381系「やくも」が6月14日に運行最終日を迎えるのを前に(正確には6月15日の朝、「ゆったりやくも」編成の岡山7時05分発の出雲市行き「やくも1号」が381系の最終列車だが)、今度こそ最後の乗車として旧国鉄特急色の編成に乗りに出かけた。
6月9日、岡山11時13分発の出雲市行き「やくも9号」に乗る。
全車指定の中、私がこの列車の指定席券を購入した時にはまだ結構空席があったのでどこにしようか考えたのだが、選んだのはこの変則的なシート。2人がけシートが並ぶ中、車両の途中に1人かげの席が点在する。空調のダクトが窓側の壁を伝っているためだ。過去にこの1人がけの席に座ったこともあるのだが、窓から中途半端に離れていて落ち着かなかったのを覚えている。まあ、車窓関係なしにゆっくり寝て過ごすなら隣に気をつかわずに済むとしてお勧めする声もあった。
結局座ったのは、その1人がけの席の後ろ。前がダクトで座席がないスペースなので、足元は楽である。前の座席の背中のテーブルがないのはつらいが、結局隣が出雲市まで空席だったので1人がけの席の後ろのテーブルを使わせてもらった。
ホームで写真を撮っていたためだろうか、発車時刻ぎりぎりに乗り込んでくる人も多い。雨の中、出雲市に向けて出発する。ホームからは多くの見物客、撮影者の見送りを受ける。
「汽笛一声新橋を・・」の「鉄道唱歌」のオルゴールが流れる。これから陰陽連絡、伯備線の旅である。早速、岡山を代表するクラフトビール「独歩」で、この先の旅の平安を願って乾杯とする。
11時24分、倉敷着。早速ここで下車する人もいる。最後に1区間だけ乗車というのもなかなかのものだ。
倉敷から伯備線に入り、そろそろカーブの区間も増える。振り子式の本領が発揮されるのは伯備線内である。
さて今回、「広島市内~広島市内」という乗車券を手にしている。伯備線の先は山陰線~山口線~山陽線を通るルートで、「やくも9号」で出雲市まで行った後、折り返しではなくそのまま循環ルート、一度に中国5県を回ることにした。不思議なことに乗車券も広島~出雲市往復より若干安くつく。
「やくも9号」は高梁川に沿って走り、11時47分、備中高梁到着。備中高梁は映画「男はつらいよ」で二度舞台になったところだが、初めの第8作ではSLのD51が牽引する列車が登場し、後の第32作では特急「やくも」が登場する。ちょうど381系が走り出した当初である。
トイレも兼ねて少し車内を散策する。それにしても、座っている分にはどうということはないが、走行中に車内を歩くのは一苦労である。シート上部の把手を伝う形になる。そんな中でもかつては車内販売のワゴンが通っていたそうだが、さぞ大変だったことだろう。やはり酔う人もいるようで、洗面所にはエチケット袋も備えられている。「ゆったりやくも」でも「ぐったりはくも」と揶揄されたものだ。まあ、そんな体験もあと数日で過去のものになるのだが・・。
方谷では新型273系使用の「やくも12号」と行き違う。雨の中、新旧両タイプの特急車両を一度に撮ろうとかけつけた人を何人か見かける。
12時15分、新見着。何分の1かの客がここで下車する。実は私もこの日「やくも9号」に乗るにあたり、新見で下車することも考えていた。新見から12時58分発の芸備線備後落合行きが出ており、先月JRと沿線自治体による「再構築協議会」が立ち上がったことで話題の芸備線を乗り通すのも悪くなく、下車した人はこの後芸備線に乗るのかな?と思った。ここでも多くのカメラに見送られる。
新見から先の県境越えの区間である。まずは芸備線の列車しか停車しない布原駅近くでも撮り鉄の姿を見かけ、芸備線の分岐駅である備中神代を通過する。
備中神代の次の足立で運転停車。こちらのホームにもカメラ姿の人がいて、JRの係員も立っている。停車する列車は1日上下10本もないローカル駅なのだが、係員まで立たせているのは何か意味があるのだろう。
ホームに目をやると、やってきたのは緑をベースとした381系「やくも14号」。381系どうしの行き違いである。なるほど、これが目当てだったか。
・・・とすると、先ほど新見で結構な数が下車したが、その中には芸備線ではなく、この「やくも14号」で岡山まで折り返そうという人がそれなりにいたのではないかと思う。それもありだったか。
そのまま県境越えで鳥取県に入る。「やくも9号」は生山に停車。いつしか雨もやんだ。また、沿線のあちこちで撮り鉄が待っており、撮影者が数十メートル列をなす光景にも出くわした。こちらとしては高見の見物。
中国地方は一日雨の予報だったが、ここに来て大山も薄っすらながら見ることができた。
13時25分、米子着。ここでも下車が多かった。これはお別れ乗車は関係なく、それも含めた普通の乗降だろう。後は宍道湖沿いの景色も含めてひた走るだけだ。
14時05分、宍道着。ホーム向かい側には14時09分発の木次線備後落合行きが待っている。「やくも9号」から乗り換えた人もいたのではないか。この列車に乗れば一部区間の存続が危ぶまれる木次線を乗り通し、備後落合、三次と乗り継いで広島には20時16分に戻ることができる・・・。
一瞬気持ちも揺らいだが、この先、山陰線~山口線~新幹線をたどったほうが早く着く。
斐伊川を渡り、終点出雲市に到着。この後で折り返し15時35分発「やくも24号」として運転される旧国鉄特急色の381系。しばらくホームに停車し、別れを惜しむ人たちとの一時である。
先頭部に回るとヘッドマークが「やくも」から「回送」に変わっており、西出雲方面に向けて発車するのを待つ。
・・とその時、西出雲方面から新型273系の「やくも22号」が入線する。ここでの新旧「やくも」の対面にホーム上も沸き立つ。