「美しい国 日本」というのが、今の安倍内閣が発しているキーワードである。「美しい国」をつくるには、まず憲法を改正し、教育を改め、防衛力を増強し、中国・韓国に決して腰が引けてはならないようで、「美しい国」をつくるのもなかなか大変なものである。
その一方で、「格差社会」という言葉がある。その最も根が深いのが、「中央」と「地方」の格差であろう。地方は過疎化が進み、財政難にあえぎ、ついには市自体が「破綻」してしまうなんてのも出てくるご時世だ。ただ、この格差というのは何も今はじまったわけではなく、日本が近代国家として発展する中で、従前から問題となってきたことである。
ルポライター・鎌田慧の著書に『日本列島を往く』(岩波現代文庫)というのがある。数々の産業構造や原発問題などに焦点をあてて多くのルポを世に送り出している氏の、日本の各地を歩き回った記録である。文庫版全6巻の内訳は、
第一巻「国境の島々」・・・根室、北方四島、小笠原諸島、対馬、波照間島、与那国
第二巻「地下王国の輝き」・・・佐渡、小坂(秋田)、横田(島根)、黒川(新潟)、大島(長崎)
第三巻「海に生きるひとびと」・・・奈良尾(五島列島)、太地(和歌山)、猿払(北海道)、姫島(大分)、土佐清水
第四巻「孤島の挑戦」・・・南大東島、屋久島、利尻島、隠岐島、石垣島
第五巻「夢のゆくえ」・・・本部(沖縄)、別海(北海道)、因島、三島(福島)
第六巻「故郷の山河で」・・・本宮(和歌山)、珠洲、大崎下島、池島(長崎)、大牟田
このたび、ようやく最後の第六巻までを読破することができた。他の書籍を合わせて読んでいたこともあるが、結構読み応えがあったので時間がかかった。
このシリーズで取り上げられているのはほとんどが離島か、炭鉱など鉱山のある町か、産業構造の変化や一時のブームの終焉とともに廃れていった町か、そういうところが多い。いわば、日本の高度成長から取り残された、ある種の「辺境」にスポットをあて、そこで暮らす人々に触れ、その人たちの生き様や、あるいは生きてきた町の歴史というものを掘り起こし、現代日本の諸相を解くというものである。
根が反骨のジャーナリズム、いってみれば思い切り「左より」の著者なので、文面に政府や「中央」への批判精神にあふれる一方、町自体の「暗いイメージ」が増幅されるような気がする。そのあたりは読む人により好き嫌いが出るかな・・・。
しかし、この地で生まれ育ち、懸命に生きてきた人たちのたくましさというものはよく伝わる。こういう人たちが、日本の高度成長の底辺を支えてきたのである。鎌田氏の関心は、やはり「人間模様」にあるのだなと思わせる構成である。
私も趣味であちらこちらに出かけることがあり、この作品で取り上げられた地域にも出かけたことがあるのだが、こうして見ると私の旅というのも完全に「物見遊山」の部類で、「日本の諸相を見たい」といってもせいぜい駅前観察、路上観察、あとは史跡や近代化遺産の見学くらいのものである。例えば地方の列車やバスで地元の人と乗り合わせたとしても、こちらからその人の生い立ちや仕事について話しかけるわけでもない。こうした「民俗学的な旅」というのに憧れるが、実際はなかなか難しいものだ。
だからせめて、このシリーズでもって、決して行政の側からは語られることのない日本の姿というものがより深く味わえるというものである。