まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第8回中国観音霊場めぐり~特別霊場「西國寺」

2019年12月03日 | 中国観音霊場

浄土寺から西國寺まで、古寺めぐりの案内石を伝って歩く。先ほどは駅から海沿いを歩いてきたが、ここからは坂の町、いろんな細道をたどっていくのだろう。

浄土寺を出て間もなく、一つの銅像の前に出る。「西郷四郎逝去之地」の碑の横に立つのは柔道着姿の凛とした男。西郷四郎とは明治時代の柔道家で、小説『姿三四郎』のモデルとなった人物である。出身は会津だが、病気療養していた尾道で亡くなったことから像が建てられたとある。

ぶらぶら歩いて、やって来たのは大きな草鞋がぶら下がる西國寺の山門。江戸初期に建立されたもので、大草鞋の下には健脚を願う人たちの草鞋がたくさん掛けられている。そのはるか向こう、少しずつ見上げたところに三重塔が見える。先ほどの浄土寺と比べても伽藍の規模は大きい。

この時季は枯れ枝だが、咲いた時には見事であろう桜の枝が伸びる石段を上る。石段の脇には石灯籠が奉納されており、「問屋中」とか「干鰯仲買中」などと刻まれている。尾道の商人たちの信仰を集めているようである。「干鰯」という言葉に、鰯で生計を立てるどころか大儲けした人がいた時代を改めて感じる。

石段を上りきって、本堂にあたる金堂に着く。振り返ると先ほど歩いてきた町並みを見ることができて、西國寺が結構高い場所にあることがわかる。金堂とあるから、本尊は薬師如来である。中国観音霊場とは少し違和感があるが、お勤めとする。

西國寺は奈良時代に行基が開いたとされている。行基が諸国行脚の中で尾道に立ち寄った際、夢の中に加茂明神が現れ、そのお告げによりこの地にお堂を建てたそうだ。聖徳太子といい、行基といい、足利尊氏といい、尾道にはさまざまな人物が往来したものだと思う。ならば、弘法大師もどこかで出てくるだろう。

行基以降、平安時代になって火災で焼失したが、白河天皇の勅願により再建され、巨大な伽藍が築かれた。その規模が西国一という意味を込めて西國寺という名前になった。建物はその後に再建されたり新たに建てられたものばかりだとしても、改めて境内を見渡すと立派な石垣もあり、寺ではなく城だと言われてもうなずけるところがある。それだけ規模があるということに変わりはない。

金堂からさらに石段を上がる。その奥に弘法大師堂がある。中国観音霊場としてはここが「特別霊場」のお堂である。大師堂だから観音菩薩が祀られているわけではないようだが、やはり尾道にあって歴史的、規模的にも西國寺は何らかの形で取り込みたかったのだろう。ここでお勤めとする。

同じ敷地には毘沙門堂、不動堂と並び、その前には力石がある。尾道の港で働く男たち、時には力比べもやったようだ。

持仏堂に納経所がある。こちらで中国観音霊場の朱印と、尾道七佛めぐりのスタンプをいただく。有料でこの中の拝観もあるようだが、ここは別にいいかな。

ここまで来たのだから頂上にある三重塔まで行く。途中には四国八十八所のお砂踏みもあり、そこを抜けると工事中のようで、カラーコーンが通路の途中に置かれている。本当はその先は立ち入ってはいけなかったのだろうが、足元もぬかるんでいる中でその先まで進む。三重塔は、室町時代6代将軍の足利義教により建立されたものだが、その後修復されたのか古さを感じさせない。それにしても周りは土嚢もあるし、道もぬかるんでいるし、こういうところだったのかな。

金堂まで下りて来て、その理由はわかった。修復のための寄付を呼びかける案内板があった。それによると、2016年6月の豪雨で三重塔への参道が土砂災害に遭ったという。この豪雨は確か九州で大きな被害を及ぼしたと認識しているが、実は広島県でも記録的な雨量となり、こうした被害があちらこちらで発生したという。寄付をした人たちの名札が掲げられているが、今後もこうした災害に遭うリスクはあるだろう。

尾道といえば年間を通して穏やかな気候というイメージがあるが、地形だけを見ると狭い土地に、山の斜面にびっしり家屋や寺が密集する一帯である。古くからの寺が数多く残っているのは安全の歴史の証なのかもしれないが、今はどこで何が起こっても不思議ではない時代。地元の人たちも気が気でないだろう。

さて、西國寺の尾道七佛めぐりのご利益について書いていなかったが、「健脚祈願」である。単に石段が長いからというわけではなく、坂の町にあって、仁王さんのようなたくましい脚にあやかりたいという願いから来ているそうだ。それで草鞋を奉納するならわしがあるのだが、いやいや健脚を願うなら、まずはあの三重塔まで石段をダッシュして、合わせて山の中にある四国八十八所のお砂踏みをコンプリートせよ・・というのが、西國寺の本音ではないかと思う。まあでも、健脚祈願はどこに行くのにも大切なお願いである。

西國寺を終えて、尾道七佛めぐりも中間点に近づく・・・。

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