転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
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宝塚歌劇月組公演『エリザベート』
宝塚
/
2018年09月02日 23時12分25秒
15時の阪急交通社貸切公演を主人と2人で観てきた。
司会は、OG達つかさ。こたっちゃん、お久しぶりだった。
すっかり綺麗な女性になられていて、
宙組時代を知っている者としては感無量(笑)。
『エリザベート』は繰り返し上演されており、
たまきち(珠城りょう)は十代目トートだそうだ。
歴代トートは皆、基本的に銀髪だったと思うのだが、
珠城トートはメッシュの入ったブロンドだった。
台詞を言っていないときの、立ち方や目つき、さりげないしぐさなど、
「受け」の場面での珠城トートの美しさ妖しさにヤられた。
本来彼女は、歴代トート役者の中では群を抜いて体格が良く(笑)
トップとしても若さや健康美が魅力の男役だと思うのだが、
黄泉の帝王トート閣下を演じるために、
その部分は敢えて「芸」で封印し、克服していたと思う。
結婚の翌朝、シシィが自死を思いとどまり短剣を収める場面で、
背後の珠城トートが、目線に一瞬だが驚きと衝撃を見せた箇所や、
一幕ラストのシシィとフランツを、銀橋に寝そべって見やるところ、
皇太子ルドルフの死体を抱いてのセリ下がりのときの手つき、
同じくルドルフの棺桶の上に座る呼吸、等々、等々、
たまきち、よく勉強しました!!(←何様)、と思った。
ちゃぴ(愛希れいか)のシシィは予想通り立派で、大変美しく、
ちゃぴならやってくれるだろう(←だから何様)という私の期待に、
十分に答えてくれる出来映えだったとは思うのだが、
それでもなお、「高貴な奇矯の花」であるエリザベート皇后が、
彼女の持ち味に合っていたのかというと、私の感触では、
なんだか違ったのではないか(汗)という気がした。
ちゃぴは、トップ娘役としてのキャリアから貫禄も十分で、
『鳳凰伝』のトゥーランドットに違和感は無かったのだが、
シシィとなると、どうも私には居心地の悪いものがあった。
しかしこれは、ちゃぴの演じ方や相性の問題とは別に、
私自身が年齢を経るごとに、自分の感覚がゾフィー寄りになり(^_^;、
シシィの在り方に同情を覚えなくなって来たことも理由かもしれない。
一幕の最後の、フランツの語りかけに答えてのシシィの登場は、
ヴィンターハルターの肖像画
と同じ「振り返り」のポーズで、
ここは、客席と正対した「正面」の登場になる演出もあるのだが、
ちゃぴシシィはここで「シシィの威力全開」にする方を選んだようだった。
みやちゃん(美弥るりか)のフランツ・ヨーゼフ、
若いときは大変綺麗で、優しげな魅力もあり、良かったが、
これまた私の感じでは、ヒゲが似合っていなかった(汗)、ように思った。
フランツは物語の後半で、はっきりと「老け」を表現しなくてはならないので、
歴代フランツも白髪の量や髭の長さなどに、様々な工夫をしてきたものだが、
『夜のボート』で正真正銘お爺さんになったあと、
トート閣下との対決『最後の証言』で一気に若いフランツに戻るので、
この対比が目の覚めるようなものでないと、観る側としては物足りないのだ。
千秋楽或いは東京公演までに、更に巧い爺さんになれると良いなと思う(逃)。
今回私が最も感銘を受けたのは、れいこ(月城かなと)のルキーニで、
スタイル良いわ御洒落だわ、歌は巧いわ、色気はあるわで素晴らしかった。
史実ではルイジ・ルキーニは小男だったそうなので、
スラリと長身な月城ルキーニは、「違った」ことになるが、
狂気の目つきも良かったし、カフェでのエプロン姿も垢抜けていたし、
あれだけの芸とビジュアルで押してくれたら言うことなしだと思った。
フィナーレの男役ダンスも、色っぽくて目を惹かれた。
……のだが、パレードのとき一張羅の軍服を着ておめかししたルキーニは、
私にとっては、あまり、素敵では、なかった(汗)。
何なのだろう、私にとって月城かなとは、輝く王子様ではもう一つで、
狂気のテロリストのほうが魅力があるということなのか(大汗)。
白い王子様系で素敵だったのは、ゆのちゃん(風間柚乃)ルドルフ。
歌も正確だったし、正統派の二枚目で完璧だった。
今回の月組公演では、ゆのちゃんとARIちゃん(暁 千星)が
ルドルフでダブルキャストになっていて、私の観た回は、
ゆのちゃんルドルフ、ARIちゃんは革命家エルマーを演じていた。
新人公演ではARIちゃんが主役のトートをやることになっており、
ゆのちゃんはルキーニ、……これまたなかなか面白そうな配役だ(^_^;。
ARIちゃんルキーニのほうが合っているかも……?と思わないでもないが、
学年や役付から言って、やはり新人公演はこの順番になるべきなのだろう。
この公演で退団するトップ娘役ちゃぴの後任として、
さくらちゃん(美園さくら)が今後、たまきちの相手役となることが、
既に発表されているのだが、そのさくらちゃんは今回の『エリザベート』では、
エトワールを務めており、伸びやかなソプラノが大変良かった。
新人公演では、さくらちゃんがシシィ役だそうで、
私は勿論、観ることは叶わないが、
きっと聴き応えあるソロをたくさん披露してくれることだろう。
宝塚版『エリザべート』は96年2月の雪組初演以来、再演が重ねられ、
私を含め観る側は、歌舞伎ファンが「成田屋の型」「五代目の工夫」
などと言って味わうように、歴代の配役の演じ方を予め知っており、
意識的・無意識的に、それらと目の前の舞台を比較して観ることが多い。
演じる生徒さん達にとっても、後になるほど録画など研究材料が多々ある反面、
既に様々な型や演出が実現されてしまっているので、
新しさや個性を加味して行くことが、困難にもなっていると思う。
そのような中で、たまきちが自分でなくてはできないトートを造型しようと
丁寧に努力を重ねたことが、観客としての私にはよく感じられ、
とても後味の良い舞台になっていたと思った。
舞台全体としても、厚みのあるコーラスや、劇的な場面構成など、
作品そのものに力があるので、演じる月組生もいつも以上に気合いが入り、
生き生きとしているように感じられ、大変、見応えがあった。
***************
「エリザベートは結局、ある種のパーソナリティ障害だったのだろうな」
と、私は近年、観劇を重ねるほどに強く感じるようになった。
初演の雪組からの数年、最初の宙組公演くらいまでは、
私はエリザベート皇后の姿に日本の皇室に入った女性たちを重ね、
人権が認められ自由に呼吸できた民間育ちの彼女たちが、
皇室に入ったために、すべて束縛され国家のために生きることになった、
……と痛々しく思い、精神病院訪問の場面でシシィの歌う、
『もしかわれるのなら かわってもいいのよ / 私の孤独に耐えられるなら』
という歌詞にも、特殊な状況下に人生を閉じ込められた女性の哀しさを感じていた。
しかし最近は、それ以前にシシィにはそもそも、
メンタルの面での問題が最初からあったのだ、と思うようになった。
プロポーズの場面でフランツは、皇后の義務について語っているのに、
シシィは『時間をかけて育もう』などと甘いことを考えて受け入れ、
フランツが誰であるかを直視せず、「白馬の王子様」の面しか見ていない。
そして結婚の翌朝、姑のゾフィーに『しきたりに従いなさい』と叱られ、
フランツが『母の意見はきみのためになる』と言った途端に、
シシィは『私を見殺しにするのね』と、
「時間をかけて」どころか、いきなり極端な切り捨て方をしてしまう。
人に対する評価がゼロか100かで、途中が全然ない。
その後、子供達を姑が育てていることに我慢ができず、フランツに直訴、
『母のほうが経験豊富だ、任せよう』『譲り合おう』とフランツが言うと、
シシィは即座に、『わかりました。貴男は敵だわ』。
その後、『お母様か、私か!』とシシィは残酷な選択をフランツに強い、
愛情深い彼の最大限の努力と譲歩により、子供達を取り返すことが叶い、
その他の要求もすべて通して貰ったにも関わらず、
シシィはフランツのもとに落ち着かず、子供を自分の手で育てるでもない。
美容に多額の税金を使い、倒れるほど過酷なダイエットに熱中しつつ、
彼女は常に満たされず、不健康で不幸そうな顔つきをしている。
喧しかった姑が亡くなったあとも、寛大なフランツが怒りもせずに(!)
『今も君だけを思っている』と言うのに、
シシィは宮廷も公務も依然として放棄したまま、
頑なに黒い服ばかり着込んで旅を続ける。
それも、優雅な観光旅行やリゾートではなく、女官達が、
『ついて行くだけで 身がもたない!』
と言うほど、意味もなく歩きづめに歩き、移動しつづけるハードな旅だ。
『私の孤独に耐えられるなら』
『私は自分を守るため 貴男(息子)を見捨ててしまった』
等々と、彼女は苦しみの中にいる自分のことばかり語っていて、
ついぞ、自分の恵まれた境遇や夫の愛情を評価することがない。
ちなみに、劇中のフランツはメンタル面で極めて普通の男性として描かれ、
私は、彼にはひととおりの好感を持っている(^_^;。
『義務を押しつけられたら 出て行くわ 私』
と、皇后の立場を全く理解しない新妻に困惑しながらも、
若き皇帝は、彼女を愛し続け、母親より彼女を選ぶ。
少年が一人前の男へと成長するというのは、
かつては大切だった母から離れ、妻と一体になることなのだ。
商売女のマデレーネにふらふらと浮気したのは彼が悪いには違いないが、
その件の前に、シシィだって彼が寝室に入って来るのを拒否したり、
不機嫌にダイエットを続けてばかりいたのだから、
妻として、全く非が無いとは言えないだろう。
皇太后ゾフィーが死んだあと、なおも旅を繰り返すシシィに向かって歌う、
『母上は もう居ない 帰っておいで』という歌詞など、
ミもフタもないが、いかにも健全で単純な夫の歌だと思う。
姑がウルサかったから嫁は家が嫌いだったが、
死んだのだから、もう邪魔者は居ない、帰って来ても良いだろう、
という程度にしか、彼の理解は及ばなかったのだ。
作品中のシシィが間違っていたとか、彼女が悪い人間だったとは思わないし、
彼女は心底、自分の苦悩をどうにか解決したくて、もがき続けたのだと思うが、
彼女が苦しかったことの原因は、姑でもなく夫でもなく宮廷でもなく、
ほかならぬ彼女自身の、心の中にあったのだ。
彼女は解決を外側に向かって求め、人々の無理解を嘆いたが、
誰がどのように彼女の要求を満たしてやっても、
また、周囲ができる限りの譲歩をしたとしても、
彼女の満足は一時的なもので、すぐに揺らぎ、
常に問題は起こりつづけ、彼女が苦しみから解き放たれることはない。
彼女の心の中にある認知の歪みこそが、彼女の不幸の原因なのだから。
『一度 私の目で見てくれたなら 君の誤解も 解けるだろう』
とフランツが歌う場面があるが、シシィは彼女の持つ障害ゆえに、
そういう一般的な「目」を共有することが、最後までできなかったのだ。
こうした問題を抱えていると、人は大変に生きづらくなり、
始終「死にたい」気持ちが簡単に頭をもたげてくるので、
黄泉の帝王トートは、つまりそうした彼女の障害がかたちになったものであり、
彼女自身であったのだと私は思って、『エリザベート』という芝居を観ている。
彼女の息子であるルドルフもまた、同様の傾向を持っており、
死への誘惑に抗しがたく、トートの姿を見てしまったということなのだろう。
そういう意味では、もしこれが宝塚歌劇でなければ、作劇としては、
トートは別に「男性」の姿をしていなくても良いと、私は思っている。
女性であるエリザベートが愛するのは、同性でも異性でも良いのだし、
ルドルフにとっては、心中相手のマリー・ヴェッツェラがトートだろう。
また、フランツが浮気したマデレーネだって、実はトートかもしれない。
『どこかで見たような 妖しい美しさ』という歌詞があるのだから。
結果としてトートは、シシィ本人だけでなく皇帝一家を崩壊に導いた。
まさに、ハプスブルク家にとっての「死」そのものという存在だったのだ。
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