ピーッ。
回線が開いた。
君への手紙を、口頭で伝えます。
前略
八月は僕らから余りにも多くの物を奪ったまま、
まんまと逃げおおせようとしています。
夏休みの終わりはいつもいつもそうだった・・・よね?
台風が来ては去り、来ては去り、
荒れ果てていくのは我々の心だけではないことに気付く。
一瞬の光はすべてまやかしだし、
これこそは!と思えた栄光でさえ、消え失せてしまえば実体は定かではない。
でもそれでいいのかもしれません。
っていうか
それでしかなかったのかも。
僕が何かに生まれ変わるとしたらきっと、花壇に潜む藪蚊でしょう。
ボウフラが月に憧れ憧れて憧れて羽化して羽が生えて、
藪蚊になることに成功した。
でも、それはただ それだけのことでしかない。
僕はいちいち絶望するのに飽き飽きしてしまって、
それだからといって希望的観測は出来ないのです。
なにしろ十六夜の夜に君は平然と分水嶺を超えてしまった。
それはどんな意味を持つのでしょう?
僕にはわからない。
あと十年経ったらわかるようになる気もするし、
千年経ったって無理だろう、という気もする。
これはまたレクイエムだ。
懲りもせず、と君は言うかもしれない。
あ、言わないかもしれない。
でもレクイエムなんて、幾つあったっていいのだ。
いいことばかりは、ありゃしない・・・ってのは真実だが、
ものごとの良し悪しなんて、僕の主観でしかない。
だから僕は何もかも全部、笑い飛ばすことに決めたのだ。
しかも鼻で笑う。
そんな風にして何もかもが、吹き飛んでくれたらどんなにか良いのに。
逆に僕が風に吹き飛ばされないように、
だれか「支え棒」を立ててくれはしないだろうか。
明日、あさって、しあさっては台風に、僕は 無防備に晒される。
吹き飛ばされて、消え失せてしまったらお慰み。
辛うじて・・・生き残ったら祝杯を挙げよう。
だから君も、
無傷で生き延びてくれ。
連絡終わり。
回線を切る。
ピーッ。