カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ファンタジーで生き抜く知恵を   パンズ・ラビリンス

2020-05-16 | 映画

パンズ・ラビリンス/ギレルモ・デル・トロ監督

 内戦下のスペインが舞台のようだ。父は死に、母の再婚相手がスペイン軍隊の大尉で、母はこの大尉の子供を身ごもっている。それで、大尉の勤務している森の要塞へ転居してくるところから物語が始まる。少女はファンタジー好きの夢見る年頃なのだが、現実の軍隊とゲリラの戦う山の中において、自分が夢想しているのか、それとも超常現象が起こっているのか分からないファンタジーの世界へ迷い込んでいくのだった。
 いわゆるダークファンタジーといわれるお話だと思うが、この残酷な世界を、なかなか見事な演出で描き出しているといえる。人を殺す場面は、ほとんどホラーといっていい演出だ。残酷に冷酷に、過剰に人が殺されていく。そういう尋常でない恐怖の中にあって、人間模様は複雑だ。レジスタンスと連携をとる姉弟もいるし、残忍な大尉とゲリラ隊の対峙の仕方も頭脳戦めいている。少女とメルヘンの冒険も、スリル満載で気持ち悪いが緊張感が素晴らしい。肝心なところで詰めの甘い殺しが、さらなるバイオレンスの連鎖につながっていくわけだが、伏線としては、なかなか考えられている。一応はゲリラ側に少しの正義があるようにも描かれているわけだが、結局はゲリラ側だって軍隊の人間を残酷に殺すことに変わりはない。それが戦争(内戦だが)というものの姿だということだろう。
 子供向けではない、という意見も分からないではないが、こういうものこそ子供が観るべきだろうとは思う。変に偏見の多い大人になってしまうと、素直にこれらのファンタジーを楽しむことはできないのではないか。少なくとも僕は精神年齢が低いので、これだけの恐怖に耐えながら、悲しい境遇を生き抜こうとする少女に共感した。ちょっと可哀そうすぎではあるんだけれど、彼女の冒険の勇気は素晴らしいのではないか(同時に愚かさもちゃんと描かれている)。
 大尉は残忍で身勝手だが、こういう時代を生き抜く知恵は持っている。だから出世もし、破滅もする。誰もがなれるような才能ではないのかもしれないが、このような人を生むのも、時代なのだろうと思う。彼が生き抜くのに都合の良い環境が、その時代だったのだ。
 しかしながら大人はファンタジーでは生きられない。結局は武力に対して、さらに大きな武力がある方が勝つ。もちろん知恵もあるし情報もある。本来は正義が勝つようなことこそ、ファンタジーなのである。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« みじかくても中毒になるかも・6 | トップ | 本を読む。日本人なのに僕ら... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。