そもそもの話なんだけど、本を読む前に本を選ばなければならない。そんなのは自分の感性に任せて自由にやるべきだ、という意見がありそうだというのは分かる。しかし、僕は新聞の書評はいつも楽しみに読んでいるし、雑誌の書評であってもそうだ。ブックレビューというのは一分野であって、本を紹介するというのは一定の、面白い読み物そのものといっていいと思う。
ということで、それ自体が楽しいのだから、評価しながら読むべきなのです。今回は、そういうので、ちょっとそれ自体が面白いのを集めてみよう。
まずはこれをあげるのは、こんなに言われてまで読まないわけにはいかないだろう、という気迫がすごいからである。米原万理さんの翻訳やエッセイは超一流だけれど、打ちのめされる、と形容された小説は、一応読んでみたけど、まあ、それほどかな、ということであったからですね。そういう感想の人が、世間にはたくさんいたと思いますよ。でもまあ、この書評集は、やはり凄いのです。ぜひとも楽しんでください。
そうして次は、われらが荒俣さんであります。この人がすごいのは、もっと別に述べるべきだと思うのですが、とにかく本を読んでいるという日本人、いや、世界的にも、間違いなく相当上の順位にいる人であることは間違いありません。ほとんど狂気に満ちているくらい凄そうだというのは、間違いないのです。基本的には過去のベストセラーや、ひょっとするとタレントとしての稼ぎで生活しているのかもしれませんが、彼が書いていることから想像するに、相当その稼ぎは本のために使われているに違いありません。そういう世界をのぞいてみるだけでも、たいへんに面白い読み物なのではないでしょうか。
さて、僕にとっては真打というか、ほとんどアイドルなのは、ほかならぬ養老孟司なのです。養老さんの本は、僕が持っているだけで100冊は優に超えます。著作が多いというより(著名な作家は、ふつうそれくらいは出版してます)、もうこれは、僕の側に入れ込み具合が違うということであります。僕は正直言って養老さんの紹介した本の多くを読んでいますが、必ずしもそれの全部を感心したわけではありません。しかし、たとえそうであっても、ブックレビューとしてたいへんに信頼しています。なにしろその本の紹介自体が面白いですし、紹介された本も、意味深いということを知っているからです。
さて、今度は勢古さんであります。この方も、もともと新書でなじみがあったんですが、ブックガイドの紹介側として、なかなかに信用のある人です。なんというか文章に潔さがあって、いわゆる見栄を張って書評しないという姿勢がいいのです。実は書評家の多くは、見栄を張って本を紹介する人がものすごく多いのです。大学の先生あたりにそういうのが多いというか、作家にも多いのだけど、自分はこんなに難解で凄いものをわかっているんだぞ、っていう見栄を書評でやってしまうんですよね。それは確かに凄いのかもしれないですけど、そんなのは普遍性も何もないわけで、さらにたとえ意味深いものであるとしても、はっきり言って面白くもくそもない、というのが現実です。本というのは、読んで面白ければそれでいい、というのが、本当に本を読む人にとっては、当たり前の話なのです。そういうことに素直な姿勢が、第一に素晴らしいのだろうな、と思います。
一応そういうことを言いながら、立花隆はちょっとしたジャーナリズム的に巨人なので紹介しないわけにはいきません。僕も中学生くらいの時に、父から「宇宙からの帰還」と読むべきだといわれて、いやいや読んだ記憶があります。でもですね、最初はちょっと難解に思えたのは確かですが、これがものすごく面白いのですよ。一気にはまって僕は立花ファンになって田中角栄とか農協とかアメリカのポルノだとか脳死だとかサル学とか片っ端から読みまくりました。そういう意味では、立花隆は師匠ではあるんですよね。近年はちょっとあやしいんですけど、まあ、愛嬌でしょう。
僕の家では毎日新聞をとっているんですが、これはその書評の中のコラムなんです(今となってはちと古くなってますが)。僕はこれを参考にして本を買っていたころがあって、いや、今も少なくともそうなんですが、特にこの私の選んだ三冊というのは迫力がありました。その道の読み手が、あんがい意外な作品を選ぶもので、選択するというのは、人の道を誤るものかもしれないな、などと喜んで読んだものです。ベストを選ぶというのは、それほど信用してはならないものだと、僕はこれで知りました。
漫画のほうは、ほんとは呉智英のものが素晴らしいのですが、さすがに少し古い作品に偏りがあるように思ったので、更新版としてこれにしました。まあ、普通に週刊誌を続けて読むほうがいいのかもしれないけど、僕にはそんな習慣がすでに何十年とありません。漫画は大好きだけど、本を読むより金も厚みもかさばりもするので、制限しなくてはなりません。活字のほうが少ない分量でたくさん読めるのです。そうではあるんだけど、でも、面白いので、時々は漫画を読みましょう。
本を読む人はどんな風に普通に読んでるのかな、というのを改めて読んで楽しめます。平松洋子は、料理のことに詳しい専門家であるだけでなく、たいへんに読書に執着のある人のようです。ちょっと凄い読み手ではあるんですが、こんな風にして読書が楽しいというのは、ひしひしと伝わってくるのではないでしょうか。
それで、こんなのを読書というのかはわかりませんが、これはこれで眺めていて楽しいのです。そんなにお金のかかることではないですし、多かれ少なかれ、そうやって楽しむ時間も読書ではないでしょうか。
本を読む人として、僕の尊敬する先人の一人が高島さんです。エッセイの名手で、ときどき転げまわるくらい笑わせられます。僕の本を読む姿勢の基本は、高島さんが師匠だと思います。勝手にそう思ってるだけなんですけどね。
向井敏は、一時期書評でかなりの分量で活躍してたのですが、残念ながらもう亡くなってしまわれた。でもまあ、当時は紹介された本を、見栄を張って結構参考にして購入して読みました。背伸びして読んだというのはあるけど、それはそれで若いころのいい経験だったのではないかと感じています。ということで僕の血と肉になった元の人かもしれません。