転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



(長文、ネタばれあり。しかも、いつにもまして何様な評論家ぶり。
ファンの皆様、失礼の段は平にご容赦下さいませ<(_ _)>)

『想夫恋(そうふれん)』、2月4日の2時半公演を観た。
児玉明子・作/演出、北翔海莉(ほくしょう・かいり)・主演。
物語は、藤原知家という架空の男性が主人公で、
彼と、藤原成範の娘・小督(こごう)の秘められた恋を中心に、
平清盛、高倉天皇、清盛の娘・徳子ら実在の人物たちの
エピソードが多数、描かれている。
タイトルの『想夫恋』は、笛の名手・知家と、琴の名手・小督が、
秘めた想いを楽の音に乗せて通わせあう場面で演奏される曲の題で、
「平家物語」にも登場する楽曲だということだ。

今回の作品は、登場人物のひとりひとりに至るまで、
鮮やかにキャラが立っていて、とても見応えがあった。
メインのキャストの面々や、専科のベテランふたりは勿論だが、
そのほかにも、小督の侍女の音羽(葉月さら)とか、
清盛の娘の平徳子(青葉みちる)・平佑子(麻華りんか)の姉妹、
後白河法皇が放った刺客の狭霧(彩央寿音)、
高倉天皇(青樹泉)に仕える右京(海桐望)、等々、
脇のキャストがそれぞれ物語の一角を担っているというのが、
はっきりと感じられて、端々に納得感があった。
脚本的な描かれ方も過不足なく素晴らしかったし、
演じた生徒さんたちの呼吸も見事だったと思う。

北翔海莉は、安心して観ていられる主演者ぶりだった。
技術的には非常に高いレベルで安定していて、
しかも押しつけがましさがなく、彼女の舞台は心地よいと思った。
とりわけ、歌の正確さと声の余裕は、本当に素晴らしかった。
りんとした公達姿で、動きもとても綺麗だったと思う。

が、反面、そのまとまりの良さのために、
「はらはらする、目が離せない!」という類の楽しみが少なく、
前も書いたが「巧すぎる」のが彼女の足かせではないか、
ということを、今回も感じた。
技術の高い生徒さんというのは、かなり困難な課題でも、
それを観る側に感じさせず、らくらくとこなして見せるので、
結局たいしたことをやっていないかのように見えてしまい、
かえって損をする面があるということを、観ながら感じた。
そういう意味では、観客をわざとどきどきさせるような、
危ういところでの「見せ方」こそ彼女の課題なのかもしれない。

青樹泉は、「聡明であるがゆえに平氏を警戒し、
ウツケを装う高倉天皇」という役どころで、なかなか名演だった。
こういう、『実は……』という本性を隠している役というのは、
その「作り阿呆」の演じ方が役者の腕の見せどころだと思うのだが、
この日の彼女は、阿呆ながら高貴な皇子という線を維持して、
それでいて充分に客席の笑いも取り、うまい呼吸だった。
潔癖な小督(城咲あい)が、最後に天皇に添う決心を固めるところも、
この高倉天皇の造型があればこそ、説得力があったのだと思う。
平家に迎合したくないので作り阿呆で過ごすというのは、
歌舞伎の「一條大蔵譚」みたいだなと思ったのだが
史実としての高倉天皇にはこういうエピソードがあったのだろうか?

その小督・城咲あいだが、本当にお姫様然としていて、
これまた品格があり、同時に現代女性のような自己主張もあって、
城咲あいちゃんの良さがよく出ていたのではないかと思った。
単に気の強いだけの娘にならず、女らしさや柔軟さを併せ持っていて、
知家・隆房・高倉天皇と、巡り会う男性すべてを惹きつける成り行きが、
無理なく表現できていたと思う。

ほか、私にとっては、平佑子を演じた麻華りんかが良かった。
実際の心情を語る場など台詞としては与えられていなかったのに、
姉の平徳子(青葉みちる。こちらも素晴らしかった)の陰にあって
妹の佑子が何を見、何を感じていたかが、
麻華の演技から大いに想像できて、実に巧いなと思った。

隆房(明日香りお)と狭霧(彩央寿音)には、
まだ緊張が取れてないかな?と感じる箇所もがあったが、
どちらも知家との対比でなかなかオイシイ役どころであり、
印象的に演じてくれていたと思う。
初日から二日目の舞台だったので、やや堅さがあったかもしれない。
後半で見れば更に良くなっているのではないかと感じた。

個人的には、ソル(磯野千尋)さんがご出演だったのが、
私にはあまりにも嬉しくて、萌え萌えの二時間半だった。
知家が「小父上!」と呼ぶたびに、私は、
「ああ~、小父上の会に今からでも入れて頂けませんか~~!!」
と内心で悶えていた(殴)。
後日記:後日、我慢できず本当に『ちひろ会』に入会した。)
素顔のソルさんは、粋でスタイルの良い大人の女性なのだが、
舞台になると、どーしてこんなにすてきな小父様なのか!
観れば観るほど、ほれぼれしてしまいました(逃)。

ところで、芝居のラスト、知家の後ろ姿で物語は終わるのだが、
一瞬の静止のあと、北翔海莉が、ふっと振り返ったところから、
今度は、フィナーレのナンバーが始まるという構成になっている。
この、「振り返り」が大変に良かった。これは忘れられない。
その直前、客席に背中を見せた立ち姿も非常に綺麗だったのだが、
北翔は振り返りざま、決して大仰にではなく、しかし、
主演の面目躍如というような極上の笑顔を見せて、
それで舞台の空気が一瞬にしてフィナーレへと転換され、
実に目覚ましい瞬間だった。
こういう「瞬間芸」もまた、宝塚を観る醍醐味だとつくづく思った。

Trackback ( 0 )