久しぶりに会った人と、互いの老化に気付きながらも「お変わりありませんね」などと言うことがあるが、1年も会わずにいれば、我々の正体はすっかり入れ替わって「お変わりありまくり」なのだそうだ。
図書館で借りたこの本、科学入門書ではあるが、探偵小説的構成と文学的な文章表現のおかげで、楽しく読めた。
食事で体内に入った分子は瞬く間に全身に散らばり、一時的に緩く其処に留まり、次の瞬間には体外へ抜け出ていくそうだ。シェーンハイマーというユダヤ人科学者が、これを最初に証明した。「生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」と。
「エントロピー増大の法則に抗して秩序を維持しうることが生命の特質である」ことが、シュレーディンガーによって指摘されていた。では生命体の秩序はどうやって維持されているのか? シェーンハイマーに拠れば「その秩序を絶え間なく壊し絶え間なく再構築することによって」だった。
生命とは何か、を定義する論争は未だに決着していないらしい。分子生物学的な生命観に立つと、生命体とはミクロなパーツからなるプラモデルのような、デカルトが考えた機械的生命観の究極的な姿となる。「生命とは自己複製するシステムである」と定義すれば、一切の代謝を行っていないウィルスも生物となる。
この本の著者、福岡伸一は「生命とは動的平衡にある流れである」と定義する。私たちがこの世界を見て、そこに生物と無生物とを識別出来るのは、そのダイナミズム(=動的平衡の律動)を感得しているからではないだろうか、と。