その「夢」は実体化したあと、しばらくは低空を飛んでは、いた。
とても不安定な飛び方ではあったが 一応、
「飛行している」と言えなくもない程度には。
だがしかし、そんなのが長続きするハズもなく、
嵐の中の紙飛行機みたいにそいつは・・・・・・ある日、あえなく墜落した。
幻みたいなチラチラした影が、
そのあともその辺の空域をうろついていた、と言う人もいるけど
僕はそれは、ただの目の錯覚だと思う。
でも懐かしい程のスピードで、
実体化したそいつがこの世界に実在したことだけは本当であると
信じたかった。
痛みを伴う喜び、
棘の刺さったような喪失感、
遠い海の陽炎。
僕はそんなもの達に囲まれて、永くここに居すぎたのだ。
かと言って今や、去り行く場所もないし、
退場のタイミングは、見事に逃した。
でも、それで良かったのかもしれない。
忘れ去られ、冷蔵庫の中で腐り果てる鶏卵のごとく僕らだって
誰にも気づかれず、生ゴミとしてゴミ箱に捨てられた可能性だってあったのだ。
それに比べたら、
ほんの数センチでも浮いてたぜ、空を飛んでたんだよ、俺はそれを見たんだよ、って
誰かが言ってくれたんだったら、
それはそれで、良かったのだ。
事実は事実でしかなくて、
それ以上でもそれ以下でもないから。
パーセンテージの数値がたとえ、どれだけであろうとも。