時になると思い出すことがある。
私が小学校2年生で、神戸から広島の辺境に引っ越してきてすぐの頃のことだ。
私は当時、近所の男の子ふたりと一緒に登下校していた。
なんしろ田舎で、家の少ない地域だったから、
女の子と学校に行きたい、などという、選択の余地は無かった。
ある雨上がりの朝、いつものように、学校への道を、
彼らとともに歩いていたとき、ふたりのうちのひとりが、
「あっっ、ブタじゃっ!」
と叫んだ。すると、もうひとりも、
「ブタじゃ、ブタじゃっっ!!」
と取り乱し、ふたりは私をおいて、凄い勢いで走り出した。
あたりを見回したが、ブタなんか居ない。
……ってことはアタシか?おい。待てオマエら!
私は大いに憤慨したが、ふたりは、
しばらくすると追いついてきた私に、何事もなかったように話しかけ、
下校のときもまた、いつも通り3人で帰った。
それからもときどき、「ブタ」が出現した。
普通に喋っている最中に、突然、何かの発作でも起こしたかのように、
彼らが「ブタじゃっっっ!!」と言い出して、
その場から逃げ出す、ということが幾度も起こった。
さて、ある日のこと、校庭で遊んでいる最中に、
私は自分のふくらはぎが妙に痒くなり、
見てみると、そこから血が出ているのに気がついた。
それは足の一点から染み出し、ソックスにまでシミをつけていた。
「あ~っ、血が出てる!」
と言った私を、一緒に遊んでいた女の子がのぞき込み、
「ああ、ブタに噛まれたんじゃね」
と言った。
「ブタ?」
と目を丸くした私に、友達は爆笑した。
「ちゃうよ~、ブト!!ブタじゃないよ~~!!」
私は、このとき、初めて知ったのだ、
広島弁で「ブヨ」のことを「ブト」というのだ、と。
登下校仲間のあの男の子ふたりは、
ブヨが飛んで来たのを見て逃げたのだった。
私から逃げたのではなく。
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