カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

スピリチュアルなんて今までは好きではなかったけど   アップルと月の光とテイラーの選択

2020-05-17 | 読書

アップルと月の光とテイラーの選択/中濵ひびき著(小学館)

 実はこの小説は翻訳もの。著者はこの作品を16歳で書き上げたという。英国で幼少期を育ったため、母語が英語であるらしい。そうやって英語で書いて翻訳ソフトで日本語化して、この本の出版社が主催する「12歳の文学賞」で大賞を取り、今作品を英語で書き下ろしたらしい。それを今回は翻訳ソフトではなく、プロの翻訳家の手を借りて出版にこぎつけたということなんだろう。
 そういう前提はあるものの、内容的にはやはり、そういう女子高生が書いたというには驚くべき洞察力の詰まったファンタジー的な作品になっている。物語自体が重層的にいくらでも予測不能に見えるように展開し、その会話の中に解説される科学の知識というものは、とても生半可なものではないことも見て取れる。膨大な知識と予見によって、物語の背景にある骨組みは形作られている。多少現代社会の世論に批判的な面はあるものの、おおむね肯定できる理論展開であろう。輪廻転生のような東洋哲学的な考えもあるが、西洋宗教を基にする博愛主義的な考えもあらわされている。これらの知識や思想が本人にしっかり根付いているからこそ、描かれている物語を読み進めていくだけで、大人の多くは(もちろん子供であろうとも)、驚きをもって世の中のあれこれを、思い考えることになるのではなかろうか。
 最初から大きな事件も起こるし、そのために苦しみ友情を育み、さて、どうなるのかと思ったら、まったくとんでもない方向にスピリチュアルに展開していったので、ちょっと面食らったところはある。こういう話をいったいどうやって締めくくるつもりなんだろうか? 読んでいて多少不安も覚えた。どこか子供が書いたという頭が僕にはあったのかもしれない。しかし描かれている世界観に大きな破綻は見られないし、なるほど、ちゃんと伏線として後半にも生かされていたのだと知る。そうして妙に清々しいような感情に浸ることができる。父との対話になると急に幼さが戻る感じもあるのであるが、それは父と娘という立場がそうさせるのかもしれない。壮大な経験を積んで、なおも連綿と続いていくだろう人生のようなものを思うと、やはりちょっと不思議でもある。僕らもそうやって生きていくのかもしれないな、という予感さえ覚えるかもしれない。
 様々な前提が無ければ読まなかったかもしれないが、手に取って勉強になったな、という感じのある小説だった。なかなか面白いのでお勧めであります。
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